二択
Side リーフ
「...ふう、リーフ。済まないけどあとは頼んだ。僕はちょっと外で風浴びてくるから」
そう言いながら、ライトさんはトボトボと部屋を出て行く...その背中と足取りはなんだか、とても重たそうと私は感じ取れた。それに振り返ればアーシアさんは悩んでいるような、認められて嬉しいような、なんとも言えない感情に私と目が合うと視線をずらした。私も、今のライトさんの状況を言い表わせと言われたら答えは出せないと思う。
それにしても...任せる、ですか。なんだか面倒な事を押し付けられたような感じもするけれど、これでアーシアさんが姿違えど認められ、行動出来るならそれで。一番大変なのは元の世界に戻す事だけれど、それはさっきライトさんの口から装置はあるって言ってましたし、問題は無いはず。問題はマコトさんが帰ってく...
「あ、あのー...リーフさん。ココ、出ませんか? あまりココには居たくないというか...」
「へっ? あっ、そ、そうですね。では上に戻って、色々と何があったかを、話せる範疇で聞かせて頂いても?」
「は、はい。分かりました」
...やっぱり、ライトさんが感情を露わにして叫ぶ前の言葉、そして今の雰囲気、後はこの場に来る前の会話を合算してアーシアさん以外にありえない。違う人物なら責任を取ってと言ったけれど、最初からアーシアさんな訳だし、ダークライの反応だって何かのミスに違いない。データが本当にダークライのデータだったなんて嘘かもしれないし、スキャンの見比べデータとしておいたのはダークライじゃなくて闇に飲まれし者のデータかもしれ...そっか、いま確認すれば。
そう思って私はアーシアさんにちょっと待っててと伝えながら落とされた電源を、パソコンの稼働が必要な分だけ入れ直し、直前のデータサンプル自体をスキャン、一応でログがあるデータベースの問い合わせなどをして何と見比べをしたのかを探った。沢山あるログを上から下を流し読み、気になった所をチェックを入れ、終わったところで紙データに出力して見直した。その横ではアーシアさんが紙を覗き込んでいたけれど、なんの事か分からずに首を傾げていた。
「あ、あの...コレは?」
「コレはアーシアさんをスキャンした時のログデータから、気になる所だけを選抜して印刷した物。なんだか気になることがありまして.........ん、コレは?」
「な、何かあったのですか...?」
「...アーシアさん。この場所に来る前に"ダークアイテム"やそれに関する者に触ったり、使ったりしました?」
「ダ、ダークアイテムって...異国の技を使えるようにする物...ですよね?」
「はい。身近ですとレイエルさんが使っていた"白いオカリナ"に相当する物です。心当りは?」
「一つ、あります。ギアに針に仕込まれた物を付けて、刺されて、対のギアの装着者の意識を私に流し込もうとされまして...」
「い、意識を...ですか!? ま、まさかその人物って...」
「ダ、ダークライでは無いのは断言が出来ます! だってその人は...その人は.........」
「そ、その人は?」
その人、そこから先は口籠って、答えてくれなかった。何度聞いても、答えられないものは答えられないと...。そこからそれ以外の事は答えてくれたけれど、やっぱりアーシアさんを襲った人達については口を割らなかった。様子的に口止めされている感じで、思えば今もZギアEMじゃなくてPギアのプロトタイプを付けて、何故か外したがらなかった。まさか...盗聴器でも仕込まれてる?
「ねぇ、アーシアさん。そのギア...見せてくれませんか? いえ、見せてください」
「え、いや...です。弄られて変な事をされたら...」
「...じゃあ、アーシアさんは私達を危険に晒すのですか?」
「そ、そんな訳じゃ...」
「では、見せられますよね? アーシアさん、何を隠しているのか分かりませんが、何故に捉えられた貴方が戻って来れているのを見るに、ズバリ何かをして来いと命令されたのでは? そしてそのことをバラしたら私達か、他の誰かが犠牲になると...違いますか?」
「.........ごめん、なさい!」
「えっ...ひゃっ!?」
ーーーーー
Side アーシア
「.........ごめん、なさい!」
「えっ...ひゃっ!?」
やっぱり...ココに居ちゃ駄目だ。この場に居たら近いうちに何かされるのは間違いない。そう思った私は風を纏って前のめりになり、両前足がついたタイミングで蹴り出し、地上に登る為の階段を目指す。だけど、階段の手前でサイレンが鳴り響き、上のドアがどんどん閉まっていくのが見えた。
それを見た私はもっと四足に力を込め、トップスピードで駆け上がり、ドアが閉まるギリギリで擦り抜けた。だけど、待ち受けていたのは一人の人物...サイレンに気が付いたライトさんだった。
「ちょっと待った! 何があったかは分からないけれど、逃げると言うなら君を敵と見なす!」
「ち、違うのライトさん! 私は皆を危険に巻き込みたくなくて! それに、私には人質が! ...あっ」
「ひ、人質? ああ...そういう事か。だから君はそのギアに触れられたくなかった訳か。それには何かしら仕組まれててて、余計な事をしたらその人質を殺すと...ふーん、じゃあ二択の質問をしよう」
「二択...?」
「そう、二択。簡単な二択さ。一つがその子を助けて、僕達を見殺しにする。二つ目が人質を見殺しにして、僕達は君を助ける。さあ、二つに一つだよ。因みに回答を拒否するならば、何も君には協力しないし、世界を揺るがす敵として認識する」
「そ、そんなの答えられるわけないじゃっ...ひっ!? ラ、ライト...さん?」
無茶な二択に私は異論を唱えると、なんとライトさんは私に"アイアンテール"を首元に構え、更に"気合パンチ"を発動させて構えてきた。そして私を見る目は、何時もの優しいライトさんの目ではなく、睨みつけるような鋭くて脅威のある視線...見たことの無い姿に私は腰が抜けて尻餅をついてしまった。
「答えられないじゃないよ、答えるんだ。さて、もう一度聞くよ...一つがその子を助けて、僕達を見殺しにする。二つ目が人質を見殺しにして、僕達は君を助ける。さあ、どっち!?」
「わ、私は...わた...しは.........」
「出来るならば...全てを...私は...ぐすっ、助けたいっ.........」