Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Quatre De Cot〜暗がりの森で〜
Quarante 従兄弟の秘密
  Sideコット



 『…ふぅ。流石トレーナー就きだなぁー。バトルには自信があったけど、気を抜けなかったぜ』
 『ヘクト君だって、見たことが無い技の使い方ばかりで、凄く強かったよ』
 ヘクト君の技、全然予想できなくて苦戦しちゃったからね。フィフさんとアーシアさん、それからテトラさんが話している間、ぼく達は中断していたバトルを再開していた。ぼくもラフさん達とニトルさんから教えてもらってたけど、それでも互角だったと思う。ワカバタウンを出てから色んなことがあったけど、それでも気を抜くと大ダメージを食らいそうになるくらい…。…で結果は、フィフさんが言うには引き分けだったらしい。その時にはフィフさんだけしかいなくて、ブラッキーのアーシアさんはテトラさんと一緒に別の場所に向かったらしい。これはぼくの勝手な想像なんだけど、テトラさんはたぶん、森に住んでるひと達に聞き込み調査をするんじゃないかな。確かマダツボミの塔で助けてもらった時、ラフさんがエクワイルだ、って言ってたし…。
 それで戦った後は、結果的に待っててくれたフィフさんに回復してもらった。その時に何か薄い水色っぽい飲み物をもらったんだけど、結構おいしかった。ミックスオレとは違って、爽やかな味…。戦った後の疲れとか傷の痛みが退いたから、たぶんオレンの実とかオボンの実が入ってたと思う。フィフさん効果のあるドリンクを作ったりするのが趣味、って言ってたから、オリジナルかもしれない。エーフィなのに化学者だから、難しい反応とか理論を利用してるんだろうなー、きっと。
 『昨日とか一昨日に会ったばかりなのに、ふたりとも凄く上達してるわね』
 『そんなの当ったり前じゃないですか! 昨日はフルロと特訓したんですから』
 『ぼくだって、昨日はゴルバットと、知らないゴーストタイプの種族ひとりで倒せたんです』
 ゴルバットは楽に倒せたけど、ゴーストタイプの方は危なかったかな…。フィフさんに目覚めるパワーを教えてもらってなかったら、ぼくの完敗だったし…。フィフさんはぼく達ににっこり笑いかけながら、こう言う。それにヘクト君は、誇らしそうに声をあげる。フルロっていうひとの事は知らないけど、もしかするとヘクト君の知り合いなのかもしれない。フィフさんに言ったって事は、きっとそのひとも、フィフさんに何かを教えてもらってるのだろう。
 『ふたりとも、最初よりは強くなってる証拠ね』
 『だろぅ? …そういゃあフィフさん、フィフさんって、目覚めるパワー以外にどんな技を使えんだ? 』
 『あっ、それ、ぼくも気になってたよ』
 そんな筈はないと思うけど、前会った時も目覚めるパワーしか使ってなかったもんね。ヘクト君は突然、あっ、っていう感じで、何かを思い出したかのようにフィフさんの方を見上げる。確かにヘクト君が言う通り、ぼくもフィフさんがそれ以外の技を使っているのを見たことが無い。だからぼくも、こんな風に彼女に訊いてみた。
 『そういえば、まだ一回も言ってなかったわね。…そうね、普通の数なら、サイコキネシスとシャドーボール、それから目覚めるパワーと朝の日差しよ』
 『すげぇ…、やっぱどれも上級技ばかりだ。んでもフィフさん、朝の日差しって、どんな技なんだ? 』
 『陽の光を取り込む、回復技だよ』
 『そうよ。流石、スクールで学んでいるだけの事はあるわね』
 だって生物の授業に言ってたもんね。…ん? でも、普通の数なら、ってどういうことなんだろう。すぐに教えてくれたけど、ぼくは何かが引っかかったような気がした。普通ならこんな言い方をしないはずだけど…。何か意味があるのかもしれない、ぼくはこう、思わずにはいられなかった。
 『カナと一緒に勉強しましたから! …だけどフィフさん、聴き間違いかもしれないんですけど、普通の数は、ってどういう事なんですか? 』
 『えっ…。…』
