願い
ー前書きー
イレギュラーでだいぶ遅くなってしまってつらみ...。っということで第三回目の非公式小説交流企画の小説です。
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やっぱり、胸騒ぎと木々のざわめきが騒がしくなってきた...そろそろ向かわなければ間に合わない。私はそう思いながら森を抜け、だいたい10メートルはあるゴツゴツとした岩肌を踏み台にして駆け上る。
そこから山肌に沿って、私一人がぎりぎり通れるくらいの道をゆっくりと歩み始める。そんな時、ふと駆け上がる時に見えた夜空を、今度はしっかりと見ることにした。
「...うん、雲が一つも無く綺麗な夜空ですね。こんなにも明るくて、寒くも熱くも無くて、過ごしやすい気候は初めて」
つい昨日までの雨はピタリとやんで、湿っぽくも無い空気に地面の土は乾いて、しかも夜露も無いお陰で山肌を駆け上がる事が出来た。こんな日はゆっくりとしたいけれど、私には役目がある。感覚的にあのお方が眠る場所へ行かなければ行かない。
何でかは分からない、けど今日はあのお方が起きてくるような胸騒ぎと、木々のざわめきに私はココに登って向かっている。確か先代から聞くに、今からお会いする方は人目に付かない、尚且つ秘境にて眠りに付かれていて、知っているのは先代と先代に教えてもらった私のみ。忘れているか不安でしたけど、身体が覚えていてくれて助かりました。忘れていて聞こうとしても既に先代様はお役目を終えていて、聞く事が出来ませんからね...。
私が今からする事は、先代様がやっていた、世界のあらゆる事を記憶して、目を覚ましている間はお守りしながら伝える事。とても重要であり、その方との時間は一週間と言うとても短いけれど、大切な時間。
けれど短いながらに、出来事は簡潔に且つ退屈させてもならない。でも何から話せば良いのでしょうか...色んな事があって、何から話せばいいのか。それに殆どの内容が良くない事が多くて...って、あれ?
「こ、こんなにも早く着いちゃうなんて。内容が決まって無いですし、心の準備も済んでない...」
気が付いたら私は、まさに今からお会いする方が眠る洞窟が見えていて、あと5分も歩けば辿り着く位置を歩いていた。あはは、コレじゃ先代様と同じですね。
先代様の心残りは出逢うまでに何も準備が出来てなくて、焦ってしまった事とおっしゃっていた。その事に先代様は私にはそう無いようにと酸っぱく言われたものだけれど、私も同じ事をしてしまいそうです。でも、もう少しだけあの方が目覚めるのに時間がある。
先代様が目覚めるのはお月様が真上に登り、この中の洞窟の真上から照らし出す事。その時間になるまでは大体...10分くらいはある筈。その時間の間に何を話すかを決めて...あ、どこに連れて行くのかも決めてない。そ、それは目覚めてからで良いとして、なにがあったか伝えるのが先...。
うう...緊張で頭がグチャグチャ...けどそんな事は言ってられない。取り敢えず最初は八百年前に起きて二百年も尾を引いたあの事件をお話して、その後は.........あっ。じ、地面が光が出して、大地が鼓動し始めた...そんな、まだあの方が目覚めるまでまだもうちょっと時間がある筈。
月だってまだ真上から...って、さっきまで1/3位しか見えてなかった筈なのにもう見えてる!?
「なんで...なんでこんなに早いの!? あ...そっか、今回は冬に近い秋だから早いのですね。先代は真夏って言ってたから...ああ、完全にしくじっちゃった...」
そう焦ってる間にどんどん光は強くなっていくし、繭状態のお姿が地面から...。確か地面から全部出た後は繭を持って、高い所に登ればいいのでしたよね。このお方が目覚めた事をみんなへ知らせる為に。
「よいしょっと...な、中々に重みがありますね。気をつけて上に行かないと」
そこそこ重みのある紫色の水晶、アメジストで出来ている繭を背中に置いて尻尾で押さまえつつ、視界の中で一番高いところに駆け上った。上からの景色はとても綺麗で、場所によっては紅葉してたり、はたまた全くして無かったり...色々な表情なのが見て取れる。だけど、ちょっと肌寒い気がするのは季節的にしょうがないで...あれ、なんだかいきなり軽くなったような.........ってえっ!?
