承伝の回廊
Side ホノン
「待ちあわせはココって言ってましたけど...ホントにここで良かったのでしょうか...」
「うん、大丈夫な筈だよ。だってシードさんがこの場所を指定した訳だし、シルクさんとウォルタ君もココに向かうって言ってたし」
「うん、アタシも大丈夫と思うナノ」
私はウィアさんの不安の声にそう相槌を返した。私達が居る場所は、森の中の筈なのに急に開け、地面だって草も生えてなくて土が剥き出しになったところ。場所的には、ナルトギルドを北と見て、ナルトシティの西側にあるエルドタウンのちょうど間に位置する場所。DM事件が起きていた時にはまだ建設中だったけど、ほんの二年前にナルトシティとエルドシティが電車で繋がり、歩道も整備された。そのお蔭で行き来も凄い楽になったし、エルドタウンがエルドシティに規模が大きくなって、二番目に発展した大きなシティになった。
改めて思うけど、この世界は住人がポケモンってだけで元居た世界とかなり似てる。バス、電車、タクシー等の交通機関があって、お世話になった大型の病院もあるしで。違う事と言えばやっぱり住民がポケモンと言う事と、不思議のダンジョン、ギルドという存在、そして元の世界には無い技術力...コレばかりは驚くしかないよ...。
「そう、ですよね。それにしましても、急な会合に私とホノンさんにスイレンさん、そしてシルクさんやウォルタさんが呼ばれたのでしょうか...」
「んー...何て言うのかな、元々ウィアちゃんって電子的な存在だったから...とかかな? アタシとホノンちゃんは言うまでも無く元々この世界の住民じゃ無いし、シルクさんに至ってはこの時代じゃないし、ウォルタ君は"17代目真実の英雄"?って言う、よく分からないけど称号みたいのがあるみたいナノ」
「それを言ったらシルクさんだって"18代目絆の従者"を持ってるって話てた気がするよ。どちらにせよ、私達は普通じゃありえない何かを持ってる人が集まってるって事になるね」
「そう言われるとそうですね...。ん、なんか声が聞こえてきたけど来たみたいですね」
ウィアさんの声に、私は耳をピンっと上に立てて聞こえやすくしてから耳を澄ます。そうするとウィアさんの言う通り話し声が三つ聞こえて、一つは聞き覚えがあるけど、二つは知らない男の子の声...どっちがどっちだろ。
「.........んなわけで...あっ、居た居た。お待たせしちゃったかしら」
「いえいえ、私も今さっき到着したばかりなので。一先ず、皆さんお疲れ様です」
「ウィアさん達もお疲れ様...っと言われる程に疲れては無いけどね〜。っでもって、このロコンが噂の導かれし者の一人だったホノンさんかな?」
「は、はい! お噂は聞いております!」
「そっか、取り敢えずヨロシクね〜。それでシードさん、本当にココで良いの? 見た限りでは何も無いけど...」
「はい、あってますよ。んーと、時間的にちょうど良さげなのでそろそろ飛びます。皆さん、僕の近くに寄ってもらっていいかな?」
「どのくらいまで集まってれば大丈夫だったかしら?」
「僕の力だと半径二メートル以内までってところだね。一応この状態でも全員を"承伝の回廊"へと御招きすることが可能ですよ。不安要素と言えば...人数かな」
「やっぱり多い?」
「ですね...基本は一人か三人、或いは僕だけだったりしますので。一応あちら側に連絡はしておきまして、ちょっと助けてもらうつもりで居ますけども。さて、お話はこのくらいで向かいますよ.........っ!」
シードさんは話を切った後に上空に飛び上がって、何やら力を貯め始めた。なんで分かるかってシードさんに向かってキラキラした物が集まってるからと、なんだか集まるに従ってシードさんが白く光ってきているような気がしたから。
そんな事を思ってると、シードさんは急に急降下をした後に私達の周りを高速で三周。更にその後は私達の頭上ギリギリで貯めていたエネルギを放出...それに当たった私たちは即座に意識が暗転して、目覚めた時は知らない場所に立ち尽くしていた.........。
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Side スイレン
一瞬の意識が無くなって、気が付いてみたら床も壁も無い場所に居た。感覚的にはポケモン世界に来る時にあった空間に近い感じ...だけど今回は違う。
あの時はどこ見ても真っ暗で、自分の姿も確認出来なかったけど、今はちゃんと自分の姿も見えるし、第一に黒じゃなくて白に近い赤...ううん、元姿の肌色を更に白で薄めたような温かみのある色。因みにホノンちゃんは最初こそキョロキョロしたり、ぴょんっと跳ねてたり、してたけど、いつの間にやめてた。そういう私もキョロキョロしてたし、足踏みしてたからなんとも言えないけどね...。
「...ふー、全員問題無さそうですね。改めましてココが現実世界と伝説の種族が使う空間とも言える場所である承伝の回廊だよ。それと最初こそ僕達しか見えないけど、もう暫くするとこの空間が本格的に繋がるから、他の方が見えるようになって声も聞こえるようになるよ。一言で言うならば移動している感覚かな」
