Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Quatre De Cot〜暗がりの森で〜
Trente et huit はぐれた先での再会
  Sideコット



 『咄嗟の攻撃で俺の火の粉を防がれるなんて、初めてだ。これは久しぶりに楽しめそーだなぁ! 』
 『そっ、それはどうも…』
 ふぅ、いきなりだったけど、何とか防げたかな。暗い森でカナ達とはぐれたぼくは、入れ替わる様にデルビルの彼と出会った。…だけどほとんど話す間もなく、バトルを挑まれてしまった。心の準備が出来てなかったから先手を取られちゃったけど、ぼくは何とか相手の火片を打ち消す事ができた。それを評価してくれたのか、デルビルの彼は嬉しそうにこう声をあげる。ぱっと明るい表情で、威勢よく言い放っていた。
 『だけど俺の実力は、こんなもんじゃねぇーよ! 噛みつく』
 『それはぼくだって同じだよ! 電光石火』
 まだ旅立ってから三日目だけど、そこそこ経験は積んでいるんだ。それに二日連続で密猟者とだって戦ってる…。ぼくはあのフィフさんの従兄弟なんだから、負ける気がしないよ! 相手はこう宣言すると、いきなりぼくの方に駆けてくる。この感じからすると、相手はぼくに噛みつくつもりらしい。だからぼくはそれよりも先に、前足と後ろ足に力を込める。その状態で溜めた力を解放し、一気に駆け出した。
 『はっ、早…、くっ…。火の粉』
 『スピードス…、熱っ…。スピードスター』
 きみも、それなりに経験を積んでるみたいだね。先手を取ったぼくは、相手の目の前で体勢を低くし、そのまま頭から突っ込む。その甲斐あって、相手の下顎に一撃を与える事に成功した。…だけどここで油断すると、返り討ちに遭ってしまう。だからぼくは、着地と同時に前足に力を込め、前の方に地面を思いっきり押し込む。そうする事で、相手との距離をとる。それと同時に、追撃する準備に入る。口元にエネルギーを溜め、それをイメージ通りに実体化させる。だけどそれは、相手の炎によって遮られてしまった。
 当然相手もタダではぼくを退かせない。衝撃を何とか堪え、即行で技を準備する。ぼくが跳び下がったタイミングで、彼はエネルギーを溜め終える。それをたぶんぼくのこれと同じような感じで、解き放ってきた。
 結果的にダメージを食らっちゃったけど、ぼくも負けてはいられない。すぐに途切れたイメージを呼び戻し、エネルギー体として撃ちだした。
 『そうはさせない! スモッグ』
 『それなら、目覚めるパワー』
 ぼくが放ったエネルギー体は、数十センチ進んだところで分裂する。今度はちゃんと溜めたから、四つじゃなくて五つの流れ星となって相手に飛んでいった。必中技だから、きっと相手に命中するはず。だけど相手は、当然それなりの対処をしてくる。三歩分ぐらい跳び下がり、毒々しい霧状の何かを放出する。この感じだと、もしかするとこの霧で、ぼくの星の威力を弱めるつもりなのかもしれない。本当にそのつもりだったらしく、距離を詰めるぼくの足音に混ざって、右に左にと地面の土を踏む音が聞こえてきた。
 ん? もしかしてこの霧のせいで、相手もぼくの事は見えないんじゃないかな? こう感じたぼくは、この隙に別の技を発動させる。まだ属性は分からないけど、薄い水色のエネルギーを口元に蓄える。それを咳をするようなイメージで、正面を狙って撃ちだした。
 『横が隙だらけだぜ? 親父から受け継いだ、袋叩き』
 『えっ…』
 うそ…、もしかして、先を読まれてた? てっきり相手が正面にいると思い込んでいたぼくは、右からの接近に気付くことが出来なかった。技を発動させたばかりで隙だらけのぼくに、相手が不意を突いて突っ込んでくる。予想外の攻撃だったけど、あまり痛くはなかった。何年か前に授業で聴いた気がするけど、確か袋叩きは仲間が多いほど、威力が増す技だったと思う。だから、あまり威力は無かったのかもしれない。
 『くぅっ…』
 だけど、不意を突かれたぼくにとっては、精神的に効果抜群だった。
 『────ッ! サイコキネシス』
 『あっ、アイアンテール! 』
