Trente et trois 情報交換
Sideライト
「くっ、何故だ…。何故一つ星の俺が負ける…」
「デルタ様、申し訳ありません…」
正直言って、わたしが加勢しなくても楽に勝てたんじゃないかな…。幹部のデルタを難なく倒し、わたし達は密猟者達を退ける事に成功した。正直言って期待外れだったけど…。その彼は相当の自信があったらしく、あり得ない、っていう感じで苦言をもらす。チーゴの実を食べた時の様な表情で、悔しそうに声をあげていた。
「ボスが行方不明になった事といい渦巻島での任務の失敗といい…、何故こうも不運が続くんだ…。…ちっ、お前ら、撤退だ」
「でっ、ですが、ラプラスの捕獲は…」
「興ざめだ。いいから引き上げるぞ」
何の事かは分からないけど、デルタは独り言のようにこう呟く。その後、盛大な舌打ちをすると、二人の部下達を引き連れて立ち去っていった。
「…ふぅ、ツバキ、クロム、お疲れ様。ライトちゃんも、ありがとね」
『
疲れた、って言うほども実力は出してないけど、まぁいっか。一応任務は達成したんだし』
『そうだよね。これだけ時間を稼げれば、二トル達も脱出出来ているだろうしね』
ここに来る途中で見かけなかったから、二トル君達、もしかすると別のルートを通ってたのかもしれないね…。結構道が枝分かれしてたし…。敵対していた密猟者達が立ち去った事で、ユウカちゃんはホッと肩を撫で下ろす。一度辺りを軽く見渡してから、戦っていたわたし達に優しく声をかけてくれた。その彼女に真っ先に答えたのは、メガ進化している状態のツバキ。彼女は高めていた警戒心を解き、こう声をあげる。彼女の響く声には物足りなさが混ざってたような気がしたけど、それでも高めのテンションでこう言っていた。その彼女に、クロム君もうん、って頷く。彼は出口の方向に目を向けながら、たぶん別行動をしているらしい仲間の事を思い浮かべている。彼が言うには、向こうにも幹部のメンバーが追いかけていったらしい。でもフィルト君もいるから、問題なさそうだね、彼伝いの情報しかないけど、ふたりの実力を知っているわたしは、率直にこう思った。
どういたしまして。…ユウカちゃん、今回の報告、頼んでもいい? ちょうど元の姿に戻してる時だったから、荷物を全部置いてきちゃって…。
「うん、私もそのつもりだったから、いいよ」
よかった…。声ではユウカちゃんには伝わらないから、わたしは言葉を念じて彼女に応じる。彼女に対面する位置に移動し、体勢を起こした状態で、こう話しかけた。それからわたしは、続けて彼女にこう頼み込む。笛が吹かれた時、荷物を地面に置いたままだったから、今のわたしは何も持っていない…。ティルが回収してくれているはずだけど、こういう訳で、すぐには報告書をかけない。…そもそも、わたしは人としてではなくて、ラティアスとして呼ばれたんだけど…。
だけど彼女は、もちろん、ってう感じで大きく頷いてくれた。薄暗い洞窟の中では書きづらいから、多分脱出してからだと思うけど。別行動をしている二トル君達とも合流しないといけないから、きっとそのはず。もちろんわたしもそうだから、間違いないかもしれない。
『
そういえばライト? 地元のキュリーブから聴いたんだけど、マダツボミの塔ではどうだったの? プライズと戦ってたみたいだけど』
『昨日の? うん、危うくボヤ騒ぎが起きそうだったけど、何とかなったよ』
じゃあ、お願いね。それから、ツバキから聴かれたから提案なんだけど…
正直言って、今日のプロテージよりも、プライズの方が強かったかな…。親友の彼女はふと何かを思い出したらしく、あっ、と小さく声をあげる。その事を洞窟に声を響かせながら、こう尋ねてくる。昨日の事とはいえ、やっぱり情報が回るのは早いね。そう思いながら、彼女の質問をわたしは聴いていた。ニュースになるほどではなかったけど、何とか事なきを得たから、とりあえずこう答えておいた。それからわたしは、ユウカちゃんに返事した流れで、こう話題を提起する。今はわたしだけだけど、折角合流したから、そのついでに…。こう思いながら、わたしはツバキに訊かれたことを交えて、こう話し始めた。
――――
Side???
