Unknown05E
Side ウィア
...なんか、同じ場所の気がしない。階層が違うと 顔を帰るはずなのに、あんまり怖い敵が居ない。現在四階層目、入口は吸い込み型じゃなかったし、強い敵はどうにか対処できるくらい。二階層目だけ砂漠になってて猛暑だったけど、変な気候は他に無かった。
っというよりは、本番は六階層目からで、本当はここから強い敵が多くなって来て、天候の乱れも多くなってくる。だからさっきの突入での被害は、イレギュラーで、そんな何度もポンポン出るわけが無...
「ウィア!」
「っ...ア、アイアンテール! ...ミウ!」
「ナイスよウィア! 気合玉!」
色々考えてるとミウの声が頭に響き、考えを頭から捨てる。すると敵が背中を向けてこっちに飛んでくるのが見え、私は咄嗟にアイアンテールで空に突き上げた。少し高さが足りなかったと思ったけれど、ミウはショートワープで敵に近づき、私を呼んだ時には既に溜め始めていた気合玉を、押し付けるかのように放った。そして当たった瞬間に大きな爆発が起きたけど、当たる直前にまたワープして、私の横に付いていた。
少しすると直撃を受けた敵が空から地面に叩きつけられ、遠目から見ても倒れたのを確認すると、やっと手足の力を抜く事ができた。
「...ふう、やっぱり体力だけはありますね。倒すのが一苦労ですね...」
「手応え無いよりはいい」
「ああ。その強気、かわいい...っ!」
「なっ、むっう!? ミウ、近い!」
「あはは...ミウとフランちゃんのやり取りを見てると、ココが危険なダンジョンってことを忘れそうですよ...」
「ですね...。にしても、フランちゃんだいぶ動きが良くなってる。技の出だしも早くなってるし、動き回る速度も上がってる。それにミウさん、いつの間にフランちゃんへの加護を緩めて、私達が効率良く動けるように計らってくれてますし」
「えっ? そうなのですか?」
「あれ? 気が付いてませんでした? どうやら加護の発動中は何かしら制限が掛かるようです。ミウさんは確か...全体的な行動力低下だったかなと。そして変身時は技の威力に制限が掛かるとか」
こ、行動力の低下ってまさか、私とミウの二人で動いてた時、なんかいつもと違うと思ったのは...この事?
「...そう、ですか」
「でも、なんと無く分かってたんじゃないですか? そうまでして、ウィアさんを守りたかった理由。だって私から見ると、二人が羨ましいですから」
「私達が...ですか?」
「はい! だって名前を呼び捨て合える仲、素敵じゃないですか。動きだってパートナー、ミウさんの動きが分かっているかのようですし。確かアルセウス様からのご指名を頂戴したのですよね?」
「はい、そうです。まさか、あのお方は私達ならと分かっていたと...?」
「多分そうかなと思いますよ?」
流石は神様...何でもお見通しって訳ですね...。そのまま目的の捜し物も分かってれば良かったのにとは...思っては駄目ですよね。
「なるほど...あ、ミウ」
「...ん? どうしたの?」
「えーと、次の階層に行く為の道を見つけたのですが...」
「なんか、問題ありげな言い方ね。どうしたの?」
「なになに? 敵いっぱい?」
「フランちゃんそこは喜ぶところじゃないでしょ...」
「じゃあ、違うの?」
「違います。どうやら敵が待ち構えてるような感じでして...」
「待ち構え...偶々ずっとそこに居る訳じゃ無くてです?」
「はい。他の反応は動いている...というより徘徊しているのですが、この一体だけは全く動いてないんです」
直近のデータといま映っているデータを交互に見ながら私は説明を入れる。一応周りから敵が来ていないことも確認しつつ。
「またなんか不具合とかじゃなくて?」
「それはあり得ません! ともかく確認が必要ですが...一応細心の注意で接触をしたほうが良いかと」
