Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Quatre De Cot〜暗がりの森で〜
Trente et six 真逆のジム戦
  Sideコット



 「すみません、ジム戦をお願いします。…あれ? 」
 あれ…? もうやってるはずだけど、誰もいないのかな? 洞窟を脱出した後、ぼく達の旅に新しい仲間が加わった。…正直言ってまさかあんな風に言ってくれるなんて思ってなかったから、本当に嬉しかった。洞窟からラプラスさん…、ええっと、ネージュっていう名前なんだけど、彼女を逃がすのが目的だった。だけど彼女が一緒に来たい、って言ったから、いいよね? この事は二トルさん達が何とかしてくれるみたいだから、問題ないらしい。…だって、そうだよね? また戻って別れたら、ネージュが独りになっちゃうし、また密猟者に狙われるかもしれないし…。
 で、その後の事だけど、フィルト君達とは別れて、ぼく達は先に進んだ。…といっても五分ぐらい歩いたら着いたんだけど、ヒワダタウンのセンターで一休み。回復してもらってから、四時過ぎっていう中途半端な時間っていう事もあって、自己紹介ついでの技の調整。イグリーの実力はよく知ってるけど、ネージュはぼく達とは全く違う感じだった。どんな技を使えるのかは後で話すとして、もう少しネージュの事を話さないとね。
 ネージュは元々、カントー地方の出身みたい。一年の半分以上を双子島っていうところで過ごして、今ぐらいの時期になると、渦巻島の近くまで来るらしい。もしかしたらの途中で、ネージュは群れからはぐれたのかもしれないね。それからネージュは、ぼくとイグリーよりも一つ年下の、十二歳。雌っていうのもそうだけど、はじめてのたいぷだね、ネージュは。ぼくもイグリーも十三で、雄だから。
 「平日だし十時前だから、もう開いているはずだけど…」
 だよね…。説明の途中だけど、話が進んじゃったから、こっちに戻るね? 夜が明けてぼく達は、旅の目的の一つであるジムに来ている。本当はもっと早く来るつもりだったんだけど、何しろぼく達のトレーナーはあのカナ…。今日は特に酷くて、ぼく達が起こした九時まで寝ていた。だから今日はぼくだけじゃなくて、イグリーにも手伝ってもらったって感じかな?
 話を進めると、チェックアウトギリギリの時間にセンターを出て、ぼくとカナはジムの自動扉をくぐっていた。ぼくを腕に抱えた状態でカナはこう言ったけど、そこには何故か目的の人の返事は無かった。無かったんだけど、見物人らしい人達はちらほらと残っていた。
 『はぁー…、いつもの事だけど、もう少し早く起きてくれたら…』
 「あっ、すみません。今戻りました。ジム戦ですね」
 カナの事だから、もう諦めてるけど…。たまには早く起きて欲しいって思ってるぼくは、いつも通り盛大なため息を一つつく。言葉の意味は直接届かないけど、ニュアンスぐらいは伝わっているはず、そう思っていると、突然後ろの方から慌てた声が一つ響いてきた。そっちにカナが振り返ると、そこには一人の男の人…。どこかあどけなさが残るその人が、息を切らせてこっちに走ってきているところだった。
 「あっ、はい。今挑戦しても、大丈夫ですか? 」
 「大丈夫ですよ。さっきまで一つ星トレーナーのジム戦をしていたところですけど、使うポケモンは違いますから」
 「よかった」
 こう訊かれたカナは、うん、って大きく頷く。それに彼も、走っていた勢いを弱めながら、こう答える。走りから徐々に歩きに変えるような感じで減速すると、カナを追い抜くような感じでぼく達の前に立つ。そのまま後ろ向きで歩きながら、彼をはじめ、ぼくを抱いたカナも建物の奥へと歩きはじめる。汗を拭いながらこう言ってくれた彼に対して、カナはホッと肩を撫で下ろしていた。
 「ええっと改めて…、ようこそ、ヒワダジムへ。僕がヒワダのジムリーダーを務めさせて頂いている、ツクシと言います」
 あっ、この人がジムリーダーだったんだね? 正直言って昆虫マニアになりかけの虫取り少年、って感じの印象だったから、ぼくは思わずえっ、って短い声をあげてしまった。丁度ジムリーダーの自己紹介と重なったから、何とか誤魔化せたけど…。
 「はい! わたし、ワカバタウンのカナっていいます」
 「カナさんですね。ジョウトの出身みたいですし、ルールは知ってますね」
 「はい! 逆さバトルですよね」
 「なら話しが早いですね。…では、はじめましょうか」
 えっ、もっ、もう始めるの? ヒワダでの方式は知ってたけど、ぼくは思わず驚きで声をあげてしまった。だけどぼくの驚きとは裏腹に、二人は所定の場所に歩いていく。言うが早いかするが早いか…、カナは向かい合うように位置に着くと、ここでのルールを大声で言いはじめる。その言葉を待っていたかのように、ジムリーダーのツクシさんもこう宣言する。もうぼくは置いてかれそうになってるけど、二人はほぼ同時に、手に持ったボールを前に投擲した。



