Unknown06B
Side アーシア
「...やっと次へのフロアに行く場所ありましたね。今回は階段や坂じゃなくて穴ですが」
「そうね...ところで二時間近く彷徨ってたような気がするけど、そこんとこどうなのウィアちゃん?」
「えーと...そうですね。正確には二時間半もココのフロアに居たらしく、フロアの大きさは半径約2キロメートル。直近のマッピングデータから見るに最大級ですね」
「うわ、半径2キロメートルって凄い広いじゃない...そんなに大きければ時間も掛かるわね」
半径2キロメートル...ぱっと大きさが分からないけれど、かなり歩いたり戦ってたりしていたから広いってことは分かる。にしても起きてから直ぐに挑むフロアがこんな感じだと、次のフロアも何かしら普通じゃなさそう。
考えてみれば中間地点を通るごとに変わったダンジョンや、雰囲気が様変わりする事が多くなるとは聞いてたから...。
「さて、サイコキネシス! 一応なにかあっても大丈夫なようにゆっくり降りるわよ」
「はい、お願いします。 ...ん、ミウちゃん止まってくれる?」
「えっ? なんかあった?」
ミウさんは私達をサイコキネシスで地面から持ち上げつつ、ゆっくりと次のフロアに下降していく。次のフロアに突入しての第一印象は暗い、そして風の流れが妙な事。その後の私は特に考えず無意識にギアを起動し、スキャンモードを入れた瞬間に途端にウィアさんがミウさんを静止させた。
それによって私の身体は急ブレーキが掛かった状態になって少し身体が圧迫されたけれど、それは痛みを伴わない程。代わりにびっくりして心拍数が少し上がったような感じがあるけど...。
「...どうやらこのフロア明らかに時間の流れが倍加してて、一時間が一秒で動いている。おかしい、ギアの自己診断は正常を指してるのに」
「何よそれ!? えーと、ギアはともかく安全にこのまま降りる事は可能? 案外空中静止するのって辛くて」
「少しお待ちを.........えーと、なるべく平行移動で壁に当たるまで右に行ってもらっても」
「右ね.........っで、次は?」
時間が早い?
まさかと思いつつギアのアプリをスキャンモードを維持しつつ、日の出から日の入りや秒まで分かる精密時計のアプリを起動する。するとウィアさんが言った通り時が一秒ずつ動き、分秒は8888と表示されていた。
故障かなと思ったけれど、ウィアさんやライトさん、フィリアさんやリーフさんが設計している訳だからそれはまず薄い。それにウィアさんは正常に動いていると確認までしているから、その線は無いということ。
だとしたらこのフロアは本当に時間の流れが倍加している危険なエリア。だとしたら私も少しでも協力して早く出れるようにサポートしないといけない。そうしたらまずはスキャン結果を知らせるのが妥当な筈。
そう思った私は後ろで走らせていたスキャンアプリを表示して、スキャン結果を確認する。私が走らせたスキャンは敵の有無と隣接したフロアの識別。敵の有無は現在地マップに位置をマッピングしてくれ、フロアの識別はどんな大きさなのかが分かる機能。一番は隣接したフロアにもマッピングが反映されれば良いけど、どうやらスキャン自体のやり方を変えないと駄目みたい。
「...どうやらエリアは二つしか無いみたいですね。敵も検出されません」
「ありがとアーシアちゃん。そう、なら安心して移動できる訳ね。それでウィアちゃん、次は?」
「...えーと、真下に良いと言うまでゆっくり降りて下さい」
「下ね?」
「.........うぅ」
「ふぇ? フランちゃんどうし...」
私はスキャン結果を知らせつつ、次になにか手伝えそうな機能がないかギアを操作してると、ふと背中にフワッと抱き付いてきた感覚に後ろを振り返る。するとそこには私の身体に頭を押しつけて抱き付いているフランちゃんの姿。急に来られたもんだからどうしたのと聞こうとしたけれど、押し付けたあとに擦り付けて小さく身体が震え始めたから何が言いたいのかすぐに読み取れた。
思い返してみれば暗闇と分かってからフランちゃんは急に一言も発しなくなったし、月明かりあるなら良いけど寝る時に真っ暗は嫌って言ってた。確かにこの暗さ、いや暗さというより真っ黒は流石に怖い。それに、雰囲気的に私がこの世界に導かれた空間とかなり似ていて怖さを覚えて...
