Vingt et trois ジョウトのジムの形式
前書き
諸事情により、本編の文体を一部変更させて頂きます。
@ 2016年2月21日
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Sideコット
「はぁ…、はぁ…、じっ、ジム戦、お願いします」
始業前最後の休日、いつもと変わらないキキョウシティ…。曇っていてあまり気分が冴えないけど、そこに一つの声が響き渡る。その声は全速力で走ってきた直後のため、切れ切れにしか言葉が続いていない。時々咳き込みながら、建物の奥にこう呼びかけていた。
『今日は大目に見るけど、明日からはちゃんと起きてよ』
その彼女の後ろから、一匹のイーブイ…、ぼくが追いかける。何となくそんな予感はしてたから、やっぱり…、ってため息を一つつく。心なしか、空の雲がさらに厚さを増したような気がした。曇ってはるけど、気温は暑くも無く寒くも無く、ちょうど良いぐらい。弱めの風も吹いているから、火照った身体を程よく冷ましてくれていた。
昨日は色んなことがあったから、カナだけじゃなくてぼくも寝坊をしてしまった。いつもぼくは七時ぐらいには起きてるんだけど、今日は八時半だった。正直その時は焦ったけど、あんな事があったんだから、許してくれるよね? こんな事を思いながら、カナが起きてくるのを待つことにした。待ってはいたんだけど、さすがにお腹が減ってきたから、いつも通り…。今日はイグリーにも手伝ってもらって、カナを叩き起こした。その頃には、太陽はもう完全に昇りきっていた。九時だったから、慌てて準備をして、部屋のチェックアウト。流石に今日は忘れてなかったみたいだけど、そのついでにトレーナーカードをもらって、今に至るって感じかな。
それで今ぼく達は、ジムの前に来ている。本当は来る前にちょっと練習するつもりだったけど、生憎ね。ジム戦はいわゆる公式戦だから、カナの傍にいるのはぼくだけ。イグリーはボールの中でスタンバイ中…。ならぼくはどうなるの、って訊かれそうだけど、散々言ってるから、以下略、って事で…。話に戻ると、そんな感じで、ぼく達は奥から誰かが来るのを待った。
「はいはい。ジム戦希望ですね」
「はい! ワカバタウンから来たカナって言います」
ゼェゼェ言いながらだったから心配だったけど、ちゃんと奥まで聞こえていたらしい。少し待っただけで、係の人が建物の奥から駆けてきた。その人は、いかのも審判って感じの服装をしている。黒のスーツをしっかりと着こなし、カナとは違って髪もピシッと整っていた。
待っている間に息が整ったらしく、カナは大きく返事する。ぼくもそうだけど、期待に胸を膨らませながら、元気よく自己紹介していた。
「トレーナーカードの提示をお願いします」
「トレーナカード…、あっ、はい。ええっと…、あったあった」
もしかしてカナ? 出さないといけないって事、忘れてた? 審判らしき人がこう言うと、カナは何故か首を傾げる。やっぱり忘れていたらしく、彼女の頭の上にはハテナが浮かんでいた。だけどそれはすぐに、ビックリマークに変わる。癖みたいな感じでため息をついたぼくには構わず、彼女はデニムのポケットを漁り始める。すぐに見つかったらしく、それが入ったケースを取り出す。テトラさんのトレーナーの勧めで買ったバッチケースから、例のカードを引き抜く。それは傷一つなく、証明の光で明るく照らされていた。
「新人さんですね。すぐに出来ますので、奥へどうぞ」
「あっ、はい。コット、いくよ」
『うん』
ジム戦は公式戦だけど、ボールから出ていてもいいのかな? 何も言われなかったし…。最初から入る気なんて無かったけど、ぼくはこんな風に考えながら二人の様子を伺う。下から見上げながらだから見にくかったけど、多分審判の人は、証明証の写真とカナの顔を、チラチラと見比べている。本人確認らしいそれを済ませると、彼はすぐにカナのカードを返していた。かと思うと、回れ右をしてから歩き出し、こう呼びかけていた。
それにカナは、半ば戸惑いながらも頷く。顔をじろじろ見られてたから、多分気まずかったんだと思う。審判さんが歩き始めてからようやく我に返り、ぼくに話しかけてくる。もちろんすぐに頷き、審判さんに続いたから、ぼくも追いかける。ぼくが戦う訳じゃないけど、何か緊張してきたよ…。イグリーも昨日戦ったから、きっと大丈夫だね。こう彼にエールを送りながら、フィールドへと続く通路を突き進んでいった。
