Trente et sept 深緑の兄妹
Sideラフ
「別行動とは言ったけど…、やっぱり迷いそうだよね」
『ライ姉が言うのも、分かる気がするよ』
だってこれだけ暗かったら、私じゃなくても迷っちゃいそうだよね。ティル兄、テト姉、それからラグ兄と別れた私達は、とりあえずって事で暗い森の中を散策していた。まだ分かれて三十分ぐらいしか経ってないからかもしれないけど、これといって成果は無かった。強いて言うなら、野生のひとの数が結構多いって事ぐらい、かな? 暗い森の中だからズバットとかがいるのは分かるんだけど、森にはいないようなイシツブテまで居たのはちょっと気になるけど…。
『別れたところは森の入り口だったから良かったけど、そこそこ奥まで来てるもんね』
「それにこれだけ暗いと、何かが出そうで…」
そっか、ライ姉ってエスパータイプだから、暗い所とかって苦手なんだよね。ふわふわと浮くように羽ばたく私の横で、ライ姉はこう声をあげる。私はそこまで感じてはいないけど、どこか寒気のようなものを感じているらしい。腕を軽く組んで、それぞれの手でそころさすっていた。
『…とりあえず、そろそろ地元のひとにも訊いてみない? 幽霊か何かが出たら、その時に追い払えばいいし』
「うっ、うん。そっ、そうだよね」
もしかしてライ姉? まさか本当に出るって思ってない? このままだと話が進まないから、異様に神経質? になっているライ姉に、こう提案する。相当辺りを警戒していたみたいで、私の問いかけに彼女は頓狂な声をあげてしまっていた。もしかするとこの様子だと、ライ姉はドキドキしているのかもしれない。心なしか、彼女の息遣いがいつもよりも荒くなっているような気がした。
『ほら、あそこにいるひと達とか。ええっと、ちょっといいかな? 』
とにかく、このままだとライトも調査に集中出来なそうだから、気を紛らわすためにも、ね。ちょうどいいところに誰かいるし。このままじゃあ埒が明かないから、私は誰かいないか、辺りをキョロキョロ見渡す。まさに噂をすれば…、いや、見かける人が多いから、偶々目についた、って言った方が正しいかな? …とにかく、ちょうどいいタイミングで通りかかったふたり組に、わたしは声をかけてみた。
『ん? 僕らのこと? 』
『つばさでこっち指しとるし、そうなんちゃうかな』
『そうそう。君達の事だよ』
良かった、ちゃんと聞こえてたみたいだね。私の声に、草の茂みの向こうの二人が気づいてくれた、彼らは首をこくりと傾げながらも、こっちに振り返ってくれる。もうひとりは種族のためか私からは最初は見えなかったけど、ふたりは私達の方に駆けてきてくれる。ダメ元で声をかけたから最初は確認できなかったから、その彼らの種族をこの時ようやく認識する事ができた。私が感じているステレオタイプだけど、そのふたりの種族はジョウトではメジャーだと思う。その種族はというと、ジョウトでは初心者用のポケモンとしてパートナーになる事が多い、チコリータとその進化系のベイリーフ。この感じからすると、ベイリーフの方がお兄さんで、チコリータの方が妹だと思う。彼女は何故か草まみれになってたけど…。
『君達って、ここの森に住んでるんだよね』
『うん、僕らはこの森の生まれやからね』
『その代わりに、この森からは出たことないんやけどね』
うーん、何というか…、訛りがキツイね…。私がこう問いかけると、ベイリーフの彼は、そうだよ、って言う感じで答えてくれる。このまま彼は続けて何かを言おうとしていたけど、その前に妹の彼女に先を越されてしまっていた。天真爛漫って感じの彼女は、この暗さを照らしそうな明るさで、こう言い放っていた。
『あっそうだ。お兄ちゃん、せっかく森の外のひとに会えたんやし、うでだめしとかしてみたら? 』
『えっ、でもこれからヘクトに会ってするつもり…』
『だってフィフさんも言ってたやんね、色んなひとと戦って…』
『フィフってもしかして…、君達の知り合いに、エーフィって、いる? 』
