Trente et deux 湖畔の乱闘
Sideライト
「幹部の俺相手に、ナメた口をききやがって…」
「エクワイルのアージェント、ユウカが、全力で相手します! 」
ユウカちゃんは、目と言葉に力を込める…。相手の幹部は何かを言っていたけど、そんな事は気にせずに彼女は言い続ける。最後は力強く言い放ち、相手に宣戦布告する。そのタイミングで彼女は、白い石がはめ込まれた青いブレスレット…、“キーストーン”を高らかに掲げる。するとそこからは、まるで本当の戦闘の幕開けを知らせるかのように、強い光を放って輝き始めた。
「なっ、まさかメガ進化? ベータの野郎だけじゃなかったのか」
するとユウカちゃんのブレスレットと呼応するかのように、ツバキにも変化が現れ始める。目を閉じている彼女はその瞬間、紺と緑の光に包まれる。その光は球体となり、輝きを増してゆく…。隣で浮遊しているわたしにも伝わってくるほどの、エネルギーが辺りに放たれる。わたしはしたことが無いから分からないけど、ラフとツバキか言うには、この瞬間に体のつくりが変化しているらしい…。バリンッ。ガラスが割れる様な音と共に、紺と緑の光が辺りに弾ける。弾けたその場所には、普段とは違う姿のツバキ…。
『
さぁ、クロム、ライト、いくよ!』
『当たり前でしょ! 』
『ツバキも本気みたいだからね、僕も本気でいこうか』
メガジュカインとなった彼女が、漲る力と共に揚々と声をあげる。彼女のエコーがかかった声で、心なしかわたしの士気が高まったような気がした。元々そのつもりだったから、わたしは当然の様にこう言い放った。軽く翼の準備運動しながら待っていると、ツバキを挿んで反対側にいるクロムが大きく頷いていた。傍から見るとあまりそうは見えないけど、彼も静かな闘志を燃え上がらせていた。
「全力で相手するんです、そんな事、愚問です! ライトちゃん! 」
いつも通りだね!
「だが一つ星の俺の前ではそんな事、関係ねぇー! スカタンク、ドクロック、ブニャット、奴らを完膚なきまでに打ちのめせ! 」
『はいよ』
『まぁアタイらにかかりゃあ、チョロいもんよ! 』
『クククッ…、俺様達の相手とは、相手が悪かったなぁ! 』
ツバキ達と組んでなら、これまでに何回も戦ってきた。最強、とまではいかないけど、絶対に負けないからね! ユウカちゃんの宣言と共に、辺りが一気に張りつめる。この宣言に相対する様に、プロテージの幹部も荒々しく声をあげる。その事が相当の自信になっているらしく、彼は自分の星の数まで言ってくれた。その彼の期待に応えるかのように、メンバーの彼らも各々に声をあげていた。
『悪いが、俺様からいかせてもらうぜぇ! 辻切り』
『
狙い甘いよ! リーフブレード』
『シャドークロー』
なるほどね。相手は最初にツバキを倒すつもりなんだね。真っ先に動き出したのは、左側に控えていたスカタンク。彼は何の前触れもなく駆けだし、ツバキとの間合いを詰める。そのまま右の前足に力を蓄え、切り上げた。
一瞬のうちに距離を詰められていたけど、ツバキは冷静に対処する。彼女は腕に鋭利な刃を出現させ、タイミングを伺う。相手が前足を放したタイミングで、彼女は半歩、後ろに下がる。あの動きからすると、彼女は多分見切りを発動させたんだと思う。そのまま彼女は右腕を下げ、間合いに入った所で一気に振り上げた。
『わたし達の事、忘れてないよね? 冷凍ビーム』
『右に同じくだよ、ドラゴンダイブ! 』
『くっ。あんた、アタイらにたてつくとは、いい度胸してるじゃない』
『だが、それが間違いだったな。リベンジ』
ツバキの草の刃は、正確に相手の下顎を捉える。だけどその後ろから、別の一匹が虎視眈々と彼女を狙う。スカタンクを飛び越そうと、後ろ足に力を溜めこんでいるところだった。
だからわたしは、後ろ向きに滑空しながらツバキの左側に出る。体勢を起こしながら口元にエネルギーを蓄え、それを氷の属性に変換する。若干俯いた状態で喉に力を込め、一気に解き放つ。そのままの状態で天井を見上げる事で、一直線…、縦に薙ぎ払った。
その甲斐あって、ツバキの隙を突こうとしていたブニャットの牽制に成功する。氷状態にする事はできなかったけど、それでも彼女から気を逸らす事はできた。この間にクロムも技を発動していたらしく、その場で真上に、大きく跳ぶ。相性は普通だけど、適度な」距離をとっていたもう一匹に、力任せにのしかかっていた。
『くっ…』
『チッ…。空から…、鬱陶しいわね! 電撃波! 』
『わたしは浮遊する種族なんだから! クロム、ツバキ! 』
『うん! 地震! 』
『
もう一発!』
クロムはダメージを与える事に成功していたけど、相手の反撃を受けてしまう。彼の下敷きになった相手は技を発動させると、体のバネを利用して彼を弾き飛ばす。効果は、抜群…。弾かれながら、彼は若干顔を歪めていた。