「...ふぅぅ」
どうしよう、そう思い出したら私まで怖くなってきた。だけど怖がってちゃ駄目、だって私が怖がったら余計にフランちゃんまで怖がらせちゃう。だけど一度でも怖いと思ったら簡単に怖い気持ちは拭えない...知らぬ間に私も一瞬だけ身震いをしていた。
だけど身震いに抱き付いているフランちゃんも当然気が付く訳で、私の身体を少し強く抱き締めてきた。私は「前においで」と小さく呼び掛け、来たところに左手でギュッと抱きつつ右手でゆっくりと撫でる。その間にもウィアさんとミウさんの話し声、ウィアさんのギアから発せられる機械的な音が小さく反響していた。
「...見えた、ミウちゃんそのまま真っ直ぐ水平移動。下って言ったら水平移動を止めて、真下に移動すればこのフロアは抜けられる」
「了解よ。にしてもギアが無かったら真っ暗、っというより真っ黒のせいで突破は不可能だったわね。助かったわウィアちゃん」
「いえいえ、元々このギアを考えだした人が凄いだけで、私はただ改造しただけですから。あっ...ストップ、そこから真下に」
「了解。にしても改造しただけって簡単に言うあたり流石はウィアちゃんね。私にはちんぷんかんぷんだけど、これがどれ程に優れてるのかは用意に分かる。ところで最初にコレを考え出したって人、誰なの?」
「...えーと、実はデータがすべて抹消されているようなのです。なので誰が考え出したか、誰がプロトタイプを作ったか、そもそもに初期コンセプト、何故作ろうとしたかまでも全部データが無い。すべて闇に葬り去られていますけど、言えることは一つ。DM事件の首謀者であるダークライは絡んでると私達は推測してます」
「...ダークライ、ね。あのね、実はダークライは闇から急に生まれた存在なの。罪逃れに聴こえるけど私が生み出した存在じゃない。ウィアちゃんは私達の生まれをどこまで知ってる? 世界の始まりは創造様、アルセウス様だって事くらい?」
「そう、ですね。流石の私もこの世界の成り立ちは考えた事は無かったか...あ、フロア抜けましたね。現在階層は18階で、時間は...早朝の5時で3日経過。やはり今のフロアだけ時限が狂っていたみたい。ん、そう思えば...えっと、アーシアさん? フランさん?」
「.........うぅ。...あれ、明るい?」
不意に声が掛けられてゆっくりと目を開けると、目の前はさっきの暗闇じゃなくて眩しいくらいの明るさをしたフロアだった。辺りを見渡しつつ、ふと気になって真上を見てみると、天井の穴にポッカリと真っ黒い穴が見えた。そっか、私達はあの真っ黒を抜けてここの階層に居るんだ。
「危ないフロアは突破したわ。あとはこのフロアを超えれば中間地点の20階。流石にそろそろ最深部に到着してもいいとは思うのだけど...」
「そのことに関しては少しお待ちを。アプリケーションコール、エリアスキャニング、ディープシグナルモード。.........ん、深層スキャン掛けても20階から下が検出できない? まさか20階が最奥地?」
「え? けど、前に挑んだときは...そっか、あの時は15階層でリタイアだったわね。そうと分かれば、早く行くわよ! どちらにせよ休憩するにもセーフゾーンに入らないと安心できないんだから」
「そうですね。えっと、フランちゃん? いつまで私に抱きつくのです...? もう大丈夫ですよ?」
「.........ぷはっ、もう少しこうしてたかった。わたし暗闇嫌いだけどアーシアは落ち着く」
「...え、えーと、毛並みのことを言ってます?///」
