接触 - 前編
Side リアン
「...ん? フィリアさんやんか」
「え...リ、リアン? な、何故ここに...」
「何故って、呼ばれたから来たんよ。それ言う二人も呼ばれたんやろ?」
「いえ、僕たちは違いますよ。あ、僕の名前はウォルタって言うんだ、宜しく。ところで...お隣のエーフィさんは?」
「ああ、この人はエルザさんって言うんや。隣りに居るのに言うのは御法度やけど、見ての通り無口だけど僕から見れば、覚えの良い凄い人やで。助手かいつも居るパートナーとして欲しいくらいやな」
「パッ...」
そう言いながら僕はエルザさんを見る。すると驚いたような顔をして、じっと見る僕の顔に何か付いてるんやろか。そう思って見てる場所を右手、という手も右前足やけど、ともかく右手で顔を撫でる。でもそれをやり出したら、急にそっぽ向いて作業の続きをやりだした。うーん、なんだったんだろう。
「あ、そう言えば呼ばれたんじゃないならどうしてココに居るん? それに、なんか話し合ってたみたいやけど」
「...先に聞かせて。さっき呼ばれたって言われたけど、誰に呼ばれて、何の目的で来たのよ?」
「理由が分からんけど、なんだか口調が尋問されてるみたいやなぁ...。まあともかく、僕が呼ばれた人はザールア医師で、理由は難病を持った人達を多くでも救う為に新薬開発...ってとこやね。どうやらセミナーを受けてた時に気に入れられちゃったみたいなんや」
「それで新薬の開発に?」
「そやね。因みにエルザさんも前のセミナーで気に入られたらしいで。本人の口から聞いてないから知らんけども」
「そう」
「...ねぇ、エルザさんだっけ。まさかと思うけど...シルクだったりしない?」
「.........誰それ」
「シルクって"あの本"の作者やん! ちょっと待って、さっきウォルタって言ってたけど、もしかして君も書いた人っ!?」
凄い、まさかお気に入りのあの本の原作者、しかも考えてみれば本人も参加してたって言う。フィリアさんに関しても知ってたけど、あの場では控えてって言われてたけど、なんだか凄い人達と繋がれちゃったなぁ...
「うん、僕も書いたよ。っと言っても、主にやってくれたのはシルクだったけど」
「一応、アタシも販売貢献はしたりしてたけどね。電子書籍として」
「流石フィリアさんやね! しかも僕はその電子書籍版と書籍版で二つ持ってるんやで! いやぁ...すごいわぁ...」
「ふふ、そう言われると苦労して電子書籍を作って良かったわ。ところで...ん? どうしたのリーフ」
『えーと、お取り込み中でしたらすいません。ザルーアさんに関する情報収集が終わりました』
「ん、ザルーアさんの情報収集ってなんの事や? しかも君はもしかして...リーフさん?」
『あっ、他の方もいらっしゃったのですね...。っとその前に、確かに私はリーフですけど...貴方は?』
「やっぱり! 僕の名前はリアンって言うんや。リーフさんに関しても書籍や電子書籍で知っとる感じやね。うわぁすごい。まさかフィリアさん以外にも会えるなんて...」
『...えーと、つまりシルクさんやウォルタさんが執筆した"導かれし者達"を読んだファン...って言う事で良いのでしょうか?』
「そやね!」
「なんだか凄いわね...っで、リーフ。このままデータ開示して良いわよ。悪い人達じゃないから」
『りょ、了解しました...では報告させて頂きます。ザルーアさんはまずセントラル病院、別名ナルト大病院の中核に位置する人物であり、コレまでに様々な人を救ってきた名医とされています。そしてこの中には...いえ、本の内容を借りるなら、導かれし者達とされる別世界の人達とライトさんやフィリアさん、ギラファさん、私のような私達と深く関わりのある人物です。一応その他の顔として、医療関係のセミナーや、将来有望そうな人材のヘッドハンティングも行っていたとの事です』
「なるほど。それ以外には?」
『えーとですね...それ以外には幼少時代はどのように過ごしたか、どのようなキャリアを積んで今の立ち位置に居るのか、そのような事しかありませんでした。現状、今ある情報から判断するとなると真っ白です』
「真っ白? な、なんかその感じだと裏を調べてた...感じだったりするん?」
リーフさんの言葉を聞く限り、そのような事を話してるとしか思えへんかった。何かあった分からんけど、ザルーア医師は何かをしている...?