 えっ、何かマズい事でも言っちゃったかな…。気になって仕方が無かったから、ぼくは思い切って、こう訊いてみる。気のせいかもしれないけど、とりあえずは…。だけどフィフさんは、ハッ、と一瞬びっくりしたような表情を見せる。図星だったみたいで、それ以来、顔をしかめたり、俯いたり…、黙り込んでしまった。
 『…そうね…、いつかは話さないといけないから、いい機会なのかもしれないわね…』
 『フィフさん、コットが何か変な事でも…』
 一、二分ぐらいの間、辺りには草木が揺れる音だけが辺りを響いていく…。静かな時が、この森を支配する…。もう何時間も経ったんじゃないか、そう錯覚しそうになって来た時、フィフさんが小さな声でこう呟く。独り言みたいでうまく聞き取れなかったけど、ぼくには何かを言い聞かせているように聴こえた気がした。
 『ごめんなさい、確かに、そう言ったわ。…コット君、それからヘクト君も、いつかは言わないといけないから、今話すわね、私の秘密を…』
 『フィフさんの、秘密? 』
 『ええ』
 秘密…? トレーナー就きで、化学者だってことはもう知ってるけど、他に何があるんだろう…。彼女は真剣な表情で顔を上げると、絞り出すように話す。気のせいかもしれないけど、彼女が言った言葉に、重い何かが乗っかっているような錯覚を感じる…。本当はどうなのか分からないけど、そう感じてしまうほど、フィフさんにとって重要なのだろう。それを表すかのように、彼女の顔に、決意にも似た何かが見えたような気がした。
 『技の事はすぐに話すから、…ヘクト君、私に火の粉で攻撃して』
 『ふぃっ、フィフさん…』
 『大丈夫よ、かわしたり反撃したりしないから』
 攻撃? それと何の関係があるんだろう…。ぼくはてっきりその技について話すのかと思っていたから、えっ、って変な声を出してしまった。へクト君もぼくと似たようなことを考えていたらしく、訳が分からない、って言う様子で彼女に問いかける。そんはヘクト君を、フィフさんは何かを悟ったように制する。若干穏やかな表情で、優しく声をかけていた。
 『だっ、だけど…』
 『ヘクト君がダメなら…、コット君』
 『はっ、はい…』
 『代わりにお願いしてもいいかしら? 』
 えっ、ぼくが? フィフさんに頼まれたヘクト君は、訳が分からない、っていう感じであたふた…。ネージュみたいに、言葉がかなり詰まっていた。そんなヘクト君を見たフィフさんは、今度はぼくに話をふってくる。ヘクト君の様子から何となくそんな気はしてたけど、それでもぼくはまた頓狂な声を出してしまった。
 『うっ、うん…』
 こうなったのも、ぼくがあんなことを訊いちゃったからなぁ…。あまり気は乗らなかったけど、こうなったのはぼくが原因。一回だけ彼女の目をチラッと見上げてから、こくり、と小さく頷いた。そして…。
 『スピード、スター』
 かなり少なめに、エネルギーを口元に蓄える。星一つ分を作れる分だけ溜まってから、ぼくはそれを渋々解き放った。
 『くうぅっ…、っく…』
 『えっ? 』
 『なっ…』
 うっ、嘘でしょ…? こんな事、あり得るの? ぼくの星がフィフさんに命中した瞬間、とんでもないことが起こってしまった。小さい子供でも耐えられるぐらいの弱いエネルギー量のはずなのに、フィフさんは派手に吹っ飛ばされてしまう。一応受け身は取れていたけど、それでもかなり辛そう。幸い木に打ちつけられる事は無かったけど、それでもかなりのダメージを食らってしまっているらしい。すぐに立ち上がってはいたけど、足元がふらついている…。歯を食いしばって、何とか倒れるのを堪える、っていう感じだった。
 『朝の…、日差し…』
 『ふぃっ、フィフさん! 大丈夫ですか』
 『平気…、よ…。…これが、私の、一つ目の、秘密よ』
 まさか、溜め過ぎたんじゃないか、そう思って駆け寄ったけど、彼女は構わずに技を発動させる。どこからか明るい光が差し込んだかと思うと、それをフィフさん自身を包み込む。その光の中で、彼女は弱々しい笑みを浮かべながら、切れ切れに言葉を紡いでいた。
 『後で詳しく話すけど…、私には、守りっていう概念が存在しないわ。朝の日差し…。…そうね、もし例えるなら、子供がふざけで体当たりを命中させても、それが致命傷になる…、そんな感じかしら』
 まっ、守りが、無い…?
