最初のお友達
わたしの目の前に現れたそのポケモンは、明るく、馴れ馴れしく、わたしにとって初めての言葉を言ってきた。
「ねぇ、友達にならない?」
ことの始まりは、わたしが散歩に出かけたことだった。さすがにあの超エリート魔法使い達の中に1日中いられるほどの心の余裕はない。それにいつまでも魔法が使えないのにまだ魔法の勉強をしているところを見られたくない。みんなは特に何も言わないかもしれないけど、やはり気分のいいことではない。そうした理由もあって、わたしはだいたいいつも外で魔法の勉強をしている。
わたしの住んでいる館から少し歩いたところには草原がある。いつもそこで魔術の本を読んでいる。もちろんこんなことをしただけだと何の意味もない。いくら知識があってもそれを使えないんじゃあ……
でも今は違う。少なからず希望は見えたんだ。だったらわたしは頑張れる。希望のなかった今までも頑張っていけたんだから。
しばらく本を読んでいると、いつの間にか辺りは薄暗くなったていた。さすがにあまりにも遅くなりすぎるとみんなに心配をかける。帰ろうと思い、本を閉じた瞬間だった。
目の前が急に眩しくなったかと思うと、その光の中から一匹のポケモンが文字通り転がり出てきた。
「いって〜!」
口を開けて驚いているわたしの前で、頭を打ったのか、頭をさすりながら起き上がっていた。
「えっと……え?」
なにかの魔法……以外考えられないけど。おそらく移動系の魔法だろう。
「失敗かー……あれ?君だれ?」
こちらに気いた彼?は唐突にそう聞いてきた。
「へ?あ、わたしはラージア」
「へー…面白い名前だね」
そうでもないと思うけど。口に出そうか迷う暇もなく、相手もさっさと自己紹介をしてきた。
「僕はリート、魔法使いさ」
種族はたしか、テールナー。歳は、わたしと同じくらいかな?声のトーンや名前から、彼であっているらしい。まだ少し驚いたまま微動だにしないわたしの手を少し乱暴にとって、握手してきた。今まで出会ったことのないタイプで、正直どう話せばいいかわからなかった。
「ここってー、どこ?」
困惑しているところにさらに質問を重ねるので、えっと、えっとの繰り返し。
「うーん、だいぶ遠くまで飛んできたからなぁ……ま、帰りは東に向かえば大丈夫か」
自分で悩んで、自分で解決してるし。どういう性格なのかは少しわかったけど、やっぱりどう接すればいいかはわからない。
「あ、その本、僕も持ってる!」
話はわたしの持っている本に変わったようだ。初対面のポケモンに向かっていきなりのマシンガントークは止まる気配がない。
「何?君も魔法使いなの?」
相手にとっては当然のことだろう。魔法使いが読む本は魔法使いぐらいしか読まない。当たり前だ。でもわたしにとってその話題は、触れてほしくないことだった。隠しておこうか?でもいつかはばれる。正直に話す?いや、何を言われるかわかったものじゃない。
「ま、どっちでもいいけど」
一瞬のうちに浮かんだわたしの色々な考えを全て壊すように、そう一言言うと、ようやくわたしから少し離れた。(それまではずっと握手をしたままだったのである)
「うーん……そうだ!せっかく会ったんだし」
考えるような仕草をしたあと、なにかいいことを思いついたようにして、またわたしに近づいてきた。
そして、わたしにとって初めての言葉を言ってきた。
「ねぇ、友達にならない?」
「友達?」
師匠はいる。兄弟子達もいる。でも、友達は…いない。急にそんなことを言われたわたしは、そう言ったあとしばらく黙りこんでしまった。
「ああ、嫌ならいいよ」
そうしていたからか、わたしが嫌がっているんだと思わせてしまったみたいだ。
「あ、いや、嫌じゃないよ?」
「ほんと?じゃあこれからよろしくね!」
いいよとはまだ言ってないはずだけど。
「じゃ、あんまり遅くなるとうるさいのに怒られるから。またね!」
「ちょ、ちょっと?」
そうとだけ言うと、わたしの言葉なんか聞こえてないように何か呪文を唱えた。すると、最初にあらわれ現れたときのように光に包まれて、次の瞬間には消えていた。
何だったんだろう。嵐が通りすぎていくようだとは、まさにこのことだろう。リート、だったっけ?か消えたあとも、しばらくの間固まっていた。
「友達……」
さっきの言葉を繰り返す。思えば、わたしは今まで友達と呼ばれる関係のポケモンはいなかった。両親と兄弟、義兄弟に師匠。これぐらいだろうか。友達なんているわけなかったし、できるとも思わなかった。
「どうしよう……」
友達って、これからどれくらい会うんだろう?毎日?
どんな会話をするんだろう?
他のポケモンもいるのかな?
こんなことがあるとは思ってなかったから、これからどうすればいいか全くわからなくなってしまった。とはいえ、リートも言っていたように、わたしもあまり遅くなるとみんなに心配をかけてしまう。
いろいろと思うところはあったけど、今日はもう帰ることにしたのだった。
この出会いがラージアの運命を大きく変えることになるのは、まだ誰も知らなかった……