Unknown04A
Side and location is Unknown
...ああ、今日もまた起きた。このまま永遠に目覚める事が出来なければどれだけ嬉しいか。私は何時も通りの硬くて冷たい床から起き上がって、そろそろ来るであろう腐った奴の為に立ち上がった。そう、私は奴隷だ。本当だったら殺されてるはずだったけど、私は物が良いからと言うよく分からない理由で生かされ、奴隷としてかなり長く使われてる。そんな昔はともかく、今日は何をやらせられるか...出来れば力仕事はやめてほしい。力仕事だけは.........
「...おい! ちゃんと立ちやがれっ!!」
「ぐはっ!!」
そう。唯一の救いと言えば私以外にも誰かが要る事。だからと言ってもどうする事も出来ないし、失敗すれば連帯責任。私は一度折れ掛けて、迷惑を掛けた事があるけれど、それでも私以外の人は怒鳴る事は無く、慰めてくれた。だから今は...
「...やめろ」
「あぁ? またお前は歯向かうつもりかぁ!? 奴隷の小娘分際で生意気なんだよっ!!」
「あぎゃ! ぐふっう!」
「や、やめてくれ...っ!」
フラフラな老人にクソが蹴りを数発入れる。それを見て、アタシは庇う様に前に入って睨む。するとその人の蹴りが私に向く。痛いのは辛いけど、見てられない。
「おい、それ程にしておけ。動けなくなるだろう」
「ちっ...しかたねぇ。命拾いしたな」
「ん...」
私もフラフラながらも立ち上がり、前を見る。蹴られた老人も支えられながら立ち上がって、その後は支え無しに立ち上がっていた。それにしても、私が力さえあれば...力さえあれば.........。
ーーーーー
Side ウィア
「...ほら、見えた。遠い場所とは思ってたけど、そこそこ遠かったわね」
「...おおー。ちょっとした事しか知らなかったけど、本当に何かあるわけじゃないんだ」
ピジョットに変身中のミウさんに言われて身体を少し起こすと、彼方に島のようなものが見えた。あれが目的の場所であり、新たな捜索対象の諸島...。
そう、今の私達はルデラ諸島には居なくて、かと言ってシルクさんやウォルタさんが居たラスカ諸島でもない。ううん、正確にはルデラ諸島に属してる島で、名前は"ヴィシリア島"であり、昔に島の大部分がダンジョン化して、ルデラ諸島にあるギルド全ての通常運営を一時ストップさせた程の大きな調査が起こった事がある島。事件名は特に無いけど、人によっては"ヴィシリア異変"と言ったり、記録もその名前で残ってたりしてた。
因みに、当初は統括が取れてなくて犠牲者が出たらしいけれど、詳しいデータは残って無く、石碑でチーム数と人数だけの記録しかないそう。
「まさかここまで飛ぶ事になると思ってなかったから気流を掴まなかったけど、あのまま掴まなかったらもう少し時間が掛かってたわね...。まあ、割と気流が強くて乗るまでも大変だったけど」
「途中で出会ったチルタリスのお陰だね。本当に感謝しなきゃ」
「そうね。あ、そう思えばダンジョン化して無いのは南と北の少しだったわよね?」
「う、うん。島の中央部と今の方角以外はダンジョン化してる。南なら活動拠点に出来る簡易ギルド兼役所と船着き場のハイブリットがあるけれど、私達は申請をしてないから北からの侵入になりますね」
「そっか。じゃあ案内を頼んだわね?」
「はい!」
私は大きな声で答えて、ギアで現在の位置を表示する。普通なら圏外で扱う事は出来ないけれど、特別な信号で通信をしているから、操作することは出来る。流石にオンラインエリアより通信は遅いけれど...使えると使えないは全く違う。まあともかく、今の現在地と手持ちの地図から目的の北部を出さなきゃ。
ヴィシリア島はデジタルマッピングデータが無くて、紙の地理情報しかないから、今見ている景色と紙から現在位置把握と、目的地を割り出さないといけない。んー、紙じゃなくてデータ化して持っておけば良かった...。
「...どう? 分かりそう?」
「まっすぐ行ければ良かったけれど、気流に乗った影響でちょっと方角が変わってるのと、似たようなとこがあるから難しいかも。島の南部の位置さえ分かれば直ぐにも分かるのだけど...流石にそこまで目が良いわけじゃないから...」
「そっか。なら島の中心あたりに飛んで、そこから探せばいいか。なら少しだけ速度を上げて、高度も上げるから、しっかりと掴まってて」
「う、うん」
ミウちゃんの言葉に私は手に持った地図をバッグへ仕舞いこんで、お腹と顔をピッタリとミウちゃんに密着させる。因みにバックはギルド支給の肩掛けバッグじゃなくて、両肩に背負う普通タイプのバックで、少しでもミウちゃんが飛ぶ時に負担にならないように、流線形のバックにしてる。イメージ的には壁を流れる水滴みたいな形。
