Unknown05B
Side ウィア
...ダメ、完全に動いてくれない。おかしい、突入前はちゃんと動いてた。衝撃で壊れたとは考えにくいし、二人で挑んだ時はちゃんと使えてた。もし原因があるとすれば、さっきのバリア通過時に何か障害を受けたパターン。これに関しては吸い込まれた訳じゃないけど、その前は使えてた。
もう一つは、昨日の調整で何かやり残しか設定ミスをしたパターン。だけどコレもチェックを掛けて、正常に動作してる事も確認した。しかも、まずエラーしたら情報が表示される筈。だけどエラーを吐くだけで、何も表示してくれない。強制再起動しても治らないし、何も出来ず、調べられない。オマケに障害時でも動く"セーフモード"でも全く動かない。ココまで来ると何も出来ない。専用端末に繋いで調べるしかない。
だけどその専用端末はウォッズ、マスター達が居る所にしか置いてない。未だに残ってる私の管理者権限を使ったとしても、遠隔では弄れない。そもそもに専用端末はウォッズのネットワークしか持ってなくて、外からなんか繋がらないし、そもそもに繋がってない。
だからギアを使わずに五階まで行くか、ミウちゃん達と再開しなきゃならない。しかも気を失ってるフランちゃんを背負いながら移動しないといけない。だけどそんな事が出来るわけ無いから、今は瓦礫に隠れて二人を待ってる状態。起きてくれれば探せるかもしれないけど...
「(...ダメ、全然起きない)」
定期的に揺らして見てるけど、全く目を覚ます様子がない。あれからどのくらいだったのかな...もう一時間は経ってる気がする。けれど未だに何も起きないし、ミウちゃん達の声はしない。考えたくは無いけど、追われてたり、戦ってなきゃいいけど...。
「(ミウちゃん...アーシアさん...)」
一番に怖いのは敵の存在。なんとか気が付かれてない様子だけど、段々と隠れてる瓦礫に近づいてる。襲われたら私なんかじゃ敵わないし、フランちゃんを助ける事なんて不可能...だからお願い、こっちに来ないで.........。
ーーーーー
Side アーシア
「...なんとか巻けたようね」
「そのようで...」
どのくらい逃げ回ってたのか分からない。ミウさんが変身したポニータに跨がりながら、私達は追ってきた敵から逃げ回った。その間に何処かに居ないか目線を右往左往させて探したけれど、それらしい痕跡が全く見つからない。オマケにギアは見た事も無いエラーを起こして探す事もできない。最悪の状況...この言葉ほど似合うものはない状態だった。
取り敢えず今はやっと追ってから逃げ終わって、近場に崩れ落ちてる瓦礫に隠れてる。でもいつ見つかるか分からないし、身体が全部隠れきってるわけでもない。不安と恐怖で手足の震えが止まらない。だけどそんな時でもミウさんは落ち着いてる。今はミミロルに変身し、長い耳を過敏に動かしながら辺りを見回して。
「...だめ、特に何も聞こえない。もしかしたら同じ考えで瓦礫に隠れてるかもしれないわ」
「だ、だとしたら少し安全ですが、探すとなったら...」
「難しいわね。なんか人探しに適した種族って居たかしら...」
「うーん、超音波を使える種族とかどうでしょ?」
「超音波...やり方を知らないのよね。そもそもにそうさせようとした訳じゃなくて、気が付いたらその種族が使えてたが多いのよ。超音波以外にも当てはまる種族は沢山居るわ」
「そうですか...」
洞窟とかだとよく居たズバット、現実世界で言うコウモリとかならどうかと思った。けど、あれって最初から使えてた訳じゃ無いって初めて知った。
「確かに生み出したのは私。だけどその後にその種族がどう進化するかなんて未知数なのよ。特にイーブイ族、アーシアちゃんみたいな不安定過ぎる種族なんて想定の斜め上よ」
「え、敢えてそうした訳じゃなく...?」
「当然。そんな危険な種族、普通なら消滅させてた。けどね...気が付くのが遅すぎた。生まれたてなら存在していた事すら、私と創造様なら可能よ。あ、ごめんなさい怖い事を言って...」
「い、いえ...気になさらず。ですがこの現在状況、どうしますか? いずれ見つかりますし、特に二人の様子が分からないのが...」
「…そうね。なら、危険だけどやり方を変えてみましょ。アーシアちゃん、二人の名前を叫んで」