「...リアンなら言っても良さそうね。リーフ、さっきまでの資料全て出して」
『ほ、本気で言ってるのですか?』
「本気よ。問題は無いって、アタシが保証するわ」
『...分かりました。データ開示する為の準備します』
「頼んだわ」
「フィリアさん...本気なの?」
「ええ。それにリアン、そこに居るエルザさんって人も、今更聞かないでって言っても意味無いし、だったら協力者を集った方が得よ」
『...準備出来ました。フィリアさん、近場の壁に』
「ええ」
ーーーーー
Side ウォルタ
「...と言うわけよ。だから結構ゴタゴタしてるというか、混乱しているというかって感じなのよ」
「お、思った以上に凄い事になっとったんやね...」
「.........」
粗方で現状を話し終えたフィリアさん。内容についてリアンさんは控えめで苦笑いを返してたけど、エルザって言うエーフィは顔色変えずに、そして喋ろうともしなかった。最初こそ僕が思った通り、この人はシルクなんじゃないかと疑っていたけれど、あまりにも雰囲気が違い過ぎるし、一番にスカーフを巻いていなかった。それにリアンさんと同じくメガネをしているけれど、そのメガネだって見た事が無いデカ縁の黒メガネなのも踏まえると、別人なのだと、考えるのをやめた。
「不安やから協力したいんやけど、僕なんかに何か出来るか分からんわ...」
「シルクと同じような研究者サイドだしね。あ、ところでギアは? 分かれる前は付けてたじゃない」
「ギア? ギアなら上にあるんよ。地下は繋がらないし、持って来る必要は無いって言われてもうて。にしても繋がら無いなんて思って無かったんやけど、フィリアさんは無問題で通話しとったな? やっぱりZギアAMやっけ、構造が違うんやね」
『...ちょっとフィリアさん? どこまで話しちゃったのですか?』
「リ、リーフまだ回線繋げてたの!? てっきり切断してたのかと...」
『...忘れたのですか? ネットワークバースト中はずーっと回線を繋げたままにする機能も組み込んであると。そうしておいて欲しいって言ったのはフィリアさんからですよ? 切りたいならそちらから操作してもらわないと』
「...そうね、じゃあ一時的に切るわよ。 はぁ...忘れてた」
「な、なんか珍しいねフィリアさんが...」
「あはは...たぶん、アーシアも心配だし、シルクも心配で頭が一杯になってるのかもしれないわね...」
シルクとフィリアさんはとても中が良かったし、アーシアさんもシルクと同じように無理しがちだし、色々と思うことがあるんだろうね...。
「ところで、リアンさんとエルザさんはここで何を? 新薬開発ってのは、さっき聞いたけど」
「そやね。一応極秘になっとるけど、ふたりなら安心やね。新薬の名前はリジェネレーションと言うて、今まで困難とされて来た、本を借りるなら"闇に飲まれし者"になった人達を救う為の薬。元データは有名なライトさんからで、ザルーアさんがそれを受け取ったみたいやね。あとは、難病指定の病気を治す為の新薬開発。まあ優先度はリジェネレーションをやっとくれと言われとるけど」
「...それ、本気?」
「本気やで、実際にやっとるし。だけど人体実験するわけも行かへんから、ダミー標本やけど...」
「...そう、ありがと。それでザルーア医師は今何処に?」
「パブリックスペースに行くって言っとったな。ココを出て、右に行けば案内看板で分かると思うで」
「右ね。ウォルタ君、悪いけどココに居て貰える? 私だけちょっと行ってくるわ。それと、一応でリアン案内を頼んで良いかしら?」
「分かったで」
ココに居てと言われてなんでと思ったけれど、ギアを指さしながら言ってきたから、たぶんザルーアさんと会ったら通話を繋げようとしてるのだと分かった。二人で行ったら連れてこないといけないし、通話なら場所を移動しても問題無いからかな。にしても無口な人と待つのかぁ...大丈夫かな、僕。
ーーーーー
Side フィリア
「えーと、どこやったかな...この辺にあったはずなんやけど」
「つまり、ドアが消えたって事?」
「やねぇ...光る端末もあったから、それを目印にしとったんやけど、それもあらへんし」
「だとしたら...スキャン」
ドアが消えたって事は、少なからず空間はあるはず。だと思ったアタシはさっきココを見つけたように、スキャンしながら歩いていく。その後ろをリアンがテクテク付いてきて、左右をチラチラ見て、多分だけど探してくれていた。
「んー、これと言って見つからないわねぇ...ホントにこっち?」
「その筈なんやけど...駄目なら逆に向かうのもありかもしれへんね」
「まあそうしかないわよねぇ...しょうがない。リアン、左手を出して」
「ん、なんでや...って、そのギアは?」
「保険用のギアであり、ちょっとこのモデルを付けたくない時に変える用のスペア。アタシが付けてるモデルとは違うけど、市販されてるギアより性能は弄ってあるわ。一言で言うなら"導かれし者達"が付けてたモデルね。元の世界に帰る前に回収してたのよ」
アタシはそう説明しながら、リアンの左腕にはめて電源を入れる。入り切った後に、リアンとアタシもエラー音でビクッとするけど、生体認証ロックをしていたのを忘れ出ただけで、アタシが持ってるギアから認証をすれば、すぐに鳴り終えた。まあでも、確実にウォルタ君には聞こえてるだろうから、一言だけメールを飛ばしてっと。
つ
「...結構大きい音が出るんやね」
「防犯アラーム、と言ったところかしら。そのギアは生体認証ってのがあって、アタシ以外が使うと警告が鳴るのよ。っと言っても、元導かれし者達が付けてたギア全部に生体認証が組み込まれてたりするのよね。まあ奪われた時の保険と、バイタルの確認がメインだけど」
「へぇ...なんか、うまくやったら医療用のギアとか作れそうやね。患者のバイタル状態を遠くで常時確認出来たりとか」
「...その考えは無かったわ。案だけ貰っていい?」
「そのくらい構わへんで。あとギアを渡したって事は、僕も捜索に参加してって事やね?」
「そうよ。モードは起動してあるから、なんか壁に違う反応あったら教えて。アドレスも入ってるから、アタシに連絡は出来る。っと言っても、アタシかウォルタ君しか繋がらないと思うけど」
「電波的に...やね?」
「ええ」
首を傾げながら聞いてきた問に、アタシはスキャンしながら答える。それに納得したらしいリアンは「反対側見てくる」と、アタシが見てる方向とは逆方向に走って暗闇に消えた。ふと思ったけど、一人にして大丈夫だったかと思ったりもする。何故ならリアンの強さを、アタシは知らない。だけど、弱くなんかない。ギルドに属してた感がそう告げていた。