Vingt et sept 昼前の一幕
Sideコット
『フィフさんの仲間、ですか』
『ええ。五匹ともジョウトにはいない種族だから、すぐわかると思うわ』
ここまでの道中で、テレパシーを使いながら話していたフィフさんは、こう続ける。たぶん仲間の事を思い浮かべながら、ぼく達に話してくれていた。それにぼくは、こんな感じで、首をこくりと傾げながら訊き返す。それに彼女は、そうよ、とにっこり笑みを浮かべながら答えてくれた。
少し遅くなったけど、あの後のぼく達は、エーフィのフィフさんと一緒にキキョウシティを出た。元々フィフさんは今日、ここの近くにあるアルフの遺跡に行く予定だったらしい。そこで仲間の一匹と合流して、そこの調査をするのだとか。フィフさんとそのトレーナーは化学者だけど、ちょっとした訳があって考古学者も兼ねているみたい…。話が逸れたから元に戻すと、フィフさん達はみんは、トレーナーの元から離れて、それぞれで調査をしているらしい。もちろん拠点はコガネシティで、研究室から中々離れられないトレーナーの代わりに、フィールドワークをしているのだとか。トレーナーが近くにいないから、どうするんだろう…。そう思ったけど、フィフさんとその仲間のみんなは、全員文字が書けるって言ってた。ジョウトの各地に散ってるから、夜とかは筆談で交渉しているらしい。
そんな訳で、ぼく達と方向が一緒だったから、色んなことを話しながらここ、三十ニ番道路を進んでいた。その時に聴いたんだけど、テトラさん達が言っていた噂は本当だった。しかも制覇したリーグは三ヶ所じゃなくて、四ヶ所。イッシュとホウエン、カントーとジョウト。これだけでも凄いって思ったけど、フィフさんのトレーナーは、三年ぐらい前から就いているカントーのチャンピオンと深い仲らしい。その人も考古学者みたいだけど、就任する前に一緒に調査をしたことがあるって言ってた。それ以外にも、ぼく達の戦い方とかを見てもらった。フィフさんが言うには、バトルでは、苦手な事を無くすより、得意な事を伸ばしたほうが強くなれるみたい。テレパシーで伝えてくれたからイグリーはどうなのかは分からないけど、ぼくはスピードを生かした戦い方があっているらしい。他にも、ぼくの種族ならではの事を教えてもらった。ぼくの種族のイーブイは八つも進化先があるけど、そのほとんどが、ある場所で過ごすだけで進化出来るみたい。ぼくがなりたい種族の場所はイッシュにしかないみたいだけど、父さんの種族のリーフィアはマダツボミの塔らしい。
『どの種族もおれは知らないから、案外すぐ見つかるかもしれないね』
『うん』
『私の名前を出せば、きっとよくしてくれると思うわ』
一応ジョウトにいる種族は全部知ってるつもりだったけど、ぼくもほとんど知らなかったよ。イグリーも同じ事を思ってたらしく、ぼくよりも先に言う。ぴょんぴょんと跳ねるように歩く彼は、だよね、とぼくに視線を落としながら、こう訊いてきた。一方先を越されたぼくは、出かかった声を一瞬押し留め、こくりと頷く。気分が今日の空みたいになったけど、それをも晴らしそうな明るさで、フィフさんが続いた。
『ならフィフさん、その時はどっちの名前を言えばいいの? 』
ぼくはフィフさん、って呼んでるけど、これでもいいのかな? イグリーとカナはもう一つの名前で呼んでるけど…。ふとぼくはこう思い、従兄弟の彼女に話しかける。シルク、っていうのも彼女の名前…。ぼくは特別だ、って言ってたから、どうなんだろう…。そこが気になったから、ぼくは彼女の方を見上げながらこう訊ねた。
『オルト達には野生だった時の名前も言ってあるから、どっちでも大丈夫よ』
そっか、よかった。ぼくの心配は、彼女の笑顔でどこかへと旅立ってしまった。仲間のものらしい名前を挙げ、だから心配しないで、と快く言ってくれた。
『なら大丈夫そうだね』
『ええ! 』
ええっと、カナちゃん達はこれから、繋がりの洞窟を通ってヒワダに行くのよね。
「あっ、うん」
イグリーもホッとしたようにこう言うと、彼女はもう一度満面の笑顔で頷く。かと思うと、こんな風に言葉を念じ、話題を変える。頭の中にフィフさんの声が響いてるから、たぶんカナにも聞こえてると思う。その証拠に、フィフさんはカナの方を見上げ、そうよね、と言いたそうに視線で訴えていた。それにカナは、一瞬変な声が出かかったけど、それを何とか堪える。油断してたみたいだけど、そうだけど…、っていう感じで、こう頷いていた。
ならカナちゃん達とは、ここでお別れね。
「そういえば、遺跡に行くって言ってたもんね」
ええ。コット君、イグリー君も、いろいろ話せて楽しかったわ。
『ぼくもだよ。フィフさん、また会えるよね? 』
『もちろんよ。調査の後でコガネに帰るつもりだけど…、荷物を取りに行くだけだから、またすぐに会えるわ』
フィフさん、確かキキョウには、慌ててきたから忘れ物をした、って言ってたっけ。カナが思い出したようにこう言うと、フィフさんはそうよ、と大きく頷いた。本当はもっと話したかったけど、フィフさんも予定が詰まってる…。だからこう思いながら、ぼくは期待を込めて尋ねる。十年も年が離れてるけど、何故かそれをあまり感じない…。そんな従兄弟の彼女は、当然と言わんばかりに、首を大きく縦にふる。この短い間に一気に距離が縮まった彼女の表情は、今は隠れて見えない太陽の様に、温かく輝いていた。
『本当に? 』
『ええ! 』
じゃあ、またヒワダで会いましょ!
