Trente et trois やりすぎな提案
Sideコット
『大人しくソイツを渡してもらおうかぁー、辻切り』
『悪いが、そういう訳にはいかねぇな、ドラゴンクロー』
『エアスラッシュ』
『甘い! 』
湖から逃げてきたぼく達は、そこから続く水路沿いに進んでいた。目的はぼくとカナじゃなくて、ラプラスの彼女を密猟者の手から逃がす事…。だから、彼女が進みやすい湖からの水路だけを選んでいた。途中までは順調だったんだけど、五分ぐらい前から足踏み状態が続いている。どこまでいけるんだう、そう思ってたんだけど、湖から三分ぐらい進んだところで、水路が行き止まりになってしまった。ぼく達が進んでいた陸路なら、まだ続いてるんだけど…。だから今、ニトルさんが水路の抜け道を探しに行ってくれている。ニトルさんも水タイプだから、水の中を探してくれている。もうすぐ戻ってくると思うんだけど、待ってる間に密猟者に追いつかれてしまった。ぼくも応戦しようかと思ったんだけど、戦ってるのはフィルト君だけ…。たった一匹で、三匹もの相手をしていた。
『…ねぇ、やっぱり…、私達も戦った方が、いいのかな』
『ぼくもそうしたいんだけど、ニトルさんを待った方が良いと思…、スピードスター』
だけど、ラプラスのキミを守るためだから、そういう訳にもいかないよね…。目の前で攻防が繰り広げられてるから、彼女は終始オロオロしてる…。ぼくが見た感じでは、私も何かしないと…、そう言った雰囲気だった。ぼくも戦わないといけないよね、こう思ってたけど、ひとまずぼくは彼女にこう言う。だけど、それを最後までいう事は叶わなかった。フィルト君はひとりで相手してくれてるから仕方ないんだけど、相手のポケモンの流れ弾がこっちに飛んできた。本当ならカナの指示を待ってからするべきなんだけど、そうしていると間に合いそうにない…。だからぼくは、独断で黄色い流星を四個解き放った。
「コット! そのまま…」
『お待たせ! 水中には無かったね…。冷凍ビーム』
『グァッ…。ふっ不意打ちとは…』
『電光石火』
『くっ…』
ギリギリで相殺したタイミングで、ラプラスの彼女を挟んだ反対側から、よく知った声…。水しぶきをあげ、水面からシャワーズのニトルさんが、勢いよく飛び出していた。そのまま彼は、即行で冷気を口元に溜める。ほぼ時間をかけずに、陸側にいたゴルバットに命中させていた。
その光景をハッと見たぼくは、気がつくと落ちてきた相手に追撃していた。瞬間的に前足と後ろ足に力を込め、頭から突っ込んだ。多分二トルさんが加減して攻撃してたからだと思うけど、ぼくの一撃で相手は気を失っていた。
『この近くを探したんだけど、きみが通れそうな抜け道はなかったかな…』
『ってことはやっぱり、陸の上を進むことになりますよね』
「あっ、帰ってきた。ねぇ、どうだった? 」
『うーん、ダメだったよ…』
飛び出した勢いを利用して、二トルさんは大きな彼女を飛び越していた。そのまま彼は、スタッ、と身軽に着地…。技で中断していた調査結果を、再開していた。その彼にぼくはこう訊いてたところで、カナはやっと彼の事に気がついたらしい。カナ、今更…? そう思っていると、訊かれた二トルさんは目を瞑り、若干俯いた状態で首を横にふっていた。
「そっか…。それならやっぱり、陸の方からいくしかない、のかな。…ねぇ、きみって、陸の上で移動できる? 」
水路も水中にも無いんなら、そうなるよね。二トルさんの反応を見たカナは、それなら…っていう感じでこう尋ねる。二トルさんとは違って、ラプラスはたぶんずっと水の上で生活する種族だから、ぼくもそこは気になっていた。するとラプラスの彼女は、すぐにこう返事した。
『行けない事はないけど…、凄く遅いよ? でも陸から行くと、捕まっちゃうよ』
すごくおそいけど、いちおううごけるって。でもやっぱり、みずのうえのほうがいいって。
「そっか…。なら、どうしよう…」
やっぱり、そうだよね。ある意味予想通りだったけど、彼女はこう答えていた。こう言いながらううん、って彼女は首を振ってたけど、それをカナは見ていなかった。いつもの癖で、カナはぼくに通訳をしてもらいたいらしい。これだけ長い時間薄暗い洞窟にいるから、流石に人間のカナでも目は慣れてきているはず…。だからぼくは、自然な流れで彼女を見上げ、言っていたことを文字にして伝えた。