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Sideコット
「うわぁ、凄い! 」
『テレビで観るのとでは、全然違うよ』
審判さんの案内で薄暗い通路を突き進んでいたぼくは、急に入ってきた強い光に目を瞑ってしまう。何て言う現象かは忘れたけど、一瞬だからすぐに目を開ける。するとそこには、息を呑むような光景が広がっていた。率直に言うと、とにかく広い…。建物の中だから分からないけど、もしかしたらスクールのグラウンドと同じくらいあるんじゃないか…。そう思うぐらいだった。通ってきた通路とは違って、いくつもの照明で照らされている。天井も高く、少し高い周りには、観客席が囲うように設置されている。テレビで観たことがあるところに来てるんだ…。開放的な空間に、ぼくは思わずこう声をあげる。緊張とワクワクが同時にぼくを満たし、複雑に混ざり合う。今まで感じたことが無い高揚感が、ぼくを満たしていた。
「ほんとうにすごいよね。オイラもこんなにひろいところでばとるするのはじめてだよ」
「えっ、あっ、うん。…えっ? 」
『こっ、この喋り方って…』
バトルフィールドの広さに感想をもらしていると、ぼく達の後ろの方から声が割り込んでくる。ちょっとビックリしたけど、すぐにそっちに振り返る。何かどこかで聞いた事があるなぁ…、って思いながら振り返ると、そこには思った通りの人物…。ぼく達が通ってきた通路の出口の隣にあるベンチに座っていたらしく、ちょうど立ち上がったところだった。
「エレン君も来てたの」
「うん。ほんとうはきのうくるつもりだったんだけどあいてなくてね」
本当はぼくが言うつもりだったけど、その前にカナに先を越されてしまった。エレン君の喋り方は独特だから、見なくてもすぐに分かった。当然カナもそうだったみたいで、確信を持って言っていた。それにエレン君は、すぐに駆け寄ってきた。走った後に砂煙があがりそうなぐらいの早さだったけど、それよりも先に何を言っていたのか…、そっちに気が逸れてしまった。
「実は、わたしもだよ。でも、それでよかったもしれないよ。だってあんなに強かったエレン君と組んで戦えるなんて…」
「えっちょちょちょちょちょっとまってくんでたたかうってどういうこと」
『いっ、今、何て言った? 』
ん? 今、左から右にテロップが流れなかった? でも確かに、ニド君達と戦えるんなら、心強いよ。きっとカナも、こう思っていたのかもしれない。あの時は初めてだったから仕方ないけど、確かにニド君は強かった。その事をカナは言おうとしていたけど、その前にエレン君に遮られていた。
何か沢山の文字が通り過ぎていった気がするけど、それは置いといて…、エレン君は急に声を荒らげ、カナを問いただす。ただでさえ早口なのに、それ以上に速くなっている。おまけに息継ぎも無しに言いきっていたから、ぼくにはそのほとんどを聴き取ることが出来なかった。なのでぼくは、声では伝わらないと分かっていても、こう問いたださずにはいられなかった。
「そっか。エレン君ってカントーの出身だから、知らないんだよね」
えっ? カナ、まさか、聞き取れたの? あんなに早かったのに、カナはその全部を認識できたみたい。何て言ったのかは分からないけど、彼女はエレン君が言った事を納得したみたい。頷くように、早口な友達にこう尋ねていた。
「ジョウト地方のジムはね、場所によってバトルのルールが違うんだよ。他の街は何なのか分からないんだけど、キキョウシティはマルチバトルなんだって。ハヤト先せ…、ジムリーダが言ってた事なんだけど、ルールを変える事で、色んな状況に対応出来るか視るんだって」
「マルチバトルってことはほかのトレーナーときょうりょくしてたたかえるかをみられるんだね」
「うーんと、そこはよく分からないんだけど、そんな感じかな」
やっぱりエレン君、何を言ってるのか分からないよ…。カナが言ってることから何となく予想しながら、ぼくは彼のセリフを聴いていた。何かカナが通訳みたいになってるなぁー、って感じながらも、ぼくは耳をそばだてる。だけど、分からないものは分からない。気付いたら、彼の言葉の要約を諦めたぼくがここにいた。
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