Unknown06D
Side アーシア
いまの悲鳴...しっかりルナちゃんの声まんまだ...。で、でも姿は明らかに闇に捕われし者だし、上記に戻ったとは流石に考えにくいし.........
「...ゃん.........シアちゃん!!」
「で、電光石火っ! .........や、やっぱりさっきよりも勢いが無くなってきてる...」
動きが最初と違って迷いが見える気がする。今の攻撃だって歩数がと言うより、歩幅が全く安定してなくて荒がってるようにも見えた。あの状態、見た事ある。いや、見たことあるというより体験したことがある...忘れもしない、ダークライに身体の自由を奪われたときと似てる。
「.........グッ!」
電光石火で距離を取って離れてからルナちゃんを見ると、前に行こうと前足を出すけれど後ろ足が動いていなくて前が進むことができない姿があった。もしかして少し意識が戻り始めて葛藤してる...?
「...ル、ルナちゃん!! ねぇ...ルナちゃんなんでしょっ!?」
『...あッ.........イギギギィ...や......」
ルナちゃんの様子に少し戸惑いつつも私は大声で、ルナちゃんの名前を叫んで呼びかける。すると声に反応してルナちゃんは首を左右に振りながら私から後退りしていく...明らかに反応がおかしい。仮にもっと揺さぶりを掛ければ...もしかしかしたら。
だとするとウィアさんの意見を聞きたい。だけど今はフランちゃんに付いてもらってるから...
「...ミウさん! 個人の頼みで申し訳ないのですが、ちょっとだけウィアさんと私、ミウさんとフランちゃんで動いてもらっていいですか!?」
「...え、ええ? わ、分かったわ! ...変身っ!」
「何がしたいかよく分かりませんが...分かりました! フランさん、ちょっとだけ行ってきます」
「ん、行ってらっしゃい」
あんまり頼みたくなかったけれど、もし仮に望みがあるのならば試さないわけには行かない。二人が戻ってきてくれるならば、もちろん未来に居るスイちゃんやマコトさんも心配だけれど、どちらかを切り捨てるなんて考えたくない。しかもそれが行動することで少しでも変わるならば、変える事が出来るならば尚更に。
「来ましたがアーシアさん...一体何をするおつもりですか?」
「...今までの事例で闇に捕われし者が正常心を取り戻した事象はありますか?」
「.........」
「...ねぇ、ウィアさん...どう、なの...?」
私の横に来てくれたウィアさんに対し、私は顔はルナちゃんを見つつウィアさんの顔は見ずに尋ねた。顔が見えないからどんな顔をしているか分からないけれど、私の問いに答えはしばらく帰ってこなく、その空白に無いと思いつつ再度質問する。だけどその質問にも答えずに、空白の時間が流れた。
聞こえるのはルナちゃんの苦しむような声、そしてミウさんとフランちゃんがフォルちゃんと戦っている音だけ...。
「...分かった。それが、答えなんですね。なら救助隊、探検隊としてはアレは敵。ありがとうウィアさん、答えをくれて.........電光石火、アイアンテール」
答えが出ない、つまり事例も無いし治す方法も無いということ。ならルナちゃんは...いや、あのブラッキーは敵だ。そしてあのピカチュウも。私は心の踏ん張りが効いた所でその場で風を纏い、尻尾を硬化させてブラッキーに技を叩き込む為に構えた。相手は流石に蓄積ダメージでこの攻撃が当たれば確実に倒せる。
けどそう思った矢先だった。
「.........ある。事例が一つ...」
「...え。 あ...る.........のですか?」
ウィアさんの口からあると言われて両方とも技を引っ込め、私はこのタイミングで初めてウィアさんの顔を見た。その顔は悩ましい顔そのもので、言うか言わまいか葛藤していたかのような顔をしていた。それよりもウィアさんのあるの一言...その答えを出すまでかなりの時間が掛かったという事は、それなりの覚悟や代償があるものと感じ取れるには充分な事だった。
「...はい、一つだけ。それは闇に捕われし者に適合する事。これを成し遂げているのが一人...リファルさんです。未来ではリファルさんは自我を取り戻し、今はとあるギルドで副団長です。そして適合した要因は、大切な人を思いでを思い出す事」
「大切な人を思いでを思い出すこと...」
「はい、なので先程のように声を掛けて揺さぶりを掛け続ければもしかしたら...」
「.........なら、私が思ったことは間違いでは無かったのですね。なら、ルナちゃんは戻せる。フォルちゃんは今の状態じゃ分からないけれど...きっと」
「...えぇ? ちょ、アーシアさん...?」
揺さぶりを掛ければ治る可能性がある、ならそれなら簡単なこと。ルナちゃんは私に対して良く抱きついてきたから、それを声を掛けながらやれば行けるかもしれない。そう思った私はウィアさんの静止を聞かずにゆっくりルナちゃんに近づいた。
それも私に抱きついた時にしていたルナちゃんの顔と同じように、笑うような笑顔でゆっくりと。そんな私を見たルナちゃんはゆっくり後退りした。だけどそんな姿にお構いなく近づき、手を伸ばせば触れられる距離で立ち止まった。
そして私は...
「...ルナちゃん、私の事...覚えてる? ...お願い、またその声で私の名前を...アーちゃんって読んでよ...」
『...カッ.........ア...グ...アァァアァアアッ!!』
「がはっ!? ...やめ...てぇ...ルナ...ちゃ...くる...し...」
これはちょっとやばい...流石に警戒心を取り除きすぎた。今私の体はルナちゃんに地面に倒されて乗られて首を締められてる状態。しかもとても強い力で締め付けられて意識が薄くなって...
