お出かけ前に
ただいま現在時刻は朝八時過ぎ。仕事に行く者達はもうとっくに起きて、電車やバス、あらゆる交通手段で向かってる頃である。
そんな中でもまだ気持ち良さそうに布団の中でスヤスヤと眠る二人の少女達...言うまでもなくシャトルテとラシャニアである。冬に限らず秋もだが、二人は寒いのが苦手で、こうして何時までも寝ているのだ。
けれど今日は週始まりの月曜日で、決して土日祝日なんかではない。なのにまだ二人はヌクヌクのお布団の中でグッスリ寝ている...果たして大丈夫なのか......。
結局二人が起きたのは九時を過ぎた頃に慌ててシャトルテが起きた。その後にぽけーっとした様子で、まだ寝たりないと言いたげなラシャニアが布団から顔だけひょこっと出しながら、
「うぅー...ひまにゃんじぃー...?」
っと、目を閉じたまま舌っ足らずな口調でシャトルテに聞く。が、その問いは帰ってはこない。あれっと思って重たい瞼を擦って目を開けると、そこには既にシャトルテの姿はなく、よく耳を澄ますと部屋の奥の方、キッチンの方で物音がしていた。このマンションは2LDKで、ラシャニアの寝室とシャトルテの寝室、居間、台所、トイレ、脱衣場、お風呂のある県営住宅でそこそこ広さのあるマンションである。暮らそうと思えば三人か四人くらいまでなら暮らすことは可能であろうか?
ともかく、今まで寝ていた暖かい布団を愛おしながらも脱出して伸びをぐーっとする。すると少し眠気が取れて、それがトリガーとなって少し体温が上がり始めたような...たぶんよく分からないけどそんなような気がしながら台所の方へと向かう。するとサイコキネシスでフライパンと菜箸を扱って炒めながら、使っていない手で何かを切り刻んでいるシャトルテの姿があった。
何を作っているか気になったが、ラシャニアの身長では調理台が高すぎて見ることが出来ない。かと言って、手を掛けて二本立ちして見るほど気になっているわけでは無いし、後で見るし食べるのだからそれまでのお楽しみで十分かなとも思った。
「おはようルテさん」
「ん、おはよニアちゃん。 ...なんかいつにも増して寝癖凄いことになってるから先に直してらっしゃい。直し終わってる頃には朝ご飯出来てるから」
「はーい」
そう指摘されて洗面所へ向かい、脇に置いてある踏み台を置いて、自分の顔が鏡で見えるほどの高さまで上げる。そして、言われた通り鏡で見てみるとアタマの毛並みが凄いことになっていた。あっちこっちに乱れ、片寄り、場所によってはペチャンコに潰れていた。
「うわ...これ直すの凄い時間掛かりそう...。 その前に私だけで直せるかなコレ...」
取りあえず簡単に濡らしてクシでといてみるが全く変わっているような気がしない。それどころか悪化しているような気もする...。
なんだかんだ時間掛かって直してみたけれど、結果的に後ろ側だけはどうにもならず...っと言うより四足歩行族の骨格上、手が回らずにうまく整えられない。だからココだけはラシャニアにお願いすることにし、その他に色々済ませてリビングへ。
寝癖と格闘してる間に何品かがテーブルの上に出来ていて、今日こ献立はこの前の買い物で購入した、私の大好きな魚の干物、巻玉子焼き、様々な木の実が乱切りで入っている簡単なサラダ、そして白米と玄米の組み合わせのご飯だった。
「今日もおいしそう...」
「洗い物もう少しで終わるから待ってて。 あ、小皿持っててもらっても良い?」
「小皿? えーと、確かこの辺だったはず...あったあった。ルテさんお醤油も持って行きます?」
「んー、今日はそこそこ濃い味だと思うから要らないわ。 さてと、洗い物終了っと。じゃ食べましょうか?」
「はいっ」
トテトテと二足歩行でお皿をテーブルに運んで並べる。そして手を合わせて「いただきます」っと言ってから、まず大好きな魚の干物を器用に箸で掴んで一口。途端に魚のうま味が口の中でいっぱいに広がり、それが損なわないうちにご飯を入れて合わせる。最高の瞬間である。
因みにシャトルテの魚は普通に骨や皮など普通についている状態だが、ラシャニアの魚は原形を止めてはいるが、骨や皮が一つも付いていない。コレは流石にラシャニアでは骨などを退かして食べるのは大変だろうと、シャトルテがピンセットなどの前処理で全て取り除いてから焼き上げているから。それが無ければ食べるまでに冷め切ってしまうだろう。
「おいしい?」
「とっても! やっぱりお魚って美味しい!」
「そう言って貰えるとやる価値あるわ。 そうだ、巻玉子焼きも食べてみて?ちょっとアレンジ入れてみたの」
「アレンジ? ...あっ、明太子入ってる!」
「どう?」
「ぴりっと辛くて、その後に卵の甘みが来て凄くいい感じ! やっぱりルテさんが作るのは全部美味しい!」
「照れること言ってくれるじゃないー。 けど、コレでもたまにはミスするのよ?」
「そう、かな? 見たこと無いような気がする」
「...そんな事はないわよ。 そうそう、言い忘れてたけど今日は最近出来たマイナーな木の実を扱うショップに行くわよ。場所は最寄り駅から電車乗って十駅くらい過ぎたところにある駅で降りて、ちょっと歩いたところみたい。 それに、その当たりはどうやら変わったものが色々あるみたいだから、見てみましょ」
「何があるの?」
「んー、テレビで見た感じだと家具から調理道具、色々揃ってるみたい。 まっ、お喋りはこのくらいにして、食べちゃいましょ。サラダに至っては時間経つと水分が出て薄まっちゃうし」
「ですね。 ...んーっ。この明太入りの巻玉子焼き癖になりそう」
「ふふ、ホントニアちゃんは何でも美味しそうに食べてくれるわね。 また今度創作料理作るから楽しみにしててねっ」
「はーい!」
〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜
今回は(今回も?)短めで終わらせました。初めて食事シーンを描いてみましたが...うまく伝わったかな?
因みに何で醤油とか出るのとかという突っ込みがあるかと思いますが、小説説明通りです。だから電車も車も普通に存在します。
あっ、作中に出た〈明太入り卵巻き〉は卵を巻く時に所々に明太子を入れるだけの簡単なお料理です。大根おろしにちょこっと醤油を掛けて一緒に味わうのも良し、そのまま食べても良しのなので、是非試してみては?(