Unknown06A
Side フラン
.........ん...暖かい......それに、背中で寝てるのは、ミウ?
...あれ、えーと...たしか昨日は...ご飯食べて、ミウが作った呼吸ができる温水の中で眠くなって...そのまま寝ちゃった?
「すぅ...すぅ...すぅ.........フランちゃぁん...」
「んっ...」
ミウが私のこと呼んで後ろから抱いてくる。なんだろ...やっぱりこの感じ、母親と一緒に寝てるようで落ち着く.........。
私とミウで初めて寝てた時も凄く安心できた。夢にも母親が出てきてとても幸せだった。だから起きたときにちょっと寂しくなったけど、泣く事はなかった。それに...もう泣かないんだって約束した。だけど...
「ママ.........会いぐすっ...たい.........」
「.........うぅ...」
...なんで、なんでここまでミウは...そっくりなの?
寝袋の中で身体を逆にして、改めて変身したミウの姿を見て、私は泣くのを抑えられなくてお腹に顔をぐりぐりした。ちょっと強くてミウの声がして身体がびくっとなったけど、ミウの顔を確認してみると変わらない顔で寝てた。良かった、ちょっと泣いてるところを見られなくて。
初めて寝て起きたときは目が痒くてってごまかしたけど、今日は涙がポロポロと出なかった。やっぱり三日くらい寝ると少しは慣れる?
「すぅ...すぅ...すぅ.........」
「...ありがと、ミウ」
だけど私が元気で居られる、頑張れるのはミウのお陰。ミウの変身した姿が似てるから、まるで頑張ってるところを見せてるみたいだから。そう思えばミウがニューラで戦うところを見てない。もしかして私のため...考えすぎ?
「...もう少し、甘えても...イイよね。私を助けてくれて...ありが...と.........」
「.........ふぅ...」
小さく呟きながら身体の向きを戻す。その時にミウの手を握って目を瞑ると眠気が一気に来た。だから私はその眠たさに任せて眠りについた...。
ーーーーー
Side ウィア
...はぁ、中々にこのダンジョンは集めたデータがここまで役立たないとは思って無かった。たしかに天候や気温や敵とかグチャグチャなのは分かってた。不幸中の幸いなのはどうにかアーシアさんが一晩寝たら完全に復活していた事。このまま回復しなかったら、本当にどうしようかと悩むところだった。
それに見る限りは全員のバイタルは無問題。不安だったアーシアは勿論、ミウも通常通り、フランちゃんも全く問題なかった。食事量も問題なかったし、至って健康体と言える。
「ウィア? とりあえず今日はどの階層まで降りる?」
「えっ、あー...予定としては昨日で10でしたので、通常通りなら20ですね。ですが今は5階層目なので15で良いかと」
「まあ、そうね」
「質問ですが、確かここからが本番とウィアさん言ってましたが...どう変わるのです?」
「ん、気になる」
「えーと、それはですね...」
アーシアさんの質問にフランちゃんもちょっと身を乗り出して聞いてきた。だから私はどう変わるのかを簡単ながら説明を入れた。
変わると言っても敵の出現数が増加傾向になって、強い敵と弱い敵の差がとても開き始める。そして下に行けば行くほどに時空の狭間が増えること。敵は臨機応変にどうにかするとして、問題は時空の狭間。
まだ資料が纏まりきっていないけれど、恐らくダンジョンで見れる"闇に囚われし者に変貌する原因"で間違いがないのはまず分かってる。つまり触ったり、吸い込まれたりするだけで理性を失う。それで理性を失うだけならまだ良い...問題は"凶暴化する"ということ。
例え話しで一般人が闇に囚われし者になっとして、そこまで脅威な囚われし者になるケースは少ない。もしそれが一般人じゃ無くて探検隊や救助隊、ギルドに属して戦える人が飲まれたら?
