Unknown05D
Side ミウ
...想定の範疇を超え過ぎてる。階層によって敵の強さや気候、何もかもグチャグチャなのは事前潜入で分かってた。けど、ここまで辛いのが重なるとは、運が悪いどころじゃなくて悲運まで行く。
しかもボーンクラッシャーの振りが遅く、返り討ちにあって右手が動かない。自己回復である程度は回復はしたけど、利き手で近接攻撃は出来無い。一部の特殊技に関しては技の出は確実に遅くなるけど、テレポートの発動には支障が無いのが幸いかもしれない。
だとしたらやることは一つ。どうにかして隙きを作って、ダンジョンの外に贈り飛ばす。だったら最初に贈り飛ばす人物は...
「ミウ、大丈夫?」
「うん、大丈夫。心配しないで」
「...無理だめ、ミウが無理してるの分かる。それに私を最初にココから出そうと考えてる」
「えっ...」
考えが...読まれた?
うそ、でもどうして.........あ、私がフランちゃんとの繋がりを強くしたから?
だから考えがまる見えってコト...?
「...ええ、その通り。元々にフランちゃんは行きたいと行ったけど、私からすると巻き込んじゃった身。だから危ない目に巻き込むのは...」
「ヤダ、私は行かない。それに危ないのは分かってる。 ...だけどその考えがみんなにとって、そしてミウにとっても安全なら」
少し上目遣いにキッパリと断られて、私は動揺してしまった。わがまま...かと言われた当初は思ったけど、どうやらそうでも無いと分かると少し安心した。
「...フランちゃん。必ず、必ずみんな戻ってくるから、少し待っててね」
「うん。待ってる」
私はフランちゃんに必ず戻ると伝えて、力を溜めつつ目的地をイメージする。考えてみれば、全員で一斉に飛ぼうとするから貯める時間も掛かるし、巻き込みの可能性も考えて討伐しないといけなかった。だけど直接触れて、一人ずつ飛ばすくらいならそんなに力を貯める必要が無い。
そんな考えを起こしてくれたのは、ちょっと違うけどフランちゃんの存在だった。フランちゃん...ありがとう。コレからも...
「...テレポート!!」
ーーーーー
Side アーシア
空を切るような大きな声。その声に私とウィアさんはハッとした。声の主は左手で握手するような形で止まってるミウさんの姿。そしてキラキラと何かが空に消えていた。あの感じは前にも見た事ある...あの光はテレポート。ミウさん、先にフランちゃんを脱出させたんだ。
「...フランちゃんが消えた?」
「違う、ミウさんがフランちゃんを先に脱出させたみたいです。でもこれで少し安心して戦える」
状況の理解が出来てないウィアさんに説明を入れて、月の光で微回復をした私は自らを奮い立たせた。
「...ウィアさん、ミウさんのところに行ってもらえますか? ヘイトが私に向いているうちに」
「そ、そんな事はできません! 弱気になってましたけど、まだ私は...」
「お願いウィアさん。たぶんミウさんは一気じゃなくて、個別に脱出させようと考えてるはずだから」
「...分かりました」
少し不服そうだったけど、取り敢えずこれで問題無いはず。それに私にヘイトが回ってても、攻撃が当たる直前にピッタリ合わせれば、苦手な物理技でもさっきはガード出来た。それに私は守るを連発してもどうやら失敗は無いらしく、その代わりに集中力とスタミナが続く限りは出来るはず。
『がぁあああっ!!』
「守るっ! やっぱり...クイックインパクト!」
ちょうど良く敵が突っ込んで来るのが見え、充分に引き付けてから緑のバリアで身体を包む。すると物理技なのに押し切られとひび割れが少なく、逆に弾き飛ばして隙きを作る事が出来た。
当然作った隙きは見逃さず、瞬発的の電光石火にアイアンテールを繋げる。攻撃は言うまでもなくクリーンヒットし、壁に衝突して伸びていた。それにしても...回復しても回復しても何だか体力が持っていかれるようになってきた。まるで毒の継続ダメージを受けているかのような...そんな感じの。だけど私は毒攻撃なんて受けてない。
それなのに何故...もしかして体力じゃなくてスタミナ?
