繋がり - 中編
Side ???
『...それでワシに協力をお願いしたいと』
「はい。難しいかと思いますが、引き受けてくれないでしょうか?」
『とは言ってはのぉ...確かにワシは担当であるけれども、それ以上でも無くてそれ以下でも無い。それに、その要望を受けてもワシには何もメリットがないじゃないか?』
「うぐぐ...な、ならこうしましょう。もし協力をして頂けるのならば、貴方の望む事を一つ叶えましょう。どんなに難しい事でも結構ですが"歴史干渉以外"でお願い致します」
『ワシが望む事と来たか...ならば.........を、頼めるか? しかも.........を無くしててな』
「...本気ですか?」
『本気じゃ。あの子は相当にそちらの方面に長けているようじゃないか。もしその子が医療の道に来れば、更に多くの人が救えるかもしれぬ。だから.........は邪魔なのじゃ』
「...意外な回答ですが、分かりました。一応本人には何とお伝えしたら?」
『それはお主が考えるべきじゃろう。そのあたりは得意分野じゃろ?』
「...分かりました。考えて伝えます。あと時間は申し訳ないですが四時間後に、カウセリングルーム404でお願い致します」
『404を使うとは保険という事じゃな。時間に関しては問題ないが、楽しみにしておるぞ?』
「はい.........」
ふう、まさかそんなお願いをしてくるとは思って無かったけれど、取り敢えずどうにかなりそうだ。問題は本人を納得させる方法だけれど、今回は名前と理由を話して、ちょっと後ろを向かせた隙きに.........はぁ、やりたく無い。
他人を生かして他人を殺すか...あはは、僕は地獄に落ちるの早いかもね。僕はずっと.........を観測し、その通りにする為に進めて時には悪役になったり、その場その場で変えてきた。結果的にコノ諸島はココまで発展させる事が出来て、今まで成し得なかった夢...もう会う事は出来ない時空での.........をやり遂げないといけない。
あのような未来や今までの災難のある過去を...再び引き起こさない為にも.........
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Side スイレン
「...ホントに、見るのね?」
「お願いナノ」
「ええ、後悔はしないわ」
フィリアさんの訪ねに、アタシとシルクは躊躇は無く返答する。その返答に迷いは無いと感じ取ったフィリアさんは、少しの間を開けてアタシを中へと案内してくれた。そして今、アタシ達はアーちゃんらしき前に居る。
大小様々なコードが繋がった装置の先にある機械。その機械の中心にある、液体で満たされたカプセルの中にプカプカと浮かぶポケモンらしき生き物。まるで眠っているようで、そのカプセル内でだいたい上下中央になる位置で。プカプカ浮いているって言ったって、アーちゃんなら水タイプなんかじゃない。だから普通は溺れて死んじゃう筈だけれど、近くにあるモニターを見るに生きているって実感が出来る。アーちゃんの病室で見た心拍計、その他に見ても全く分からない数値やグラフの数々...これじゃ、現実世界とまったく変わらない。アタシはアーちゃんを連れ戻す為にココへ戻ってきたわけで、アーちゃんを見つけてこの状態を見る為に来たんじゃない。だけど、来たところでアタシは何も出来ない...助けられない.........。
「...先に言っておくけど、ライトにはこの事を言わないで。今は自動管理でバイタルチェックしてる時間帯なのと、ライト本人が居ないから、何かあった時に大変だから」
「近寄って見るだけなら...大丈夫なのよね?」
「ええ、見るだけなら」
「...呼びかけるのは大丈夫?」
「呼び掛ける...私達の声は問題が無かったけれど、居る筈の無いスイレンちゃんの声が聞こえてきたら、反応があるかも知れないわ。だから数値に乱れがあったら警告するわ」
「分かったナノ...」
フィリアさんの答えを聞いて、アタシは改めてアーちゃんらしき姿があるカプセルに近付いて右手...今は前右足をそっとカプセルに添える。突き抜けられるならもう触れそうな位置で...
