De Lien Quatrieme 哲心と炎の帝
Side???
『…少し遅れたけど、大丈夫かな』
『心が広い方なので、多分大丈夫だと思います』
空一面に白い綿が広がる中、僕達は予定よりも十分ほど遅れて目的地に辿りつく。辺りは公園として整備され、風光明媚な空気が辺りを和ませる。昼時と言う事もあって、人影はほとんどない。ここに住むオニスズメやポッポ…、野生のひと達の声だけがこの場に響いていた。
そんなのどかな空気が流れる公園、その噴水の前で、僕の間が見上げ、心配そうに話しかけてくる。僕もそうなのですが、ジョウトにはいない種族の彼は、今から会おうとしている方を待たせたことを気にしているらしかった。それに僕は、その方の姿を思い浮かべながら、こう口を開く。見た目とは真逆だけど心優しい方ですから…、と付け足しながら答える。だから心配ないですよ、というニュアンスを含ませることで、僕は彼の不安を和らげようと試みた。
『コルドもそうだけど、伝説の種族って穏やかなひとが多いからそうなのかな』
『いえ、今があるのは師匠のお陰ですから、僕はまだまだですよ。僕だって取り乱す事はありますから、リーフさんの足元にも届いてませんよ』
僕以上に数々の困難を乗り越えてきた彼は、そんな僕の言葉にこう答える。気が置けない彼は、だよね、と尋ねるように言の葉を繋げる。それに僕は、過去の黒歴史もあるので、すぐに首を横にふる。謙遜するつもりは無いですが、そんな彼に僕はこう答えた。
『まぁ、僕に抜かれるような足と手、種族上無いんだけどね』
『そういえばそうでしたね』
若草色の彼はこう言い、半ば自虐気味に笑う。彼は首元の蔓を手の代わりに使っているので正確には足だけですが、僕も似たようなもの…。その事を全く気にしていない僕も、彼の笑顔に自然と表情が緩む。一拍の間が出来てしまったけど、すぐに二つの笑いがその穴埋めをする。そこには楽し気な僕達の話し声の他に、土煉瓦のタイルを蹄で踏む音、そこを這う音が絶妙に共鳴していた。
少し遅くなってしまいましたが、ここで僕達の事を話そうと思います。口調で薄々気づいてるかもしれませんが、僕はコバルオンのコルド。イッシュの伝説の種族が何故ジョウトにいるのか…、そんな質問をされそうですが、言わなくても分かって頂けるでしょう。…分からない方のために少し話すと、僕はもちろん、一緒にいる彼もトレーナー就き。ユウキさんと出逢ってからもう四年以上…。これまでにイッシュだけでなく、ホウエンとカントーの地を旅してきた。今思えば、洞窟育ちの僕にとっては、全てが新鮮で、刺激的な旅でしたね…。感傷に浸るのはこのくらいして、今僕と行動を共にしているのが、ジャローダのリーフさん。リーフさんは僕の一つ年下で二十四、歳が一番近い同性? いや、そもそも僕に性別の類はありませんが、メンバーの中では一番よくしてもらっています。
『…
人気もほとんどないみたいですし、そろそろ呼んでみますね』
『うん。じゃあ、頼んだよ』
雑談を早々に切り上げ、僕は辺りに少しだけ意識を向け、通行人の有無を探る。会う方の種族が種族なだけに、一般の方がいたらどうしよう…、そう考えながら、辺りへの警戒を強める。だけどそれは杞憂に終わったので、すぐに警戒のレベルを下げる。ふぅ、と一息ついてから、僕は彼にこう話しかける。するとリーフさんはこくりと頷き、すぐに答えてくれた。だから僕は、ここに来て頂けているであろう方を強く思い浮かべながら、精神を研ぎ澄ませた。
フラムさん、コバルオンのコルドです。忙しい中お時間を作って頂いたにもかかわらず遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。
その状態で僕は、伝えたい言葉を強く念じる。テレパシーでこう呼びかけ、同時に申し訳なさから頭を深く下げる。まだ姿が見えないのに、今から頭を下げなくてもいいんじゃないの、リーフさんにこう言われてしまいそうですが、僕は構わずに言葉を念じ続ける。すると僕の頭の中に、自分のでもユウキさんのものでもない、別の声が響き始めた。
絆のコルドだな。拙者も今来たところだ。だから、頭を上げてくれないか?