「うーん...くしゅん!」
「え、えっ...何も前触れもなく急に繭状態から...ジ、ジラーチ様、おはよう御座います」
「ふぇ? あっ、おはよう...うう、寒いよぉ...」
「ひゃっ!? きゅ、急に尻尾を...く、くすぐったいですって! 離して下さい!!」
いつの間にかに繭状態から覚醒されたジラーチ様は、あろう事か私の尻尾に抱き付いてきた。まさかそんな事をするとは思ってなかったから、思わず振り落とそうとするところだった...。
「凄く寒いから嫌だよ...もうちょっとだけこうさせて...。あぁ...モフモフで暖かい...」
「ジ、ジラーチ様...何だか先代のお話と違って幼さが...。もしかして、早すひゃう!? ジラーチ様!」
「なーにぃ? ふふ、あったかーいっ///」
「っ!? な、何でもないです...///」
ちょ、今の笑顔は反則ですって...聞いてたギャップと違いすぎて、しかも可愛くて...なんだか母性本能的なものがくすぐられるような...。
で、でもこんなに話と違うのかしら。何だか明らかに幼い状態で生まれて出てきちゃったような...そんな感じが。先代のお話ではもっと逞しいと言いますか、しっかりしているお方と聞いてた筈なのに。これじゃまるで子供のようで...もしかして、目覚めてしまった季節に関係が?
うぅ、こんな時に先代が居て下さったらどんなに良い事か...っと言っても、くよくよしててもしょうがない。ジラーチ様は一週間後にまた深い眠りについてしまう。私はその間に寝て要らした間の事をお伝えして、護衛する事なのだから。それにしても...急に静かになったけど、あれ?
「あ、あのジラーチ様...ジラーチ様?」
「すぅ...すぅ...」
「あっ、寝ちゃってる。うーん、起こさないように動かなきゃか...んー、戻れるかな?」
駆け上った崖を見下ろして、何処か良さげなところが無いか見回す。だけど、どれも急な斜面だからかなり危ない。一応、肉球で滑って爪でブレーキ掛けるようにすれば安全には降りれるだろうけど、多分持たない。
幸いにも私が居る場所はソコソコに足場が広いから、丸くなって寝ればどうにかはなる。だったら星が近い所で、しかも綺麗な月が見れる特等席で寝てみても良いかもしれない。若干肌寒い感じはあるけど、ジラーチ様は私の毛並みに包まれてれば大丈夫だろうし...そうしよっかな?
「すぅ...すぅ...」
「それに...こんな可愛い顔で寝られて、起こすわけにもいかないね。それに、急に眠くなってきちゃったし...ふぁぁ.........」
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「......へくちゅっ! ...うぅ、流石にちょっと寒かったか。ジラーチ様は...あれ、居ない!? ど、どこ行ったの!!?」
お腹辺りに居たジラーチ様が居なくて、私は慌てて飛び起きて辺りを見渡す。まさか寝相悪くて落ちたや、もしかしてさらわれたかとか、色んな事が頭を過る。けど、そんな時に呆れたような声で真上から声が聞こえて、恐る恐る顔を上げてみると...。
「はぁ、今回の人はちょっと抜けている人みたいだね。こんな危ない所で寝ちゃうなんて」
朝日を浴びて、頭にある短冊のような物が爽やかな朝風に揺られてキラキラと光る。寝る前に比べると、だいぶ落ち着いた印象を持つけれど、間違いなくあの時に目覚めたジラーチ様が空に浮かんで、私の事を見下ろしていた。
「あ、おはよう御座います」
「うん、おはよ。えっと、勢いで抜けた人とか言っちゃったけどゴメンね。僕の名前は言わずと分かると思うけどジラーチ、またの名をルイン。キュウコンさんの名前は?」
「わ、私の名前はフレアと申します。きょ、今日から一週間の間は宜しくお願い致します!」
