旅立ちの日に
ココはとある平和な田舎町。その町の一角の家に一匹のブースターとキュウコンが暮らしていた。二匹はどこでも一緒の仲良しフレンドで、どこ行くに常に一緒に行動していた。でも、元々はココまで仲良いとは言えない関係だった。
何故ならキュウコン、まだロコンの時に親に捨てられ、人を信じられなくなり、心も開かず、接する事もしなくなったからである。唯一心を開くとしたら、自然に対ししかなく、一応残してくれた家の周りはいつも選り取り見取りの花が春に咲き乱れる。その花に対しては水を与えながら何かを話していて、気持ち悪がれ、余計寄り付かなかった。
けど、とある日に一人の少女が引っ越してきた。それがイーブイ、今のブースターだった。ブースターは引越し早々、全ての家を訪問し挨拶に行き、そして十代ではあり得ない程の礼儀の正しさと明るさを持っていた。そして、当然ココにも来た。が、先ほど言ったよう、人と接する事は好まないので、外に行くのはせいぜい食料の木の実集めと、新聞、花に水を与える時だけ。しかも昼間はずっと家で絵を書いて、絵を専門としたコミュニティーサイトに投稿して、それなりのフォロワーは居た。メッセージもたまに飛んでくるが、必要以上の事は話さない。そんなワンパターンな生活している娘なのだ。
でも出会って、大事の花の事を聞かれ、しかも顔を合わせてしまったならしょうがない、話すしか無い。
「…何の用?」
「あ、あの私、今日ココへ引っ越してきたイーブイのフォルテと言います。顔を覚えてもらおうかなと思いまして、こうやって回ってるです。 …あの、お名前を聞いてもイイですか?」
動揺してる私を知るか知らずか、この子は私にそう尋ねてきた。帰ってっと突き返そうとしたけど、顔は真面目だったし、バカにしに来たわけでもなさそうだった。
だから、
「だ、ダメなら良いんですけど…」
「フレイヤ」
「…えっ?」
「フレイヤ」
っと、答えた。けれど、素っ気なく。でも、言った自分も初対面に対してきつ過ぎたと思った。
間が空いて、向こうがどう話そうか迷っているのか、喋る相手を間違えたと思ったのか分からないけど、何もして来なかったから部屋に戻ろうと身体を反転させて…
「貴方って暖かな光みたいな名前を持ってるんですね。 あの、フレイヤさんって、ガーデニング好きなのですか?」
半分近くまで回った足がピタリと止まった。いや、驚きもあってかもしれない。初対面最悪の私にこうも話してこられると、流石にそのままサヨナラは人としてどうなのかと…
「…そう、好きだからやってる。コレしかやること無いから。 で、まだ何か?」
「少しだけ。 私もガーデニング好きだったので、話したいと思って」
「だった?」
その言葉に私は引っかかって、言葉をトンボ返しした。
「はい。ここに来る前は毎日弄るほど、そして家の周りはフレイヤさんと同じように咲き乱れていました」
「…その家ってのは何処だったのよ?」
気になって、無意識に質問した私自身に驚いた。何故だろう、この娘と話していて嫌とか思わなかった。不思議な感じ…
「私はシャルルという村から来ました。 ココから南に向かった場所にある、小さな村です」
「シャルル…? ま、まさかっ...」
シャルルと聞いて私はハッとした。その村は一昨日の夜、何者かによって焼かれて壊滅した、通称フラワービレッジと言う村...。
そして調査結果だと村人は全滅したとも、私が居る町の救助隊が報告していた…。
「ほんとに…ほんとに生き残りなの…?」
「はい。けれど、私以外に逃げられた住人さんが居たかどうかは…」
そう言い、フォルテは村の方向を見る。けどさっきまでの明るい笑顔ではなく、寂しそうな、悔しいような、そんな顔をしていた。よく見れば、身体の一部に焼け焦げたような傷痕のような所が見えてしまい、嘘ではないことを悟った。
「そっか...なんかゴメンナサイ...」
「いえ、別に大丈夫です。...ところでフレイヤさんってお若いですよね? 今まで挨拶しに回った方々より、そんな気がして」
「...そう言えばそうだったわね。 私が村では最年少よ」
「なら、一番話しやすいかもっ。 あっ、もしかして私と同じ13歳ですか?」
「...そうだけど。 なんで私が同い年と分かったわけ?」
「えっ…えーとー…な、なんとなく、かな?」
「ふーん」
そんな感じで私はこのイーブイ、フォルテと話を続け、暇な時に会い、話していた。嵐の次の日になれば私の家に来て花を直すのを手伝ってくれたり、荒らされれば一緒に直してくれたり...今思えば、ずっと楽しみを分かち合える友達が欲しかったんだなっと...
