Vingt et six 重なる偶然
Sideライト
『…なるほどな。つまり、何の理由もなしにゲートを封鎖し、交通を妨げられたという訳だ』
「うん。工事の一点張りで…」
『だから、一応ライトとはヒワダを経由するのはどう、っていう話が出てるよ』
ゲートの傍でインタビューされた後で、わたしはすぐにボールで控えてもらっていたテトラ、ラグナ、それからラフをすぐに出してあげた。景色が変わってない事を揃って聞かれたけど、先に出ていたティルに助け船を出してもらったから、すぐに説明する事ができた。一通り話し終えると、ラグナは頷きながらこんな風にまとめてくれた。だからわたしはそれに補足し、最期にティルが、ふたりで相談した時の結論を言ってくれた。
『ええっと、ヒワダってことは、先にそっちのジムで予備試験をするのでいいんだよね? 距離的にも明日になると思うけど』
昨日センターで言ってたっけ、確か…。ヒワダっていう地名を聴いたテトラは、わたしの方を見上げ、こう訊いてくる。その彼女の右の触手には、小さく折りたたまれた観光用のマップが握られている。一昨日の船の中で買ったばかりだから、その地図に汚れはあまりない。だけど、その角は少しだけ折れ曲がっていた。
『何か洞窟も抜けないといけない、って言ってたもんね』
「うん。繋がりの洞窟、っていう所だったと思う。わたしとティルで勝手に相談しちゃったけど、これでいいかな? もう一日ここで待つよりは良さそうな気がするし」
本当はコガネに行く予定だったから、それだけしか知らないけど…。でも、ただでさえ予定が狂ってるから、尚更、ね。彼女に続きラフが、だよね、ってテトラに訊く。それにテトラも、そうだったと思うよ、って明るく返していた。そのままテトラに目線で訊かれたから、わたしもこんな風に、こくりと頷く。ティルだけで決めた事を申し訳なく思いながら、わたしは彼女達に同意を求めた。
『確かにな。理由も無く封鎖するのは気に食わんが…、これは仕方ないな。俺は構わないが、お前らはどうだ? 』
『私は早くオルト兄ちゃんに会いたかったけど…、我慢するよ。コガネまでどうやって行けばいいか、分からないし』
『ラフじゃなくても、私だって迷いそうだしね…。うん、だから、いいよ、それで』
「よかった。なら、それで決まりだね」
わたしとテトラは昨日、スーナには会ってるけど、ラフ達はまだ誰にも会ってないもんね。…色んなことがありすぎて、忘れそうになってたけど…。真っ先に答えてくれたのは、最年長のラグナ。彼は一瞬苦い顔をしたけど、すぐに開き直ったように元の表情に戻る。自分に言い聞かせるように、こう言ってくれた。ラグナらしいなぁ…、って思って聞いていると、彼は続けてふたりにも話をふる。右隣にいたラフがそれに応え、自分の考えを言いはじめた。彼女はきっと、本来の目的地にいるらしい友達のことを思っていたのだろう。名残惜しそうに、こう呟いていた。
ラフだけじゃなくて、たぶんみんなそうだと思うよ、わたしはこんな風に思いながら、彼女の言い分を聴いていた。ラグナが賛成してくれたことにホッとしていると、テトラが続けて口を開いていた。彼女は持っていたマップをわたしに渡してから、こんな風に呟く。どうやら彼女も賛成らしく、快く頷いてくれた。だからわたしは、肩を撫で下ろしながらこう呟く。最後にラグナ、ラフ、ティル、テトラの順に目線を走らせながら、もうこう言った。するとみんなは、三者三…、いや、四者四様に明るく頷いてくれた。
『じゃあ、行こっか』
そこにティルが、わたし達に呼びかける。これがきっかけになって、わたし達は止めていた歩みを進め始めた。相変わらず空は曇ってるけど、わたしにはちょっとだけ陽が射したように感じられる。久々に感じる旅の醍醐味に満足しながら、新たな目的地への一歩を踏み…。
『あれ? ねぇライ姉』
「ん? ラフ、どうかした」
ニ、三分ぐらい歩き、街の真ん中に近づいたところで、わたしの少し上で羽ばたくラフが徐に声をあげる。何かを見つけたらしく、彼女は地面に降りてきて、わたしに声をかけてきた。何か気になる事でもあるのかな…、そう思いながら、わたしは彼女にこう訊き返した。
『あそこにいるのって、ギャロップのフレア君じゃない? 隣のウィンディは知らないけど…』
彼女はわたしを見、すぐに嘴でその方を示す。右の翼でも例の場所を指し、わたし達にそこを見るよう促す。言われたままにそっちを見てみると、三十メートルぐらい先…、ちょうどセンターの前ぐらいにその人物? はいた。確かに人はいたけど、それよりも先に彼女が言った前者が目に入った。わたしは飛行タイプじゃないからはっきりとは見えなかったけど、それだけは確認できた。話しながら近づいてようやく、よく知る彼だと気付くことができた。
『あの感じ、絶対にそうだね。ってことは、その隣の人はヒイラギかな』
「うん、あの悪戯っぽい笑い方、絶対にそうだよ。…ヒイラギー、久しぶりだね! 」
「だからそれ…、うわっ、らっ、ライト…、びっくりした…」
ホウエンに帰って以来だから、二年ぶりかぁー。ティルがこういう前に、わたしは既に彼が誰なのか気付いていた。こみ上げてくる懐かしさと共に、わたしは幼馴染の彼の名前を高らかに言い放つ。ちょうど彼は背を向けていたから驚かす事になったけど、何とか彼はわたしの声に気付いてくれた。
