接触 - 後編
アタシがリファルと出会ったのは、他ギルドを招集した大異変。それを単独での調査をしていた時だった。確か当時のアタシは17才か18才の頃で、まだソロ活動を警告をして無かった時だった。因みにリファルも当時はソロだった。
それはともかく起こった異変、それはダンジョンが島の広範囲に肥大化した事だった。まさかそんな事が起こるなんて異例だったし、その事に関しての緊急招集調査は初めての取り組み。それもあって、統括不可能でバタバタしてたのを覚えてる。
異変が起きた島の名前は"ヴィシリア島"。今の通称は"伍黄の孤島"のはず...はっきり言って何が何だか揉みくちゃだった。だから中には好奇心で先に向かったチームもあったり...つまり、統制が取れてなかった。何を隠そうアタシもその一人で、リファルもダンジョンに潜ってた。
しかも"リッジサイド"と後々決められた山の尾根を通るルートは、野生の数は少ないが一体一体が強力という、当時ランクでは敵わない場所に迷い込んでいた。その他には中央の"フォレストサイド"は最短ルートの代わりに視界が悪くて、光源が無ければ迷ってしまうルート。最後に西側の"リバーサイド"は川沿いに進むルート。これは野生のレベルは低いけど、氾濫原、河岸段丘、渓谷と地形が変わるなど、他の二ルートと比べて倍以上の長さがあるのが特徴だった。因みにダンジョンになって無いは平野部の南エリアと、北のちょっとしたエリアだけ。
そんな事など分からなく、その危険なリッジサイドに迷い込んだアタシは、運良く...いや、運悪くかなり奥の方まで進んでると、さすがに敵に出くわした。敵は草タイプのハッサム...余裕と思ってた。けど、さっきも言った通りリッジサイドは敵が少ない代わりに強力で、あっという間に苦戦を強いられた。当たり前だった、シルバーがダイアモンドランクの強敵に挑むようなものであり、殺されてないだけマシってレベルだったから...。
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「や、やばい...つよ...過ぎる.........」
至る所に切り裂かれた傷に耐えながら、少しずつだけどハッサムにダメージを与えていた。だけどアタシが一回当てれば、相手も一回程攻撃をしてくるようなもので、どちらが力尽きるかは時間の問題だった。最悪は逃げる...その選択肢もあったけれど、蓄積ダメージと相手の素早さから考えて、後ろから切り裂かれる場合もあった。
「...くぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
「やばっ!? 守るっ!! ...っ! ア...ア、ンテールっ!!」
雄叫びを上げて、ハッサムが凄い速度で突っ込んでくる。慌てて緑のバリアを張ったのと、腕の刃物がギリギリで間に合って、ハッサムがその反動で仰け反る。その隙を見逃さず、半ば強引ながらバリアの中でアイアンテールを準備して内側から自分でバリアをぶち破ってアイアンテールを叩き込こんだ。どうやらクリーンヒットしたらしく、ハッサムは大樹にふっ飛ばされて、動かなくなった。どうやらなんとか倒しきれたよう。でも守る発動中に無理やりアイアンテールをねじ込んだせいで、激しい頭痛に動けなくなってしまった。混乱とかの状態異常なんてもんじゃない、内側から頭に何かされてるような、立って居られない程の凄まじい痛み...。
「あっ...がっ.........」
頭の痛みで意識が遠くなる、だけどその痛みで意識が覚醒され続ける生き地獄...狂っていく。それがどのくらい続いただろう...たぶん10分近くはその痛みに苦しんでると、ハッサムが目を覚ましたのが見えた。アタシは痛みにすがる思いで殺してくれ、楽にして...そんな気持ちしか無かった。
ゆっくりと近付く足を引きずって歩く音、ガリガリとアタシを切り裂いた鎌が地面を抉る音...そして、アタシの前に止まって振り上げたのが見えた時.........