「うぅ...デジタルの世界で同じことを体験している筈なのに、この身体になって足場が無いってこんなに不安になるのですね...」
「僕もちょっと変な感じかな。一応は何回か参加してるから分かってるつもりでも、違和感は消えないよ。ホノンさんやスイレンさん、あとシルクも大丈夫〜?」
「うん、割と平気」
「アタシもナノ」
「私も大丈夫よ。サイコキネシスで浮かび上がる事もあったから」
「そう思えばそうだったね。ん、そんなこと話してたら繋がったみたい。僕はちょっとウィアさんを連れて先に話してくるから」
「えっ? 私ですか?」
「なんかお話したいんだって。ほんとにそれだけみたい。じゃあ行ってくるからシードさん、みんなを頼んだよ〜」
「はい、よろしくお願いしますね。...さてと、注意事項を伝えておくよ。ここに来る前に話した通り、この場所は承伝の回廊と言って神々が集まって会合したり、通り道として使う場所。あとは現実世界との狭間に当たる不安定な場所だから技は当然禁止、それと伝説ばかりでワーワー言わないように。普通は君達を連れてくる事が出来ないけれど、今回は特例で、しかも大勢も連れてきちゃってるから」
「やっぱり...そこまで重要な場所って事ナノ?」
「そうだね。世界には現実世界、それを支える反転世界、更に時限世界、空間世界、そしてそれらを繋ぐこの世界がある。この中にセレビィの僕が使う時の回廊も入ってるけど、そこまで入れるとややこしいから省略す...」
『そろそろ時間だ。客人をそろそろ案内した方がいいのではないか"時刻"よ?』
「こ、"刻限"様...申し訳御座いません...」
突如として響いた声に、アタシやホノンちゃん、ウィアちゃんがびっくりして、声の方向を向いた。するとそこには、シードさんが刻限様と言った人物、ディアルガが立っていた。けど、大きさがあんまり大きくない気もするけど...これって気のせいじゃないよね?
『まぁ良い。私は説教をしに来たわけではないが...シキジカよ、何故そこまで疑問な顔をしている?』
「あっ、えーと...。確かディアルガってもっと大きかった気がして...もしかしたら、私達に合わせてくれてるのかな...と.........」
『あぁ、その事か。おぬしの言う通り、大きいままだとやはり不便だからな...会合の時だけは身体を小さくしている。理屈は私にも分からぬが、たぶんは"創造"様が何かしらの仕組みを作ったのであ...ちょっと待っててくれ。 .........待たせたな。どうやら先程にウォルタ殿とピカチュウが話しに来たようだが、確かにそなたらは問題が無さそうだ。シルク殿と導かれし者も居るようだしな。取り敢えずシードよ、客人の案内を任せたぞ。あと...礼儀も少々教えておけ、良いな?』
「か、かしこまりました。うぅ、やっぱり"刻限"様には慣れないよ...」
「なんか...珍しいわねシードさんがこんな感じなんて...」
「うん...実は"刻限"様に関して、同じく時の神様だからどうしても緊張しちゃうんだ...」
「似てる者同士だから...って感じね?」
「かなぁ...。まあ、取り敢えず...案内するから付いてきて下さい。あんまり僕かウォルタさん、多分シルクさんから離れすぎると身動きが取れなくなるので」
「そうしたら私は真ん中くらいにいるわ」
「じゃあ僕は後ろに居るよ。何かあっても変身して助けられるしね。そだ、さっき言ってたけど礼儀はちゃんとしててね。お会いしたのが"刻限"様だったから注意で済んだけど、人によっては苛立つ人も居るから。まぁ後は...気に入られるとか、毎回会合に参加してればそんなのも無くなるけどね〜」
「ごめんなさいナノ...」
「わ、私も気を付けなきゃ...」
謝れそうなタイミングがあったら、あとでしっかりと謝らなきゃね...。考えてみれば、この会合は伝説の集まる会合...お偉いさんばかりだよねきっと...。
ディアルガが居たってことはパルキアも居るだろうし、ディアルガが言ってた"創造"様はたぶんはアルセウスの事だとと思う。そう考えるとホントにすごい人ばかりだろうなぁきっと...。
「スイレンさん、いくよ〜?」
「あっ、はい!」
そんな事を考えてると、みんなは前に進み始めてて、ウォルタ君が首を傾げながら私に声を掛けてきた。しかも姿はウォーグルにいつの間にかに変わってた。そこからは急いでみんなのところに追いついて、シードさんを先導に不思議な空間を歩き向かった。考えてみればこの世界に戻ってもう丸一日、あれから変わらずに二人とは連絡が取れてない。
アーちゃんに関してはギアが破損して連絡が取れないみたいで行方不明。しかもその場所には切れ落ちたアーちゃんのリストバンドがあって、血が付いてたみたい...無事だと良いけど...。
後はマコトに関してはよく分からないけれど、たぶんこの会合で分かる筈だってシードさんは言ってた。何処なのかは分からないけれど、絶対にマコトが来なかったなんてありえない。だって手を繋ぎながら、必ず向こうで会って、アーちゃんを連れて帰ろうねって約束したんだから。