「別にかしこまんなくてイイよ。フレアさんだっけ、宜しくね。早速だけど...場所を移しながら何があったか教えてもらおうかな。先代のフィルさんからフレアさんまでの間で起きた事を」
「はい!」
それから私とジラーチ様、ルイン様は山脈を抜けながら起きた事を忠実に私はルイン様に伝えた。一通り伝え終えた頃、ルイン様が放った一言は「特に大事無しって事だね」と一言で纏められて、先代の更に先代に起きていた事を逆に聞くととなった。聞いてみると確かに、私の世代で起きた事と比べれば色々あって、かなりの被害が起きていたことは頷けた。
けど最後にルイン様は「平和なのは良い事なんだ」と言って、昔の話を締めくくった。確かに、災いが有るよりは無い方が遥かに良い事は分かってる。分かってるけど...言う事が無いみたいな感じになると、私が生きてた意味って何なんだろって思えてきてしまう...。
「フレアさん」
「な、何でしょうかルイン様?」
「その、左手首に巻いてるそれって何? スカーフ?」
「コレですか? 人間様から頂いたものです。どうやら私がルイン様、ジラーチ様に関連する者と分かったようで、コレを授けて下さったんです。宜しかったお付けしますか?」
「えっ、いいの?」
「はいっ、きっとお似合いかと思います。そうしたら...後ろを向いて頂けます?」
私は引っ掛けに対して爪を押し当てて外し、ルイン様の首に軽くあてがった。スカーフと言っても、人間様の間ではホックという引掛けをスカーフに縫い付けて、着脱を簡単にしたものらしい。でも簡単なのに揺れとか、動きには強くて外れない。本当に不思議でたまらない。
さてと、ルイン様だと...一番下から一つ上ね。何か妙にしっくり合うけど...気のせいよね。えーと最後に硬いところに当たらないように若干の調整を入れてと...。
「よし出来た。うんうん、中々に似合ってますよ!」
「...うん、気に入ったよコレ。デザインも夜空のような淡い青色をしていて、三日月と流星のような模様が描かれてるし」
「まさにジラーチ様をイメージしているかのようですね。うーん...ルイン様、そのスカーフあげます。それに私達、長らくルイン様のお世話や出来事をお話するキュウコン族は絶滅へと確実に向かっております。たぶんですが、たぶん私か次の代で...」
「話しは先代から聞いてるよ。聞くところによると、新たな子を産みにくい体質だとか」
「ご、ご存知だったのですね...。ともかくそんな事情で、どうしようかと一族で考えて行動した結果は、時渡りを致しますセレビィ様にお役目を託しました。名残惜しいところもありますが、コレで良かったんだと思ってます」
「セレビィ...ね。どう交渉したのかとか気になるところだけど、聞かないでおくよ」
「お、お気遣い感謝致します」
「...その感じだと、言えないなんかあったんだね。とりあえず今は今、決められた運命には逆らう事なんてできない。実を言うと、とはいえ成功するか分からないけど...僕は願いを受け入れて叶える力を持ってる。流石に死んだ人を蘇らせては無理だけどね」
「そう、ですよね...」
流石にそれは無理ですよね...それが出来たなら、世の中の法則が乱れて大変な事になる。
「もしかして、何か願い事とかあった? 人や時代に干渉外なら叶える事は出来ると思うよ」
「...いえ、大丈夫です。さてルイン様、昔よりだいぶ居なくなってしまいましたが...人里に行きますか? 先代から聞くに、近くの村に訪れていたと聞いたのですが」
「うん、訪れてたよ。けど今回は良いかなぁ...色々と世界を見たい気分なんだよね。なんかある? 例えば今から700年前に起きた大規模な山火事跡や、あとは隕石落下で地形変動が起きたところとか」
「えっと...そこに行くとしましたら、それだけで五日程掛かりますが...宜しいですか?」
「良いよ、長旅とかした事が無かったから楽しみだよ。それに色んな景色が見れそうだしねっ!」