それはかなり脅威となる敵となり、倒せる人物も限られてくる。それで討伐できたなら良い、もし破れたら...もう考えたくない。
「強い敵と弱い敵の見分けある?」
「...へっ? あー、無いですね。戦って見るまで分かりません。ですが避けられる戦闘はなるべく、ここまで通りに避ける予定です」
「最終階層がどうなっているかまだ分からないのですよね? それに昨日の事が無いとも限らないので、回復薬とかなるべく温存したいかなと」
「そうよね...アーシアちゃんの言う通り、温存するべきよ。前日は直ぐにセーフエリアに入れたから良かったものの、次はそうなってくれる確証はな...ん?」
私達の前を歩くフランちゃん、その後ろにミウ、アーシアさん、私と続いて歩いていると、フランちゃんから敵の見分けを聞いてきた。ほんとにそれが出来ればもっと安全に行けるのにと思いつつ、無理なことを伝えた。するとフランちゃんは特に顔色を変える事も、何時も通りの表情のまま「ありがと」と言ってまた歩き始めた。
確かに...フランちゃんの言う通り敵の強さが分かればもっと安全に攻略できるかも知れない。いや、知れないじゃなくて出来る。だけど流石にそんな機能をギアに実装するなんて無茶が過ぎる。敵の位置がある程度分かるだけでも中々あり得ない機能をしているのにも関わらず...。
そんな事を思いながら歩いていると、フランちゃんが不意に立ち止まって、手で私達を静止させた。何事かと思ってフランちゃんの真横まで歩いて、通路を開けた場所を見渡すとその意味が分かった。
「...敵いる、二体」
「あれは...回避不可能そうですね。ミウ、どうする?」
「どうするって、やるしか無いでしょ?」
「ん」
「そうですね、無理しない程度に」
「...ふぅ、取り敢えずダメージを軽減できる加護を掛けたわ」
ヨタヨタと徘徊している敵が二体、しかもあの種族は...初めて見る。けどミウは特に何事も無く、フランちゃんは変わらずのやる気で敵の事を見ていた。それはアーシアさんも同じようで、前傾姿勢で敵の事を見据えていた。
そうしているとミウは少し力を素振りを見せて、その後に私達の周りをぐるっと回った。途端に身体が軽くなった感覚と、自分の身体が薄緑色で象られる。
「ミウさん、ありがとですっ」
「取り敢えず私は本来のポディジョン、サポート側に全力で付くわ。昨日は中途半端な立ち位置で、全力のサポートが出来てた訳じゃないから」
「コレで安心して戦える」
「...私の場合は不安の種が少し無くなったような感じ。苦手な前線をやってた誰かを心配せずに安心して動ける」
「あはは...それってもしかしなくても私を指して言ってるわよね?」
ミウのポディジョン、確かにここ最近で忘れ気味だった。そこそこ長く二人で動いていたけれど、殆どミウは前線に立ってくれて、私が後衛として動く立場だったから。
そんな事を思いながらミウの返事を返すと、その思いが混じった返しになってしまった。するとちょっと乾いた笑いをしつつも、私に対して目を合わせないミウ。顔を合わせたくない気持ちも分からなくないけど...チラ見くらいはして欲しかったかも。
「...まだ?」
「え? あー、そうね。それじゃ、いくわよ!」
ーーーーー
Side フラン
ミウの合図で私は一番に敵へ走り込んで、右手で鍵みたいな敵に攻撃する。だけど当たる直前に避けられて、左手と交互に攻撃してもまったく当たらなかった。ふわふわと避けてズルい、これじゃ当たらない。
そう思いながら私は諦めて、みんなのところに戻る。すると敵が避けてたのを見てアーシアはスピードスターとシャドーボール、ウィアは電気ショックを放っていた。だけど鍵みたいなやつはやっぱり当たってなくて、もう一体の敵は自分の腕を盾にして、かがむようにして身体を小さくなってた。
ミウはと言うと、二体の敵をずっと見て何かを考えている仕草してた。けど私が戻ってきた瞬間、軽かった感覚が元に戻った。だけどそれはアーシアやウィアも同じらしく、疑問に思った顔でミウの事を見てた。
「...よし。岩石、封じっ! それで、あっちには水の波動!」
『ギュグゥ!?』
『ッ!? ブボガ.........ガァァァァアアア!!』
「やっぱり...ウィア! 行くわよっ!」
そんなことはお構い無しに、ミウは大きな岩を鍵みたいなやつのところにばらまき落とし、もう一体には昨日寝ちゃった水の風船みたいなやつに敵を閉じ込めた。でも呼吸が出来るわけではないらしくて、中で驚いて溺れているのが見えた。
暫くすると、その水風船を何かしらで破裂させ、私達に目かげてずぶ濡れで突っ込んできた。けれどミウはその事は分かってたらしく、左手を帯電させながらウィアの事を呼んだ。
...あれ、ウィアってサポートをするって自分で言ってなかった?