「はぁ...はぁ...はぁ.........月の...光.........」
だとしても、やらないよりはいくら分増しにはなる。それに今は時間稼ぎ...二人だけなら四人同時に比べ、だいぶ楽してテレポートを使える筈。敵だってもう疎らになって、驚異度が高そうな敵も居ない。
「...テレポート!」
ミウさんが私への合図にも取れる大きな声でテレポートを発動。その後にプシュンと軽く空を切るような音がした。つまり、ウィアさんもテレポートで飛ばす事に成功したって事。時間稼ぎとヘイト稼ぎはうまく行ったんだ...。
私は声を聞くと電光石火を発動し、ミウさんの声が聞こえた方向に走り出した。見てみると、既にミウさんは力を溜めている真っ最中で、身体の輪郭が青白く象られていた。だけどそれに敵が気が付いたらしく、視線がちらほらとミウさんに向いていく。
さっきまでそんな感覚なんて感じなかったけど、たぶん自分を含めた二人分を溜めないといけないからだと思う。
「.........アーシアさん! 手を!」
「は、はい!」
ミウさんとは鼻の先の間合いに入った時、私に気が付いていたミウさんが私に手を差し出してきた。私はその手に若干突進気味で握った瞬間、テレポート特有の感覚に引っ張られると、急に意識が遠のいた.........
ーーーーー
Side ウィア
「.........ココは...神殿の入口横の草むら?」
「そう。ウィアおかえり」
減速する感覚を感じ、私は少し足に力を入れて着地の用意をする。少しして着地すると、私は辺りを見回してどこに飛んだのか辺りを見回した。そうすると後ろから相槌が来たので振り返ろうとしたけど、抱き付かれて誰なのかは直ぐに分かった。
「ただいまフランさん。何処か痛いところとか、ないですか? 転んだ時とか」
「平気。 ...ミウとアーシア...はドコ?」
「たぶん、もう時期来るかと。 ...ん、噂をすれば.........えっ!?」
「...ただいま。いやー、まさかあんな事が起きるなんて。ん、二人ともどうかした?」
「...ア、アーシアが.........」
「へっ? ...アーシアちゃん!!?」
二人は何処と聞かれて答えてると、ミウちゃんがいつも現れる時の雰囲気がして辺りを見回した。すると私たちの少し頭上、空間が若干歪んでいた。だから少し待ってみると歪みが更に強くなり、そこからミウちゃんとアーシアさんが。
けど私は現れたアーシアちゃんの状況を見て、驚いてしまった。何故ならそこにはグッタリとしてるアーシアさんの姿があったから...。どうやらミウちゃんは気が付いてなかったらしく、私達に言われてからやっと気がついた様子だった。
「えっ、えっ...な、いったい.........」
「...どうやらただ気絶をしているだけのようです。少し安静に寝ていれば気が付くかと思います」
「アーシア無茶してた。たぶんそのせい」
「...確かにそうですね。だけど無茶をさせてしまったのは私達です。私達が毎回頼って無茶をさせてしまうことが多いので.........」
「まあ、それもアタシもね。因みに前の私はこんな性格じゃなかったのよ? 少なからずみんなアーシアちゃんから良い事の方が沢山だけど、駄目なところも似てきちゃってるわね」
似てきている...確かにそんな気がする。どうしてだろう、頑張っている姿やその後ろ姿に憧れを持ってそうなってたりしてるのかな...。
「ん、そんな事よりギア...直せる?」
「へっ? あー...程度を見ないといけないですが、パソコンが無いと駄目なのと、開発する為のモジュ...必要な物が手元に無いので不可能かも知れません。それに作業を行っていたのは、私が持つZギアAMと呼んでいる管理者権限を持つこのギアで行ってたので。ただし同じように原因不明のエラーで動作しないので、無理かと...」
「んー、機械とか全く分からないけど、綺麗さっぱり元に戻すのってムリなの?」
「綺麗さっぱり.........そんなこと、思い付きませんでした! ちょっと試しにやってみます!」
変更を元に戻す、初期化、あの場に居たとき全くそんなことを思いつけなかった。確かにそれなら可能性は確かにある。
私はすぐに端末の右真ん中の物理ボタンを長押しして電源を落とし、しっかりと切れたことを確認。確認後にいま押した上のボタンを押しながら電源ボタンを押して"セーフモード"という最低限しか動かないモードに入った。
更にそこの中にある一覧から"リストアポイント"を起動して、直近で行った変更点前の変更点が残っているか調べてみると...残ってた!
