第一章
吐息
『いっただきまーす!!!』
 全員が一斉に手を合わせ、そう言った。最初は言う迫力というか、圧というか...なんかちょっとビックリしてたけど、流石にもう慣れた。毎回部屋で聞いていたから。部屋っと言っても、親方の部屋の隣にある仮眠室だけど。
 それは置いておいて、ルナさんにとっては初めてのみんなとの食事。無言になるかと思ったけど、そんな心配は必要無かったみたい。だってルナさんから普通に「ギルドにいつから居るの?」と話しかけたから。それに比べて私は引っ込み思案で話すことが苦手...見習わなきゃ......。

「はぁ...」
「フォルさん、なんか溜め息すると良いことが1つ逃げていくらしいからしない方が良いよ?」
「心配ありがと。 ...ところで、それ誰に教えてもらったの?」
「スウさんから。 同じ感じで溜め息吐いたら言われたんだ」
「スウさんが言うなら信頼度高いかも」
「...それって僕の信用がないみたいに聞こえるんだけど......」
「あ、そんなつもりは無いから安心して?」
 危ない...うっかり口を滑らすところだった......。今話してるのはチームクリスタのメンバーであるゼニガメのマートル。
 実はこの人はチーム内のトラブルメ...アクシデントメーカーで、ダンジョン内だと気が付かずにとラップ踏むし、静かに行くところでくしゃみして敵に気が付かれたり、依頼書無くしたり...簡単に言うとおっちょこちょいな性格。ともかくそれが要因ではあるけれども、ちょっと話題に関しては信じがたいから、他人から聞いたじゃないと心配だから。

「ねー、聞いてる?」
「...う、うん。聞いてる。 ...ちょっとルナさんさんのところ行ってくるね。話し終わったみたいだし」
 何かボソボソと聞こえた気がするけど、気にせず私はルナさんの横に行く。横に行くと気が付き、口の中の物を慌てて無くそうとしていた。

「あ、慌てなくても良いですよ。詰まっちゃいますし...」
「...ふう。 ちょっと話したいことがあって、さっきまで忘れてたんだけど、身体を見て思い出したから」
「話したかったのに忘れてたんですね...って、身体?」
「...突っ込まなくて良いわよ。 っで、話したいことだけど、古傷が多いけど何かあったの? 答えたくないなら良いわ」
「その事ですか...。えーと、詳細は分からないですけど、どうやら血小板やホルモンバランス、免疫力など、色々絡んでいるようなんです。 ホントはあんまり動き待っちゃ駄目と言われているのですが、大丈夫とお姉ちゃんに見せたかったのですよね...」
「なるほどね。 あ、そう思えば傷に効く薬草があるってどこかの本で読んだ事あるような...ク...クス...」
 暫く待ってても出なそうだったので、私は『クリスタの葉』と教えてあげた。すると手を叩いて「そうそうそれそれ! スッキリしたわ!」と喜んだ。そこまで喜ばなくても良いと思うけど...。

 ともかく、クリスタの葉は私が探し求めている薬草。ただし見つけるのは難しくて、その利用方法も至難の業...普通ならばすり潰して、何かと混ぜるか、そのまま塗るだけでいいのに...。
 本で読んだだけだから本当に大丈夫か分からないけど、まず極寒の地で生えてるものしか高い治癒成分を含んでいない事。次に温かいところだと効果がドンドン抜けてしまう事。コレは『千年氷』と呼ばれる全く溶けない氷を保冷剤として持って行って、一緒に箱へ入れれば大丈夫な筈...。