「...アーちゃん、迎えに来たよ。一緒に帰ろうよ...アーちゃん、みんな元の世界で待ってるよ...だから、ね.........」
涙声を堪えて、アーちゃんらしきポケモンに呼び掛けるけど、反応なんて何も帰って来ない。そりゃそうだよね...だって寝てる様子だし、このガラスみたいので声は遮断されるし、更にその中は液体で満たされてるし.........。
「...フィリア、調整ってどのくらいで終わるものなの?」
「どのくらいで...おおよそだけれど、このままの調整なら一ヶ月。最悪はどのくらい掛かるか判らない。今試している方法だってドリームメイカーズ研究チームのデータベースに内密で記録保存されていた内容なの。リーフが丸二日で暗号を解除して中身を抜き出してくれたわ」
「それって...フィリアがスイレンちゃんを連れてきた時に話してた事よね? ダーク化した人を元に戻す為の研究...」
「ええ。実際のところそのおかげで、だいぶこの娘にあった良く無い反応を殺す事が出来たわ。けれど大きな反応があって、しかも幾つかは遺伝子と絡みついて、無理やり引き剥がそうとすると生命に危険が生じて、修復をしようとした時に予期せぬ異常が起きるかもしれないの。ここまで来るとアタシ達ではお手上げ...だから、会議で言ってた担当医に見せるまでは現状維持って状態よ」
「それに関して言う今、お話しにしに行ってるのよね。流石に駄目とは言われないはずだけれども...中々に忙しい人なのよね?」
「担当医ってアタシの事を見てくれたり、アタシ達みたいな導かれし者を担当する医師の事だよね。会議で話してた」
「ええそうよ。ライトが運ばれた時に担当した医師がその人のようで、そこからずっと関係するのはその医師にお願いしている感じ...ん? なんかシルクのギアが点滅してるわよ?」
「点滅? あ...ライトさんからメールが来てる。えーと内容は.........どうやら私だけセントラル病院のカウセリングルームに来てほしいって書いてあるわ。担当医師...今更だけどザルーアさんだっけ、ともかくこの人がお話したがってるらしいのよ」
「え、なんで? シルクさんってその人と面識あるの?」
「面識...確か無い筈よ。あるとしたら本の事で聞きたい事があるのかもしれないわね。とりあえず行ってくるわ」
「アーちゃんの事ならアタシも行く!」
「いや私だけみたいだし、すぐ戻ってくるだろうから大丈夫よ。もしかしたら私の一言で納得してくれたりも、してくれるかもしれないし。スイレンちゃんは私が居ない間、アーシアちゃんを見てて」
「...分かったナノ」
「シルク、何故にシルクだけを呼んだか分からないけれど、その...気を付けて行ってきて」
「...何に関して気を付けてかが分からないけれど、アーシアちゃんに関してを考えすぎで、向かう途中で気を付けてって意味かしら? 大丈夫よ。じゃあ行ってくるから、その間アーシアちゃんの事をよろしくね」
そう言って、シルクさんはちょっと駆け足で部屋を出て行って、部屋にはアタシとフィリアさん、アーちゃんらしきポケモンだけ残る。にしても、よく顔を見ればアタシが知ってるアーちゃんと瓜二つ...当然、元の世界の顔とは違うけれど、DM事件を解決をしていた時のアーちゃんの顔には間違いない。ブラッキーだった時の面影は無くて、大きさ的にイーブイである事には間違いないけれど、姿はイーブイじゃない何か...。
アタシは改めてカプセルに手を添えて見てみると、毛並みも茶色じゃなくて黒主体に染まって、ブラッキーのようかと聞かれようものなら全く違う。黒は黒と言っても艶のない真っ黒で、所々で毛並みが跳ねてトゲトゲしてる。だけどそれ以外は変なところは無いし、姿というか骨格は普通そうだし、顔だって怖い顔をしてる様子じゃない。寧ろ安眠しているような...アタシが夜中に起きちゃった時に見たアーちゃんの顔そのものだから.........。
「アーちゃん...アタシはココに居るよ...。お願い...少しでもいいから...アーちゃんの声を、アーちゃんの笑顔を...見せてよ.........」
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Side ウォルタ
アーシアさんにも関する会議が終わってから、二週間が経った。その前に起きていた大きな地震の影響もだいぶ復旧が整って、街のみんなは元の生活に戻りつつある。だけど未だにミウさんとウィアさんは戻って来ていなく、シルクに至ってはアーシアさんの為に人が変わったのように病院に泊まり込みで医学を学び、僕たちと接触を全くしなくなった。
いや、しなくなったんじゃない。本当に別人になって、まるで僕達の事は頭の中から無くなっちゃったみたいだった。こうなったのも、ライトが担当医と話しに行った日に、どうやらシルクもあと呼びで向かった事は知ってる。そこでどんなやり取りがあったかは分からなかったけれど、その日は帰って来なかった。理由はライトから"アーシアさんを元に戻す為に暫く医療の道に没頭する"の一言だけだったって説明された。その言葉にはシルクならそうするだろうって、理解は出来た。
だけど三日、五日、一週間も連絡無しでシルクが何かをするなんてあり得ない。だから僕はセントラル病院に向かって、シルクを探した。確かに似た人は居たけれど、いつも付けてたイヤリングは無かったし、トレードマーク...と言うより無くてはならないスカーフすら着けてなかったから別人だと判断した。シルク...シルクはいったい何処に居るの?
