序章
救助依頼
 ギルドに所属して一週間後。私はリーフさんから新たな分類の依頼を受けた。それは救助依頼と言って、その通り人命救助の事。
 今までは落とし物とか、素材集め等の回収が主だった。しかも私は一人なので誰かを守るということも無かったし、危険になったら逃げていた。けど、救助となればそんな事は出来ない...。
 でも、いつかは通らなければならない道なのは分かってたから受けることにした。どうやら救助対象は『ブラッキーのルナ』らしく、お昼までに帰らなければお願いと伝言を残していたようだった。

 とりあえず私は色々準備を済ませ、中央広場へ向かった。今回は隣町の近くにあるダンジョンらしいけど、リーフさんから『ラプラスのクゥーイ』っと言う方に乗って川を下った方が速いらしい。
 えーと、確かこの辺の筈だけど...

「...だ...よ...。 だか...こ......」
「た...かに...す...。 で......だ...」

 なんか、誰かともう一人が話してる。一つの声は分からないけれど、もう一つのこの声...始め辺りに聞いたような...。確か、この声は...

「...ん? あっ!良かったーっ...リーフさんから伝言を預かってますよ」
「やっぱりスウさんでしたね。なんか久しぶりな気が...」

 うん、やっぱりスウさんだった。ついでに相変わらずの毛並みの綺麗さ...ちょっと羨ましい。ソラキッスなら綺麗が普通と言うけど、そんな事お構いなしに綺麗な気がする。男の人なのに...。

「ん、どうしたの? そんなに見て」
「あ、いえ。なんでもないです。 ところで、伝言とは?」
「それは、フォルの依頼の救助対象の事だよ。えっとね、ブラッキーの特徴は色違いという事と、もし行けるならば最深部まで行ってあげて。どうやらそこに用があるみたいだから」
「...よしっと。 えーっと、最深部までですか?行けそうなら行きますけど、無理でしたら戻ります」
「そうだね。フォルも倒れたゃったら意味ないし。 ...さて、言うこと行ったから僕は帰るよ。クゥーイさん、お願いしますよ」

 クゥーイさん...この、ラプラスさんがそうだったのね。あ、このはダメだよね...。

「任せてください。 じゃあフォルさん、私の背中に乗ってください。ちょっと揺れるのでしっかり捕まって下さいね?」
「あ、はい。宜しくお願いします」

 そう言って、私はクゥーイさんの背中に乗った。それをクゥーイさんは振り向いて確認すると、水を切って、水滴の混ざった涼しい風を受けながら川を下り始めた。揺れると言ってたけどあんまり揺れなく、別に掴まらなくても問題無かった。っと言うより、私の身体はちょっと小さいから甲羅の突起物に挟まれる感じで安定度は抜群だったから。
 そして何よりも、

「涼しい...揺れも合わさって寝ちゃいそう......」

 気持ち良すぎること。言うならば快適。ホントに何秒間か目を瞑っていたら眠りの世界に行ってしまいそうだった。
 ...そう思えば、初めて気持ち良く寝れた日はリーフさんと会って、泣き疲れて寝ちゃってたことかもしれない。そっか、あれからもう一週間も経っちゃったのね...やっぱり時が流れるのは早い。

 あ、そう思えば帰る時はどうするんだろ。やっぱり帰りは徒歩なのかな...聞いておこう。

「あの、帰りって徒歩ですか?」
「いえ、帰りも私が乗せて帰りますよ。 初めての救助依頼って聞きましたし、お疲れでしょうから」
「あ、ありがとうございます。 もう一つ質問なのですが、あと何分ほどで着きます?」
「もう着きますよ。飛ばしてますから。 ...っと、言っている間にもう着きましたよ。名前は深緑のダンジョン」
「深緑の...ダンジョン......」

 そこはなんとも綺麗なところだった。緑と言っても深緑、緑、若緑、薄緑...様々な緑色の葉っぱが生い茂り、なんと表現して良いのか分からない綺麗さ...じゃない、早く行かなきゃ。