ーーーーー
「フレイヤーっ、何黄昏れてるの?」
「...あっ、ちょっと、昔のことを思い出してたの。フォルテと初めてあった時のこと、仲良くなるまで」
「そっか。あれからもう半年経つんだ…時間は早いね。 ところでギルド、いつ向かう?」
「んー、そろそろ行きましょうか。あ、忘れずにアレ、持つのよ」
「ダイジョブダイジョブ! ちゃんと、ペンダントは首から掛けてるよっ。錆が少しひどかったから、拭いたけど、あまり変わらなかった…」
フレイヤの首から金色と、少し錆びかかったペンダントが毛並みの間からのぞかせる。それは、ブースターの体色である赤色に軽く反射して、濃い金色のようになっていた。このペンダントは母が何時も身につけていた物...つまりフォルテのお守りである。
「そうねー、お昼食べてから向かいましょっか? ちなみに私が特別に腕を振るうわね。食材もあるし」
「やったぁ!でも、何作るの?」
「秘密。でも、フレイヤが好きなものを作ろうかなっと思ってる」
「も、もしかして…『木の実ソテー』だったり?」
「あ、流石に分かっちゃったか…そう、正解。 じゃあ作るから、道具の最終確認よろしく」
「あいあいさー」
そう言いながら、フレイヤはテーブルにある、ホッチがタマゴ型になってるショルダーバッグを開けて、中から一つずつ取り出す。中身から出てきたのは、色々な木の実や、腕時計にディスプレイが付いたもの、それに加えてよく分からない道具、手に収まるほど小さなレコードみたいなもの、バックの大きさからは想像できない量が色々といっぱい入っていた。それを種類ごとに分け、数を数え、セットするものはセットをする。
その間にフレイヤは台所に立ち、冷蔵庫から食材を取り出してサッとすすぎ、刻んで、ザルに入れる。そこからフライパンに油を引き、ある程度温まったところで切り刻んだ食材を入れて、炒めて、途中で調味料を入れて、フライパンを振るう。材料が中を舞い、溢れることなくフレイヤが持つフライパンに吸い込まれる。次第にいい香りが立ちこみ始め、確認していたフォルテはその臭いにお腹が鳴った。
「.........最後に見た目と香り付けでシソを散らせてっと。さてフォルテ、出来たわよ。確認終わった?」
「あっ、終わったよっ。 忘れ物なし、電池、バッテリーの残量もOK!」
「後は、それを閉まって、時計を手にはめるだけね。 色、どうする?」
「んーっ…あえて青にしよっ。体色と一緒でも良いけど、なんか…うん」
「じゃあ私が赤ね。なんとなく分かってた。 それじゃあ…頂きます」
「いっただきまーす」
フォルテと出会って変わったこと、それはやっぱり、私が他の人と接することが多くなったこと、話すことの楽しさを知ったこと。じゃなきゃ、今もずっと変わらずの生活をして、孤独死して、数日経ってやっと見つけられる事も想像できる。そんな話の前に、気が付かれない場合もあったけど。
ともかく、出会って大いに変わったことは変わりない。フォルテも。前は私に対してフォルテは敬語を使っていたけど、気が付いてみたら敬語は外して、ちょっと幼い感じの口調になった。聞いてみると「コレが本来の私。でもフレイヤ以外には見せる気はないからねっ」とのこと。一体何があったのやら…別にいいけど。
そんなこんなで、気が付くと私とフォルテのお皿は空っぽになっていた。今日が一番美味しかったと言ってるけど、考え事しながらだったから、分量なんて覚えてないし、味すら覚えてない。だから私は良かったとしか言えなかった。
「ごちそうさまっ。ふぅー…」
「お粗末様でした。 さーてと、家の戸締りをしっかりとして、ギルドに行くわよ」
「はーい。じゃあ洗い物するから、フレイヤは他を任せるねっ」
「頼んだわよ。 えーと、まず雨戸を閉めて、冷蔵庫の中身は使い切ったからコンセントを抜いて、無駄なコンセントは全て抜いて、ガスを止めて…...よし付いた」
