Vingt et six 従兄弟のエーフィ
Sideコット
『…両方とも私の名前だから、どっちで呼んでくれても構わないわよ』
ぼくの従兄弟だっていうエーフィの彼女は、にっこり笑いかけてくる。コット君は特別だから…、って付け加え、こう言ってくれた。どうやら彼女が従兄弟だっていう事は本当らしい。知りあいしか知らないはずの、ぼくのお母さんの名前と種族まで知っていた。正直驚いたけど、それでやっと、この事が本当なんだって実感できた。
「私とも話せるっていうのもそうだけど、まさかあんなに強いポケモンがコットの従兄弟だなんて思わなかったよ」
『いや、ぼくはカナがフィフさんの声が聞こえてもビックリしなかった方が驚いたよ』
それから、ぼくが驚いたのはこれだけじゃなかった。それは、フィフさんが言った事がカナにも伝わったってこと。喋った、っていうとちょっと違うかもしれないけど、ぼくが代わりに文字で伝えなくても、ちゃんと認識していた。最初はフィフさんが人間の言葉を話せるのかなぁー、って思ったけど、それは違うらしい。テレパシー、っていう伝説の種族とかが使う方法で、話しかけていたらしい。今思い返してみると、確かにフィフさんが喋っている時、フィフさんの口は全然動いてなかった。代わりに、ぼくの頭の中に声が響いたような…、そんな感じだった。フィフさんが言ってた事だけど、テレパシーは伝説の種族だけの専売特許じゃないみたい。どうやら、サイコキネシスを使えるぐらいの実力があるエスパータイプなら、練習すれば出来るようになるみたい。フィフさんはそれを四年ぐらい前に知って、仲間の一匹から教えてもらったんだとか…。サイコキネシスを使えるなら…、って事は、もしかするとティルさんも使えるのかもしれない、この時ぼくはこう思った。
話に戻ると、カナは歩きながら、フィフさんに興味津々っていう感じで話しかける。それにぼくも、彼女達の方を見上げながら、こう声を荒らげる。ぼくはエーフィのフィフさんが話しかけてきた事に、カナはビックリするかと思っていた。だけどその予想が外れたので、思わず驚きを顕わにしてしまった。
それもそうよね。私もつい昨日まで知らなかったから。
『ぼくも昨日知ったばかりだったから。聴いた感じだと、入れ違いになってたみたいだし』
『そういえば昨日、コットの父さん、窓から上を見上げてたよね』
どっちに答えたのかは分からないけど、この感じだとたぶん、フィフさんはカナさんにこう返事する。ぼく達に対しても言ったらしく、口で言ってないのに彼女の声が聞こえてくる。塔でのラフさんみたいに、フィフさんの声にエコーがかかっていた。それにぼくも、こう答える。ここまでの間に彼女から聞いた事を思い出し、ぼくはこう続ける。イグリーの言う通り、昨日のお父さんは珍しく屋根裏から降りてきていたから、たぶんそう。イグリーも同じことを考えていたらしく、ぼくが言った事にこう付け加えていた。
『話を聴く限りでは、そうなのかもしれないわね。昨日は空を飛べる仲間に迎えに来てもらったから、それで見上げていたって感じかしら』
『きっとそうだね。…そういえばフィフさん、一つだけ聴きたいことがあるんだけど、いいかな』
『ええ、いいわよ』
フィフさん、従兄弟だからかもしれないけど、話しやすいかも…。キキョウでしたい事も終わったから、ぼく達は次の目的地に向けて進み始めていた。まだ訊いてないから分からないけど、フィフさんも気にする事なくついてきている。トレーナー就きらしいけど、やっぱりそれらしい人は近くにはいない。この事も気になっていたけど、別の事が浮かんでくる。ちょうど話が切れたから、このタイミングでぼくはこう訊ねた。急に訊くことになったけど、それでもフィフさんは笑顔で答えてくれた。
『フィフさんって、何で服着てるんですか? ホウエンとかシンオウにはコンテスト、っていうのがあるからって着る事がある、って聞いた事があるけど…』
最初はそうかなぁー、って思ったけど、たぶん違うよね。フィフさん、コンテストよりもバトルの方が好き、っていう感じだし。ぼくが質問したのは、フィフさんを最初に見てから思っていたこと…。それは、どうしてポケモンなのに服…、それも、学者とかが着ていそうな白衣を着ているっていうこと。コンテストにしては地味すぎる服装だったから、この事を尋ねてみた。
『あっ、言われてみれば、そうだよね。服着てるって、人間っぽいし』
『あぁ、この白衣の事ね』
確かに、人間みたいだよね。ぼくがこう訊くと、彼女は思い出したようにこう答えてくれる。チラチラっと目線だけでそれを指し、またぼくの方に目を向ける。ここでフィフさんはぴょん、と前に出て、後ろ向きに歩き始める。見間違い化もしれないけど、手作りだと思う白衣の襟元についている金色のバッチが、キラリと光ったような気がした。
コット君から質問されたから、ちょっと私の事を話すわね。
するとフィフさんは、テレパシーを使い始めたらしい。ぼくの…、たぶんイグリーとカナもだと思うけど、頭の中に彼女の声が響き渡る。さすがにぼくはもう慣れたけど、ビックリし易いイグリーはまだらしい…。うわっ、って短く声をあげ、驚きでちょっとだけとびあがっていた。
「きみの、こと? 」
ええ。私はトレーナー就きのポケモンだ、っていう事は大丈夫よね?