「じょ、冗談ですよね...?」
「大丈夫。ちゃんと案もあるわ」
ふと案を出されたけれど、まさかの大声を出して気が付いてもらう方法だった。そんな事をしたら周りから敵が集まって来そうだけど、ミウさんには安全な案もあるとの事。その案を実際に聞いてみると、確かに良い案良いような気もする。
その案とはミウさんがダンジョンを走り回り、私が大声で二人を呼ぶ案。見つかるまで走り続けるミウさんが大変だけど、手っ取り早く見つけるならこの方法かも知れない。
それともう一つ、大勢の敵を引き連れる可能性が高いので、もし見つけた時は一時撤退する案。コレならギアがおかしい原因を直してから再突入だって出来ると予測したから。
「確かにその二点があれば大丈夫かも知れませんね。それでタイミングは.........え、今すぐに...です?」
「私が目くらましと変身を終えたら、すぐよ。それじゃ.........アンタ達! 私はココよ! ...フラッシュ! からの、変身っ!」
タイミングを確認するまでも無く、ミウさんは外に飛び出す為に身体を伸ばしてた。一応で聞いてみてもやる気のようだった。もう少しだけ心の準備が欲しかったけれど、あんまり時間を掛けられない。
そう思ってる内にミウちゃんは外に飛び出すと、大声を出して敵に気が付かせた。走り寄って来るのを確認しながら、飛び付かれるか付かれないかの少し前辺りで強力なフラッシュを発動する。その強さに目を瞑っていた私も一瞬だけ目潰しを受けたけど、直ぐに症状は戻るのが分かると外に飛び出した。
そこには先程のポニータじゃ無くて、進化系のギャロップに変身したミウさんの姿があった。大きくなった背中にジャンプで飛び乗ると、手綱をしっかりと持ちながら良い座り位置を探す。ポニータの時は柔らかくて問題が無かったけど、ギャロップだとちょっと固くて痛い...。飛び乗った時、明らかに筋肉質な硬さがあって、座ってるとお尻が痛くなると思ったから。
「そろそろ飛ばすわよアーシアちゃん!」
「はっ、ははいっ! ...お...願いし、します.........そうだ。 ウィアさーん! フランちゃーん!」
まだ安定して無かったけど、ミウさんがスピードを出すと言ったから良い位置を探すのを諦めた。結構に痛いけれど、手綱を短く持って長い首の根本あたりに座る事にした。暫く我慢してたけど、やるべき事を思い出した私は痛みに耐えながら二人を大声で何度も呼び続けた。その後ろには敵が列を組むように走り寄って来て、たまに突進をして来たりもした。だけどミウちゃんは後ろがまるで見えてるかのように避けていく...ポニータの時は私が教えたりしてたのに。
「ウィアさーん!! フランちゃーん!! 何処ですかーっ!!」
「...中々に集まって来ちゃってるわね! 広場で捕まるならまだしも、長い通路とかマズイかもしれない! 行き止まりなんかあったらも...くっ!」
「ひゃっ!? ...そ、そうですね...ギアが使えてればその辺りも分かりますし、必要最低限の隠密行動が出来るのですが...」
一瞬だけ後ろを見て状況を理解したようで、私に対して意見を出して来る。途中で横ジャンプで何かを飛び避けたようだったけど、ちょっと無茶なやり方をしたのか振り落とされそうになった。
それはともかく長い通路...まだその場所に出くわして無くて問題が無いから良いけど、それは無いとは断言は出来ない。何度も色々なダンジョンに挑んて来たけれど、怖いのは広場や群れじゃなくて、繋ぐ狭い通路で挟まれる事。それは行き止まりにも当てはまる。有名なチームでも、気を抜けば全滅だってあり得る危険なエリア...。
実言うと私はその状況になってしまった事があって、その中で二度だけ力尽きてバッジの機能で強制脱出をさせられた事がある程。有名なチーム程その経験はあるけれど、出会うか出会わないか、そうなるかは運次第なので対策が出来ないのが現状...。
「隠密行動...出来ればそう言うような事をして、安全に探したかったわ! でもそんな事はあと! フランちゃん!! ウィアちゃん!! 何処に居るのっ!!」
「ですよね...。 ウィアさーん! フランちゃーん!!」
確かに出来ない事を考えても意味が無い。とにかく今は二人を見つける、コレが何よりも最優先な事だから.........