「ルー...ちゃ...ん.........」
...あ...や...ば、いし...き...が.........
ーーーーー
Side ウィア
...やっぱり、方法はあると言ったのは間違いだったかもしれない。あると言いつつも、リファルさんの場合がそうだっただけであって確証なんか無い。私はバカだ...アーシアさんはきっと直す方法があるかもと、揺れる思いを振り切る為に私の答えを聞きたかっただけの筈だから。
だから答えはどちらでも良かったはずなのに...それなのに、どうしても私の良心が邪魔をして無いとウソを付けなかった。けど確証が無いのにあると答えたのは嘘と同じ。でも今ならまだ間に合う、確率や確証が無いと言える。そう心に刻んで口を開こうとしたけれど、
「.........なら、私が思ったことは間違いでは無かったのですね。なら、ルナちゃんは戻せる。フォルちゃんは今の状態じゃ分からないけれど...きっと」
「...えぇ? ちょ、アーシアさん...?」
言う前にアーシアさんは行ってしまった。その背中を見て待ってと言いたかったけど、口が開くだけで声を出す事ができなかった。だけど、その後悔はすぐやって来た。
『...カッ.........ア...グ...アァァアァアアッ!!』
ルナさんだった人がアーシアさんを後ろに押し倒したから。しかも体格差はほぼ互角、しかも四足歩行族の欠点とも言える手と足の間にルナさんだった人が居るせいで全く身動きが取れない状態にもなっていた。
直ぐにマズイと思って一歩を踏み出すけれど、その体はまるで金縛りにもあったかのように動かす事が出来無くなっていた。助けなければならないのに、身体を全く動かすことが出来ない。それどころか、私のせいでああなったと罪深さに胸が締め付けられて息をすることさえ辛くなっていた。
しかもギアからアーシアさんのバイタルアラートが通知され、更なる罪悪感で過呼吸になって動くことすら出来なくなってしまった...
「ア...シア...さんが.........」
アーシアさんのバイタルアラートが危険のデンジャーになったのを見て、震えが止まらなくなった。私のせいで...私のせいで...アーシアさんを.........もう正常な事を考える頭はもう私には無かった。
「.….....ローキックッ!!」
『ガッ!? ...ウ...グ.........』
過呼吸で私の意識も薄れてきた時、フォルさんだった人と戦っていた筈のミウが、ユキメノコじゃなくてミミロップの姿でルナさんだった人を走り込みで蹴飛ばした。その時にアーシアさんも一緒に飛ばされたけれど、テレポートでアーシアさんを掴んで私の横にテレポートしてきた。怒鳴り声なようなものが聞こえるけれど、なんて言ってるかなんて直ぐに分かる。
どうして助けなかった、アーシアさんに何を言った、なんで嘘を言ったかに決まってる...。そうだ、これは全部私が悪いんだ。私が嘘なんか行ったその罰だ。大切な人を目の前で消えさせ.........
パシッン!!
「っう!?」
左頬に強い痛みを感じ、両手で痛む所をギュッと抑えた。この痛みは何...そう思いながらゆっくりと顔を上げた先には片手でアーシアさんを抱え、右手を震わせたミウの姿あった。そっか、今の痛みは私の事を...
「...少しは落ち着いたようね、ウィア。話は後で聞くから今はアーシアちゃんをしっかり守っといて」
「.........はい」
「...変身。テレポート」
守っといて、そう言い残してミウは私にアーシアさんを押し付けた。その後はミュウの姿になってフランちゃんの真横にテレポート...。複雑な気持ちのままアーシアの顔を見ると目尻に涙を溜め、苦しそうに大きく息を吸ったり吐いたりしていた。何よりも首周りからお腹の下腹部までの体毛乱れが.........。
「はぁ...はぁ.........あ、はは...やっぱ...だめ...でした...」
「アーシア...さん.........」
「もう少し...待って.........ウィアさん...もしかしゲホッ! もしかして...自分を責めてません...かっ?」
「っ! い、いやだって私は...」
「...本当の事も言いたかったけ...はぁ...はぁ...けど、否定もしたかったのでは...? 正直...リファルさんの事はびっくへうぅっ!?」
「へっ!? ア、アーシアさん!? ...まさか!!?」
少し話していたらアーシアさんから急に苦痛な顔と声、身体が大きく跳ね上がった。ただ跳ね上がった時に直ぐにお腹を抑え込んだのを見て何が起きているか全て私は悟った。血こそ見えないけれど内臓に損傷があり、最悪は内出血してる可能性があると。
まずい、流石に内蔵か内出血に対しての応急処置法なんて無いに等しい。いや、私達じゃできないけれどシルクさんならもしや...望みは薄いけれどやってみるしかない。一番怖いのはこの世界の私と一緒にいる事だけど...内蔵損傷か内蔵出血ならば早く処置をしないと危険過ぎる!
私は急いでギアを起動して、連絡先からシルクさんの名前を探し出す。そして通常のコールモードではなくて、専用回線のカスタマーサービスを確保し、そこから緊急通話のエマージェンシーコールを起動する。カスタマーコールは繋がらないダンジョン内でも使えるようにし、エマージェンシーコールは緊急である事を相手に通知する為の連絡方法。ただカスタマーコールは通信する為に専用回線を無理やり開くためギアのバッテリー消費が激しい事、一番に使ったことを特定されるし逆探知される。
だからダミーを使ってバレるまで時間を稼ぐけれど、正直どのくらい持ってくれるのか分からない...
「.........おねがい、繋がって...」