Trente 遭遇する伝説達
Sideライト
「はぁ…はぁ…。ヤライあらためて…よろしくね」
『こちらこそ…。あんたとの決着も、まだだから…、アタイはあんたらに、ついて行くわ。こちらこそ、エレン、ニド、それからユリンにニアロも、よろしく、頼むわ』
『うん、よろしくねぇー』
わたし達は傍観しているだけだけど、エレン君達に新たな仲間が加わった。やっぱりまだバトルのダメージは残ってるみたいだけど、彼は彼女の収まるボールを投擲する。白い光が治まったそこには、当然ゾロアの彼女…。彼女も疲労が溜まっているらしく、言葉は切れ切れになっている。その途中で、彼女は白い曇り空を見上げる。力が入らないらしく、後ろにひっくり返りそうになってたけど、それでも彼女は、力ない笑顔でこう答える。それにニド君が明るく答えると、もう一度互いの右手、右前足を合わせ合っていた。
『やっぱり、誰かが仲間になる瞬間って、いいよね』
『えっ、だっ、誰…? いつの間に…』
『君達のバトルの後半ぐらいからだね。いいバトルだったよ』
そんな彼らに最初に声をかけたのは、彼らと同世代のラフ。彼女はメンバーの中では一番遅くに入ったけど、それでも自分の事の様にこう言っていた。それにゾロアの彼女は、急に話しかけられたため、驚きでとびあがる。当然初対面だから、解いたばかりの警戒心を再び高めている。ふらつきながらもわたし達を睨み、敵意を顕わにしていた。
もちろんわたし達にそんなつもりは無いから、ティルはこんな風に、優しく応じる。途中からしか観てないけど、その部分だけでこう評価していた。
「ニド君から聴いたよ、一時間も戦い続けてたみたいだね」
「じつりょくも…おんなじぐらいだったから…ね。それからヤライ…このひとたちはだいじょうぶだよオイラといっしょだから。ニアロもおりてきていいよ」
『あんたと…、同じ…? 』
だって、わたしはラティアスだし、エレン君はポケモンに姿を変えられるしね。わたしは彼らの検討を、こう称えながら話しかける。やっぱりゾロアの彼女には警戒されてるけど、とりあえずそれは気にしない事にする。そんな彼女の様子に気付いたエレン君は、切れ切れにこう言ってから、彼女を宥めてくれる。それから何故か上を見上げ、こう続けていた。
「うん。根本的には違うけど、似たようなものかな」
『そういえばそんな事、スーナさんが…』
『なっ、何故こんな所に…! 渦巻島にいるはずじゃなかったのか? 』
『それは誰にも就いて無ければ、の話しです』
エレン君の話しも間違いじゃないけど、まぁ、いっか。姿を変えられる、っていう意味では同じだし。たぶん警戒心から疑問へと推移した彼女に対し、わたしはこう答える。本当はわたしはポケモンだから、ちょっと違う、そう言いたかったけど、とりあえずこの場ではそう思わなかったことにしておいた。そんなわたしに続いたのは、彼のパートナーのニド君。彼は昨日会った時の事を思い出しながら、こう語り始める。スーナさんが言ってたね、たぶんそう言おうとしていたんだと思うけど、言い切る前に驚くラグナに遮られてしまっていた。
そのラグナはというと、突然羽音が聞こえていた方向…、頭上を見上げていた。その先の巨影を見るなり、こう声を荒らげる。それに対し、空の巨影はかなり落ち着いている。コルドを思い出せるような口調の彼は、何回か羽ばたき、地上に着地する。その後ろから何かが跳び下りたような気がするけど、わたしはその彼の大きさに気を取られ、気付くのが遅れてしまった。
『話には聴いていたけど、やっぱりルギアって大きいね』
『サンダーのイカヅチさんよりも、大きいかもしれないね』
『お前ら、知ってたのか』
『うん、直接は会ってないんだけど、トリ姉から聴いてたんだよ』
「たしか丁度ラグナが、ヒイラギの所に行ってた時だね」
その時はわたし達もラグナも、同じヤマブキにいたけど、別行動してたもんね。…結構慌ただしかったから、結局会った事、言えてなかったけど…。白い空から飛来した彼…、ルギアを見ても、ラグナ以外のわたし達は驚く事は無かった。実際に会うのは初めてだけど、トレーナー就きだって事は知っていた。合流した時に言わなかったからだと思うけど、そういう訳でラグナは知らなかったんだと思う。だけどラグナも、ヘイスの事を言ってくれなかったから、おあいこだよね…。ついさっきも同じ事があったから、とりあえずこう思う事にしておいた。
『えっ、もしかして、トリさんの事、知ってるのぉー? 』