「っ!! そ、そうですね///」
あー、やばいやばいやばい。その軽く首を傾けながらのスマイルが可愛すぎてやばい。
「あれ、どうしたの? なんか顔が赤い気がするんだけど...もしかして、寒さで風邪でも引いた?」
「そ、そんなことは無いですよっ。日が出て来て熱くなってきたなーっと。 それよりルイン様、そろそろ向かいますので私の背中にお乗り下さい。乗り心地はあまり良いとは言えませんが...」
「乗せてもらうのに文句なんか言わないよ。じゃあ、お願いするよ?」
「任せて下さい!」
ルイン様の問いに私は頷いて答え、最初の勢いは控えめに山道を駆け抜けていく。夜露で若干足元が滑りそうになるけれど、気が付かない程度に姿勢を保って誤魔化した。コレでも運動神経は良い方だったりする。
因みに先代は有名な俊足の持ち主で、その足で色んな場所に赴いては情報収集をしていて、まだ私が幼いロコンの時に、寝たふりをして先代の四足の動き、身体の動きを盗み感じていた。本来なら私にも子供が居て、同じようにしていた筈なのに...私の身体に起きる不幸で子を授かれなかった。
「あはは、速い速い! ちょっとヒンヤリするけど風がすごく気持ちいい! ねぇ、もうちょっと飛ばせたりって...する?」
「...あ、はい? 何か仰りました?」
「えっと、もう少し飛ばせるかなって...」
「行けますけど...揺れますよ? それに危ないのでしっかりと掴まっててくれないと...ふぇ?」
「掴まれば良いんでしょ?」
「それで大丈夫なら...。ですが、誤って首を絞めないようにお願いしますね?」
「うん、分かったよ!」
「では...行きます!」
身体全体で首元に抱きつき、更に顔までぺったりくっつけてルイン様は受け答えする。それに、このやり方は...私が先代にやってた事と一緒...。感覚的にホントにそれで大丈夫なのと不安になる...そっか、先代も何度か必要以上に問いかけて来たのは不安だからだったんだ。
しかもなんだろう、ルイン様とお会いして、話してから心が詰まる思いがする。もしかして私...子供が居なくて寂しかった?
気にしてなかっただけで本当は、気が付かない振りをしていて、そして無理なんだと諦めてただけ?
そんな、まさか。この事はとっくに泣き疲れるくらい泣いて、諦めが付いてた筈。それなのになんで、なんでこんなに胸が締め付けられるの...?
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移動して五回目を迎える月が見え始めた。ルイン様がまた深い眠りに入るまで後二日しかない。道中は特に何事も事件はなく来たけれど、何かあったとしたら途中に天然の温泉が湧いてた事。後から管理している人間様が居たようで、第一声はお叱りを受けちゃったけど、ルイン様と私を見て察したようで、風呂敷に木の実まで持たせて旅路の安全を願ってくれた。その事に自分の口からお礼を言いたかったけど、人間様とポケモン話す言葉が違うから伝える事が出来ない。聞いて理解する事は出来るのに...なんか悔しい。
そう思ってるとルイン様はテレパシーで私の思いとルイン様の思いを一緒に伝えてくれた。テレパシー...私も使えたら良かったのにと、その時だけはルイン様を少しだけ憎んだ。でも言葉じゃ伝わらない事だってあるって事を、そのお婆さんに擦り寄って見せ付けたら、今度はルイン様が私の事を睨んでて面白かった。
その後は山火事跡を見に行った事だけど、立派な木々でその時の面影は一切無かった。近くのポケモンに聞くに、山火事後に人間様が木の苗を植えていったようで、その後に他のポケモン達もそれを手伝って、森と一緒に生命を共にしたらしい。
