Quarante et un 良き戦友
Sideコット
『…こんな感じね』
『フィフさん達って、そんなに凄かったんだ…』
何というか、次元が違いすぎて訳が分からないくなってきちゃったよ…。ぼくは何となく分かってたけど、それでも言葉を失ってしまった。フィフさんが言うには、彼女のトレーナーは、遠く離れたイッシュ地方の伝説に関わっているらしい。その関係で仲間にいるのが、コバルオンっていう種族。詳しくは長くなるから、って事で言ってなかったけど、フィフさんのトレーナーは教科書に載っているのが初代とすると、十七代目なんだとか。偶々トレーナーさんが就いている位置づけが、そのパートナーも関係しているから、フィフさんにそういう能力があるみたい。
あっ、そうそう。フィフさんはああいう能力がある代わりに、傷薬とかセンター…、自分以外からの回復が出来ないみたい。それ以外にも、麻痺とか火傷とかの、状態異常への耐性が全く無くて、一度なったら二、三日は効果が続いてしまうらしい。
『何かよく分かんねぇけど、凄いんだな』
『何かっていうレベルじゃないよ! 教科書に…』
「…火の粉だ! 」
『ごめんね、火の粉』
『いつの間に? サイコキネシス』
教科書に載るレベルだから、そう言おうとしたけど、それはどこからか聞こえてきた大声に遮られてしまった。まさか誰かが割り込んでくるなんて思ってなかったから、ぼくはビクッ、ととび上がってしまう。 ハッ、ってそっちの方に振りかえると、草むらの方に二つの陰…。一つはトレーナーらしく、自身のメンバーに指示を出していた。もう一つはその草むらの前にいる、気弱そうなヒノアラシ…。申し訳なさそうに言いながら、口元から小さい火を解き放ってきた。
『トレーナーの指示とはいえ、これはあまり良くないわね。だけどもしかすると、あなた達って、新人かしら? 』
完全に不意を突かれちゃったけど、フィフさんがすぐに反応してくれたお蔭で何とかなった。超能力で一つも逃さずに捉えながら、その彼に向けてこう言う。向きを変える時に羽織っている白衣が靡いて見えなったけど、たぶん、不服そうな表情をしていると思う。だけど、ぼくの予想は外れてしまった。フィフさんはヒノアラシのトレーナーを見るなり、こう問いかけていた。
『うっ、うん…。まだ…』
「今のうちに体当たりだ! 」
『まだ話してるのに…。本当に、ごめん、体…』
『フィフさん、危ない! 電光石火』
こんなに近かったら、フィフさん、やられちゃうよ! 相手のヒノアラシはあまり乗り気じゃないみたいだけど、トレーナーの方が立て続けに指示を出す。ただでさえフィフさんには防御力が無いのに、二メートルの距離だと技を発動させるのには時間が足りない。だからぼくは咄嗟に足に力を込め、一気に駆け出す。ヘクト君の前を横切るように前に出て、走りだそうとしているヒノアラシの前に立ちふさがる。そして…。
『くっ…』
『フィフさんには触れさせないよ! 』
進む向きを直角に変え、相手に頭から突っ込む。丁度その頃には相手も走り始めていて、曲がってから二歩ぐらいでぶつかり合う。結果、勢いが乗っていたぼくの方が圧しきり、向かってきた相手を弾き飛ばした。ちょっと痛かったけど…。
「クソッ…、それならオドシシ、サイコショックで蹴散らすんだ! 」
『はいはい…、いつものね。…ハァ…、サイコショック』
『えっ…』
まっ、まだいたの? それにサイコショックって…。ギリギリフィフさんの盾にはなれたけど、相手のトレーナーは更に何かを仕掛けてきた。このにんずうだ無理無いかもしれないけど、腰のベルトにセットしているもう一つのボールを手にとり、力任せに投擲する。ボールから飛び出した彼はというと、呆れた様子で指示に頷く。ぼくにも聞こえるぐらいの、大きなため息を一つ、ついていた。
『残念だな! 悪タイプの俺の前じゃあ、エスパータイプの技は無意味ねぇーよ』
『ヘクト君! ありがとう』
呆れながらも、オドシシは指示された技を発動させる。サイコショックと言えば結構上位の技だから、この状況だとぼくは耐えられそうにない。確か衝撃を相手の位置に飛ばす技だったから、どのみち跳び退いても場所を修正されてしまう。
