責任
Side ライト
...まだ、僕は決め兼ねてる。このボタンを押せば、分かるけれど、分かりたくないと言う、言葉に表せない、なんとも複雑な気持ち。そもそもの事の発端は僕がスキャンを掛けて、たまたまアレのパターンを消去せずに持っていた事が原因でもあり、あって良かった気持ちとそうで欲しくなかった二択が出てしまったから。
そして今、その対象を大きな装置の台に寝かせ、本格的なスキャンをしようとしている。でもそれは表向 きで、裏向きはもし対象が本当に良くない結果となれば、この装置の拘束具から大出力の電力を放出して感電させる事ができる。
隣ではベイリーフのリーフ、今はソープと名前を変えたけれど、ソープはなんだかソワソワした様子で、僕の事と対象を何度もチラチラと目だけで見てた。ソープもこの装置が何なのかを何となく理解をしてしまっているらしく、さっきまで何度も僕に対して否定をしてきた。けれど、殺らないといけない危険人物なのか、それとも安全でいつもの本物なのか、それは対象本人にとっても証明したい事で、確かめたい事の筈...だと思う。
少なからず、対象と全く記憶のズレは見受けられなく、嘘を付いている素振りや口調、仕草は何一つもなく、全く本人そのもの。けれど、調べた波長はあの事件の首謀者であるダークライ、まさにそのまま...もしこれでこの娘がダークライなら、大変な事に間違いは無いのだから。
『ラ、ライトさん...これ、本当に大丈夫なのですか...?』
「...うん、問題ないよ。確かに大型で不安はあるけれど、輪っかの中には色んなセンサーが詰まってるだけ。だから君は落ち着いて寝てくれれば良いんだ。落ち着いてくれないとちゃんとした結果が出ないかもしれないからね。君だって、自分がそのままの身体で問題ないのか、自分がアーシアだって信じて欲しいんじゃないの?」
『そ、それはそうなのですが...身動きを封じられると、やはり不安が.........』
ガラス越しの装置に横たわるアーシアは、保険として拘束し、その事に少々涙目で不安な声を制御室にあるスピーカーから聞く。その声に僕は拘束を解きたくなるけれど、その気持ちをぐっと抑えてパソコンのキーボードとマウスを操作する。
少しして装置の各部チェックと動力チェック、比較するデータの確認を早々と済ませて、僕は一瞬だけアーシアとソープを見てからスキャン開始のスイッチを押す。スイッチを押した瞬間、鈍く低い音をしながら装置本体と言える輪っかが、寝ている彼女に目掛けて赤い光を照射させながら頭から足先までゆっくりと移動する。専門用語で言うとMRIだけれど、コレは読み取った情報と事前用意のデータを照らし合わせるだけのシンプルな装置に作り変えてある。
「ス、スキャン終了まで残り5%...4...3...2...1...スキャン終了です、ね。結果はいま算出中っと言うところでしょうか?」
「だね...さて、この検査でドクロが出るかヘビが出るか」
「...どちらも良くないってツッコミを入れたいのですけど」
「ソープ、それはもうツッコミが入ってる。さて、それは置いておくとして.........あれ、今度は結果がアーシアそのものだ。どういう事だろコレ...さっきまでダークライの反応をしてたのに」
『ダークライ!? ど、どういう事ですかライトさん!?』
「...やばい、マイク入ったままだ。えっとね...なんて説明するべきか...」
「...ライトさんが言わないなら、私から言います。まず最初に、本当にライトさんは貴方がアーシアさんなのか調べようとしていたのは本当です。だけどライトさんは貴方が食後に寝ている間にスキャニングをして、偶々に持ってたダークライのデータと一緒と結果が出た。その結果をちゃんと確かめる為にこの装置に寝かせ、それでもダークライの反応なら...反応なら.........」
『...ソープさん、その言葉の先は流石にもう分かりました。確かに、もし私がダークライなら自分でも殺してと頼んでたかもしれないけれど、私はこんな姿でもしっかりと自分の意志と願いを持ってる。自分が何者なのか、何をしているのか、なぜ危険と分かりながらもライトさんたちと接触したかも。最悪のケースは、私と分からずに闇に飲まれし者のイレギュラーとして殺されることだった...でも、分かりながらも、少ない可能性の中でダークライが私の中には居るなら.........お願い、殺して...』
「っ!? ...ア、アーシアさん!」
「ちょっ!? リーフ!」
彼女の声に、リーフは隔壁のロックと拘束を全解除して駆け寄った。流石に今の状況で不味いと思って、僕は即刻リーフごと隔壁のロックをしようとする。だけれど、流石に隔壁再起動のボタンの画面で押す気にはならなく、少し呆れ顔でスキャン装置の電源を落とし、動かすために追加で動かしていた動力を停止させていく。
止めてから暫くして、僕も近付いて横に立った。それに気が付いたリーフは彼女を背にし、蔓の鞭を出して僕を威嚇...え、なんかコレだと僕が悪物みたいな感じになってるんだけど?
「え、えっとぉ...コレ、僕が悪いの?」
「...元々はライトさんが物騒な仕組みをこの装置に元々仕組んでいるのが問題ですよ! それに寝てる少女を有無もなくスキャンするなんて...デレカシー無さすぎです!」
「い、いや...その、ね? リーフ...誤解してるようだけど、まだその娘がアーシアと確証が...」
「いえ、この子は間違いなくアーシアさんです! 今ので完全にそうだって、判断するのは簡単です!」
「リ、リーフさん...」
「...あーもう! 分かった分かった! その子はアーシアと認めるよ! その代わり、もし暴走したり暴れたりしたらリーフ、君が責任を取る事。認めさせたのは君なんだから。その代わりにアーシア、僕は君の事を色々と報告回りしないといけないんだけど、口頭で言うより隣りにいて欲しいんだけど良いよね?」
「は、はい。面倒かと思いますが、宜しくお願い致します」
「それともう一つ」
「?」
「もう一つ...ライトさん、また検査させてじゃありませんよね?」
「流石に違うよリーフ...。本来、アーシアを呼び戻しに来た二人、その事たちとさっさと今回は帰らせる事。願いで常識を覆したなら、また願いで覆せば良い訳でしょ。装置派とすでに調整段階で作ってあるし」
「ちょ、ちょっと待って下さいライトさん! 私はこの世界でまだやる事が山ほど...」
「.........いい加減にしてよ!! 君は、確かにこの世界の異変を止める事に、呼んだ事による副作用を解決費用として残ってくれた。君の活動は聞いているし、ソロ活動が出来ているのも、僕が頼み込んで申請をしているから出来ていること。シードやミウが途中に合流したのも、僕が頼み込んでお願いした事なんだよ! そこまで心配してたのに、なんで君は自分なんか、自分なんてって、自分を殺すの!? お願いだから、自分の存在を否定しないでよ!! 紛れもなく君は、この世界を救った英雄達の一人なんだよ!? ...ふう、リーフ。済まないけどあとは頼んだ。僕はちょっと外で風浴びてくるから」