腕にはめ、雨戸を閉める。因みに、名前はライブキャスターと言い、様々なアプリをインストール出来る。一言で言えば『ポケッチにライブキャスターが一緒になって、ディスプレイの画面が浮き出て表示される』ようになったと思えばいい。
「よし、大丈夫。 ...コンセントは全部抜いた、後は出た時にガスを止めるだけ。新聞も止めたし…あ、そう言えばライフラインは明日で止まるようしてたんだっけ?忘れてた…」
「洗い物終わったよーっ」
「ん、ありがとう。使った手袋はかるーく洗って...いいや、そのままで」
「分かった。えーと、ここに干しておけば良い?」
「そうそう。じゃ、済んだら行きましょっか? 私たちが見つけた、お気に入りの場所で日の出を見てから」
「あの丘だね?日の出まであと三十分しか無いけど…大丈夫?」
「大丈夫。 …それじゃ、行くわよ!」
「おーッ!」
二人は笑顔でハイタッチして、同時に家から出る。その笑顔は一番と輝いていた。
ーーーーー
場面は変わり、西の空がほんのりと空が紅く照らされる時間。少々暗い道を急いでニ人は駆け上がる。普通、秋頃だと地面が気温差で湿ってる場合があるが、一週間ずっと晴れだったのでサラサラに乾いていた。その事に軽く良かったとフレイヤは思っていた。
「フォルテ、ちゃんとついて来てる?」
「うん、あの時みたいにバテたりはしないよっ。 それに、もう少し早くても大丈夫」
「そう? じゃ…これでどう?」
「ま、まだまだっ!」
「まだまだって言う割には、ちょっときつそうじゃない?」
「ま、まだまだ、だから!」
「…そう。でももう到着よ」
急斜面をジャンプで突破して振り返る。続いてフォルテがジャンプするが、直ぐに前足をフレイヤが掴んで抱き寄せる。軽くよろけて落ちそうになったが、すぐに足を踏ん張ったので、大丈夫だった。
「よっと…ふぅ、ここを上がらないのは変わりないわねフォルテ」
「うぅ…行けそうだったのに…」
「むーり、引いてなかったら転げ落ちてたわよ。 っで、日の出ギリギリ。もう少し遅かったらアウトだったわね」
ライブキャスターを操作し、現在時間と気温を同時に調べる。天気は晴れで二十度、時刻は五時三十八分。今日は九月中旬当たりなので大体このくらいの時間である。この諸島はそこそこ日の出が遅く、気温は低めで、紅葉は高い場所なら所々、赤や黄色、緑に色付いていた。しかも、上の方が赤く、中段は赤色と黄黄色、下段は緑に黄色が混ざるコントラストで、とても綺麗だった。
「そっか…危なかった。ところでいま何分?」
「もうよ。 あ、そんなこと言ってたら来たわよ」
崖へ足を投げ出すようにフレイヤは座り、尻尾を軽く支えにする。続いてフォルテも同じように座り、やっぱり尻尾を支えにして寄りかかるように座る。その後直ぐ、朝霧と山の間からゆっくりと太陽が顔を覗かせ、当たりの霧を空気中の水滴に反射させて黄色く光らせる。雲は自分たちの方向へ流れ、先ほどまで見えていた青い空も黄色く書き換えて行く…まるで、空を飛んで居るようなそんな感覚になった。足を放り出したのもその為である。
「わぁーーーっ、いつ見ても綺麗ねココ。 でも季節は秋が一番ね」
「いつもって…もしかして?」
「あ、そうよ。たまに居ないのはコレを見に来てるから。 だってフォルテ、早起き苦手じゃ無い」
「うっ…そ、そうだけど…」
「はいはい分かったわよ。起こせは良いんでしょ、起こせば。 けど、たぶんギルドに入ったらココに見に来る暇なんて無い。だから、目に焼き付けておかないと…」