――――



  Sideネージュ



 「ネージュ、いきなりで悪いんだけど、お願い」
 『えっ、うっ、うん…』
 「レディアン、頼みましたよ」
 『おぅ、任せてくれよ! 』
 コット君から聴いてたけどやっぱり、緊張するよ…。ボールから飛び出した私は、戸惑いながらもこう頷く。昨日練習はしたんだけど、私はバトルするのは初めて…。一応技は使えるんだけど、自信がないというか…。コット君が言うには、私は強いみたいなんだけど、やっぱり、ね…。
 「先手はもらいますよ。マッハパンチで接近」
 「水鉄砲で邪魔して」
 『じゃあ遠慮なく、マッハパンチ』
 『氷タイプの方が効くと、思うんだけど…。水…、くっ…』
 えっ、せっ、先制技? そっ、それに、マッハパンチって、格闘技だよね? 私が戸惑っている間に、相手は行動を開始していた。種族の中でも小さい方だけど、二メートルと三十センチぐらいある私から見ると、相手は首元ぐらいの高さを凄い速さで飛んでくる。だから私は、慌てて口元にエネルギーを溜める。水の属性に変換して、撃ちだそう…、そうしたんだけど、それは出来なかった。喉に力を入れたところで、私の首元を鈍い痛みが駆け抜けていった。だけど、何故かそれほど痛くなかった、効果は抜群のはずだけど…。
 『ネージュ、今のうちに攻撃して! 相手もまた攻撃してくるはずだから』
 『うっ、うん。水鉄砲! 』
 そう、だよね。バトル中なんだし…。思ったよりダメージが無かったことが気になっていると、私の後ろの方からコット君の声…。そのお陰で、私は何とか意識を戻すことが出来た。相手は私の真上まで移動していたから、私はとりあえず途中だった技を発動させる。咄嗟だったから、その場所を狙っちゃったけど…。
 『狙いが甘いよ、連続パンチ』
 「来るよ! 攻撃に備えて! 」
 『えっ、うん』
 殆ど狙わなかったから、私の攻撃は外れちゃった…。それどころか、私に大きな隙が出来てしまった。真上から旋回してきた相手は、また正面から迫ってきた。
 『でっ、でも、備えてっていっても…』
 『ネージュ、氷の礫…、氷の礫なら、すぐに発動させれるはずだよ! 』
 氷の、礫…? あっ、そっか! この隙に相手は、更に私に迫ってくる…。握りこぶしをつくって、私を狙う…。備えてって言っても何も思いつかなかったから、私はまた戸惑ってしまう。だけど、またコット君のお陰で、何とかなりそうな気がした。
 相手と私の距離は、大体三メートル。私は即行でエネルギーを溜め、氷の属性に変換する。二メートル。私はエネルギーを基に、口元に氷の結晶を創りだす。五十センチ、私は何も知らない相手に、狙いを定める。そして…。
 『当たって! 氷の礫! 』
 『なっ…、くぅっ…』
 『やった、当たった! 』
 コット君、当たったよ! 目の前まで迫ったところで、私は喉に力を込める。ちゃんと狙って撃ちだすと、今度は相手に命中した。勢いが乗っていたからぶつかったけど、技じゃなかったからほとんどダメージはなかった。これも先制技だから、何とか技が成功した。
 『ネージュ、今のうちだよ! あの技を使って! 』
 『あっ、うん! 』
 何かコット君、トレーナーみたいな事してるね? 技が命中したことに満足していると、またコット君が声を荒らげる。コット君はカナさんのパートナーだからかもしれないけど、彼は手短にこう指示を出してくれた。それに私は、振り返らずに大きく頷く。相手が飛び上がり始めたから、私は慌てて技のイメージを膨らませ始めた。
 『残念だけど、逆さバトルでは僕に氷技は効かな…』
 『超音波』
 だってコット君、こうアドバイスくれたもんね。多分相手は、私の攻撃から立ち直って反撃して来ようとしたんだと思う。だけどその前に、私はさっきとは違う技を発動させる。エネルギーを右の前鰭に集める。それの状態で、イメージを基に思いっきり地面に叩きつけた。
 『えっ、うそ…、この技…、やばいかも…、くっ…』
