Unknown07C
Side ウィア
「はぁ...はぁ.........疲れたぁ...」
「あはは...まさかの第一声はそれですか...。 けど確かに、今の敵は...ふぅ、疲れましたね.........」
床に背中から倒れ込みつつ呟いたミウさんに突っ込みつつも、私も同じように倒れ込んで緊張を緩めた。そしてダンジョンに長い間で潜り続けていたけれど、一番の疲労感を感じていた。
にしても...改めて身体を見ると、黄色い身体が泥だらけのボロボロ...ミウの綺麗なピンクの身体も泥だらけになっていた。因みにフランさんは私達が横になったのを見て、同じように倒れ込んでゴロゴロ...なんか、床に寝るのは慣れているようだった。
「...ふぅ、確かこの下が目的地...なのよね?」
「えっ、あー...そう、ですね。スキャンの反射結果的に、その下の階層は無いはずです。ですが個人的な理由で困った事になりまして...」
「えっ、何かあった...?」
個人的に何かあった、そう答えるとミウはふわっと浮き上がって私を中心に回った。どうやら私の身体に何かあったと思ったらしかった...言い方が悪かったかもですね.........。
「いえ、身体は何ともないんです。それで理由というのは...ギアの消耗が思った以上に激しくて、まだダンジョンが続く場合は壊れる可能性が出てきた事なんです.........」
「壊れる? えっ、そうしたら私のギアを...」
「.........お気持ちは嬉しいのですが、私のギアは前も話した通りZギアAdministratorModelという三台しかない特別製です。お二人に渡してるZギアExperienceModelはアーシアさん達と同じ物ですが、結局は下位互換なので必要な操作が足らないんです。ある程度なら管理者権限で同じように出来ますが...」
「...言ちゃ悪いとは思うのだけど、何が困るのよ?」
「困るのは先ほど使ったスキャン機能、緊急脱出用のテレポート機能、そして罠でバラバラになった時の保険として通話機能...出そうと思えばまだまだ出ますが、その殆どは何か起きた時の保険となる機能ばかりなんです...」
...この中で重要になるのは緊急脱出用のテレポートなのは間違いない。ミウが大丈夫ならば...テレポートで脱出は出来るけれど、倒れてしまった場合は脱出しなければならない。それは過去に遡る前にテレパシーで創造様から、どんな事が起ころうが絶対ダーク化は防がなければならないと念押しされたから.........
「...そう、なのね。けど使うってなったらすぐに渡すからね?」
「ありがとうです。取りあえず低スペックに切り替えてと...よし、そろそろ行きましょう。下に繋がるフロアは覚えましたので」
「いくぞー」
フランさんの掛け声になんか癒されつつ、私が先導で下へ続く穴へと歩を進め始めた。にしても...このダンジョンの行方不明チームの遭遇率が中々におかしい。
今まではどうにか...アーシアさんを守れなかったのが心残り意外は切り抜ける事が出来たけど...また遭遇することがあれば消耗しきった今の身体は危ない.........。
そして二人のヘルスチェックの確認をギアで現状は取れているけれど、ギアの損傷状態を考えてどれだけ持つか分からない。不具合の出るソフトやハードをコアシステムからの自動切断を繰り返し、何とか壊れずに稼働させる事が出来ている。
実言うならば、まだ万全な状況ならフランさん達に渡しているギアにデータと制限解除でどうにかすることも出来た。けどまだ大丈夫、大丈夫と先延ばしにしていたらそのアプリに異常が起き、コアシステムが自動カットオフして使えなくなった...。
最終手段としてオーバーライド、動作の強制上書きで起動させる事は出来るかも知れない...けど、それよりも重要な機能はいくつもある。出来ればその機能の為に温存をしたくて、使うのを躊躇い続けている。
「ん? ウィアなんかあった?」
「...よし、一応ですが二人に地図データだけ転送しておきました。これで二人もMAPから下層に続く穴を確認できるはずです」
「えっと、コレね」
「それです。にしても操作に慣れました? 最初に比べると慣れた手付きになってる」
「そうね、流石に操作は慣れて来たわ」
「んー、私はまだ良く分かんない。知らない言葉が一杯」
知らない言葉が一杯...確かにフランさんにはギアの操作は難しいかも知れない。そもそもにも字があんまり読めてない気がする...勉強もちゃんと出来なかったんだと思う。この事が終わったらフランさんは何処かで保護して貰うか、何処かのギルドにお願いして所属させた方が良いかも知れない。
それもちゃんと、私たちと出会って行動したかを消した上で...本当ならそのままにしたい。けれどそんな事をしたら必ず未来に影響が出るのは明らか...私たちの目的は光石を見つけて未来に持ち帰ること。