あぁ、これはやられちゃったかな…、そう思いはじめたその瞬間、突然ぼくの前に黒い影が立ちはだかる。ヘクト君がぼくの前に立ち、得意げに声をあげる。ほんの少し押されたけど、大ダメージを食らうよりはマシ…。自身満々に言い放った彼に、ぼくはこう、大声で伝えた。
『当ったり前だろぅ? コットとはもう友達なんだ、ピンチに助けるのは当然だろ? …フィフさん、ここは俺達に戦わせてくれねぇーかな? 』
『そうね、オドシシ相手だと少し厳しいかもしれないけど、これも練習ね。わかったわ』
『よっしゃあ! コット、いくぜ』
『あっ、うん』
友達…、うん、そうだよね? ぼくの言葉に、ヘクト君は振り返りながら、満面の笑みで答えてくれた。ぼくも彼の事はそう思ってたから、彼の言葉が、凄く嬉しかった。そのお陰で、ぼくは彼との距離が何となく近くなったような気がする…。ぼくだけがそう思っていたらどうしよう、こういう想いを、完全に払しょくする事が出来た。
ぼくにこう言ってくれたヘクト君は、目線だけ移してフィフさんにこう尋ねる。それまでは何をしていたのかは分からないけど、フィフさんはすぐに応えていた。この感じだと相手の事を分析していたらしく、こんな風に答える。少しためらっているみたいだけど、それでもフィフさんは許可してくれた。
「嘘だろ? ヒノアラシは電光石火、オドシシはもう一回サイコショックだ! 」
『…ねぇ、前からそうなの? 電光石火』
『ハァ…、そうだよ…。他にも使えるけど、昔から威力の高いこれしか指示してくれないんだ』
何か向こうは向こうで、苦労してるんだね…。ぼくの攻撃から立ち直ったヒノアラシは、一緒に戦っているオドシシを見上げ、こう訊いていた。だけどその途中で指示が飛んできたから、答えが聞けないまま、ぼく達の方に走り始める。その彼にオドシシは、またため息をつき、こう呟く。結構深刻な悩みらしく、顔をしかめながら、同じく行動を開始した。
『トレーナー就きも大変なんだな。…コット、俺達もいくぜ! 』
『うん! 手助け』
やっぱり、トレーナーの事で悩んでいるのは、誰も同じなんだね? 駆けだした相手に一歩遅れて、ぼく達も行動し始める。まずヘクト君が、ぼくにこう合図を送ると、真っ先に正面へと駆けだす。その足取りに迷いは一切なく、オドシシの方へと向かっていく。それに対して、ぼくもほぼ同時に走りだす。五、六歩ぐらい走る間に右の前足にエネルギーを溜めそれをすぐに解放する。ダブルバトルだから、相方のヘクト君を、少しだけ補助してあげる事にした。
『くっ…』
『コット、ありがとな。噛みつく』
『お互い様だよ。電光石火』
ヘクト君の補助をしていたから、ぼくはヒノアラシの攻撃をまともに食らってしまった。ダメージを受けはしたけど、それほど痛くはなかった。どうやら、フィフさんが分析した、新人トレーナーっていう事は間違いじゃなかったみたい。だからぼくは、踏ん張った足で思いっきり地面を蹴り、次の準備のために大きく跳び下がった。
『きみたちって、野生なの? 火の粉! 』
『ううん、デルビルはそうだけど、ぼくは違うよ。スピードスター』
跳び下がったぼくを、ヒノアラシの彼が追いかけてくる。ぼくははぐれちゃったから仕方ないけど、彼は小さな炎と一緒に疑問を投げかけてきた。それに対し、ぼくは口元にエネルギーを集中させ、一気に撃ちだす。相手との中間ぐらいでそれは弾け、五つの流れ星として空気をかき分け始めた。
『近くにはいないけど、多分きみのトレーナーと同じ、新人トレーナーに就いてるよ』
『くぅっ…』
『電光石火』
『うわっ…、でっ、電光石火』
五つに弾けた流星のうち、四つが目の前の敵めがけて飛んでいく。彼は右とか左に跳んでかわそうとしていたけど、これは必中技。跳んでいる間に距離が詰まり、残らず命中していた。
その間にぼくは、開いていた間隔をもう一回詰める。星の後ろに隠れるように走り、タイミングを伺う。ちょうど星が命中したタイミングで軌道を変え、左側から相手に飛びかかる。だけど大きな動きだったから、咄嗟の反応でかわされてしまった。
『やった、かわせ…』
『もう一回電光石火』
『うわっ…』