「ココを抜ければ休憩ポイントよね? 走り込むのは?」
「それは考えましたが、そうするとセーフティが誤作動で緊急脱出が機能しない事故があったのでやめました。一度事故としてハウスの敵に追われてるにも関わらず、中間地点へ逃げ込んだ事があったのですが、その時にたまたま休憩を取っていたチームが巻沿いを食い、更にセーフティが誤作動...結果的に巻沿いを受けたチームが全滅しました」
「ぜっ、全滅って...え、私そんな話しを初めて聞きましたが?」
「揉み消しを行われていたのと、運営がマスターや私などでは無かった昔のことです。しかもその時にはアーシアさんもまだ居なかった時期ですから、知らなくて当然の事です。ですがこの話は後で」
今思えば、中々に酷い話。巻沿いを受けたチームは、フィリアさんとリファルさんが面倒を見ていた後輩チーム。しかも事故が起きた当初、何も理由は語られずに急遽所属変更...結果的にかなり後になってから元ギルドの親方から全滅を知った。巻き沿いをさせたチームは既に解散済みで所属も不明、元ギルドからの要請でも本部は情報開示を拒否され続けていたとか...。
「...そんなクソみたいなとこ、潰して正解だった」
「えっ.........ア、アーシアさん? いや...そんな...え?」
「...? へっ? なんか私、いま変なこと言いました?」
「まあ、たしかにクソなのは同感ね。っで、どうするわけ? この感じだと挑むでいいのね?」
「その方が安全です。では、少々考えてみた作戦があるので...」
ーーーーー
Side アーシア
...私達はウィアさんからの作戦を聞いた後、どうやら待ち構えられてるらしいフロア、開けた場所に踏み入った。周りを見ると左右は通れそうな道や敵も居なく、居るのは正面の敵だけ。そして私達が今通った道と敵の後ろにある通路、それだけしか無いフロアだった。状況を把握して互いに頷いた私達は、ウィアさんが出してくれた案である『全力先制攻撃』をする為、各自の得意な間合いになるまで敵に近づいた。
まず最初はミウさんが黒い眼差しや電磁波などで行動阻害をさせた。動けなくなったのを確認したのを見たフランちゃんは、左右交互に爪で切り裂いて攻撃。その後、少し技の効果が切れて動き始めたを見て、ウィアさんは貯めてたエレキネットを敵に当てて行動を封じ込んだ。
「...エレキ、ネット! アーシアさん!」
「はい! ...電光石火!! ...アイアン...テールッ!!」
ウィアさんの技で動けない敵に対し、全力スピードの電光石火と全力のアイアンテールで尻尾を斜め下方向に私は叩きつけた。反動で飛んだ私はそのまま空中で電光石火を発動し、着地と同時にみんなの所へ走り戻った。
にしてもこの敵...さっきから身体を守るような仕草を全くしてこない。かと言って"がまん"などを発動しているようには見えない。まさかこの敵...ノーガード持ち?
「...技の効果が切れるわ! 全員構えて!」
ミウさんの一喝した声で気を引き締め、私は姿勢を低くしつつ身体に風を纏う。同じくウィアさんも両手両足を地面に付けて身構えていて、フランちゃんは...若干姿勢を低くはしていた。
『...がぁぁぁぁああああっ!!!』
「動き出した!」
「皆さん! もしかしたらこの敵、ノーガード属性かもしれないで注意を!」
「ノ、ノーガードですか!? これはまた嫌な敵を...カミナリ!」
効果が切れて完全に動けるようになった敵、カイリキーは雄叫びを上げて私達に腕を回しながら突っ込んでくる。私達とフランちゃんは様子見で大きく横に回避し、ウィアさんは早めにカミナリを当てて回避。ミウさんは珍しく変身を入れず、そのままの姿でふわふわ浮いてる。なんだかじーっと敵の様子を確認し続けてるけど...
