Trente et neuf 繋がる関係
Sideコット
『…まだ旅立ったばかりだけど、そのふたりがぼくの仲間だよ』
『旅ですかー。そういえばシルクさんも、こっちでは旅をしていたんですよね』
『ええ、そうよ。…でも今は仕事があるから、長い間大学を離れられないのが現状ね』
『まっ、旅と言ったらトレーナーの定番だって、フィフさんが言ってたしな』
誰もがそう、っていう訳じゃないけど、大体がそうだもんね。あの後ぼく達は、フィフさん以外はみんなに会うのが初めてだからって事で、もう少し自分の事を詳しく話していた。ぼくが言った事は省くとして…、フィフさん達と会うまで戦っていたデルビル…、ヘクト君は、どうやらぼくと一つしか変わらない、十四歳らしい。まだ会ってからあまり時間が経ってないけど、今のところ、活発っていうのが彼の第一印象、かな? いきなり戦いを挑んできたから何となく想像はできたけど、三度の飯よりもバトルが好き、らしい。途中までしか出来なかったけど、技の使い方もあまり見たことが無い感じだったし、威力も高かったから、本当にその通りだと思う。だけど凄く意外だったのが、ヘクト君は一度もこの森から出たことが無いってこと。それからぼくとは真逆で、彼のお父さんがトレーナー就きで、お母さんが野生って言ってた。これだけしかまだ訊けてないけど、何となく、彼とは気が合いそう。これが今の彼に対する感想、かな。
それから、フィフさんの友達だっていうブラッキーのアーシアさん。まだ話は聴けてないけど、何というか…、ちょっと不思議な感じ。ブラッキーに会うのは初めてだけど、フィフさんと比べた感じだと、たぶん平均よりも小さいと思う。落ち着いた雰囲気で、話し方が丁寧。だけど何故か、どこかぼくとヘクト君と年が近いんじゃないか…、そうどこかで思わせるような雰囲気もある。だけど少なくとも、ぼくよりは年上、かな。それから一つ気になるのが、彼女の右の前足。何て例えたらいいのか分からないけど、何かの印、なのかな…? 普通のブラッキーにはない場所に、少し薄い色の黒い毛で、斜めの線を挟む様に二つの丸が描かれている…。多分この事も、これから話してくれるんじゃないかな。
『そうね』
『それにコットの仲間か。ヒワダのジムを勝ち抜い…』
『あれ、コット君? 何でコット君だけがこんな所にいるの? 』
本当はカナに指示を出してほしかったんだけど、勝てたから、いいよね? ぼくも色々勉強になったし。ヘクト君はフィフさんの事を前から知ってた、って言ってたから、トレーナーの事とかは、多分その時に聴いてたんだと思う。彼はそう言うと、教わった本人であるエーフィの彼女に、だよな、と言いたげに目線を送っていた。その意味に気付いたらしく、フィフさんはそうよ、っていいながらこくりと頷く。今度は興味がぼくの方に移ったらしく、ぼくの方を見るなり、こう声をあげ始める。この感じだと多分、勝ち抜いたんだよな、って彼はぼくに訊こうとしたんだと思う。だけどそれは、ここで話している四にんとはまた別の、ぼくの事を呼ぶ声によって、遮られてしまっていた。
いきなり呼ばれたことで驚いたぼくは、そっちの方に振りかえってみると、そこにはまたしても見知ったじんぶつ…。
『てっ、テトラさん? テトラさんも、ラフさん達と一緒じゃなかったんですか? 』
『ちょっと分かれて調査をしててね。ラフはライトと一緒にいるんだけど、あとはみんな、一匹で聞き込みをしてるって感じかな。じゃあ、コット君は? 』
『ええっと、森に入ってすぐにはぐれちゃったんですけど、たまたまデルビルのこの子と戦ってる間に、フィフさんとブラッキーさんに会った、って感じです』