そういえばフラムさん、時間にルーズな一面がありましたっけ? てっきり待たせたものだと思っていた僕は、彼から伝わってきた言葉に思わず拍子抜けしてしまう。ついえっ、と頓狂な声を漏らしてしまいそうになってしまいましたが、そこは何とか喉の奥に押し留める。その彼は案外近くにいたらしく、そんな僕にこう呼びかける。かと思うと、僕、おそらくリーフさんの耳にも、そう遠くない地を駆ける音が聞こえ始める。彼に促されて頭を上げた丁度その時、僕の前に一つの影が姿を現した。
『あなたがエンテイのフラムさんですね。言い訳になってしまうんですけど、ここに来る途中でバトルを挑まれてしまって…』
『いやぁ、そんな些細な事、気にせんでくれ。拙者も旧友との話に華が咲いてしまってな。だからそこはお互い様だ』
僕よりも早く気付いたリーフさんは、堂々とした出で立ちの彼にこう尋ねる。彼の特性のためか、ただならないプレッシャーに地元のひと達の会話がぴたりと止んだような錯覚を覚える。にもかかわらず、リーフさんはそれに全く動じている様子が無い。流石リーフさんですね、彼にそんな感想を抱いていると、僕より先に遅れた訳を話し始めていた。
僕と目線がほぼ同じな彼は、若干砕けた話し方でこう答える。利き足らしい左の前足を少し上げ、小刻みに左右にふる。ハッハッハッ、と笑いを浮かべながら、気さくにリーフさんの心配を打ち消していた。
『そう言って頂けて、安心しました。兄弟子のフラムさんに失礼なこと…』
『あの方の弟子…、いやコルドと拙者では歳が三つしか変わらんのだから、失礼な事は無い。同じ伝説の種族と言う以前に、対等だろ』
『弟子ってことはコルド? フラムさんも…』
『はい! お察しの通りです』
彼にこう言って頂けたことに、僕はホッと肩を撫で下ろす。失礼なことをしてしまったかと思いました、そう言おうとしたら、その本人に途中で遮られてしまった。兄弟子というより友人と言った方が正しいかもしれない彼は、そんな事を全く気にしたいないらしい。炎タイプという事もあって、活発な口調でこう続ける。なっ、と尋ねてきた彼に頷いていると、リーフさんは何かに気がついたらしい。だけどそれは、何を言おうとしているのか察しがついた僕に遮られてしまう。言い切る前に、そうですよ、と正解だったことを真っ直ぐに伝えた。
『コルドとは同じ樹の実を食べた仲だからな』
『僕もそう思ってますよ! 』
『コルド達って、仲が良いんだね』
『まあな。…そういえばコルド? リヴの奴は元気か』
『はい。今はシンオウの方に行ってるみたいですけど…』
リヴは三年前に色々とあったみたいですけど、相変わらずでしたからね…。親友のうちの一匹の彼と和気藹々と話していると、彼は思い出したように僕に訊いてきた。彼にとっても良き親友である人物の名前を挙げ、懐かしそうに呟く。こんな風に例の彼の事を思い出しながら、僕は彼の安否を話し始める。だけど…、
「ようやく姿を現したか」
「工事と偽造して公園へのゲートを封鎖した甲斐があったんじゃねぇーの? 」
突然割り込んできた二つの声に遮られてしまった。
僕達が来た方とは反対側…、エンジュ方面から来た二つの影は、作戦通りとでも言いたそうに声をあげる。その方に驚きながらも、僕はその方に振りかえる。
なっ、何なんだ、お前らは。
フラムさんも驚いていたらしく、彼は少し上ずった声でこう訊ねる。僕にも響いていたその声には、ただならない警戒も含まれていたような気がした。
「テレパシー…、エンテイで間違いなさそうだな」
「それにコバルオンのおまけ付きときた。コバルオンならアルファ様への良い土産になるよな」
何で、僕の事まで…!
「密猟組織の上層組員の俺様達が知ってるのも、当然だろぅ? 」
『密猟組織にそのロゴ…、まさか…! 』
リーフさん、やっぱり、そうですよね? おまけ扱いされたのは腑に落ちないですが、僕も思わずこう言葉を念じてしまう。だけど相手は挑発するように言い放ち、眉を吊り上げる。その一言でピンと来たらしく、リーフさんは二人組のユニフォームを見るなり、こう声を荒らげていた。
『プライズ…! 』
『何なんだ、その、プライズというものは』
『最近アサギやエンジュの近くで、野生のひと達が姿を消しているのは知っていますよね? あの元凶の一つです』
実際に遭遇するのは初めてですが、昨日対峙したらしいキュリーブの情報によると、この二人組はおそらく上層組員…。ユニフォームの色を見る限りでは、地佐ですね!
『何だと? 奴らが噂の集団なのか? 』
『そうです! リーフさん、今すぐに戦えますか? 』
『コルド、そんな事、訊かなくても分かるでしょ? 僕の故郷は一度、密猟組織のせいで無くしてるんだ…。最初からそのつもりだよ! 』
『フラムさんはどうですか』
『罪のない住民を大量に捕獲するなど…、聞き捨てならない。狙われている立場だが、拙者も伝説の一柱として、加担しよう』
訳が分からない、という様子のフラムさんに、僕は近頃の時事を交えて説明する。するとすぐに分かってくれたらしく、僕にもう一度確かめる。それにこう答えてから、僕はふたりにこう呼びかけた。
するとふたりは、愚問だ、と言い出しそうな勢いでこうはき捨てる。特にリーフさんは、表情には出していませんが、静かな怒りを燃え上がらせていた。
『ありがとうございます。僕もエクワイル、オーリックのメンバーの一員…、いえ、“英雄伝説”第十八代目、“絆の守護者”として…いきます! 』
僕の呼びかけで、リーフさん、フラムさんも身構える。フラムさんはこの時、伝説の種族らしく、抑えていたプレッシャーを全開にして解き放つ。リーフさんはおそらく、戦略のメインであるリーフブレードを尻尾に携える。目つきも鋭くなり、対峙する密猟者に睨みを利かせる。僕も全身に力を込め、技の準備に入る。ターンッ、と地面を蹴るのと同時にこう言い放ち、先陣を切って駆け出した。
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