Trente et six 調査開始
Sideティル
『…って事は、一つの目的は達成しちゃったんだね』
「うん」
そっか。ライトはまた会えたんだね? ラグナも無事突破したみたいだし。ヒワダでの予備試験も、難なく突破できたらしい。それからライトは、戦っていたラグナを回復してもらうためにセンターへ…。だけどタイミングが悪かったみたいで、三十分ぐらいかかってしまっていた。それから俺達は、全員揃って町で聞き込み…。したかったんだけど、結局バトルで潰れてしまった。形式はトリプルバトルだったから、今日は戦っていないラグナ以外の俺達が相手をした。…まぁテトラとラフは普通に戦ってたんだけど、俺はあえて技を使わずに戦ってみた。やってはみたけど、やっぱり厳しかったね。確かに武術で隙は作れるんだけど、それ止まり。エネルギーも何も使ってないから、決定打に欠けていた。だけど、そこはテトラとラフがカバーしてくれていた。…いや正確には、上手い具合にふたりが追撃してくれた、って言った方が正しいのかな? 俺が投げ飛ばした方に、ムーンフォースとかで撃ち落としてくれていた。
とりあえずそんな感じで戦ってからは、このままだとまたバトルを挑まれそうだったから、すぐに先に進むことにした。見た感じトレーナーが多かったから、挑まれ続けると調べるにも調べられないでしょ? だから、ね。
そういう訳で俺達は、ヒワダの東側に広がる森、ウバメの森に来ている。この森は噂で聞いていた通り、薄暗くて見通しが悪い。木の本数も多くて、枝葉もかなり茂っている。…この暗さは、テトラの故郷のトキワの森はもちろん、トウカの森とも比べ物にならないね。分かりやすく言うなら、俺達はポケモンだから大したことないけど、人間ならフラッシュの光がないとまともに見えないくらい…。俺は炎、エスパータイプだから関係ないけど、悪タイプのラグナにとっては、過ごしやすい環境かもしれないね。
話が逸れたから元に戻すと、森に入ってからは、ライトがそういえば…、って感じで、話し始めていた。どうやら昨日キキョウで会ったウィルさんと再会したみたいで、その人の事について話してくれていた。ライトは少し顔を赤らめながら話していたけど、ウィルさんが探していたライトの同族って事は本当だったみたい。ウィルさんはその後で予定があったみたいであまり話せてないみたいんだけど、ライトが言うには、ウィルさんはフスベシティを中心に活動しているみたい。…そんな事より、やっぱり種族のせいなのかな? ライト、あの様子だと絶対にウィルさんに惚れてるね。ライトは必死に抑えてるみたいだけど、バレバレだよ?
『話を聴いた感じでは、ラティアスもそこに居そうだな』
『妹がいる、って言ってたんでしょ、ライ姉? 』
「直接はまだ聴けてないけど、何となくそんな感じだったね。うん、たぶんそうだと思うよ」
そこはまた会って、訊かないといけないね、きっと。ここまでライトが言った事の確認を込めて、テトラはそうだよね、って感じでライトに尋ねる。小さく首を捻りながら、声をかけていた。それにライトはこくりと頷くと、今度はラグナが彼女にトスを送る。彼女の言う通り、ライトはこう言ってなかったけど、多分ラグナはこう判断したらしい。ライトが言ったセリフからこう分析し、自分なりの結論を導き出していた。その彼らに、ライトはラフ、ラグナの順に応える。まずラフには、ほんの少し茂る枝葉を見上げ、何かを考える。でもすぐに視線を戻し、かもしれないね、とこう答えていた。続けてラグナへとシフトし、うんうん、と頷く。ライトも聴いてないみたいだから、彼女も予想してだとは思うけど…。
『だよね、きっと。…ええっとライト? これからここでも、聞き込み調査だよね』
「あっ、そうだったね。話が逸れちゃってたけど、ティル、テトラ、ラグナ、そっちは頼んだよ」
『確かコガネのセンターで合流…、で、よかったよね? 』
テトラ、それであってるよ。会話が途切れそうだったから、このタイミングで俺は、話題を提起する。そのためにここに来たんだから、そのために…。俺はジム戦とここまでの間に買ってもらった、ショルダーバッグの紐を右手で掴んだ状態で訊く。すると彼女は、ハッと思い出したように短い声をあげ、こう続ける。ごめんごめん、って軽く謝りながら、別行動をする事になっている俺達にこう言う。うん、任せて、そう言おうとしたけど、テトラに先を越されたから言えなかった。彼女は、ね? って感じでライトに確認する。もちろんこの事はみんな知ってるはずだから、きっと確認の意味を込めて…。慎重なテトラらしいね、こういう所を見ていると。ちなみに、鞄を買ってもらったのは俺だけじゃなくて、テトラにラグナ、ラフ…、俺達四匹、全員。これはラグナの提案だったんだけど、ひとりひとりが備品を持ってたら、万が一の時に役に立つから…。一応ラグナだけじゃなくてみんなも文字が書けるから、筆談用のノートとペンを持ち歩く為にも、ね。
「うん。みんな、頼んだよ」
『ラフはライトからはぐれないようにな』
『ラグ兄、気をつけるよ』
特にラフはね。ただでさえここの森は迷いやすい、って噂みたいだから。慎重なテトラに訊かれたライトは、そうだよ、と堂々と答える。一番近くにいた俺、ラフ、ラグナ、テトラの順に視線を走らせ、こう訴える。そこにラグナがラフに念を押すと、ラフは肝に銘じるかのように、こくりと頷いていた。
『じゃあ、コガネで』
『うん! 』
これはいつもの事だから、俺はそれとなく聞き流す。それからみんなに目を向け、こう声をかける。それにみんなも、各々に応じてくれた。互いに視線を合わせると、俺達は薄暗い森で散り散りになる。組み合わせ…、というより、完全にソロ活動。ラフはライトと一緒になるけど、俺達は広大な森の中での調査を開始した。
――――
Side???
「お前ら、よくやったわ。…さぁ───、この私に大人しく捕まってもらうわ」
あいつと撃退したとはいえ、やはり来たか…。何の目的があってきたのかは知らんが、拙者は絶対に捕まらん!
コルドから知らされていて知ってはいたが、やはり警戒していて正解だったな…。
「さぁ、それはどうかしら? 」
『背中がガラ空きだぜぇ? 伝説の名が廃れるんじゃねぇのかな? 黒い眼差し』
『なっ…、まさかこの為に…』
『それだけじゃ終わらなせないわ。悪いけど、眠ってもらうわね。催眠術』
『っ…、しまっ…』
「ふっ、遂にやったわ。お前ら、アレの準備を…」
「アルファ様、既に用意はできています」
「珍しく気が利くわね。…さぁ─ン──、大人しくこの私に
跪くがいいわ。この“服従のく──”…」
まっ、まさか拙者が、眠らされるとは…。
Continue……