えっ、なっ、何か、勝手に話が進んでない? それにフィフって名前、どこかで…。私の事なんかはお構いなしって感じで、チコリータの彼女はベイリーフの彼に提案する。だけどその彼は他に予定があるらしく、彼女の考えには否定的らしい。予定があるなら、悪い事、しちゃったかな…。そう思ったんだけど、ふと聞こえた言葉で、私はある事を思い出す。そういえば、昨日再会した彼女が、そんな事言ったっけ…。って事はその彼女の言う通り、何とかなるかもしれない。こう思ったから、私はその、フィフ、っていう名前の彼女の事を、彼女達に尋ねてみた。
『えっ、そうやけど、君も知っとるん? 』
『知ってるも何も、シル…、ええっと、ここではフィフって呼ばれてるみたいだけど…。彼女とは親友だし、ちょっとだけ一緒に旅もしたことがあるから』
『シル…。あっ、お兄ちゃん、フィフさんって、トレーナー就きになってから別の名前もらったって言っとったやんね? もしかしたらそれとちゃうかな』
やっぱり…。昨日会った時に、この名前も覚えておいて正解だったよ! 流石に彼らも彼女の事を知ってるのには驚いたけど、どうやらそれは彼も同じらしい。ベイリーフの彼も、明らかにビックリした様子で私に訊ねてきていた。それに私も驚きつつ、彼にこう話す。もう四年も前の事だから、懐かしさと共に、その時の事を思い出す。ついいつも呼び方…、いや、この名前しか昨日まで知らなかったから仕方ないけど、私はその彼女の名前を言いかける。慌てて彼らが知っている名前に言い換えて、彼女との関係を話してあげた。
『まぁ、きっとそうやね』
『あっそうだ。つい忘れそうになっとったけど、このひとに挑んでみたらどう? 』
『えっ、うん。ヘクトとの特訓の成果も試したいって思っとったとこやし、やっぱ挑戦してみよっかな。…そう言う事で、ええかな? 』
あぁやっぱりこの子、ひとりで突き進んでいくタイプだね…。私の事、ほったらかしにされてるし…。彼がこう頷いたから、今度は私が例の彼女…、シルクとの関係を訊こうとした。だけどまたチコリータの彼女がしゃしゃり出て来て、我が道を突き進め始める。私も忘れかけてたけど、その話題を再び提起していた。
それに兄であるベイリーフの彼は、そんな妹に戸惑いながらもこう頷く。ニ、三秒ぐらい、斜め上を見上げながら考えていたけど、すぐに何かを思いついたらしい。多分彼の友達の名前か何かだと思うけど、その名前を挙げながら彼はこう言う。話のペース、完全に持ってかれちゃったかな、チコリータのこの子に…。何かこの感じ、ツバキさんに似てるなぁ…。
『うーん…』
って事は、バトルになるよね? …私からは見えないけど、ライ姉は誰かと喋ってるみたいだし、まぁいっか。私だけだと絶対にはぐれるし、時間潰すついでだし。
『いいよ。ライ…、私のトレーナー、今取り込み中みたいだし』
それに、私も技の調整が出来るしね。ずっと話し込んでいたからそっちのけになってたけど、私はこのタイミングでライ姉の方をチラッと見る。するとそこには、ライ姉で隠れて見えないけど、誰かと、その子のメンバーらしいピジョンとラプラス…。何を話しているのかまでは分からないけど、向こうでも会話が盛り上がっているらしい。それなら…、っていう事で、私は彼女…、いや、実際戦うのはベイリーフの方か。彼の挑戦を、快く受ける事にした。
『なら、申し込んだ僕の方から名乗らんといけやんね。僕はここの森出身でベイリーフのフルロ。歳は十四やよ。キミは? 』
『その様子だと、私の種族は知らないみたいだね。私はチルタリスのラフ。私も君と同じ、十四だよ。今はトレーナー就きだけど、生まれはホウエンで、カントーとホウエンを行き来してた。…自己紹介も済んだし、始めよっか』
『そうやね』
そっか、フルロっていう名前なんだね? 私と同い年みたいだし、楽しみだよ。フルロって名乗ったベイリーフの彼は、自分からこう自己紹介。私と同じ歳だって事に驚いたけど、それでも何とか平生を保つ。そして私も、自分の事を簡単に教えてあげる。そしてそれが合図になったかのように、同い年の私達はほぼ同時に後ろに跳び下がった。
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