 『他にも物理技とか、色んなことが封じられているんだけど、その代わりに…。…シャドーボール! 』
 『えっ、ええっ? 』
 ふぃっ、フィフさん、何で? もう一回同じ技を発動させると、彼女は淡々と言い切る。何もしないまま言われても信じられなかったけど、確かに、彼女は弱い技で吹っ飛ばされていた。だから彼女が言った事に、異常なほどに信憑性があった。
 実演にも似た説明に納得したのも束の間、フィフさんは急にぼくの正面に向き直る。かと思うと、いきなり口元に真っ黒なエネルギー体を創りだし、彼女から見て真正面に撃ちだしてきた。
 『コット! フィフさん、何で…』
 『大丈夫よ。シャドーボールはゴーストタイプ技。コット君には効果はないわ』
 ぼくに向かって真っすぐ飛んできた球は、寸分違わず命中…。したけど、何事も無くぼくを透過する。感じたのは何か、尋常じゃないぐらい大きな力…。この膨大なエネルギーを直に感じる事になったぼくは、その強大さに圧倒されてしまう。腰を抜かしちゃったから、後ろ足から崩れ落ちてしまった。
 『うん、平気…。ちょっとビックリしちゃって』
 『いきなりだったから、驚かせちゃったわね。…でもコット君、そのお陰で、二つ目の秘密、分かったんじゃないかしら』
 『ええっと…』
 正直言って、こんなに強いエネルギーを感じた事が無いから分からないけど…。
 『やっぱりフィフさん、強いですよ』
 腰が抜けちゃって力が入らないから、とりあえずぼくはそのままの体勢で、小さくこう言う。前足で全体重を支えていると、フィフさんが少し申し訳なさそうに言う。だけどすぐに、どう、っていう感じでぼくに訊いてくる。だから、確信は無いけど、感じたままにぼくは答えた。
 『うーん…、ちょっと外れてるわね。二つ目の秘密、それは、エーフィとしての限界を超えて、特殊技の威力が強化されてる事ね。きっとこれは、守備力が無い代わりに備わっている能力、なんだと思うわ』
 『だからフィフさん、バトルを教えてくれる時、オレンの実の種ぐらい小さい大きさにしかしてなかったんだな』
 へぇ…、だからぼくも、初めて見た時、相手が一世に倒れてたのかも…。ぼくの答えに、フィフさんは少し上を見上げて考える。すぐに視線をぼく達の方に下して呟くと、間髪を入れずに答えを教えてくれた。そのお陰で、何となくだけど、昨日のフィフさんのバトルのタネが、何となく分かった気がした。
 『ノーマルタイプだから効果が無かったけど、もし進化してたら絶対に耐えれなかったと思うよ。…ねぇフィフさん、二つ目って事は、まだ他にもあるんですか? 』
 『ええ。たぶん次のが、一番恩恵を受けてる事だと思うわ』
 『あぁ、なるほどな。それが、技の事なんだよな』
 『そうよ』
 あっ、やっと技の事を教えてくれるんだね。
 『多分口で話すよりも、見てもらった方が早いわね』
 ぼくは実際に食らった時の感想を言ってから、すぐにフィフさんに尋ねる。今度はちゃんと二つ目、って言ってるのが聞こえたから、自信をもって訊くことができた。するとフィフさんは、にっこりと笑いながら頷いてくれた。一番伝えたかったことだったらしく、待ってましたと言わんばかりに声をあげていた。その直後、フィフさんは軽やかに三メートルぐらい後ろに跳び下がり…。
 『サイコキネシス…、水の波動! 』
 『えっ、なっ、何で? 』
 嘘でしょ? 何でできるの? 超能力を発動させたフィフさんは、そのままの状態で別の技を発動させる。それだけでも十分ビックリしたけど、それだけでは終わらなかった。彼女は口元にエネルギーを溜め、それを具現化させる。ここまでは何も変わりなかったけど、フィフさんの口元で出来上がったのは水の塊。種族上覚えられないはずだけど、彼女は上を見上げ、それを撃ちあげる。すぐに維持していた超能力で拘束し、カナの身長ぐらいの高さで漂わせていた。
 『それだけじゃないわ。十万ボルト』
 さらにフィフさんは、体中にエネルギーを行き渡らせる。かと思うと、フィフさんがらバチバチと音をたてて電気が発せられる。それを空中の水塊に向けて飛ばし、跡形も無く打ち消した。
 『どう、分かってもらえたかしら? 』
 『…』
 『…』
 どういうことかは分かったけど、あまりにも驚きが大きすぎて、ぼく、それからヘクト君も、開いた口が塞がらなかった。ただ、ねっ、とぼく達の方に歩いてくるフィフさんを、ただ茫然と見る事しか出来なかった。
 『見ての通り、私は技を六つ使えるわ。それも、普通は覚えられない属性の技、二つをね』
 『…だっ、だけどフィフさん、何で六つ技を使えんだよ』
 『それは、ちょっと話が長くなるんだけど…、仲間の中にコバルオンがいるって言えば分かるかしら』
 『えっ…、こっ、コバルオンって…』
 歴史の授業で聴いたから知ってるけど、コバルオンって、そう言う事だよね? フィフさんは大分話を省略したけど、それだけで、ぼくには何を意味するのか、一発で分かった。スクールではここまでは習わなかったけど、ここまで見てきたので、何となく納得はできた。…いや、何となくっていうおぼろげな程度じゃなくて、パズルの最後のピースがはまるみたいに、ピッタリとぼくの中で繋がる事になった。


  Continue……

Lien ( 2016/08/06(土) 23:03 )