 ぼくの技は外れちゃった、だけと標的は失っても、ぼくの薄水色の玉は真っ直ぐ突き進んでいく。紫のベールをかき分ける玉は、消滅する事なくそこを通り抜ける。だけどその先には、運悪く一つの影…。たまたまその方を向いていたからぼくは気付けたけど、その影…、ブラッキーは全くそうではなかった。するとどこかにブラッキーの仲間がいるらしく、どこかから別の声が響いてきた。どこかで聴いたような気がする声だったけど、その声は、聞き取れなかったけど、その彼女の名前を叫ぶ。かと思うと、薄水色の流れ弾はブラッキーの数十センチ手前で静止する。流石にこれで気づいたらしく、驚きながらも軽く真上に跳ぶ。硬質化させた尻尾を横に振り抜き、その勢いを利用して半回転…。回転スピードが最大になったところで、水色の弾に打ち付け、消滅させていた。
 『ごっ、ごめんなさい! ぼく達、バトルしてて…』
 『ううん、私もよそ見してたから、お互い様です。あとシルクさんも、ありがとうございますです』
 『えっ、ふぃっ、フィフさん? 』
 『そのブラッキーも、フィフさんの仲間ですか? …ん? 』
 『えっ? 』
 ぼくの狙いが甘かったから、ぼくのせいですよ。だから、ぼくが…。偶然とはいえブラッキーさんに攻撃する事になっちゃったから、ぼくは慌てて、声的に彼女の方に駆け寄る。慌てて謝りに行くと、その途中で彼女は、気にしないで、って感じで答える。右の前足を顔の前で左右にふり、こうぼくに言う。そのまま彼女は後ろの茂みの方を見て、こう声をかける。するとそこからは、昨日会ったばかりの白い影…。白衣を着たエーフィが、茂みからぴょんと跳び出してきた。
 まさかこのタイミングで会えるなんて思ってなかったから、ぼくは思わず驚きで声を荒らげてしまう。だけどぼくの驚きは、これだけでは終わらなかった。どうやら対戦相手のデルビルも、フィフさんの事を知っているらしい。彼女の事を呼んだブラッキーをチラチラ見ながら、彼女にこう尋ねていた。
 『いいえ、私の不注意でこうなっちゃったから…。でも、何とかなって良かったわ。どういたしまして。それにヘクト君、友達には変わりないけど、彼女はトレーナー就きではないわ。後回しになったけど、コット君、目覚めるパワー、使えるようになったのね』
 『あっ、はぁ…』
 『いっ、一体どういう事? フィフさん、このイーブイの事、知ってるんですか? 』
 『知ってるも何も、このイーブイ…、コット君は私の従兄弟なのよ』
 『えっ、シルクさん? 前にお兄さんしかいない、って言ってましたよね? 』
 『ええ。確かにそう言ったけど…、その時は私も、従兄弟がいるって知らなかったのよ』
 えっ、ちょっ、ちょっと…、情報が多すぎて何が何だか訳が分からないんだけど! 驚きに感情が支配されているぼくは、説明してくれたフィフさんに、空返事しかできなかった。驚いているぼくとは対照的に、話はどんどん進んでいく…。ぼくと同じでビックリしているデルビルも、取り乱しながら彼女に質問する。訊かれた彼女は、ぼくの方に視線を移しながら、簡単に説明する。立て続けに…、って感じで、ブラッキーさんも彼女に首を傾げる。ここで会う前に何かを聴いていたのか、左の前足にリストバンドをした彼女は、疑いの眼差しをフィフさんに向ける。それにフィフさんは、ごめんなさい、と短く謝ってから、こう弁解していた。
 『だってぼくも、昨日初めて知ったぐらいだし…』
 『それなら、しょうがないのかも…。…ええっとシルクさん? 』
 『ん? アーシアちゃん、今度は何を話せばいいかしら? 』
 『今度はデルビルのこの子の事を訊きたいんですけど、いいですか? 』
 『あっ、それ、ぼくも気になってたよ』
 ええっと、アーシアさん、って言ったっけ? ぼくも訊こうと思ってたよ。その彼女にブラッキーのアーシアさんは、納得したようにこう言っていた。フィフさんよりも小さいからかもしれないけど、どこか幼さが残る彼女は、続けて口を開く。そういえば…、って感じで、フィフさんに声をかける。その彼女に、前足を揃えて座っていたフィフさんは、ニコッと笑みを浮かべ、快く頷いていた。アーシアさんはフィフさんと仲も良さそうだし、ぼくの目覚めるパワーも打ち消してたから、きっと強いんだろうなぁ…、優しそうだし。そんな第一印象を抱いていると、アーシアさんはふと、デルビルの彼の方に目を向ける。この時にはみんな腰を下ろしていたけど、その状態で、アーシアさんは彼の方を右の前足で指す。デルビルの彼はえっ、って短く声をあげていたけど…。だけどぼくはそんな彼とは違って、彼女に対して共感にも似た何かを感じていた。…たぶん違うと思うけど、アーシアさんも、イーブイの進化系だから、かな。