しかもココの土壌は、火事の影響で燃え落ちた木々が肥料土な状態になっているらしく、この付近で生える木の実は病気に強く、しかも大きくて美味しいとの噂。そしてその木の実と、お婆ちゃんから貰った物、行く途中で拾ったものを、洞窟の中で食べ比べようとしている時。因みに明るさはお昼の内に燃える物と集めといて、日が傾く前に集めた小枝と松ぼっくりを私の炎で着火して明かりを確保している。
「おー、見た目も何か全然違うね。なんだか別物みたい」
「確かにそうですね...場所の違いでここまで違うとは。こんなこと全く知りませんでした」
「だね。ねぇ、そろそろ食べない? 見てるうちにどんどんお腹が空いてきたよ」
「ふふ、そうですね。 ...ですが、もう少し我慢する必要がありそうです。ルイン様、私の横に要らして下さい。何かが私達を見ています」
「えっ、でもそんな感覚は...えっ? ...フ、フレアさん!?」
「うぐっ...コ、コレはサイコカッター...。しかも音がはぁはぁ...全くしなかった...」
急に飛んできた技に、私はルイン様を押し飛ばして全弾を庇うように浴びて鋭い痛みに悲鳴を上げたくなる。けど声を押し殺して攻撃が飛んできた方向を睨むと、今度は薄紫色に光るブレードが闇から現れ、そのブレードからサイコカッターが放たれた。
さっきと違って今度は見えているから、私は精確にエナジーボールを一つ、二つ、三つと放って確実に相殺していく。当てるごとに小さな爆発毎に土煙が舞って難しかったけど、なんとかやりきってルイン様を護る出来た。いや、そんな事よりも襲って来た人物が誰なのか...っと言いつつ、ホントは誰なのかは何となく分かってる。でもそれを言う前にルイン様が口を開けた。
「...まさか、アブソル?」
「はぁはぁ...まさか、嗅ぎ疲れていたとは...。 ルイン様、時間を稼ぐので早くお逃げください...」
「で、でも...そんな傷じゃ!?」
「はやく!」
「...分かったよ。でも、僕の元に絶対戻って来てよ!」
そう言ってルイン様は私の視界から見えなくなった。でもガサガサと後ろの方から聞こえるから、わたしのことが見えているのかもしれない。もっと遠くへと大声を出したい所だけれど、痛みで大きく息を吸い込むことが出来ない。つまりそれは火炎放射とかの威力も落ちるという事...護ると言っておきながら、哀れね...。
「久しいなぁ。まさかこんな所にいるとはなぁ?」
「馴れ馴れしいわよ災いポケモン...。とっととアタシ達の前から消えて...」
「いきなり酷い言い草だねぇ? 俺はわざわざ来てやったで言うのに。にしても目覚めたのがイレギュラーで遅れちまった...だが、ここでアイツを捕らえれば一緒だ」
「...相変わらず人間様を憎んでいるのね。人間様の何処が気に入らず、しかもジラーチ様を襲うのよ...」
「理由か? 理由は簡単なことだ。こんな名前を付けて広めた人間を葬る為に、あいつの願いの力を使うだけだ」
「うぐ...だ、だったらお願いを素直にすれば良いじゃない。それだけでしょ?」
「ホントにコイツが叶えるとでも思ってんのか? そんな訳ねぇだろ。だから力ずくでも奪って、痛み付け、言わなきゃ殺されるような環境を作るだけだ。序に他の願いも叶えて貰うけどなぁ?」
「そ、そんな酷い事を...ジラーチ様を、アブソル族なんかに渡しはしないし触れさせもしないわ!! 火炎...ほうしゃ!」
静かに溜め込んでいた火炎放射を、私は一気に発射する。それはまっすぐに飛ぶけれど、速度が遅くて簡単に避けられてしまった。私は痛む身体にムチを打ってアブソルから距離を取って口元にエネルギーを再び貯めた。けど今度に溜めているのはエナジーボール。気力やスタミナ、一言で言うなら身体のエネルギーを球体にして相手へ放つ攻撃技...。
この状態で放つのは危険行為だけれど、動き回るならこの技じゃないと火力が安定しない。それにもう一つの技、唯一無二の物理技であるフレアドライブは身体に負担が凄い掛かる。だとしたらやることは一つ...一撃勝負!