私は心の中でガッツポーズをしながら、見つけた変更点に戻るように設定した。さて、これで動いてくれれば。
『.........リストア操作を確認。指定リストアからのシステム復旧を開始します』
「...あれ、この声ってウィア?」
「は、はい。元々の私は現実の身体を持たなかった存在...。だから音声なんて何でも作れるんです。たとえ録音をしてなくても、自然な抑揚で」
「何かもう一人そこに居るみたいで面白い」
「改めて聞くと少しビクッとしますね...少し忘れていましたし。さて、肝心なリストアは.........ん、おっ? どうやら起動できたみたいです。変更点は...弄る前までに戻ってますね。コレなら皆さんのギアも.........っと、元に戻すことが出来ます」
少し不安だったけど、お馴染みのピカチュウの尻尾が揺れる画面になって、暫く経ってから下の進行バーが右いっぱいまでになって画面が消える。再度画面が付くと、今まで出ていた原因不明のエラーと変更点は綺麗さっぱり無くなり、問題なく起動が出来ていた。
その事を確認した私は、喋りながら布団に寝かせたアーシアさんのギアを取って机の上に置くと、ミウとフランちゃんも外して置いてくれた。
「ウィアすごい」
「そこまで凄いってことは無いですよ。それにまだもとに戻ってないわけですし」
「いや、知らない人にとっては凄いことだと思うわよ? 今まで触ったことが無かったけど、使ってみるとこんなに快適なんて思っても無かったわ。私の場合は変身するけど、特に問題なく使えてるし」
「ミウのはフリーバントに変えてるから出来る。普通のだと流石に千切れちゃう。さて、操作するから話は後で。 ...ボイスシステムアクティベーション、ウィア・エナフール」
相槌を打ちながら、私は取ってもらったギアを全部電源を落とし、今度は電源ボタンと左上のボタンを長押しする。その操作をすべてのギアに行っていると画面にマイクのマークが映し出され、そのマークを囲むように"ボイスコントロール"の一文が回っていた。まずは管理者認証を通すため、みんなに一度静かにして貰ってからコマンド、みんなからは呪文みたいな言葉を言っていく。
アーシアちゃんはよく知ってると思うけど、ミウは最近に見せたばかりで、フランに関しては始めて。どんどん驚いた顔をして、小さな超えでミウに話し掛けてた。...あれ、そう思えばお風呂出てからアーシアと話すところを見てないような。
『.........アクティベーションクリア。アドミニストレータとしてログインしました』
「あ、なら次は...アドミニコントロールズ、リストア、リスト」
『.........リストアポイントを二つ見つかりました。リストア日時は一日前、三ヶ月前です。Zギアローカルチェンジモデルと付けられた二つのギアは一日前だけ可能です』
「...アドミニコントロールズ、リストア、セット、ラストポイント」
『.........コマンドを認証。半径5cm範囲にある自機を含めたギア三つに対し、最終リストアポイントで適用を開始します』
「.........ふう、ごめんなさいもう大丈夫です」
「なんか聞いててどっちが喋ってるか分かんなかった」
「私も思った。それで、直りそう?」
「私のギアを直した時と同じ事をしたからたぶん問題ないと思う。ところで気になったことがあるのだけど...フランちゃん」
「ん?」
「あの、私の勘違いだったらいいのですが、アーシアさんと何かありました? 昨日から二人とも話そうとしなくなったので」
「...なにもない」
なにもない...その割に時間が返答が掛かってる。つまり何かあったという説で間違いは無さそう。けど、一体何があったのかなんて想像が付かない。口論があったなんて考えにくいし...この場はとりあえず。
「なら、気のせいですね。ごめんなさい。さて、ギアの様子は.........直りましたね。自分のギアを取って下さい」
「...ん」
「え、ええ」
「取り敢えず、これでギアは治ったはずです。問題は...次の突入、その後をどうするか。アーシアさんが目覚めてからは当たり前ですが、予定が完全に狂いましたからね...」