『うん。知ってるも何も、私のお姉ちゃんだから』
「それと君達が関わってる、“四鳥伝説”もね。…それはそうとして、エレン君、それからゾロアの君も、回復しなくて大丈夫? 」
そういえば、昨日会った時は言わなかったっけ? ニド君はまさかわたし達が知り合いと繋がっている思っていなかったらしく、興味津々、という感じで訊いてきた。ニドランの彼に答えたのは、別の意味で彼らと近い関係にあるテトラ。彼女はパッと明るく言い放ち、だからよく知ってるよ、と付け加えていた。そこに、わたしが加わる。だけどわたしは、ある事を思い出す。ニアロ君の事で話が逸れちゃっていたけど、エレン君とゾロアの彼女は、激戦を繰り広げた直後…。たぶんこの間に彼女は済んでると思うけど、エレン君はまだだと思う。あれからずっと元の姿に戻ったままだったから、わたしはこう尋ねてみた。
『回復? そういえば、エレンはまだだったわね』
『ヤライはしてもらってたから、エレン、してもらったどう? ブイゼルの姿だと、傷薬とか、使えないし…』
『オレンとかオボンの実を使うっていう手もありますけど、効果は薄いですからね』
確かにね。オレンの実とかオボンの実は、バトル中の応急処置用みたいなものだからね…。わたしの予想は当たっていたらしく、ヤライって呼ばれている彼女は、多少の痛みは引いているらしい。話す言葉も途切れる事は無く、普通に言葉を紡げていた。そこに、会うのは二回目になるパチリスの彼女が続く。仲間の事を優先していたらしいエレン君に、こう声をかけていた。
『ですからライトさん…、であってますよね』
「うん」
『エレンの回復を、お願いします』
「じゃあ、準備するから、ちょっと待ってて」
『エレン君も、ポケモンの姿に変えてくれる?』
「あっうん」
そもそも、そのつもりだったから提案したんだけどね。エレン君なら、気兼ねなく出来るし。昨日会った時にはいなかったから、ルギアの彼は上からこう尋ねる。エレン君からわたしの名前を聴いていたらしく、それを確かめるように訊いてくる。だからわたしは、ほとんど間髪を入れずに即答する。頼まれなくてもそのつもりだったから、わたしは反応を待たず、元の姿をイメージする。目を瞑り、こう言ったタイミングで、わたしは激しい光につつまれ始めた。
その間に、ティルはエレン君にこう声をかけてくれた。実際に目では確認してないけど、たぶん、姿を歪ませ始めた。
『おまたせ』
『えっ…、あっ、あんた…、何者? 』
『ライ姉は人間じゃなくて、ラティアスっていうポケモンだから』
ラフ、説明ありがとね。
『…癒しの波動』
光が治まり、こう言ってから、わたしはすぐに準備に取りかかる。眼を閉じ、イメージを祈り一色に染め上げていく。その祈りの中に、仲間を護りたいという感情を込めていく…。それらのイメージを基に、エネルギーを変換。実際に回復したい相手を強く意識しながら、そのエネルギーを解き放つ。今回の場合、意識するのはエレン君と、ゾロアのヤライ。ここでわたしは目を開け、白い光塊を彼らに撃ちだした。
『ライトさんって、回復技、使えるんだねぇー』
『…ふぅ。どう、少しは楽になった? 』
『あっ、はぁ…』
『うんありがとうございますなんかからだがすごくかるくなりました』
久しぶりに使った技だから、ちょっと時間がかかっちゃったけど…、まっ、やらないよりはマシだよね。技を発動させ、わたしはこんな感じで一息つく。彼らより少し高い位置でフワフワと浮くわたしは、意識を向けていた彼らに、順番に目を向ける。ヤライっていう彼女は、疲れが取れて楽な…、というよりは、わたしに対する驚きが感情を支配している、っていう感じ…。ゾロアっていう種族にとっては馴染があるはずだけど、彼女は明らかに唖然としていた。
そんな彼女に対し、エレン君はこう喋り倒す。たぶん二文だと思うけど、彼は息継ぎなしに言い切っていた。そっか、ならよかった…。一言で言い放った彼に少し驚きながらも、わたしはこう言おうとする。だけどそれは、ある事によって叶わなかったそれは…。
ライトちゃん、今すぐに来て!
突然わたしの頭の中に、切羽詰まった様子の女の子の声が響き渡る。この様子だと、この声が聞こえているのはわたしだけ…。何故わたしだけなのかは、分かっている。この場にいる誰のものでもなかったけど、その声の持ち主が、わたしにはすぐに分かった。
その、声の主、そして、わたしを呼ぶ理由は…。
Continue……