「ヒョロヒョロだなぁ? そんなクソッタレな技じゃ、当たらないぜ?」
「...エナジーボール!」
「だから、そんな技は当たらねぇって...なっ!? やべぇ目が!?」
「くっ! 見にくい...けど、この程度なら!!」
私はエナジーボール二つを放った後に、その二つを喰う中で衝突せて強い光の爆発を起こし、アブソルの視界を奪う。私も若干に目の前が見にくくなってるけれど、輪郭はある程度は確保出来ている!
直ぐに身体へ熱を溜め込んで、身体に力を入れて技の威力を高めながらアブソルへと走り込んだ。残り距離五メートル...二メートル.........ココよ!!
「フ、フレア...ドライブ!!」
ザクッ...
「.........え?」
な、ななに今の音...それになんだか...当てた筈......なのに、なんだ...か...違和感......が.........。
「はは、あははははははっ!!! お前、やっぱり馬鹿だなぁ?」
「え、いったい...なに、が......。 も、もしかしてこれ...刺さって、る...?」
私の耳元で聞こえる声、そして動いちゃったら全て砕けてしまうような感覚と前足を伝う液体なような何か...。考えたくもない...けど身体がどんどん冷たくなっていくような感覚。認めたくないけど、どうやらそうらしい。
私の身体にはアブソルの鎌が身体に突き刺さっている事に...
「そんな...うそ...でしょ.........?」
「フレア!!」
「おっと、まさかそっちからまた戻ってくれるとは好都合だなぁジラーチ。俺の強さに惚れて戻ってきてくれたのか?」
「誰がお前なんかに!! 電撃...」
「おっと止めたほうが良いぜ? コイツが死んでもいいならなぁ?」
「ルイン様...私を置いて...逃げて.........」
「ううん、逃げないよ僕は。フレアと出会ったのはたったの五日間だけだったけど、こんなにも、こんなにも世界が広くて、綺麗で、美しいだなんて、そして楽しいって思えたのフレアが初めてだった。昔の自分なら、自分の実を守るた為にとても遠くに飛んでたよ...。けど、こんなにも、こんなにも誰かを助けたいと、傷付けた奴を! 許せないんだっ!!」
「ほう、そうかそうか。ソレは大層なこったなぁ? じゃあ、大事な奴とやらを壊してやるよ...ふんっ!」
「ぎゃあぁああぁぁぁあああ!!? あっ...あっ.........」
やばい、いしきが...とおのく...
それにさむくて...ねむくて...
ごめん、ね。やくそく...はたせな...かった.........
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「フレアっ!! そん、な...」
力無く倒れて、波動のように流れるフレアの無念な気持ちが痛い程に僕の心に突き刺さる。あの時、無理にでも押し切って戦ってればこんな最悪な結果には...。
「よくも、よくもフレアさんを! 絶対に許さない!」
「お前ごときに何ができるって言うんだ過保護王子。まともな戦闘なんて出来ないくせに...いや、まさかお前!? コイツなんかに破滅の願いを使うつもりかっ!!?」
「いや、使わないよ。そんなの使ったらこの世界は塵になっちゃう。こんなキレイな世界を出来っこないよ...。だから、僕はもう寝ることにしたよ。君を道連れにしてね...」
受け取ったスカーフを首から外して、僕はそれを手で挟むように祈りながらそう言った。あと二日、あと二日は起きられるけどフレアが居なかったら意味も無い。それに笑ってお別れしたかった。
だけどコイツがそれを壊した。だから、こんな時代にいる必要なんてもうない。意味無いんだ。
「道連れ...うそ、だろ。やめろ、やめてくれ!! 悪かった、悪かった!!」
「もうやめないよ。さあ、消えてもらうよ...」
身体に溜めていた力を光として爆発させて、アブソル、そして勿論フレアも一緒に包み込んで、僕はこの時代にお別れを告げた。アブソル族を滅ぼす願いと、キュウコン族は役割を終えて末長く幸せに生きてと願いながら、僕はまた千年の長い眠りについた...。