『ぐがぁぁぁあ.........がぁああああああ!!!!』
「っ!? や、やっぱりこの敵! 電光石火! シャドーボール!!」
「...サイコショック!」
ウィアさんのカミナリが直撃して身体に電気が帯電しているのにも関わらず、カイリキーは気にせずに私に突っ込んでくる。私は瞬発的に電光石火で横に飛んで回避し、ガラ空きの背中にシャドーボールを打ち込んだ。けど相手はふらつかずに身体をUターン、また突進しようとしていた。
だけど突進しようと踏み込んだ瞬間、カイリキーの頭上から叩き落すように技を発動したミウさんの姿が目に入った。
「...っ!? やっぱりこいつ硬すぎる! 明らかに身体がゴツいし、まるで鋼鉄の何かを着てるかのようだわ!」
鋼鉄...確かにその表現に間違いは無いかもしれない。さっき自分がクイックインパクトで尻尾を叩き落とした時も、思った以上の反発で飛びすぎていたから。つまりその硬さにノーガードとなると、防御に関してはほぼ鉄壁の守り...。しかも中途半端な攻撃をしたら、最悪カウンターも充分にありえるということ。
ただし、今のところは攻撃が突進という単調だからどうにかなってるものの、あれが本気になったら...
いや、考えすぎても駄目。でも何か、何か一つでも弱点か打開策があれば...。
「...コイツ、かなりヤバイわね。 ...ウィア! アイツの事をなんか探れない!?」
「えっ!? さ、流石にそんな機能はあり...電光石火っ! でっ、電磁波っ!」
「いくっ! ...てえっ!!」
『ぐぁあっ!!? ...があああああああっ!!!』
どうしようかと悩んでる間にも相手の突進は止まらない。今もウィアさんに突進してきたけれど、冷静に電光石火で回避。その後はカウンターとして電磁波を放ち、動きを鈍らせる。そしてその隙を見ていたフランちゃんが走り込み、両爪でカイリキーを切り落とした。
すると当たりどころが良かったのか、初めての悲鳴を上げてフランちゃんのことを睨み、突進をしてきた。けどそれは簡単に避けることができて、フランも最初は驚いた顔をしていたけど、今はひょいひょいと振り被られる拳を避けていた。だけどそれよりも、その場で違う雰囲気を出している人が一人いた。
「えっ、な、いま.........え、でも?」
「ミウ...?」
それはフランちゃんが出した技に、困惑をしているミウさんだった。ありえない、なんでと言いたげな顔をしていた。でも、それにはコチラも疑問符を浮かべることなる。
何故なら、技を見た感じ爪に毒を纏わせて切り裂いている訳だから、ミウさんの加護である爪による多彩攻撃に含まれている筈...。それなのに、ミウさんはフランちゃんが出した技に驚いているのが疑問しか無かった。
「ミウー! ちょっと、疲れたっ!!」
「えっわ、分かったわフランちゃん!! ...テレポート! ...シャドークロー!」
けど、考えてる時間は今は無かった。
「私も! ...インパクト!」
『がぁあああっ!!? がはあっ...がぁあああっ!!』
「え...がはっ!?」
「...なっ!? ア、アーシアさん!?」
「まずいっ! テレポート! テレポート!」
...いま何が起きたか、まったく私には理解できなかった...。それに、考えるまもなく力がどんどん...ぬけて.........。
ーーーーー
Side ミウ
...迂闊だった。アイツ、まさかお腹のど真ん中に来たアーシアちゃんの攻撃を耐えて、そのまま反撃を入れるなんて!
私はすぐに真横に蹴飛ばされたアーシアちゃんにテレポートを使って無理矢理に速度を合わせ、壁に衝突する寸前に再度テレポート。敵から離れた位置でアーシアちゃんの状態を見るけど...かなり意識があやふやなのは確かだった。まずい、かなりまずい。それに早く戻らないと二人にはすごい負荷が掛かる。
かと言ってこのまま横にさせたり、回復をしている時間があるとは思えない...あの技を使うしかないの?
「あ.........うっ.........」
...使うか考えてる時間なんか無い、使わなきゃ駄目。それに最初から私があれを使っていれば、アーシアちゃんがこんな怪我を追わずに済んだ!
使ったら私が動けなくなる?
そんなこと知ったこっちゃない!
この状況をどう打破し、みんなを助ける?
あの技を使うしか選択肢はない!