「どりゃぁぁぁああああっ!!!」
「ぐぉぉぉおっ!!?」
それは一瞬だった。振り落とされる手前で同じく緑色の物体が玉突き事故のように吹っ飛んで行ったから。その人物こそ、パートナーになったリファル...あの時に助けられなきゃ、アタシはそのまま死んでいた。ともかくふっ飛ばしたリファルはアタシを何も聞かずに背負いながら、今までアタシが通ってきた道を全力疾走で戻った。そして、気が付いたら手掘りされた小さな洞窟で手当された状態で寝転がっていた。起きた当初は何が起きたのか分からず、痛む体を無理やり起こすと、
「うぐっ...こ、ココは...?」
「ん........起きたか。大丈夫か?」
多分私の声が聞こえたんだと思う。リファルは木から飛び降りて、私に近寄ってきた。最初は身構えてしまったけれど、薄れ意識で嗅いでいた匂いと一致してる事が分かったから、すぐに緩めた。それに、何か変な事をして来る人でも無いと分かったから。
「...え、ええ...まだ頭が痛いけど.........」
「頭か...所々に傷はあったが、顔や頭には目立った外傷は無さそ...おっと、俺の名前はリファル。ランクはプラチナのソロだ。見たところてめぇもソロのようだが...」
「ええ、アタシはフィリア...ランクシルバーよ。その、助けてくれて、ありがと。にしてもプラチナって...」
「ランクなんて飾りだって事は、今さっき身体を持って証明しただろうが。あそこまでダメージを与えてくれなきゃ、ココまでスムーズに助け出す事など不可能だったぞ。全く、よくあそこまで戦えたもんだ...てか、褒めるに値する馬鹿だ」
「ば、バカって何よっアンタ! あっ...」
確認しながら褒めてるのか、分からない言葉を浴びせられ、ついアンタ呼ばわりで怒鳴ってしまった。咄嗟に気が付いて口元を抑えるけど、もう遅い。言ってしまったのだから。それに肩を少し震わせて、後ろに顔を向けてしまっている...やばい、謝らなきゃ!
「あ、あの! ごめんなさい! ...って、あれ?」
「...ふふ、はははっ! やっぱりお前気に入った! フィリアだな、俺とパートナーにならねぇか? それに珍しいイーブイ族で、ビビッと来る奴を探しててなぁ?」
「え、な...パ、パートナー!? ちょ、アタシ達初対面よ!? それで、パ...パートナーなんて...そっちこそばっかじゃないの!?」
「...あー、おめぇよ。まさかパートナー意味、間違えてねぇか? 俺が言ってるパートナーは共に救助隊や冒険隊をやりたいって事で、てめぇが考えてんのは恋人としてのパートナーだろうが。流石に後者は早すぎんだろ、馬鹿か? いや、馬鹿か」
いやいやいや!
笑い掛けながら手を出してきたのはまだ良い。けど手の平を上にして、私に向けるように出されたらそう思うわよ!
その手はエスコートする、守る、危害へ加えない、色々な意味を含んでいるのに、それを笑いかけながら平然に出してくる。そんな事されたらまさか、そっちなのかも知れないって焦るに決まってるじゃない!!
「う、ううるさい!! そ、そのくらい分かってたわよ!!」
「答えが違げぇだろ。パートナーになるか、ソロでこのままか、てめぇはどうしたい? 言っとくが、少なからずこの先でソロでは活動禁止令が下るのは容易に判断出来る。それを踏まえて聞いてんだコッチは」
「...っ! そ、そう...なのね」
「っで、答えは?」
「ちょ、ちょっとは考える時間を設けなさいよ! あーもう.........ええ、よろしく頼むわ。リファル、さん」
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懐かしいわね...今でもこの事を思い出す。そして毎回にちょっと笑いと怒り、ウルッとした熱い物が込み上げてくる。ああ、駄目ね...思い出せば思い出す程に涙が止まらなくなる.........。
「うぅ...リファル.........何処にぐすっ、居るのよ...。アタシを置いて消えるなんてぇ...ぐすっ」
ああ、もうそれだけしか思い出せない...ツーンとしてたけど、逞しくて、優しくて...それに、あの事件が終わったら結婚しようまで決めてたのに.........。
「うぇぇ......ひっぐ.........」
アタシは暗闇で、静かで、いつも以上に思い込んじゃって、歩く足も自然と止まって泣き崩れてた。いや、もう歩きたくも無い.........