『フレアも、久しぶりだね』
『ティルにテトラ、ラフもな。ラグナ先輩、この間はありがとうございます。勉強になりました』
「そっちはそっちで大変だったらしいしね」
『確かにな』
ラグナから聴いていたけど、そうらしかったもんね。彼らから見て一番近くにいたテトラは、まず初めにギャロップの彼にこう話かける。それぞれの目線を重ね合わせると、テトラは右の触手、フレアは右の前足で握手を交わす。フレアのは蹄だから、テトラが彼のを包み込むような感じでしていた。そのまま彼は、ティルラフの順に視線を走らせ、ラグナのところで止める。彼はぺこりと頭も下げ、こう気持ちを伝えていた。それにラグナも軽く会釈し、彼に答える。そこでわたしが話しかけたから結果的に遮る事になったけど、それでもラグナはこう頷いていた。
「ええっと、ウィンディのきみははじめましてだね」
『おっ、おぅ』
最後に会った時にはいなかったから、きっと今日までの間にメンバーに加わったんだろうね。炎タイプだから、ヒイラギらしいと言えばヒイラギらしいけど…。こう言ってから、わたしは会話にひとり取り残されていた彼? にも声をかける。油断していたらしく、彼は思わず言葉にならない声をあげる。慌ててわたしの方に振りかえり、きょとんとした様子でわたしの事を見ていた。
「そういえば、ラグナ以外はヘイスに会うのは初めてだったね」
「ヘイス…、ウィンディの…」
「いや、ヘイスはウインディじゃないよ」
「えっ、違うって、どう見ても…」
ヒイラギ、何言ってるの? 観た感じ雰囲気的にもウィンディなんだけど。ようやく驚きから立ち直ったらしく、ヒイラギはこんな感じでわたしに話しかける。彼が言うにはラグナは知っていたらしいけど、わたしはその事を一言も聞いていない。忘れてただけかもしれないけど、そのウィンディの名前をすぐに教えてくれた。わたしに何も訊き返さなかったから、ラグナが言わなかっただけなのかな…、そう思いながら、わたしはそのウィンディを見ながらこう呟く。ウィンディの彼の名前だね、そう言おうとしたけど、途中で彼の予想外の言葉に遮られてしまう。何の疑いも無くウィンディの彼の事を聴こうとしたから、わたしは思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。対してヒイラギは、悪戯を成功させた子供のような笑みを浮かべていた。
『俺も初めて会った時は驚いたが…、ヘイス』
『そういう話しだったよな』
『おぅよ』
「えっ…、あっ…、そういうことだったんだ」
話? いつの間にそんな…、あっ、ラグナだけがカントーに言った時か。何のことかさっぱりわからなかったけど、どうやら彼らの間でそういう事になってたらしい。一番最近会っているラグナ、ヒイラギ、それから例の彼は、互いに目を合わせ、小さく頷く。それが合図だったらしく、彼はわたし達程ではないけど強い光に包まれはじめる。かと思うと、それはすぐに縮小し、ものの二、三秒ほどで雲散する。光から解放された彼を見て、わたしはようやくその真意に気付くことができた。
「きみはウィンディじゃなくて、メタモンなんだね」
メタモンだったなんで、全く気付かなかったよ。ヒイラギの変装は見抜けるから自信があったけど、全然分からなかった…。気付いたわたしは、その彼の種族名を確信と共に口にする。探偵のヒイラギにとっては最適とも言える彼…、っていったらいいのか分からないけど、その種族にわたしはすぐに納得する。内偵調査をする時は、彼とヒイラギは完全に姿を変えて潜入するのかもしれない。彼らの職業を思い出し、わたしはこう確信した。
「そういうこと。…ライト、姉さんから話は聴いてるよね」
「話…、あっ、うん。ジョウトにいるっていう、わたし達の同族の事だよね」
ティル達は別に話してるみたいだけど、とりあえずわたし達の話題は一度途切れる。それを見計らったように、わたしの幼なじみはこう話を切り出す。その事を知ってる前提で、彼はこう尋ねてきた。話って、何だっけ…。それに始めはピンと来なかったので、少しだけ上を見上げ、記憶を辿る。そういえば、アオイさんからあの事も頼まれてたっけ? すぐに思い出し、泳がせていた視線を、彼の方に戻す。出発する前に彼の姉から聞いた事を、確認を込めてこう訊ねた。
「そうそう。ウィル、っていう僕らの同族の…」
ん? ウィルっていう名前、最近どこかで聞いたような…、どこだっけ?
「あっ! どこかで聞いた事ある気がしたけど、それだったんだ! 」
そうだ! ウィルっていう名前、ついさっき聞いたばかりだよ! 何で今まで忘れてたんだろう。わたし達の同族だっていう、人物の名前が何故か引っかかり、わたしは少しだけ考える。するとすぐに、わたしの脳裏に電流にも似た何かが駆け抜ける。その間にヒイラギは何かを言っていたけど、わたしは思わず声を荒らげてしまう。そのせいでヒイラギはもちろん、偶々近くを通りかかっていた通行人をも驚かせてしまう。突然の事だったから、その彼らはわたし達の方にハッと振り返っていた。
…っていうことは、さっき会った記者のウィルさん、わたし達と同じ、ポケモンって事だよね? 男の人だったから、あのひとは…。
Continue……