覚悟を決めた私は身体にエネルギーを急速にため始め、その反動で気分が悪くなってくる。なぜなら本来この技は、私なんかが扱えるような技なんかじゃないから。それに以前はコントロールが難しく、自我の暴走も引き起こす可能性すらあった。
だけど今は違う、私は強くなった。守りたいと思えるものもたくさん出来たいま、そう簡単に倒れてしまうような私なんかじゃない!
「.........ウィア!! やつ...動き...止めてっ!!!!」
苦しそうにしているアーシアちゃんの頭を撫でてから、片言になりつつウィアにお願いを叫んだ。一瞬だけ驚いた顔をされたけれど、たぶん技のせいでドスの聞いた声になったせいだと思う。だけどウィアはその後すぐに頷くと技をため始め、フランちゃんも分かったかのようにカイリキーを引き付けてくれた。
二人ともごめんなさい...危険な目に合わせて。そうでもして時間を稼いでもらわないと、この技を使うための膨大なパワーを貯めることができないから...
「...くっ.........あと...すこし.........」
身体の中でエネルギーが暴れ回るのを感じるけど、それよりも黒い霧のようなものが少し漏れ出ていそうな感覚がする。だけどいま私がどんな状態になっているかはそれくらいしか分からない。分かることと言えば、フランちゃんが私の姿を見て二度見したことくらいだった。
「...んっ! ここっ!!」
「でっ、電気ショック!」
カイリキーが大振りした隙きに、回り込んだフランちゃんが両爪で攻撃をしているのが少し見える。その後に動きを止める為に帯電しているウィアが少しだけ電気を放って援護、そして貯めるの繰り返しをしていた。
なのにあれほど攻撃を受けて尚、カイリキーの動きは鈍くならずに突進やパンチを出し続けている。フランには幾つかの掠り傷、ウィアにも同様に傷が増えている。挑む前は全員全快してから挑んだのにも関わらず。けど、大きな傷や致命傷を受けてないのにかすり傷やキレ傷があるという事は、あのパンチを掠めるだけでああなるってこと...。
それならば、長引かせるわけには行かない!
「.........ウィア! 頼んだわ!」
「は、はい! ...エレキ、ネットッ!!」
若干ため切れていないけれど、もう行くしかない。そう思った私はウィアに合図を入れ、溜めた力を全部片手に集めながら高速でカイリキーに突っ込んでいく。すると合図を聞いていたフランちゃんは、繰り出した事に違和感のあるシャドークローで隙を作る。その後にウィアは私の速度に合わしてエレキネットで、カイリキーの行動を止めてくれた。
これなら行ける。そう思った私はカイリキーの目の前にテレポート。そして痛み始めた右手を左手で抑えながら、
「...亜空間に消えろっ! テレポートッ!! ...亜空...切っ...断っ!!!!」
『ぐがぁあああああああっ.........』
溜めたエネルギーで出来た三本爪でカイリキーへと振り下ろした。すると自分の身体ではないのに傷を付けた感覚と、溜めていた力で悲鳴を上げたカイリキーを包みこみ、暫くすると消えた。その間にもフランちゃんやウィアが私に対して心配な目をして叫んでいる様子が見えるけど、今の私にはもう何も聞こえない。
しかもいま見えている視界だってだんだん狭くなり、その感覚はどんどん増していく。それに身体が萎びていくような感覚すらある...やっぱり生命力を吸われた。だけどそんなこと知ったことか。
私はあの時、アーシアやレイエル達と居る時にバンギラスの事で凄く後悔をしていた。アーシアちゃんを守れず、大きな怪我を追わせた。そして少ながらずレイエル達に危険な思いをさせた。だから無理完治させた後はもっと強くなろうと、もっと敏感になろうと様々な種族に変身してダンジョンに入ってた。そのせいで暫く私が居なくなったと心配させたようだけど...結局また危険な目に、そして大きな怪我を追せた。何かあったら私がテレポートで助けると言ったにも関わらず。
私はそれが憎くて堪らない。結局のところ私は弱いままで、守るって言っても守れない力不足な私...
「.........」
もう、完全に何も聞こえない。そして光さえも感じなくて真っ暗。だけど私の身体を触っているのと、冷たい何かが額に幾つも落ちるのは感じる。あはは...多分この感覚はウィアかしら.........?