ーーーーー
Side ウィア
...まただ。遠いけれど二人の声が微かに反響して聞こえる。私達の事を探してる...だけど動いたらそれはそれで出会えない様な気もする。ココに隠れてから随分に経つけれど、まだ敵はあたりを彷徨い練り歩いてる。なにか変わったとしたら、先程にフランちゃんが目を覚ました事。だけど自分の身体にあった感覚が無くなったようで、確かめて見ると技が使えなかった。どうやら悪い感が当たったらしくて、それに気が付いたフランちゃんは私のお腹に顔を押し付けて泣き震えてた。
成人したニューラの平均身長は0.9m。だけどフランちゃんの大きさは私と同じくらいだと思う。因みに私の身長は平均より0.1m高い0.5m程あって、マスターもほぼ同じ身長。
それはともかく、震えてるフランちゃんの頭をゆっくりと撫でながら、耳を立ててどこから声が聞こえてるのかを探り続けた。
「うっ...ううぅ.........」
「...大丈夫、私が付いてる。頼りないかもしれないけど、フランちゃんの事...守るから」
...きっと、昔の事を思い出しちゃってるのかもしれない。声を出して泣いたりすると分かってるらしくて、声を押し殺すために私のお腹に強く顔を擦り付けてくる。ミウちゃんから力を貰って、アーシアさんを探したヴィシリア島で、二人でそこそこ苦労した敵を一人で倒した時は、その強さに少し恨みと言うか憧れがあった。だから心の距離は若干遠かった。でもそれは馬鹿げてた事はすぐにも分かった。私の強さは仮染であり、フランちゃんはたぶんミウちゃんの力無しに使おうと心に誓っていたのかも知れない。じゃなきゃ、こんな危険なところまで付いてこない。
危険だし、もしかしたら死んじゃうかも知れないまでも言った。だけど顔色一つも変えず、一緒に付いて行くと強く言い放った。それを見込んでミウちゃんだって力を与えた...だけど、その力が無くなり、仲間散り散りになり、起きて見れば変なのが咆哮しながら練り歩いてる。こんなの、もし私が同い年なら大声を出して、泣いてたかも知れない。私には子供という記憶なんて無いけれど、データの時に調べてた子供事はしっかりと覚えてる。
「大丈夫、大丈夫だから...」
また私はこう言って、フランちゃんの頭を撫でて、今度は私からギュッと抱いて上げた。その行動に少しビクッとされたけれど、抱き返してくれた。気持ち、押し殺してた声が収まって、落ち着いたような気もする。震えも少し収まったような...。
そんな事を思ってると、フランちゃんはもう一度強く私にお腹に顔を擦り付けると、お腹から顔を離して私を見た。まだ目尻が赤いけれど、スッキリしたような、落ち着いたような、逆に決心したとも思える顔だった。だから私は、ゆっくりとした声で問い掛けた。
「落ち着けた?」
「...うん、ありがと。それじゃ...」
少し恥ずかし笑顔を見せながら、フランちゃんは私の質問に返してくれた。だけどその言葉と仕草は正反対に、前を見据えたような目をしてた。その目を見て、もう大丈夫だなんだって思った。
そう思った事はもう一つ。ありがとうの後に放った言葉だった。それは...
「それじゃ...ココ出て二人を探す」
そう言い放ったフランちゃんの身体に、電光石火前の風を纏っていたからだった...