そういえばテトラさんって、フィフさんの事、知ってたんだっけ? ぼくが振り向いたその先には、キキョウで知りあった、色違いのニンフィアのテトラさん。彼女は何も知らない状態だから仕方ないけど、ぼくだけがこの中にいる事に、かなり驚いていた。訳が分からない、っていう感じで首を傾げてたけど、それはぼくも同じ…。彼女も彼女だけだったから、オウム返しみたいに、ほとんど間を開けず、全く同じことを訊き返していた。まさかこうぼくが返すとは思ってなかったみたいで、ちょっとだけビックリしてたけど、彼女はすぐにこう説明してくれた。首元から伸びているヒラヒラでノートとペンを持ってたから、まさにその最中だったんだと思う。そんな彼女はこう話し終えると、今度こそ、ぼくに質問する。フィフさんの名前を出そうか一瞬迷ったけど、そもそも最初に知ったのは、テトラさんの方が先。テトラさんもフィフさんとは友達だ、って言ってた気がするから、ぼくはこう、自分の状況について説明する。もちろん、その人の事を言う時は、そのひとの方に視線を移しながら、ね。
『えっ、もっ、もしかしてコット君、テトラちゃんの事、知ってるの? 』
『うん。会うのは三回目だけど、色んなことを教えてもらったんです』
『という事はシルクさん? ニンフィアさんも知り合いなんですか? 』
『ええ、そうよ。会うのは三年ぶりだけど、テトラちゃんとは友達なのよ』
やっぱりフィフさんも、テトラさん達とは友達だったんだね。白衣を着た彼女は、ぼくとテトラさんの関係を知らなかったらしく、驚かすをくらった時みたいな表情で、声を荒らげる。意外だったらしく、短く声をあげながら、ぼくとテトラさんの間をキョロキョロ…。たぶんフィフさんとの関係を言ってもこうなると思うけど、とりあえずぼくは、従兄弟の彼女にこう説明してあげた。このタイミングでアーシアさんが、ぼくと入れ替わる様にこう声をかける。その頃には何とか平生を取り戻していたらしく、フィフさんはにっこりと彼女にこう答える。三年ぶりっていうのは意外だったけど、見た感じ本当に仲が良いみたい。フィフさんとテトラさんは、久しぶりの再会で手…、あっ、違うか。フィフさんは右の前足で、テトラさんは右側のヒラヒラを、互いにとり合っていた。
『そうだね。…ええっとシルク? ブラッキーのこの子は? 』
『そういえば、まだ話た事なかったわね。アーシアちゃんも、私の友達なのよ。アーシアちゃん十七…、だったわね? 』
『あっ、はいです』
『年も近いから、もしかするとテトラちゃんとも話が合うかもしれないわね』
『わっ、私と、ですか? 』
『ええ』
やっぱりアーシアさん、ぼく達よりも年上だったんだね。それに確か、テトラさんは十六だって言ってたから、ぼく達よりもテトラさんの方が近いね。ぼく達は雄で、テトラさんとアーシアさんは雌だし…。ブラッキーの彼女は急に話をふられて声が裏返ってたけど、歳を確認してきたフィフさんに、とりあえずこう頷く。更に彼女が話題になってたから、アーシアさんはさらに驚いていたけど…。だから彼女は、えっ、っていう感じで、こう言ったフィフさんの方に、ハッと振り返っていた。
『…同じイーブイ系だからかもしんないけど、こう見るとコットとフィフさん達って、兄弟みたいだよな』
『きょっ、兄弟って…』
『しっ、シルクさんと、私が? 』
うーん、ちょっと違うけど、デルビルのヘクト君なら、そう思うのも無理ないよね。蚊帳の外になりかけてたけど、ヘクト君はぼく達を見比べ、こう感想を言う。あるあるといえばあるあるだけど、彼がこう思うのも仕方ないかもしれない。イーブイっていう種族は人間からは人気だけど、あまり数が多くはない。さらに雌はもっと少ないのに、この場にはフィフさんとアーシアさん、それからテトラさんの三匹と、雄のぼくがいるから、ね…。
『だけどぼくとフィフさんって、それと近い関係だから、間違いじゃないかもね』
『だってコットとフィフさん、従兄弟同士だもんな』
『えっ、しっ、シルクとコット君って、従兄弟だったの? 』
『最近いるって分かった叔父が言うには、そうらしいわ』
うん、そう言う意味では、ある意味正解、なのかな? ぼくも最近知った事実を聴き、今度はテトラさんの方が頓狂な声をあげてしまっていた。
Continue……