「じゃあ、フォルちゃんはそれを探す事も目的って事?」
「...あっ、そうですね。 お姉ちゃんを探す事、リーフさんの恩返しでギルドに入って役に立つ事、クリスタの葉を見つけること。けど、今はお姉ちゃんを見つける為に成果を上げて、色々な場所に行けるようにランクを上げることを目標です」
「そっか...。 なんか、ごめんなさい。私が入ってリセットされちゃって...」
「謝らなくても大丈夫です。1つでもクリアすれば上げてくれるから問題ないです。 ...あっ、そろそろ食べません?話してたら全部無くなっちゃいそうなので...」
「...そうね、なんかいつの間に凄い減ってるわね......。 じゃあ、しっかり話すのは食べ終えてから良いかしら?」
「はい。 ...しっかりと言われても、何を話すか迷い悩みますけどね......」
「色々、よ? 例えば付き合った人とか居ないのとか」
「っ!?/// げほっげほっ!! ...な、何いきなりそんなコト聞き出そうと思ったんですかっ!!?/// そんなこの話しませんからねっ!!?///」
「あー、その反応...居るのね。 わっかりやすいわねー」
「居ませんからっ!!/// 居たとして...いや、居ませんから!!///」
「あっ、私もそれ頂戴。 ありがと」
 聞いてないし...こんなとこもお姉ちゃんそっくり......はぁ...。
 お姉ちゃん何処に居るんだろ...なんかルナさんがホントにお姉ちゃんに見えて仕方が無い...。今はなんとか堪えてるけど、そのうち限界が来そう.........うん、もう寝よう。頭の整理が終わってない時は寝るのが一番。リーフさんはもう時期食べ終わるかな。終わったら一緒に行こ...。

「ごちそうさま。トイレ行ってきます」
「ん、行ってらっしゃい。 もう良いの?」
「はい、もう一杯です。ではまた後で。 それと恥ずかしいから...話しませんからね?///」
 そう言って私は逃げるように食堂を出て、すぐ隣にあるトイレの個室へ入った。ささっと終わらせ、エントランスにある4人掛けの大きな長座椅子に腰掛けた。腰掛けるっと言っても、大きい人基準になってるから、飛び乗って足を伸ばして腰掛ける感じ。とてもフワフワした素材で出来ていて、座り疲れはまずしない。だからちょっとした座談会や、聞かれても問題ない相談とかは基本皆ここでしてる。私も他のチームと一緒に行動するときはココでミーティングしてから向かっていた。

「...ん、誰か分からないけど鉛筆と紙を置きっぱなしにしてる。 ...何も書いてない。ならちょっと使っちゃお」
 暇があるときにすること、それは絵を書くこと。そこまで得意じゃないけど、楽しいからやってる。 ...そう思えば、書いた絵をお姉ちゃんに見せた事なかった気がする。なんでだっけ? なんか理由があったような...あれ、なんか記憶が......まぁ、良いかな。そのうち思い出せる筈。

 さて...何を描こっかな?
 物だとしてら書きたい物無いし、風景は時間掛かるし...やっぱり人物かな。書くとしたら...感謝込めて、リーフさんにしよっ。


〜〜〜〜〜☆〜〜〜〜〜

「さてと、ごちそうさま。 スウ、私は先帰ってるからいつも通りヨロシク頼むわよ」
「分かってますって。 ...あれ、フォルちゃんが居ない...」
「...そうね、もう食べ終えて外かしら? 私が居なきゃ家に入れない訳だし、多分何処かに居るわね」
「ですね。 じゃあお疲れ様でした」
 お疲れとこっちも返して、食べるのに使ったお皿を洗い場に持って行って、洗剤を付けて洗う。
 ここでは自分が食べるのに使ったものは自分で洗うルールがある。理由は、最近使用し出した洗剤との相性が悪く、食事を作ってるプラスルのファインとマイナンのレインの手が痒くなってしまうからで、それを見たリーフがみんなに話したら承諾したのだ。

「...よし、これで良いわね。にしても良く落ちるわねこれ。 やっぱり強力なのかしらねぇ...」
 蔦でザラザラとした感触が無いか確かめ、大丈夫と頷いて食器立てに入れて、廊下に出る。廊下はヒヤッとしていて、食堂とは大違いだった。いや、草タイプだから気温には敏感と言ったほうがいいかもしれない。

「冷えるわね...なんか最近温度差が激しくなってきて、身体が付いて行かないわ......。 あっと...」
 エントランスホールに顔を出した時に、フォルがソファーに座って何かを描いてるのに気が付き、壁の縁から覗き込む。何かを描いてるのは間違いないけれど、ここからは全く見えなかった。