『陸の上を這っていけばいいんだけど、それだとヒレと身体が痛いし…、でもこのままここにいる訳にはいかないし…。…あっ、そうだ。ねぇイーブイ君』
『えっ、どっ、どうしたの』
『君って、人間の文字? っていうのが書けるんだよね』
『うん』
『なら、イーブイ君のトレーナーに、私をボール入れて、って伝えてくれる? 』
『うん、いいよ。…えっ? 』
えっ、ちょっ、ちょっと、何考えてるの? ラプラスの彼女は、どうやらぼくが文字を書ける事に気付いたらしい。その事を確かめてきたから、ぼくはすぐに頷く。そうだと分かった彼女は、間髪を入れずにこう言う。あまりにも自然な流れだったから、ぼくはその意味に気付くのが、かなり遅れてしまった。ニ、三秒ぐらいしてから、ぼくは言葉にならない変な声をあげてしまった。
『ぼっ、ボールにって、流石にそ…』
『だってそうすれば、陸の上を早く移動できるでしょ? だからイーブイ君、お願い! 』
『そっ、そう言うんなら…』
流石にそこまでしなくてもいいんじゃないの、たぶんニトルさんは、そう言おうとしていたんだと思う。だけどそれは、ブッ飛んだ彼女の声によって遮られてしまう。確かにその通りだけど、その後はどうするんだろう…。そう思っていると、今度はぼくに話をふってきた。あまり乗り気じゃなかったけど、ぼくにはこれと言っていい案は浮かんでいなかった。それなら、何もしないよりはマシかもしれない…。だからぼくは、右の前足で、そっくりそのまま伝えることにした。
「えっ、ラプラスが、捕まえて、って言ってるの? …そっか。プロ…、何て言ったっけ? あの人達に捕まるよりは、マシだよね。脱出できたら逃がせばいいし、そうすればラプラスを守れるもんね。…じゃあ、いくよ! 」
うん、確かにそう言ってたよ。…他に良い方法はあるかもしれないけど…。ぼくが文字を描いてこう伝えると、カナはぼくと同じような反応をする。そのまま彼女は、戦っている…、いや、時間を稼いでくれているフィルト君の事を気にしながら、何かを考える。やっぱり密猟組織、プロテージの名前は忘れてたけど…。すると彼女は、何かを納得したらしい。理由らしい事を独り呟きながら、鞄の方に手をのばす。プロテージの事でしょ、思わず彼女にこう言いたくなったけど、言う暇も無く、彼女は手に取ったボールを投擲していた。
『うん! 』
『いや、ちょっとまっ…』
ぼくの反応なんかに全く気に留める事なく、赤と白の球体は弧を描く。それは何かを決意するかのように頷くラプラスに向け、曲線を描いて突き進む。軌道の終点で、コツッ、と軽い音をたて、水色で大きな彼女とぶつかる。流石に二トルさんも驚いていたけど、ぼくたちの反応とは対照的に、彼女は赤い光と共にその中へと吸い込まれていった。
『えっ、こっ、これって…』
『そういうこと、ですよね』
うん、三回揺れて止まったから、そうなるよね。ぼく達が戸惑っている間に、事は流れるように進んでいった。ラプラスの彼女が収まったソレは、左右に三回ほど揺れる…。何事も無かったかのように止まると、それをカナは普通に拾い上げていた。
そんな彼女の行動に、雄のぼく達は顔を見合わせる。ぼくは見上げながら、だけど、揃って唖然としてしまった。
「…よしっと。コット、二トルにフィルトも、一気に逃げるよ! 」
『あっ、うん。ハイドロポンプ! 』
『なっ…』
『コット君、フィルト、いくよ』
『火炎放…、んぁ? んだけど二トル、あのラプラスはどうし…』
『後で話すから! 』
うっ、うん。ラプラスの彼女が入ったボールを拾い上げ、それを手に持つカナの大声で、ぼく達はようやく我に返る。ぼくもそうだけど、二トルさんは短く声をあげると、思い出したように口元に口元にエネルギーを溜め始める。するとそれを圧縮した水に変換し、ブレスとして解き放つ。水タイプの中でも上位のそれは、フィルト君と交戦していたうちの一匹、種族名はわからないけど、多分炎タイプの相手を一発で仕留めていた。
その彼の一撃、それから呼びかけに気付き、フィルト君はこっちに振り返る。発動仕掛けていた技を中断し、幹部のメンバーから距離をとる。流すようにぼく達の方に目を向けると、彼は驚いた様子で声を荒らげる。だけどそれを二トルさんが説き伏せる事で、遮断されていた。
Continue……