本来ならば、もう少し立ったら中間地点で休憩の予定だった。だけどまだここに居る。ペースとしては一時間で1フロアだから、次に突入したら夕方。ノルマの10フロアはまず出来ない。
かと言って、日が沈んでから続けて挑むのは自殺行為。どのダンジョンでも共通として夜のダンジョンは踏破ランクが一つ上がる。それを説明しているのにも関わらずに挑んで帰らぬ人や、致命傷で強制送還だってある。要らないと言われたルド用のギアにGPSが付いているのは、何処に居るか監視をする為。
強制送還は、もともとギルドバッチに付いてた機能をギアに移植したもの。だけどこの機能はギルドに属する人しか持っていない物で、Zギアに組み込もうとしても失敗しかしてない。
「時間とか戻せない? ミウとか出来そう」
「も、戻せるには戻せるけど...力を使い果たして倒れるから駄目ね。それにセレビィに交渉するとしても、まずこの時代に居るかどうかも分からないわ」
「せれ...びぃ?」
「あ、そっかフランちゃんは知らないわね。えーと.........こんな姿よ!」
「おー、すごい。そんな姿なんだ」
「...あのー、ミウ? 確か伝説系への変身はなるべく控えないといけないって、自分で言ってたような...?」
いつ言ってたか全く覚えてないけど、なんかそんなような話をどこかでしていたような気がする。けどそれって人目に付く場所で...の事だったような?
あれ、どうだったっけ...覚えてない。はあ、こう言うところがデータの身体だったときの違いですよね...メモ取らないと物事を忘れるところ。
マスターやみんなと同じ現実の身体を持ったのは嬉しい。けど不便なところや不自由な事が...
「...まあ、人目に付かなきゃ問題ないと思うわよ。そしてアーシアちゃん、起きたのね」
「うぅ...いたた.........あれ、ココって...昨日の部屋の中?」
「そうよ、一時撤退してきたの。アーシアちゃんのお陰で全員無事だったわ。ところで足が痛そうだけど、大丈夫?」
「少しだけ痛みますが、どちらかと言うと披露が大きいですね。にしても皆さん無事で良かったです! こちらも良い意味で分かったことがあったので、良かった...のかな?」
「分かった事...もしかして、守るですか?」
「はい。ウィアさんとミウさんはご存知の通り、私のバリアは物理攻撃にとても弱く、その分が特殊に回っています。ですがバリアを貼った瞬間だけ物理攻撃を耐える事ができました」
「...アーシアちゃん、それは当然よ。守るのバリアは分厚いエネルギーを生成し、その後は身体を包むように球体になるんだから。そして、おそらくアーシアちゃんのバリアは通常と違って弾力が無いバリア。だから特殊技に関しては弾く感じで守るから強く、物理攻撃は一つの衝撃が全体に伝わって連鎖崩壊するんだと思うわ」
「...えーと? つまり発動直後はどちらでも防御可能ってことで...良いのです?」
「恐らくは。けど、そんなシビアなタイミングで使うって事は、それ相応のリスクが掛かるって事よ? ただでさえ大きな攻撃を受けただけで危ないアーシアちゃんなんか、ハイリスクローリターンだわ!」
「私も反対です!」
攻撃が当たる瞬間に守るを使うなんて、ちょっとでも遅かったら...そんな危険な事はしてほしくない。でも、もっと言うならばフランちゃん自体をダンジョンに連れて行くに関しても、本当は反対だった。だって年齢もまだ10才くらいで、ダンジョンのダの字も知らない子供を、ギルドから制限や他の力で監視されてる危険なダンジョンへなんて...。
「...ですよね、分かりました。狙って使わないようにします」
「なら良かったわ。さて...早速また再挑戦と行きたいのだけど、先に軽めのお昼にして、取り敢えず五階層突破を目標に切り替えるわ。出発は今から一時間後、それまでになるべく完全回復を目指して。アーシアちゃんに関しては一応で回復を技一発ね? 月の光じゃ微妙だから」
「あ、はい...お願いします」