「...フォルちゃん...何描いてるのかしら? そう思えば、初めてあったあの日も何か描いてたわね。最初に描いてた絵は見せてくれなかったけど、お題出し合って描いたのは最近の良い思い出かし...あっ、手が止まって鉛筆置いたわね。 なら...」
「よし、コレでいいかな。なかなか上手くかけたかな? ...でも、ちょっと歪んじゃった気もするけど......」
「そんな事ないわよ」
「ひゃあっ!?/// いつからそこにぃ!?///」
「今よ、今。 へぇー、上手く描けてるじゃない」
「あ、ありがとうごさいます...///」
「お礼はこっちよ。 ...さて、2人だけだからちょっと質問良い?」
 笑った顔から急に真剣な顔になり、ビクッと少々驚きながらフォルはリーフの顔を見る。そして、少々間を開け

「...フォルちゃん、お姉ちゃん居るみたいね。ルナちゃんそっくりな」
「へっ!? ...はい。けど会ったのは初めてだと...」
「記憶喪失してるんじゃないかなって思うの。 重なる点、一杯あるんでしょ?」
「はい...」
「なら、お姉ちゃんと読んじゃえば良いんじゃないかしら? もしかしたら思い出すかもしれないし。これで全く思い出さなかったら別人って訳だし。けど一応、私の方でこんな人を探してます的なレポート提出しとくわね」
「い、良いのですか?」
「弟子の願いや言葉に耳を傾けるのが親方の役目よ。 そうそう、当然ギルドの管理も」
「そうそうって...そこ忘れちゃダメですよ......」
 ため息吐きながらリーフにそう告げるが、そのため息の反対で笑いながらリーフは「とぼけただけよ」と言った。

 ...ルナさんをお姉ちゃんと呼んじゃう...ね......大丈夫なのかな...。


「そうそう。言い忘れたけど、あのベット1人用だから少し密着しないと辛いかもっ」
「えっ!? ...そ、そう思えば......」
「まっ、二人は華奢だし?身体の付き合いは良いと言うし? 大丈夫でしょ」
「大丈夫か大丈夫じゃないかは私達に決めさせて下さいよ...」
「達?たぶんルナちゃんは気にしないと思うわよ? あの子の性格的に。私と同じ気がするし」
「うぅ...」
「...ん、来たわね。 じゃあ向かうとしますか」
 ルナがだれかと話しながら向かってくる声を聞いて、リーフはソファーから腰を上げて、現れるのを待つ。すると、ルークと言うグラエナと楽しそうに話しながら出てきた。
 それを見てフォルはギョッとした。何故ならフォルはルークのことが苦手だからだ。理由として反応が素っ気ない事、性格がちょっと怖いことである。でもルナはそんなことお構いなしに話している...。

「あら? 楽しそうに話してるなんて、ルーク珍しいわね」
「珍しくて悪かったな。 俺もそんなことはある」
「そうね、ごめんなさい。 ...さて、そろそろ行きますか。これ以上冷えるとつらいし」
「冷え込むっと言うより温度差が激しいですよね...」
「はぁ、湯たんぽが恋しくなるわね...。 2人が私の布団入ってくれれば温々だと思うけど」
「人を湯たんぽに代わりにしないでくださいよ...」
「冗談よ、冗談。流石に3人も無理だし。 じゃ、また明日ね。行くわよ2人とも」
 そう言ってリーフは2人を呼びながらエントランスのドアを開けると、途端に冷たい風がヒューっと入る。寒がりではない自分は大丈夫と思ってたフォルだけど、やはり北風には敵わず、身震いをする。

 けど、ルナは何事も無いかのように風を浴びても立っていた。それを見て不思議だった。何故なら、フォルが知るお姉ちゃんならば同様に寒がりだったからだ。しかも「涼しくて気持ちいいわね」と、予測してなかった言葉が出たから。
 
「...違うの...かな......」
「ん? フォルちゃんなにか言った?」
「へ、あ...何でもないです...。 行きましょ、リーフさん」
「...2人とも、ちょっと失礼するわよ」
 二人の有無を聞かずに、急に蔓のムチで2人を掴み上げて、背中に載せたと思いきや、半ば強引に走り始める。2人にはなんでこんなことしたか理解できず、ただ落ちないようにしがみついていたが、実は大きな葉っぱで背中を抑えながら、蔦で両脇から落ちないように支え、尚且つ2人が密着するように蔦で押さえる。
 こんなことした理由、当然フォルが口走った言葉。違うか違わないかは身体で触れ合えば一番理解できる筈だし、実はお風呂のことも同犯である。けど、それは伏せてとお願いしたからスウが単独実行したことになっている。