「うん」
えっ、フィフさんもヒワダに来るの? ってことは、本当にすぐ会えるんだね。彼女はこう言うと、ぼく達とは別の方向に進路を変える。二、三歩歩いてから立ち止まり、もう一度こっちに振り返る。にっこり笑いかけると、彼女は着ている白衣を風に靡かせ、駆けていった。
その後ろ姿を、ぼくは見えなくなるまで見送った。思った以上にすぐに会える、そう言ってくれた、人間っぽい一面がある、物知りな彼女の背中を…。次会う時が待ち遠しい、そんな思いを抱きながら、ぼく達も止めていた歩みを再び進め始めた。
―――
Sideコット
「あれ? あの人って…」
フィフさんと別れてから数十分後、ぼく達は順調に目的地までの道を歩んでいた。ただ話しながら歩くだけじゃなくて、野生のひとともバトルをしながら…。三回ぐらい戦ったんだけど、そのうちの二回がぼくで、残りがイグリー。イグリーはジムで戦ってるから、ぼくが中心で行くってことになったって感じだね。結果は、二回ともぼくの勝ち。昨日のバトルで鍛えられてたみたいで、あまり苦戦せずに戦えたんだよ。いちばんそれを実感したのが、特殊技のスピードスター。電光石火もそうだけど、塔で戦う前は二つだったけど、さっき使った時は三つになってた。フィフさんが言うには、威力が低い技でも、使い方に慣れればいくらでも強くすることが出来るみたい。これは後で知った事だったけど、ちょっとだけ強くなれたんだー、って思えて、凄く嬉しかったよ。
そんな感じで進んでいると、カナがこんな風に声をあげる。誰かを見つけたらしく、カナは頭の中でその人が誰なのか探っていた。
『うん、あれはたぶん…』
カナに言われてから気づいたぼくは、とりあえずそっちの方に目を向ける。するとそこ…、二十メートルぐらい先に、二つの人影を見つけることができた。あの様子からすると、二人ともトレーナー。カナと同じぐらいの男の子と女の子が、何かを話しているところだった。
「ミヅキちゃん、ひさしぶり! 卒業式以来だね」
「うん、ばと…、かっ、カナちゃん? 」
「えっあっもしかしてきもカナちゃんのことしってるの」
カナもすぐに思い出し、女の子の方の名前を呼ぶ。するとその子はすぐに気づき、ハッと声をあげる。だけど急な事でビックリしたらしく、ビクッととびあがっていた。もう一人の男の子は、カナに、じゃなくて、目の前の女の子の声に驚いていた。早すぎて何て言っているのか分からなかったけど、逆にその事が、ぼくに彼が誰なのか、ハッキリと教えてくれることになった。その彼はセンターから出てすぐにここまで来ていたらしく、傍に誰もいない。その代りに、彼は腰にセットしている三つのボールのうち、一番手前のに手をかけていた。
「うん! ミヅキちゃんも、わたしの友達なんだよ」
『カナの? 』
『うん。ミヅキちゃんも新人トレーナーで、同じキキョウのスクール出身なんだよ』
そっか、イグリーは知らなかったんだよね。カナがこう言う横で、初対面のイグリーはこくりと首を傾げていた。もう一人の男の子は誰なのか、もう分かってると思うから飛ばすとして、ぼくはその彼女の事について話し始める。手短にこう言うと、彼はへぇー、と呟き、なるほどね、っていう感じで頷いていた。
「でもミヅキちゃんもエレン君の事を…」
「ううん、知らないよ。ただバトルを挑まれただけだから」
「だってめがあったらしょうぶそれがトレーナーのきほんでしょ」
あぁ、やっぱりダメだ…。やっぱりエレン君、何て言ってるのか分からないよ。カナはたぶん、エレン君の事知ってたんだね、そう訊こうとしていたんだと思う。だけどそれは、友達のミヅキちゃんに遮られてしまっていた。その彼女はというと、違うよ、っていう感じで手を素早く横にふる。本当にそうらしく、彼女もボールを手にとり、それを左で握っていた。
「そっか…。…あっ、そうだ。折角三人いるんだから、トライバトル、してみない? 」
何でかは分からないけど、カナはエレン君が言った事をちゃんと聴き取れたらしい。あぁ、だからね、っていう感じで、こう呟いていた。かと思うと、彼女は何かを思いついたらしく、ポンと手を叩く。スクールの時からの仲のミヅキちゃん、それから昨日仲良くなったエレン君に、こう提案していた。
Continue……