そしてアタシが泣き止めたのは、泣き出してから約一時間近く経ってからの事だった。
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Side リーフ
「...あれ、リーフだけ? フィリアは?」
「あわわライトさん!? だ、だいぶ早いお帰りで...」
「うん、予定が思った以上に早く終わっちゃってね。それで今、何してたの?」
「い、いえ特には...予定より早く、しかも真後ろで声がしたのでビックリしちゃいましたが」
「あはは...それは謝るよ、ごめん。そうだ、本題を忘れるところだった。あのさ、さっき不明なリクエストが二つあったんだけど、何故か知らない?」
「ふ、不明なリクエストですか? それならフィリアさんが一時的に使いたいって、バーストモードで」
「ああ、やっぱりフィリアか。なんか大量のトラフィックがあったから何事かと思ってたけど、やめてね。軽くサーバーの処理が落ちて、電波塔から遠い場所で通信障害になってたって報告が飛んで来ちゃったから。まあ短時間的な物で、気が付いて連絡してきたのは10人も居なかったけど」
「き、気を付けます...」
「それと、最近になってから僕のデーターベースにあるウィアのバックアップにアクセス、しかも人らしいアルゴリズムが詰まったパッケージ、言語パッケージ、その他に中核になるコアシステムパッケージにアクセスして、読み取った記憶があるんだけど、何した? まさか、外に持ち出して無いよね?」
...うそ、バレてる?
バレない様に、かなり注意と配慮をしてアクセスしてた筈なのに...。他に考え付くのはフィリアさんですけど、ラインさんのフル権限を所持しているのは私とウィアさんだけ。フィリアさんにはライトさんのサーバーにアクセスする権限を持ってない。だからフィリアさんが繋いで証拠が残ったは考えられない。そうしたらココは...
「な、なんの事ですか?」
「...まあ、知らないならいいんだ。だとしたら、僕が秘密に作ってたウィアの弟に当たる"シャイン"を、起動させたんだね。ウィアを驚かす為に、弟が欲しいなぁとか言ってたから秘密に作ってたのに」
「...ココまで言われれるととぼけるのは無理ですね。ですがライトさん、アナタも何か隠している事がありませんか? ザルーアさんとカウンセリングルーム、話しの終わり際で」
「っ!?」
...バ、バレてる。しかもシャインの事だけじゃなくて、ナルト病院へアクセスした事までも。だとしたらコチラも仕掛けますか。シルクさんに関する一軒を、そうした動機を聞くために。
「...シャイン、君が病院にアクセスしたね。しかもウィアが色々飛び回って入手してたキーストレージを使って。そりゃ玄関を普通に鍵で開ければ警告やら出ない訳だ...ん、アクセス拒否? ...え、高位権限による自動拒否って何これ!?」
「一言で言うなら、ライトさんの権限をフリーズさせましました。復活させたければシルクさんに何をしたか...答えて下さい。話はそれからです。それに、ザルーアさんに関する情報も、全て」
何か操作をして確かめられる前に、私はとあるプロセスを起動した。そのプロセスはライトさんのアクセス権限を凍結し、使えなくする仕組み。フィリアさんとシャイン君とで作った奥の手だったけれども、バレてるなら仕方がない。
「.........僕に向かって、そんな事を言えるようになったんだねリーフ。だけど、これ以上隠すのは無理そうだ。話すよ、事の全てを」
「なら、録音させて頂きます」
「...なんだか尋問されてる気分だ。まぁともかく...第一に、シルクが帰ってこないのは僕が原因。僕がシルクに...見たであろう通りに、薬品を注射した。それは脳にある記憶に作用し、記憶を思い出せにくくする、言うならば外部衝撃における合併症に似ているかもしれない」
「そ、それは...捕まるって、分かってやったのですか? ...仲間に対して、どうしてそんな事が出来るのよっ!!」
「僕だって、やりたくてやったんじゃない! コレはあの人が...っ!」
あの人が...つまり、その言い草だと何か命令されてやったって事?
この線で言うならばザルーアさんが怪しいとなるけど、まさかあの人が今回の黒幕だなんて思いたくない。いや、もしかしたらザルーアさんも誰かに命令された可能性も...?