「えっ...あっ、はいっ! カミナリッ!!」
「エレキボールッ!!」
『...グガガガガガガガッ!!?』
「私も行くっ!」
『...ガハッ!?』
ウィアとミウの連続攻撃でビリビリになった敵に飛び出した私は、いつも通りに爪で攻撃するイメージを浮かべる。手が届く所まで近づいて背中に周り、イメージを浮かべた爪で背中を切り裂いた。今回浮かべたのは、自分の身体と同じ色のカッコいい黒い爪。何だかこの技が私と一番あっている気がして、一番のお気に入り。
「敵の一体、忘れてますよ! 電光石火からの...インパクトッ!!」
『ギュイッ!?』
「ん、やっぱりアーシア強い」
ニ歩から三歩だけ走って凄い速度に加速したアーシアは、ミウが出した岩で動き辛そうにしてた敵に尻尾を叩き付けたのを見て、私は流石だと思った。私なんかじゃ数歩であんな早くならないし、あんな強い技を叩き込めない。それにあんな速さで走って、技まで入れてるのに全く疲れや息苦しくしてる感じも無い。やっぱり長いからから?
いつも色んなところを見て、戦って、それを毎日やってたから強いし、疲れないのかもしれない。
「...あぅっ...やばいちょっと痺れる.........」
「ミウったら帯電し過ぎ。んっ...これで良い?」
「あ、ありがと...ちょっと、やり過ぎたわ」
「お礼はいらない。ただ、サポートに徹するって自分で言ってませんでした?」
「あっ...」
ビリビリしてたミウにウィアが触れると、身体のビリビリがウィアに流れて消えた。なんで消えたか分からないけど、ウィアはビリビリ得意だから出来ることかも。
にしても、ミウはやっぱり忘れてた。自然に参加してたから、私の聞き間違いかと思ったけどあってたみたい。ウィアがちょっと呆れ顔でミウの事を見て、ミウは苦笑いしてた。
「あっ、じゃないでしょ。いえ、この事は戦闘が終わってから...エ、エレキネットッ!!」
『グガガガッ!!?』
「...インパクトッ!」
『ガハッ!? ア...ガッ.........』
「...ふぅぅぅぅぅうっと、皆さん取り敢えず鍵みたいな敵は無力化しておきました。それと、この大きい敵も今ので無力化かなと」
「.........確かに、そのようね。にしてもアーシアちゃん、その捨て身タックル混じりのアイアンテールだけど、やっぱり軽い敵には合わないんじゃない? 着地後の勢い殺しで足の裏とか、痛くならない?」
「今は痛くないですね。慣れちゃいました。けれど、インパクトテイルを使い始めてから肉球が硬くなってしまったのが悩みというか...」
「あのー、アーシアさん? それだけで済んでるのも凄いですが、明らかに爪も頑丈ですよね? 勢いを止める為の爪痕が...」
痛くないのかなって思ってたけど、痛くないんだ。にしても後ろ向きで、前後足の爪痕が3m近く地面が削れてた。気がついたウィアは若干引き気味だし、ミウに関しては何だか困ったような笑ってるようなよく分からない顔だった。
「へっ? .........や、柔らかいよりは...いいとは思います、よ?」
「いやいやいや、自分だってびっくりしてますよね?」
「ん、アーシア強い」
「...フランちゃん、それはちょっと合ってるけど違う。いや、ともかく進むわよ。まだ一回層も降りてないんだから...ねっと。うん、やっぱりこの姿がしっくり来るわね」
「その姿はユキメノコ...だっけ?」
「ゆめきのこ?」
「フランちゃんそれ違う。...って、いい加減そろそろ進むわよ!!」