「それじゃあ...っと、行ってきます」
「はい。気を付けて下さいね?」

 クゥーイさんの背中から飛び降りて、私はそのダンジョンに踏み入れる。中はとても静かで、何故かほんのりとキンモクセイの匂いがする...私が好きな匂いね。
 ...さてと、今のところ敵は居ないみたいだけど、ルナさんはどこに居るのかな。怪我してなければ良いけど。

「...あ、オレンの実が落ちてる。拾っておこう。 あって困る物じゃないしね」

 落ちていたオレンの実を拾い上げた。甘酸っぱくて、そのまま食べても美味しい、磨り潰して...他の木の実と合わせると回復薬にもなるとかなんとか。まだ買ったことないし、使ったことは無いけど、とても染みる代わりに自己治癒力が良くなるとかなんとか。

 ...って、言ってる間に次のフロアに続く道ね。案外フロアが狭いのかもしれない。でも、狭い方が探しやすいし、戦うことが少なくて良いかもしれな...

「あれ...降りた途端に雰囲気が変わったような...所々地面が抉れてる......」

 第二フロアは第一となんか違う気がした。空気が張り詰めた...って感じ。それに、ウロウロしてる敵も何人か見える。
 思えば、あの人達に自我が戻る日が来るのかな...こんなダンジョンが無ければ、現れなければ、みんな平和に暮らして行ける筈なのに......。

「っ!? また敵だ! 倒せ!!」
「やばい! 見つかった!!」

 しまった、ぼーっとしすぎた!見える限り敵はー...三人。なんとか行けるはず!

「倒れろっ! 葉っぱカッターッ!」

 とりあえず私はいつも通りの方法で、突っ込んできたフシギダネに対して電光石火のスピードでアイアンテールを決めた。スピードは遅い、行ける。
 でも、なるべくなら電気技を使って倒したいけど、草タイプだとあまり意味が無いのが辛い。けど、近接で倒しきるしかない!

「電光石火からの、ショックテイル!」
「種マシンガン!」

 っ!?流石に避けられない!
 でも、このくらいならまだ行ける!

「てぇぇぇぇいやぁッ!!」
「ぐぁっ!? ...うぅ......」

 よし、まずは一人!後はマダツボミとジグザグマ...先にジグザグマを倒すべきね。当たるか分からないけど、

「エレキボールっ!」

 立ち止まって威嚇してるうちに、私は直径20cmくらいの電気の球体を作り出して打ち出した。結果はヒット。どうやらマダツボミを見ながら放ったから、驚いて対処しきれずに直撃した。でも、流石に倒しきれないみた...

「蔓のムチ!」
「しまっ!? くぅっ...」

 直線ではなく、横から振りかぶるように攻撃してきた蔦が足首に直撃...まさか、足を攻撃して私の移動を封じる気!?
 ...違う、ただの攻撃だ。蔦を戻して威嚇してる。攻撃の仕方がたまたま違っただけ?

「...電光石火!」

 ちょっと不安もありながらも、私は電光石火で一気に近づいて、電気を纏ったアイアンテールの用意をする。さっき程種マシンガンを受けながら振り落としたショックテイルを。
 ジグザグマはエレキボールのダメージで動けなくなってるから、横から攻撃してくることはないはず。だから安心してマダツボミを攻撃できるっ!




 ...っと、この時の私は思っていた。





「いまだ! ショックテイル!」

 私はマダツボミの頭上から尻尾を振り落とした。距離は1mも無い、だからヒットは確実と思った。
 けど、それは間違いだった。マダツボミという種族を見誤ったから...。

「.........え? よ、よけ...た?」

 そう、ほぼ必中という距離を避けていたから。平然とした顔で、着地した私の横に倒れているはずのマダツボミ...どうして?
 けど、考える時間は与えてはくれなかった。

「...葉っぱカッター!」
「っ!? きゃあっ!!?」

 反応が遅れた末路...それは全弾を受けて私が倒れること...。身体のあちこちが痛い...けど、同時に感覚が麻痺していく......。


カサッ...カサカサッ...カサカサッ、カサッ......


 ......敵が増えてる...わたしの...悲鳴......かな...。このまま私はどうなるのかな...死ぬのかな...それとも...この人達と......同じように...










 ダンジョンを...彷徨い歩くのかな......。

ティア ( 2015/10/05(月) 19:43 )