『うん。あんなに強い野生なんて、聴いた事ないよ。んだから、そんな気がしてたよ』
なら話しが早いわ。私のトレーナー、今はコガネ大学の助教授なんだけど、その関係でちょっとだけ講義の手伝いをしてるのよ。
「コガネ大学の助教授…。…あっ、もしかして、きみのトレーナーって、ユウキっていう人だったりするの? 今思い出したんだけど、昨日知り合った人が、水色のスカーフをしたエーフィを探せば会える、って言ってたから。シルクっていう名前で、テレパシーも使える、って事も言ってたから、もしかしたらそうなんじゃないか、って思って」
えっ、そんなこと、いつきいたの?
「ほら、昨日会ったライトさん…。センターで会った時に言ってたんだよ」
センターって事は、ぼく達がテトラさんと喋ってた時、かな。結局、なにを話してたのかは訊いてなかったけど…。フィフさんが自分の事を話している間に、カナは何かを思い出したらしい。そんな大事な事、何で忘れてたの、って聴きたくなったけどそれは置いとくとして…、代わりにぼくはこう文字で尋ねる。この間にフィフさんが続きを放そうとしていたけど、ぼくが書いて、カナが応えるまで待ってくれていた。
あら、ライトの事まで知ってたのね? ライトの事まで知ってたのは驚きだけど、そういう事よ。話に戻ると、私のトレーナーは大学での学生実験の教員もしてるんだけど、人手が足りないから手伝ってるのよ。もしかしたらポケモンに講義の手伝いなんて出来ない、って思ったかもしれないけど、ちゃんと知識は持ち合わせているわ。彼とは二十年近くの長い付き合いなんだけど、学生時代に一緒に聴いていたのよ。で、担当してるのが化学だから、これはいわゆる正装…。学者としての格好、って感じね。
『うーん…、おれには何が何だか、さっぱり分からないよ』
『化学は、人間の学問。ぼくもスクールで聴いてたから、基礎ぐらいならわかるよ』
って事は、私と同じね! 実験の補助以外にも、趣味で効果のあるドリンクとかを創ってるのよ。
『創ってるって…、本当に化学者みたいだね』
みたい、じゃなくて、本当に化学者をしてるわ。
「化学者って、ポケモンなのに」
あら、センターのハピナスもポケモンじゃない? ポケモンが働いていて、おかしなことがあるかしら? 働くっていうより私は趣味だけど、傍から見るとそうなるわね。
うん、ぼくもそう思うよ。だって引っ越し屋さんでも、ゴーリキーとか…力持ちな種族が働いてるもんね。彼女の一言で、ぼくは別の共通点にも気付く。やっぱり従兄弟同士なんだなぁーって思いながら、ぼくは彼女の話に耳を…、いや、頭で聴いていた。
「そっか…。よく考えたら、そうだよね。…あれ、そのバッチって…」
フィフさんが出した例えで、カナもピンときたみたい。あっ、って短く声をあげ、納得しているみたいだった。だけどその後、彼女は何かを見つけたらしく、こう訊ねる。ぼくもそこを見上げてみる。その場所…、ちょうど襟の部分に、キラリと光るソレ。アルファベットを模ったそれが、金色に輝いていた。
「もしかして、エクワイルのやつ? ライトさんのとは色が違うけど、そうだよね」
『って事は、もしかして、昨日駆けつけてくれたのって、ライト…? ライトもエクワイルだったのね…。ホウエンからの応援は向こうに任せてたけど、偶然? それとも、必然? ユウキが呼んだのなら、私達にも教えてくれたはずよね? なら、偶々…、かしら? 』
『ええっと…、フィフさん? 』
『…あっ』
そっ、そうよ。ポケモンだから私に権限は無いんだけど、私もその一員なのよ。ライトから聴いてるかもしれないけど、私の階級はオーリック。ミアレシティの本部まで行って実力を示したから、特例で認めてもらってるのよ。自分の仕事をしながら地方の治安を維持する…。カロスの古い言葉で均衡、っていう意味なのも頷けるわね。ハン…、何て言う人かは忘れたけど、国際警察の人が所長をしてるわ。法的拘束権は無いけど、少数精鋭で自由な調査をしてるわ。…今のジョウトは、そうも言ってられる状況じゃないけど…。
何かよく分からないけど、フィフさんはそういう組織の一員なんだね。呼んだ…、とか言ってたから、それなりに高い地位なのかな…。ラフさんが、シルクのトレーナーは三年前には三ヶ所のリーグを制覇してた、って言ってたから。フィフさんが話してくれれたことはさっぱり分からなかったから、とりあえずぼくは、何となーく聞き流していた。だけど、それでも分かった事は一つだけある。それは、彼女のトレーナーはそれなりに高い役職についてるってこと。さっき彼女のバトルを観たばかりだから、間違いないかもしれない…、ぼくはこう実感する。だけど、何故か雲の上の存在だとは感じなかった。
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