そして過去で過ごした記憶は全て、また自分の記憶からも消し去らないといけない。だけど時が来たらちゃんと思い出さないといけない...コレはとても難しい。
「確かフランちゃん文字読めないのよね…けどフランちゃんみたいな優等生ならすぐに覚えちゃいそうね。あっ...考えてみれば、この事が終わったらフランちゃんをどうするかウィアは考えてる? その...馬鹿な事を言ってるのは分かってる、できれば可能な限り記憶は残しといてあげたいのだけど...無理よね?」
「...私もそれは考えました。でも.........フランさんっ」
「...ウィ、ウィア?」
私はミウにフランさんの記憶を残すか聞かれ、思わず私は悩んでしまった。やっぱり何処かでフランさんには私達の記憶を持っててほしい...それが掟破りだとしてもそうしたい思いもある。けど記憶を持たせて置く事の危険性を知ってる筈なのに、残しておきたいと思っている自分が居るのが分からない...。
本当に過去に来てから悩んでばっかり...こんな時はどうすれば最適解なのか導き出せないでばっかり。...いや、最適解は記憶を消すこと...の...はず。
けどそんな事を考えながらフランさんの方向に顔を振り返ると、そこには歩みを止めて不安そうな顔になっているフランさん...。私はハッとして、駆け足でフランさんに近寄ってそっと抱き込んだ。
その行動にフランさんはビックリしたみたいで、少しだけからだが飛び跳ねていたけれど、すぐに私に対して体重を預けてきた。そのまま少し抱き続けながら.........
「ごめんなさいフランさん...ちょっと不安にさせちゃいました。あのねフランさん、目的が済んだ後に記憶は消さないといけないとは話しましたね? だけどフランさんが絶対私達のことを喋らないと約束してくれるならば残します。けれど私達はフランさんの記憶は消してしまいます。なのでフランさんは私達に関することは何一つ、どんな人であっても話してはいけないし、仮に私達と出会えたとしても私達は分からない...それでも記憶は消さずに居たい?」
「ちょ...ウィ...」
...こんな酷な質問を淡々と問い掛けるなんて...本当に最低な私だと思う。後ろでミウも途切れ途切れに声を漏らして...言わなくても分かる、ミウは確実になんて質問を問いかけてるのと言いたいに決まってる。それとも呆れて物も言えないだけなのかも知れない。
それに少しフランさんの身体が小刻みに震えだしたような気がする...そうなって当然だと思う。そうなってしまう程に私は...酷い質問を.........
「...ウィア、泣いてるの...? それに、凄い震えてる...」
「...ふぇっ? そ、そんぐすっ...そんなんじゃぁぐすっ...あれ...おかしいですね.........。酷い質問をしたのはぐすっ...私なのに.........」
本当に分からなかった、何で私なんかが泣いてるなんて分からなかった。それに震えの原因はフランさんじゃなくて私の震えだったらしい...
「...ウィア? 大丈夫...?」
「ぐすっ.........フランさんはぐすっ、凄いですね本当にぐすっ。聞いた私が泣いてるなんてぐすっ...本当に私は最悪な人です.........」
「...確かに驚いた。けどそれはウィアが私を思って聞いてくれたことって分かってた。聞いてくれてありがと」
「そんっ...ぐすっ、ありがとなんてぐすっ.........ううぅぅ...」
...情けなかった、酷いことを聞いた私が慰められているこの状況に。こんな状況、普通なら罵声や文句、なんならそのまま離れてどこか行ってしまうなんて十分にあり得る程のことをした。だけどフランさんは泣いてしまった私を少し強く、包み込むように抱きながら頭を撫でるまでしてくれた.........。
「...ううん、何度でもありがとって言う。それと、答えはもちろん記憶は持っておきたい。誰にも話さない、例えウィアとミウが知らなくても、また友達になればいいから」
「...ははは、本当にぐすっ...凄いフランちゃん.........。ぐすっ、分かった...。フランちゃんの記憶はぐすっ、消さない。絶対に消さない」
「その...疑ってるわけじゃないけど...ウィア、本当に大丈夫なの?」
「...ぐすっ、はい。掟は破ってしまいますが、きっとフランちゃんなら大丈夫です。けどフランちゃん、本当にごめんなさい。酷い質問を問いかけたのは変わらない事実だから謝らせて下さい」
「ん。ぜんぜん怒ってない。ありがと」
「...ふふふ、本当に凄いですフランちゃんは...私も見習わないとですね。さてと、目的のポイントまでもう少しです。気を引き締めなきゃですね」
フランちゃんが私に優しく微笑みながら答えた顔を見て、私は本当に凄いと思った。それも嘘偽りも無さそうな笑顔を...そして必ず守りきらないといけないと改めて自分の心に言い聞かせた。