身体いっぱいに空気を取り込み、伸びを一つ。今日から、ギルドでの生活が始まると心に大きな期待を込めて。新たな仲間、様々な冒険、未知の探検、全てが今までの生活では決して体験出来ない一日が今日から始まるのだ。ギルドは一度入ったら、下積みの間だけだが、自由には行動出来ないとある。一番不安なのは、最近テレビのニュースやWEBニュースでも取り上げられているダンジョンの巨大化、膨張、行方不明者の多発、自我を失った者、一番に『時空間の亀裂』を調べないといけないことである。ただし、ランクがプラチナ以上で捜査解禁になるので、入った直後のブロンズランクは現地で調べることは出来ない。ランクはまず今言ったブロンズ、シルバー、ゴールド、エメラルド、ダイヤモンド、プラチナ、スーパー、ハイパー、マスター、そしてギルドマスターとなり、ギルド長になれる権限を受け取ることが出来る。そして救助専門の救助隊、探検専門の探検隊の二つがあり、基本的にどちらか一方を選ぶことになるのだが、両方選ぶことが可能で、恩恵としてはランクが少し上がりやすいくらいしか無い。ランクの上昇は『ギルドバッチ』と言う物で、様々な情報も追加して一括管理している。正確に言えば、どこのギルドに所属して居るか、パーティーの個人情報と血液型、ランク、所持金、ICタッチ、それを守る暗号化AES-512bitで構成されている。従来のAES-256bitは家庭用パソコンで約十六年、スーパーコンピュータであれば六十日あれば解読出来るようになってしまった為、その上のクラスを作ったのである。単純計算ではニ倍だが、実際は四倍の暗号化に強化させれいる。なので、何十年間は一先ず安全であろう。
「うん…でも早くランク上げて、自由に行動出来るようになったらまた此処…連れて来てね?」
「当然よ、ニ人出来ましょ。 さてと、グレースギルドは北側だから、そろそろ行くわよ。まっ、八時までだからもう少し見ててもイイけど」
「…フレイヤ」
「なに?どうし…ぎゃっ!///」
「ちょっとだけ、こうさせて。 …記念日くらい、ねっ?」
「なっ!?///」
フォルテが立っているフレイヤを抱くが、急に来たことによりバランスを崩し、フォルテが押し倒すような形で倒れてしまった。元々赤色系のフォルテの顏がより一層紅く頬が染まる。
逃げ出そうとするが、脚の間にフォルテの身体があるからかなかなか逃げた出せない。しかも身体の大きさはフレイヤの方が大きいのに...。
「な、なにするのよ…///」
「少しだけ、こうしたかったの。だって、いつも逃げるし...十秒でイイから、ねっ?」
「時間関係なく、早く降りなさい…///」
「…っと言う割りに、押し退けないのはどうして?」
「うっ…///」
実際言われた通りだった。ほんの数秒前は両前脚でフォルテの頭をグイグイ押してたのに、今は添えていたから。再び言われて押し退けようと思ったが、意見をそこまでグイグイ主張する娘では無かったから、それをしばらく見てみたいと思った。けど、押さなければ認めた事になる…。
「いたた…」
なので先程より弱めに、けど普通に押すのではなくてグリグリと押した。
「…はぁ。 フレイヤ、コレ見方によれば襲ってるになるから、外ではやらないで。レズって思われるのは嫌だし、やるとしたら部屋で、寝るくらいにして」
「はーい…んっ?」
「ほんとに分かってんだか。 っで、行くの?もう少し見るの?どっち?」
「行こっ。走って行くの疲れちゃう」
「分かったわ。 それじゃあ、行きましょ」
そう言いながらライブキャスターを操作し、目的地であるギルドにマッピングする。次に、移動ルートを手動でなぞって書き換え、適用すると到着予定時刻と距離が表示される。歩いて一時間半、距離は一キロメートルと表示されていた。現在時刻は六時を少し過ぎた過ぎた時間で、到着は八時少し前。八時半少し前に来るようにとなっていた為、ちょうど良かった。
「大丈夫ね、走る必要なし」
「っと言いつつ、道に出るまでは競争なんでしょっ?」
「正解。準備はイイ?」
「…よしっと。うん、イイよッ!」
「それじゃっ…Let's go!」