こうなったのも呼び出されて行ってから...疑いたくは無いけれど、ライトか担当医のザルーアがシルクに何がしたんじゃないかって、思いたくないけれどそう思っちゃう。しかもギルドにも連絡が入っていないらしく、ギアはずっとオフラインのままで、インカムも無いから連絡も出来なくて、スカーフを使った意志疎通も出来ない。そんなこんなで足取りが掴めなくて既に二週間...同時に疑問を抱くフィリアさんと調べる事になった。
「うう、まさかシルクまで居なくなるなんて...こうなるならアタシも付いていけば良かったわ.........」
「フィリアさん、悔しいや後悔したって物事は元に戻りませんよ。変わりに今する事は、シルクを見つけてアーシアさんを元に戻して、モルク君とスイレンさんにアーシアさんを元の世界に返すのが、僕達の目的なのですから。その後の事は、僕達で、自分の世界は自分で守らなきゃ。またアーシアさんが不安にならない様に」
「そうね...託したと、私は言ってたけれど自分の世界は自分で守らなきゃ。いつまでも他人に任せて、自分達は温室で温々してる訳には行かないわ!」
「してる訳でもないですけどね...それで、まずはシルクさんの足取りを確認する為、不本意ですがセントラル病院のデータベースに侵入して防犯カメラの記録を確認しますか? 多分これがシルクさんを辿る一番の近道かと思います」
「そうね。じゃあリーフ、やっといてくれる? 私はウォルタ君と先にセントラル病院に行ってくるから、最悪躓いたら私の方から何かして手助けするわ」
「...うーん、でしたらナビゲーターとしてシャインさんとやってみます。シャインさん、お願い致しますね?」
『ボクが...? う、うん、頑張ってみるよ』
「シャインさん? えっと、ウィアさんみたいな感じの...ネットワークピクシー...だっけ?」
リーフさ...えーと、ソープさんがシャイン君?さん?に呼びかけると、部屋の四隅にあるスピーカーから頷き声が響く。その感覚に、僕はうろ覚えながらウィアさんが現実世界の身体を持つ前の時に言っていた言葉を思い出す。確かネットワークピクシー...そんな名前だった気がして、聞いてみた。
「まあそうね。けどウィアちゃんより高性能じゃなくて、本当にナビゲーション特化型な形ね。だから最初から言語能力とか...今はそんな話じゃないわね。ともかく、私達の助けになってくれる良い子よ。あと一応だけど男の子の筈」
『あ、あの...一応データ上ですと男に設定されてます...。けど基盤データがお姉ちゃんと言いますかウィアさんの物なので...なんとも.........』
「まぁー...う、うん、とりあえず行動開始と行きますか。じゃあ行ってくるから頼んだわよ。それとアーシアちゃんのバイタルチェックも忘れずに頼むわね」
『はい、そこに関してはお任せ下さい! では、ウォルタさんにフィリアさん、行ってらっしゃいませ!』
「ええ、行ってくるわ!」
「行ってきます!」
シャイン君とソープさんに見送られ、僕とフィリアさんは行動を開始した。先ずは居なくなったシルクを見つける為、アーシアさんを助ける為に.........