 とにかく何がしたいかと言うと、もしフォルが本物のお姉ちゃんと気が付いて、ルナが記憶喪失の場合、なにかトリガーがあれば思い出せると考えているからだ。逆にお姉ちゃんじゃないと気がつく場合もあるが...。


 そんなこんなでギルドから5分ほど走り、町の外れにある2階建て木造の家...リーフの家だ。なんも変哲もない、周りの住宅と同じ大きさで同じ作り。よそ者がこの家をこの町の親方が住んでるとは絶対思わないだろう。
 リーフは2人を降ろし、肩がけバックから蔦を使って鍵を取り出すと、鍵穴に差し込んで器用に回して扉を開ける。中に入ると至って普通で、高そうなものがあることも無く、家具に至っては全てこの町の家具屋で見たことある物ばかりで、庶民には見慣れたものばかり。しかもその中には少々年期が入ったものがあるほどである。
 ルナはてっきり豪華だと思って、言わないものの少し緊張していたが、生活感の溢れる普通な家に安堵の息が漏れる。フォルは知っての通り、何度か訪れているので驚きはしていなかった。

「ふう。 ちょっと汚いかもしれないけど、今日は自分の家と思ってね。っと言っても、もう夜だから今日明日?かしら」
「はい、お願いします」
「かしこまらなくて良いわよ。もう親方としてのリーフじゃなく、この街の住民としてのリーフだから馴れ馴れしくても。 寧ろ隔たり無く話したいわね」
「えっと...今日は宜しく頼む、わ?」
「固いわねー、まあいっか。そうだ、朝ごはん何がいい? パンならパン用の食事用意するし、お米ならお込め用の食事用意するし」
「な、ならわたしは...パンで」
「私もパン...かな?」
「わかったわ。さてと、先に2人が寝る部屋を教えておこうかしら? 荷物はそこに置いて、ついて来て」
 言われるがまま2人はバックを起き、リーフの後を付いていく。玄関横にある階段を登って突き当りを左、2つある扉の手前を蔦で開けて中に入る。中も下と同じ雰囲気な普通の部屋で、窓側にベットが1つ、毛先が長い絨毯の上にはガラス天板のテーブルと座布団が2つ。あとはドレッサーが1つと木の実を長く保存する為に使う、風通しの良い木製の箱が置いてあった。

「ここ?」
「そうよ。因みに私は下の寝室で寝てるわ。 っで、入らなかった奥の部屋は納戸だから、入らないほうが良いわよ? ホコリ凄いし、真っ白になるし」
「何も言わずに心を読むのはやめて欲しいわね...」
「いや、入られてもし荷崩れして押し潰されても私にはどうにも出来ないから。 さて、今の時間は20時過ぎだけど、もう寝るなら寝ても良いわよ。朝はちょっと早いし」
「な、なら寝るわ。 早起き苦手で...」
「じゃあ私も...」
「そう、なら私もしばらくしたら寝るわ。 じゃあ、おやすみ2人とも。明日から依頼を頑張るのよ」
「「はいっ!」」
 その返事にリーフはニコッと笑うと、静かに階段を降りて部屋に静寂が包む。数秒してやっと時が回り出したのかのように、ルナは欠伸をしながらゆっくりとベットに向かう。目はとろんとしていて、見た限り急に眠気が来たようだった。

「ふぁぁ...ごめん。アタシもう寝るわね...なんかどっと眠気が来たから......」
「は、はい。おやすみなさい...いえ、私も寝ます。 電気消して大丈夫ですか?」
「いいわよぉ...。 フォルちゃんも...来れば...?」
「...し、失礼しま.........あっ///」
 一瞬何が起きたか分からなかったけど、ひと呼吸置いて何が起きたかをフォルは把握した。
 首筋辺りに息が当たり、背中が圧迫されたりされ無かったり、何より自分の胸の鼓動じゃない鼓動が感じられる...つまり、密着するように寝てしまったという事。フォルは完全に緊張と言うか、恥ずかしさで金縛りにあったように待つ全く動けなかったが、眠くなって頭が回らなくなってきた頃にルナをお姉ちゃんと重ねて、いつの間にかに向き合う形で、おでこをくっつけて、甘えるように寝たフォルだった。










 もうルナではなく、お姉ちゃんだと思いながら...。

ティア ( 2015/10/29(木) 19:28 )