一方わたしに追撃を邪魔されたブニャットは、かなりイラついた様子で声を荒らげる。体中に溜まった電気を凝縮させ、私を狙う…。だけどわたしは、それでも相手との距離をさらに詰める。メガ進化して長くなった尻尾を振り回して原始的な連撃を与えていたツバキの後ろをとり、こう合図を送った。いつもの作戦だから、クロムはこれだけでこの言葉の意味を分かってくれた。地面に落ちるまでに技を準備し、振れたタイミングでそれを解き放つ。すると洞窟の地面が唸りをあげ、立ってられないほどの揺れが辺りを襲いはじめた。
『クッ…』
『なっ…、アタイの電撃が、効かないですって? 』
『
残念だけど、私の特性は避雷針。だから電気タイプの技は効かないよ、リーフストーム! 』
『癒しの波動! 』
体を横に回転させることで尻尾の一撃を与えていたツバキは、わたしの合図で別の技を発動させる。クロム君の揺れが届く直前で、彼女は自慢の脚力で真上に跳躍する。そのタイミングでわたしは彼女の真上に移動し、両手で受け止める。案の定相手の電塊が追いかけてきたけど、それは逆に親友のパワー源となっただけだった。
こうなった彼女は、まさにネギを得たカモネギ。彼女はエネルギーを蓄え、わたしに抱えられて飛んだ状態で、激しい緑葉の嵐を発生させた。同じタイミングで、わたしは技のイメージを祈りに変換する。それを口元に集めながら、ダメ―ジをうけているクロムを狙う。彼の揺れで相手が動けない今のうちに、彼に向けてそれを解き放った。
『ライト、ありがとう。…流石、星持ちのメンバーだね。だけど、僕達も星持ち。もう一発地震! 』
『
ドラゴンクロー』
『竜の波動! 』
『ぐァァッ』
クロム君の回復も成功したし、このチャンスに一気に攻めないとね! わたしが撃ちだした光の玉は、誰にも邪魔される事なくクロム君に命中した。“心の雫”の効果がこれにもあるのかは分からないけど、多分食らったダメージの半分ぐらいは回復したと思う。その証拠に、最初程ではないけど、彼は連続で素早く技を発動させる。今度は軽く右足を上げ、思いっきり踏みつける。そうすることで、彼は再び大規模な揺れを発生させた。
当然、地上にいる相手達は大ダメージを被る。そこにわたしから解放され、重力に引かれる。彼女は左右の手元、それから長い尻尾の先端にも青黒いオーラを纏わせる。空中で前向きに一回転し、その勢いをも乗せて水際にいたスカタンクに重い一撃を与えていた。
もちろんわたしも、このタイミングで一気に攻撃を仕掛ける。竜のエネルギーを口元に蓄え、それを圧縮する。濃度の影響で黒に近い色になったところで、ブレスとして解き放つ。今度は首を動かすことなく、一点を狙う。放っておくときっと厄介になるドクロックに向けて、一直線に突き進んでいった。
『グゥッ…』
『そう…。猫の手…、影打ち』
『えっ…、くっ』
ねっ、猫の手? 偶然だとは思うけど、まさかわたしに対して発動するなんて…。技を発動させた直後で隙ができているわたしは、急な相手の接近に対応する事が出来なかった。技の効果で地震をかわしたブニャットは、ほぼ身を任せる様な形でわたしの真上をとる。ほぼ落下するように、彼女はわたしの背中にゴーストタイプの一撃を加えてきた。
『
ライト! リーフブレード』
『ちょっと油断した、かな。ミストボール』
だけど、この一撃でやられるほど、わたしは弱くはない。結果的にのしかかられたわたしは、その場で体を捻り、回転する。戦闘不能寸前の彼女を振り落とし、後ろ向きに飛び下がる。手元に専用技のそれを準備し、左右の二発を同時に撃ちだす。振りあげるように発射したそれと、地上から飛び上がってきた親友の斬撃が命中したのは、ほぼ同時だった。
「ちっ…、三匹ともやられたか。…お前ら、一斉に攻撃だ」
「了解です! 」
「何匹で来ても同じです! 地震で殲滅して見切りでかわして! 」
『
星持ちだから期待したけど、この流れなら案外早く決着がつきそうだね』
『幹部の方は、もうメンバーはいないみたいだしね。もう一発』
『って事は、わたしが着くまでに何匹か倒してたんだね。冷凍ビーム! 』
『
時間稼ぎでひとりだけだけど、リーフブレード』
わたし達の返り討ちに遭い、ブニャットは真っ直ぐ下に落ちていく。そこは硬い地面じゃなかったから、衝撃で水柱があがる。まだ来るか…、って身構えたけど、これ以降彼女が攻撃を仕掛けてくる事は無かった。
この彼女が最後だったらしく、デルタは盛大な舌打ちをする。彼は後ろに振り返り、こう声をあげる。それに部下の二人は答えていたけど、すぐにわたし達の連撃で、指示する間もなく戦闘不能にされていた。
Continue……