 すると、私の近くに不快な音が響き渡る。凄く近くだったから、これを相手はまともに聴いてしまったらしい。一番上の両手で耳の辺りを押さえて、それを聴くまいと抵抗する。だけど間に合わなかったみたいで、平行感覚が狂い始めたらしい…。羽ばたいている体勢が、崩れ始めてきた。
 「まさか僕がしようとしていた事を、先にされるとは思いませんでしたよ」
 「えっ、はっ、はぁ…」
 『逆さバトルは相性関係が逆になるから、水鉄砲を撃ち続ければ勝てるよ! 』
 『うん! 水鉄砲! 』
 だってレディアンは混乱状態になったし、もう反撃されにくくなったもんね! カナさんは何が何だか分からない、っていう状態だったけど、わたしは構わずにバトルに集中する。いつの間にかトレーナーじゃなくて仲間の指示を聴くことになってるけど…。だけど、私はそのまま技を発動させる。水を口元で実体化させて、相手に狙いを定めた。
 『うぅ…、だけど、負ける訳には…、銀色の風! 』
 『はっ外れ…、くっ…』
 えっ、あんなに近かったのに、外れた? 相手はまともに見えてないはずなのに、私の水鉄砲は外れてしまった。それどころか、狙わずに発動してきた技で、反撃してきた。薄黒い風が吹きはじめ、私を襲う…。いきなりだったから、それなりのダメージを食らってしまった。
 『こっ、混乱してるのに、何で…? 』
 混乱状態って、前が見えにくくなったり、ちゃんと考えられなくなるんじゃなかったの? こっ、こんな状態なのに、かわされるなんて…。…なら、動けなくしちゃえば、いいよね? 丁度私、そんな風に出来る技、使えるし…。こう思った私は、すぐに行動に移すことにした。
 『混乱状態って〜、思い通りにさせないように〜、する技なのに〜、どうしてかわされたの〜? 』
 『えっ、ちょっとネー…』
 『まっ、また…? これはやら…』
 いい考えが思いついた私は、すぐにそれを発動させる。技のイメージを膨らませたまま、喉に力を込める。今度は、エネルギーを蓄えない…。その代わりに、しゃべる言葉に音階を付ける…。そうする事で、相手を夢の中に誘う技、歌うを発動させた。
 その甲斐あって、この技は成功した。今度こそ、相手の動きを封じる事が出来た。何か喋ってる途中だったけど、相手の目は虚ろになっていく。かと思うと彼は地面に堕ち、静かな寝息をたてはじめた。
 『こっ、これで、逆転だね。水鉄砲! 』
 眠らせちゃえば、かわしたくてもかわせないよね? 相手は眠り状態になったから、私はすぐに攻勢に移る。口の中に水を溜め、ブレスとして解き放つ。今度こそ技が命中し、じわじわと相手の体力を削っていく。何か急に静かになったような気がしたけど、構わずに放出していった。
 『…よし、これだけ当てたら、流石に倒れて…、あれ? 』
 頃合いを見て、私は水をはくのを止める。十分ダメージを与えたはずだから、これで勝ったよね? そう思ったんだけど、何故か何の反応も帰ってこなかった。首を傾げながら周りを見ていると、戦っていたレディアンはもちろん、指示を出してくれていたコット君、それからカナさんとジムリーダーも眠りに落ちていた…。

 あぁ…、私、またやりすぎちゃったかな…?

  Continue……

■筆者メッセージ
シルク『皆さん、こんばんわ。あるいはこんにちわね。七十八回目の“絆のささやき”、始めるわね。今回のラインナップは、ゲストとのトーク。本編では前話でメンバー入りした、ネージュちゃんに来てもらっているわ。ネージュちゃん、よろしくお願いしますわね
ネージュ『うっ、うん、よっ、よろしくお願いします
シルク『早速だけど、ネージュちゃん、読者の皆さんに言いたいこととか、あるかしら?
ネージュ『うん。ええっと、私が勝てたのは、コット君のおかげ、かな?
シルク『ネージュちゃん、ありがとう。

文字数が迫ってるから、また次回お会いしましょう
Lien ( 2016/06/27(月) 18:39 )