中々に離れないフランちゃんに少し戸惑いつつ、私は声を掛ける。するとフランちゃんは少し強く顔を押し付け、上目遣いに私を見てきた。少し赤めた頬、フワッとした表情が可愛くて理性が飛び掛けたけれど、何とか堪えてフランちゃんから離れた。
...なんだろう、このままだとフランちゃんにお願い事とかされたらヤダって言えなくなりそう。そもそもに私は可愛いとは思うけどそこまで子供が好きってわけじゃない。ただ、フランちゃんはそんな事お構いなしに可愛いと思えるし、守ってあげたいと思う。やっぱりこう思うようになったのは、確定じゃないけどフランちゃんの両親は死んでると感じ取れたから。
後はお風呂の前に言っていた元気な姿を見せられる、そして私がお風呂の中でフランちゃんの両親を聞いたときの反応。何だか思い出したくないような、そんな事とも取れる反応だったから。
「ん」
「...アーシアちゃん、フランちゃんの独り占めは許さないわよ?」
「ちょっ、ミ、ミウさん? 今のはちょっと人聞きが悪いですよ...まあ、うん、なんとも言えないですが///」
「はぁ...取り合いするならばセーフゾーン入ってからにしてください。因みに現在、右のフロアに敵を検出してます。数は二、少しずつコチラに近付いて来てます」
「と、取り合うことに関しては否定しないのですね...。えと...コレですね、なんか一緒に動いてません?」
ウィアさんが二人近付いてくるという声にギアのスキャンモードに切り替えると、確に敵を示す赤丸が二つコチラに近付いて来ていることを確認出来た。だけど私はそれよりも二つの赤丸が同じ方向で、同速で一緒に動いていることに少し違和感を覚えて、呟き混じりに質問をしてみた。何故なら基本的に一緒に、しかも同じ速度で近付いて来ることに関しては初めてのケースだったから。
だけど私は初めてと思いつつも、このダンジョンがレアケースの塊だからペアの敵でも現れたんだとしか思わなかった。でもウィアさんの口から出た回答は、私やみんなの予想が斜め上を行くような答えだった...
「確かに...あれ、ちょっと待って下さい。よく見たら別色も重なって.........っ!? まさか、コレって...」
「ん? なに?」
「ウィア? 一体何があったのよ?」
「.........結論から言います。この人達は最近に行方不明となっていた、ルデラやラスカでも無い諸島のヒューエルタウンに所属していた救助隊兼探検隊のソウルズです...」
「ソウルズっ!? ちょっと待ってそのお二人はピカチュウのフォルちゃんと、色違いブラッキーのルナちゃんですよね!?」
「...へっ!? ま、まさかアーシアさんのお知り合いですか!? その、あり得ないと言う気持ちは分かりま...ア、アーシアさん?」
...うそ、信じられない。フォルさんとルナさんは出会いこそ短かったけど、2日3日はダンジョンで共にした友人。最近になって連絡取れないと思ってたけどまさか、いや...まだそんな現実は信じないし受け入れたくない。
だけど...行方不明で見つかったと思ったらレーダ上は敵の反応。私だって確認して敵のマークになっているのを確認してた。だけど...フォルちゃん、ルナちゃんが.........。
「...目視識別可能まで残り37秒です。アーシアさん、先程言った通り信じられない気持ちは分かります。ですがその友人が、他の誰かを傷付けるところを見たいですか?
そんな姿になってしまった友人を止めたいと思いませんか? 慰めってわけじゃありませんがアーシアさん以外にも同様なケースで、ギルドに事後報告が飛んでくるんです...。辛い気持ちは分かります、だからこそ自分の手で終わらせてあげるんです」
自分の手で...そう、か。そうですよね、私がダークライに身体を乗っ取られたときも...