 『そういえば、まだ言ってなかったわね。ちょっと話が長くなるんだけど、私、ヘクト君がいる群れの副リーダーと知り合いなのよ。正確には私の亡くなったお母さん…、コット君にとっては叔母さんにあたるわね。お母さんがそのひとと幼なじみだったみたいで、その関係でよくしてもらってるのよ。…で、話を本題に戻すと、最近物騒だから、彼女にバトルの指導を頼まれたのよ。キキョウとかエンジュの方から避難してきた群れのひと達もいるから、治安維持とそのひと達を守るためにね。そういう訳で、私と私の仲間の六匹で、バトルとか自衛、救護の術を教えている…。その教えているうちの一匹が、ヘクト君。こんな感じかしら? 』
 へぇー…。って事は、ヘクト? っていう名前のデルビルの彼は、フィフさんの弟子? になるのかな。それに、フィフさんのお母さんって事は、ぼくにも関係ある事だよね? 確かお父さん、ウバメの森出身だ、って言ってたからもしかすると、その群れの副リーダーっていうひとの事をしってるかも。
 フィフさんが説明してくれている間、ぼくはこんな風に考えながら聴いていた。長いって言ってたけど、あまり長くなかったよ? 白衣を着た彼女にこんな感想を抱いていると、ぼくはふとある事に気付く。それは、フィフさんがそうであるように、ぼくにとってもウバメの森が自分のルーツである事…。それと合わせて、ついさっきまで戦っていたデルビルの強さにも、何となく納得がいった気がした。
 『あっ、そうだ。コット君、コット君にはこれを渡しておいた方が良いわね』
 『えっ、ぼくに、ですか? 』
 何なんだろう、ぼくに渡すものって…。首元のスカーフが似合っているフィフさんは、何かを思い出したかのように短く声をあげる。そのまま彼女は、背中から左側にまわしていたバッグをあけ、両方の前足で中を漁り始める。色んな木の実の爽やかな香りがしたかと思うと、そこから何かを取り出す。それをサイコキネシスで浮かせた状態で、ぼくに手渡してきた。
 『ええ』
 『石…、ですか? 』
 『でもただの石じゃないわ。変わらずの石、って言って、進化のエネルギーを抑えてくれる効果があるのよ』
 『進化…、あっ、そっか』
 進化のエネルギーを抑えてくれるって事は、そう言う事だよね。最初は分からなかったけど、彼女の一言で、すぐに納得する事ができた。八つも進化先があるぼく達、イーブイにとっては、必需品って言ってもいいかもしれない。イーブイっていう種族は周りの環境によって進化しちゃうから、今この場所でのぼくが特に当てはまる。ぼくがなりたい種族はブラッキーじゃないから、尚更、ね。
 『それからコット君、コット君が欲しがっているアレ、多分あると思うわ』
 『本当ですか』
 『ええ。今手元には無いんだけど、私のトレーナーの研究室にあるはずだから、カナさんと合流した後で渡すわね』
 『ありがとうございます! 』
 えっ? って事は、そこに連れてってもらえば、ぼくがなりたい種族に…? 昨日会った時に何になりたいか伝えておいたから、多分フィフさんは、その事について調べてくれていたんだと思う。コガネには戻らずにここに来てるはずだけど、何で調べられたんだろう…、昨日はバッグもなかったし…。そうは思ったけど、それ以上に、進化できるかもしれない事への嬉しさの方が勝っていた。そのためか、ぼくの声は自然と明るく弾けたものになっていた。


  Continue……

■筆者メッセージ
シルク『皆さん、こんばんわ。あるいはこんにちわね。気付いたら八十一回目になっている“絆のささやき”、始めるわね。今回はゲストとのトーク。このコーナーには三回目の出演の、コット君よ。
コット『今回は久しぶりだね。うん、よろしくね。
シルク『ええ! 早速だけどコット君、今日は何を話してくれるのかしら?
コット『ええっと…、じゃあ、読者のみんなは、ぼくが何になりたいって思ってると思う?
シルク『クイズコーナーね? 本編では直接語られてないから、良いかもしれないわね。
コット『でしょ? フィフさんには前に話したんだけど…、ヒントは、今回の本編。よーく読んでみると、ある程度は絞り込めると思うよ
シルク『そうね。今回だけじゃなくて、以前の内容を合わせれば、もしかすると答えが出るかもしれないわね。コット君、ありがとね。

折角だけど、今回はこの辺で失礼するわね
Lien ( 2016/07/09(土) 13:39 )