かわされちゃったけど、ぼくはめげずにもう一回攻める。効果が切れた技をもう一回発動させ、追撃を仕掛ける。タン、タン、ターンッ、って跳び出し、相手に思いっきり突っ込む。これが相手の意表を突いたらしく、お腹のあたりを正確に捉えた。
『これで決める…、スピードスター』
『くっ…』
このまま圧しきれば、ヘクト君の方に合流できるかな? 相手がのけ反っている間にも、ぼくは更に追撃を仕掛ける。さっきも発動させた流星を、ヒノアラシの方に向かわせる。今回は三つだったけど、地面で弾けた一つを除いて、正確にヒノアラシに命中した。
『よしっと…。ヘクト君! 』
とりあえずは、倒せたかな? ぼくの連撃が功を制して、ヒノアラシは意識を手放す。ここで一安心したいところだけど、まだバトルの真っ最中。さっきまで戦っていた相手の方にチラッと目を向けてから、強敵と戦ってくれている戦友の方へと急いだ。
「オドシシ、いいからいう事を聞いてくれよ! 」
『それじゃあ勝てるバトルにも…、勝てないでしょ! 踏みつけ』
『くっ…』
『目覚めるパワー』
ぼくが離れている間、ヘクト君は何とか五分の戦いをしていたらしい。だけどぼくが声をかけたその瞬間、彼は相手の攻撃を食らってしまう。噛みつくを仕掛けようとしていたらしく、飛びかかっていたけど、顔色の悪い彼に踏まれてしまっていた。
このままだとヘクト君が劣勢になっちゃうから、ぼくは咄嗟にエネルギーを蓄える。氷の球を口元で創り、五センチぐらいになってから、多分毒状態になっているオドシシを狙って撃ちだした。
『っん? くっ…』
『ヘクト君、大丈夫? 』
『コット、すまん…、助かった』
これで何とかなる、かな? ぼくが発射した薄水色の球は、完全に意識がヘクト君に向いているオドシシの首元に命中。その甲斐あって、ヘクト君が逃げる隙を作り出す事ができた。見た感じ結構ダメージを食らっているらしく、彼の足取りはふらついていた。だけど相手のオドシシも同じような感じで、何とか倒れるのを堪えていた。
『コット…、俺の言う通りに、動いてくれねぇーか』
『ヘクト君の…、うん』
ヘクト君の指示って事は、もしかしてあの技を使うつもりなのかな? 弱々しい笑みを浮かべる彼は、こんな風に言葉を絞り出す。最初は何のことか想像が出来なかったけど、すぐにどういう意味が理解する事が出来た。それなら、ぼくはあの技を発動させた方が良いかな、相手の様子をチラチラと伺いながら、ぼくはこう考える。言葉の数は少なかったけど、伝えたいことが分かった気がしたから、ぼくは大きく頷いた。
『…じゃあ、頼んだ』
『うん! 手助け』
『戦ってる最中に飛んできた攻撃は…、きみだったのかー…。先取り』
ヘクト君、分かったよ。それなら、倒せそうだね。ぼくが頷くと、ヘクト君はすぐに作戦を話し始める。彼が立てた作戦なら、ぼくの技を合わせればかなりの威力になる。聴いている間に相手も技を発動させていたけど、構わずに、補助技を使う。エネルギーを溜めた右の前足を振り上げ、ヘクト君にその効果を付けた。
『…袋叩き! …しっ…、しまっ…』
『コット、頼んだ! 袋叩き』
『任せて! くっ…』
まさかこんな技を使えたなんて…。でも、ぼく達の方が勝ってるはず! ぼく達の作戦を先読みされちゃったけど、技の効果で、強制的に事が進む。ヘクト君よりもほんの少し早く発動させた相手は、ぼく達に向けて跳躍する。少し遅れて、ぼくも相手に向けて走り始める。十歩ぐらい駆けてから前に跳び、相手への攻撃を仕掛ける。力いっぱいぶつかったけど、それでもぼくは体格差で弾かれてしまった。
『ヘクト君! 』
『これで、トドメだぁっ! 』
『ぐぁっ…、くっ…』
ぼくは失敗しちゃったけど、これはヘクト君の技。相手はひとりしかいないから技が終わったけど、ぼく達の方はまだ終わらない。首を振り上げた直後で隙だらけの相手に、ヘクト君が跳びかかる。力任せに跳び込んだ彼は、相手もろとも倒れる。もちろん、オドシシが下で、ヘクト君が上。この一撃が相当効いたらしく、ヘクト君が跳び降りても、相手は立ち上がる事は無かった。
Chapitre Quatre 〜暗がりの森で〜 Finit