『荒らされてないか心配だったけど、何ともなくて一安心したわね』
『だよな。アジトとして使われていたが、史跡を使う上での常識はあったようだな』
壊滅まで追い込んだ組織のアジトとして使われていた史跡の調査が終わり、俺達はその場所を後にしていた。その組織はまだ解散はしていないが、リーダーを失脚させたので、おそらくはもう時間の問題だろう。考古学者の俺達としては、歴史上重要な史跡をアジトに使っていたという事は聴き捨てならないが、損害を与えていないのなら、大目に見る事にする。今日の相方の彼女もそう思っていたらしく、調査結果を記したノートを鞄にしまいながら、こう一息ついていた。
『そのようね。この後の調査は大学がする事になってるけど、オルト達も引き続き参加するのよね? 』
『あぁ、そのつもりだ。シルクとユウキは今は化学者だが、俺達はまだ考古学者として活動しているからな』
今は、というより、元の専門分野に戻った、と言った方が正しいか。俺がこう言うと、今は化学者として学生の指導をしているエーフィ…、シルクはこう答える。白衣を身に纏い、いかにも学者の装いの彼女…。考古学の一線から退いているが、彼女の専門である化学は、少なからず考古学と関係している。そういう訳で、彼女も考古学者の俺…、コジョンドのオルトに同行していたという訳だ。
『それからオルト、わざわざ私の鞄まで持ってきてくれて、本当に助かったわ』
『困った時はお互い様だろ? 』
ユウキからしか聴いていないが、シルクは今朝、相当焦っていたらしいからな、別の場所に置いていた荷物を持ち忘れるのも無理ないか…。彼女はそういえば、と続けて言の葉を紡ぐ。明るい調子でこう言い、俺に感謝を伝える。正直こう言われると気恥ずかしくもあるが、悪い気はしない。むしろ、彼女には数えきれないほど助けられているので、して当然だと、俺は思っている。直接は聴いていないが、これはおそらく、リーフやスーナ…、他のメンバーも同じ事を思っているかもしれない。
『…シルク? シルクはこの後、ヒワダに行くんだよな』
『ええ、そうよ。オルトは、キキョウで事後調査…、あら、あれってもしかして…』
確かヒワダでは、ボール職人に余った木の実を分けてもらいに行ってから、知り合いと会う予定だったよな。俺はその確認を含めて、彼女にこう尋ねる。それにシルクは大きく頷き、俺にも同じことを訊いてくる。だが彼女はその途中、視界に何かを捉えたらしい。あまり遠くない先に目を向けながら、こう呟いていた。
『スーナから聴いていたが、どうやらそのようだな』
彼女が目を向ける方に俺も注意を向けてみると、彼女の言う場所にいくつかの影を確認する事が出来た。その複数のひとかげは、俺には見覚えがあった。予想外の組み合わせだったが、一目でそれが誰なのか分かった俺は、懐かしさと共にこう声をあげる。久しく会ってなかったので、自然と気分が湧き上がってきていた。
『ティル君、ラフちゃんも久しぶりね! 』
『エレンにニド、ニアロも、三年ぶりだな』
『えっ、しっ、シルク? オルトさんも、久しぶりです』
『スーナさんには会ったけど、そのときぶりだね〜』
その先にいたのは、合計七つの影…。それか誰なのか気付いた途端、シルクは真っ先にそこへと駆けていった。嬉しそうに声をかける彼女は、その人物にこう呼びかける。その本人はかなり驚いていたが、それでも何とか応じてくれた。
彼女に続き、俺ももう一組にこう呼びかける。一緒にいるゾロアとパチリスに見覚えは無かったが、残りのシキジカ、ニドラン♂、ルギアには覚えがある。カントーでの調査以来の彼ら…、ここにいるこという事は、そう言う事だな。彼の歳から考えると、何故ここにいるのか、直ぐに察する事が出来た。
『ライトとテトラちゃんとラグナさんの姿が見えないけど、別行動中かしら? 』
『うん。…あっ、そうだ。シルクお姉ちゃん、オルトお兄ちゃんも、その事で一つ訊きたいんだけど…』
この場にいないという事は、そう言う事だろうな。いるべきはずのメンバーが欠けていることに気付いたシルクは、その彼女のメンバーであるラフにこう尋ねる。スーナが会った時もそうだったらしいので、おそらくそれと関係があるのだろう。それに応えたのが、ライトのメンバーでは最年少のラフ。チルタリスの彼女は、急に何かを思い出したらしく、徐に俺達にこう尋ねてきた。
彼女が訊いてきた事に俺、シルクも驚いたが、持ち合わせている情報と殆ど一致していた。彼女達がエクワイルとは知らなかったので、これはおそらく、ホウエンのオーリックの気まぐれだろう…。いや、この事を知っていて、向こうはライトに来させたのか? 今ジョウトで起きている事を考えると、これほど心強い事は無いが、俺はこう思わずにはいられなかった。
Chapitre Trois 〜出逢う者達〜 Finit