コレは聞き出さなくては。もしそうであるならば、私達はずっと敵に情報を渡していた事になる。そんなのまずいの一言じゃ済まない。二回ほどミウさんとも会ってるし、三神のアルタイルさんもある。当然ギルドの親方だって、弟子がお世話になった事があるし、ナルトシティのギルド自体かなりお世話になってる。つまりそのへんの情報も全部筒抜けになってる事とイコールされるから。
「...ライトさん、全部吐いて下さい。出来るならば警察に突き出したくありません。誰に、どうして、どのように、この事が起きたのか...説明して。それに自分から話すと言ったの...あれ、ウォルタさん? 確かフィリアさんと共に調べに行った筈では?」
「あーうん。その事に関しての報告にしに来たって感じ...ですね。それと聞いた感じ凄い怒鳴ってましたが...シルクの事、そしてザルーアさん、ライトさんに絡む事ですよね?」
「そうですね。そうしたら...先に、ウォルタさん報告をお願いできますか? ライトさんに関しては、その後でじっくりと」
「うぅ.........」
「は、はい!」
ライトさんに怒り混じりに聞いていると、ふと部屋のドアが空いた。それに気が付いた私は振り返ると、何やら悩み顔のミズゴロウ、ウォルタさんが立っていた。どうやら報告があって来たようだけれども、私の声を聞いて何事かと思ったのかも知れない。だから入って良いか悪いか迷ってたら、センサーに認識されて扉が開いて固まってたから。
そんなウォルタさんを部屋に招き入れると、思ってた通りシルクさんに絡む情報らしかった。だから私はライトさんへの質問を一旦やめて、ノートパソコンを小上りに持って行ってウォルタさんを呼んだ。
「少々お待ちを...良いですよ」
「は、はい...えっと、まずザルーアさんに関して報告です。やはり人に聞いてみても真っ白ですが、あの歳で少し悪戯をする癖があったようです。過去に言う事を聞かない子供に冗談で怖い事を吹き込んだ事があり、その子が怖がって逆に手が付けられなくなってしまったそうです。それで本題ですが...ザルーアさんがライトさんに使わせた注射の液体は"ただの食塩水"であり、そうなる事はザルーアさんから直接シルクさんには連絡が行っていたそうです」
「...え、それってどういう...」
「ズバリ申しますと、ザルーアさんはライトさんに対してお灸を据えたかった、との事です。そして本題のシルクは、同じくエーフィのリアンさん共に、ライトさんがザルーアさんに渡した"闇に囚われし者"を元に戻す為の薬品を開発してます。それが完成すれば、自然とアーシアさんを元に戻せるかもしれない薬の前提になるらしくて、それの為に二人は、いえ、二人とザルーアさんとで開発中途の事でした」
「...と、と言うことはつまり...シルクは、本当に自分の意志でアーシアちゃんを直す薬になるものを、開発してるって事ですか? それと、ライトさんはザルーアさんにお灸を据えられたと...」
「はい...どうやらザルーアさんは連絡を入れたいとは思ってたらしいのですが、タイミングが合わず、日数が経ってしまったみたいですね。ちなみにこの情報は全て、シルクから聞いた事です」
「...そういうことだったのですね。つまりお灸を据えるつもりが、問題まで発展してしまったと.........はぁ、困ったお方ですよザルーアさん...。 ウォルタさん、ご報告有難う御座いました」
まさか、事件の結末がこんな事だなんて思っても居なかった...。にしてもお灸を据えたかったですか...一体何をしてそんな事に?
まあそれは、ザルーアさん本人から聞くとして...
「ううん、僕もシルクが大丈夫って分かっただけでも収穫ですね。では僕はギルドの方にも報告して、そのまま戻るので、もし何かあったら連絡をお願いします。あ、それとシルクさんがこの事はフィリアさんに言わないでって口止めされました。聞いたら連れ戻しに来るだろうし、そうなったら研究を長く続けられなくなるからって。それとリアンさん本人にも」
「は、はい分かりました。 ...えーと、ライトさん.........ごめんなさい。犯人扱いみたいなことをしてしまって...」
「いや...コレは僕も悪かった...。でも、良かったとも安心してる。シルクがこのまま違う人になったらどうしようかって、ずっと不安だったんだ。だから単純な事でもミスをしてたし、出来る限りみんなとも顔を合わせたく.........」
「...っ!? ラ、ライトさん!? しっかりして下さいライトさん!!」