そのお陰でミウちゃんは一人で飛んでるのとほぼ同じ感覚で飛べて、変な空気な乱れが無いからバランスも取りやすくて、疲れもそんなに出ない。ちょっと買い物をするのが誰かと出会いそうで怖かったけれど、特に何事も無く買う事ができた。でも女の子の二人が男物のスポーツバック売り場で選んでたから浮いてたのと、チラチラ見られてたけど...。
「.........うん? なんだか、ちょっと気流の流れが変わってきた。ウィアちゃんごめん、余力を残したいからもっと加速する。それで申し訳ないけど...多分落ちちゃうだろうからサイコキネシスでちょっと押し付ける」
「お、押し付けって...へうっ!? な、何するの...って、ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!??」
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Side ミウ
ルデラを出発してから約三時間くらい。私は空路で目的地のヴィシリア島に向け、ウィアちゃんを背中に乗せてピジョットで飛んでいた。途中に気流の乗り方をチルタリスに教えてもらったお陰で、多分一時間くらいは短縮できたのと、力の温存をする事ができた。だけど問題は着陸予定の北部がよく分からないということ。どうやら紙の地図しか無いみたいで、私の背中で確認しているのをちらっと確認してみることが出来た。
っで、どうするのかと話になると島の真ん中まで向かわないとイマイチ位置が把握できなそうで、私は上昇する為に加速準備で、ウィアちゃんにお腹を付けるまで身体を密着して貰った。そこまでは良かったのだけれども、途中で気流が変わって目的航路から逸れるのが分かり、まだ航路がそれてないうちに加速する事にした。だけどそれをするとウィアちゃんが落ちるような気がして、私は有無も聞かずにサイコキネシスで自分の身体に強く押し付けた後、羽を羽ばたかさせて、高速移動も使って、多分自分の限界速度まで加速する。
そしてそのままの加速で気流から飛び出し、更に速度を付けるために前重心になり、カタパルトのように飛び出した私はグライダー状態に突入した。さっきまでどのくらいスピードが出たのか良く分からないけれど、多分最高速度は100キロは超えてたかも。そして今は前重心で落下して、速度は120キロ近くは出ているかも知れない。
「ぐっ...そろそろ上昇できる速度までなったわね。ウィアちゃん、行くわよ! ...あれ?」
「.........」
は、反応が無い...でも、ちゃんと背中に温もりと呼吸があるから...もしかしなくても気絶してる?
やばい、ちょっとやり過ぎたかしら...しょうが無い、この速度のまま高度を上げたらゆっくり飛ぶしかないわね。
「.........よし、だいぶ高度を上げられた。そうしたら後はウィアちゃんを起こさなきゃだけど...うーん、やっぱり降りるしか手が無いわよね。そうしたら...急降下」
どうやっても多分しばらく気絶してるだろうと踏んだ私は、せっかく加速して高度を上げたのに、そのままグライダーでゆっくりと降りることにした。はあ、何やってんだか私は.........
暫くして、私はグライダーで島に人目のない場所に着陸し、ウィアちゃんをサイコキネシスで浮かべさせながら種族を変更し、今度はチャーレムに変身し、お姫様抱っこ状態でウィアちゃんを持つように変える。着陸しちゃったからココが何処なのか良く分からないけれど、少なくとも降りるときにちょっとした建物が北西に見えたから、多分西側に降りたって事はなんとなく分かった。
まあ問題は...やっぱり詳しい場所が分からないこと。太陽の位置と季節、影の長さを頭のキャンバスに描くと、今立ってる方向は南なのは感覚で何となく分かる。あくまで目測だから正確じゃないけど、分からないよりはマシだと思う。
...それにしても、いかにも本当に手付かずの自然って感じね。ルデラ諸島に居るのに、まるで違う諸島に居るかのような、そんな感覚。本島はたしかに自然はかなり残っているけれど、やっぱり少し手を加えられてたり、もちろん完全手付かずもあるけど、なんというか空気が違うというか、何というか.........ん?
「...何かしらここ、なんだかちょっとだけ舗装されてる? それに何かの足跡があるけど、コレ...新しい。しかも、この匂いは...血? それ以外にも引きずったような跡と、これは二輪の台車...かしら?」
少し歩いてみると開けた場所に出て、見た目はなんだか舗装されたような場所だった。だけどそれより気になったのは足跡と、かなり薄いけど血の匂い、引きずったような跡、二輪台車の跡。まさか、ココで何かあった?
方向的には...うーん、何かが見えた北側方向に向かってる。なんだろ、凄く胸騒ぎがする...向かって見るのもありかもしれないわね。じゃあウィアちゃんを背負ってと...走るか。