消滅 - 中編
Side シルク
そんな、まさか...ライトさんとウィアちゃんが自分達で作った次元の狭間へ入ったって...。次元の狭間って触れた直後から浸食を開始して、最短でも三十分も飲まれちゃうと心は完全に墜ちる...。
だけど、それに対抗できる薬というか何かがあって、それは口外されていない物で...もう、何が起きているのかよく理解出来ない。ううん、理解は出来ている筈だけど頭が整理しきってない。確かにフィリアの言い分は分かる...だって、あの地震からあんまり時間が経過していない事もあったり、まだ情報がグチャグチャしているし、私やアーシアちゃんは免許皆伝の試験を受けたばかりだとか、タイミングが全て悪すぎる。
それを知ってて、言わなかったことは分かってる。けど、それなら隠す必要なんて無いし、そんな事があったけどリーフさんとフィリアで解決出来るからって、嘘でも言ってくれれば不安になる事も無かった。それにシャイン君が言うには、場所はそう遠くも無い場所で、アーシアちゃんから調べようと提案まで来てる。秘密で教えてくれたとなると、何か意味があるものだと思って乗る気は無かったけれど、やはり好奇心って言うのかな...秘密の工場って言われると調べたくなるもの。
だから私達は何かあったらすぐに逃げる事と合意の上で乗り込む事に。一応でモルク君とレイエルにも連絡をして、四人で乗り込むことにした。
集合場所は現地集合で時間も決めた。普通の考えなら位置がバレないように電源を切ったりGPSを切るのだけれども、動きに気が付いたシャイン君が偽装データを入れて、場所をバレないようにしてくれたからそのまま。何かやってることがスパイみたい。それはそうと、なんでライトさんとウィアちゃんは私達に内緒でそんな危険な事をしたんだろ...ライトさんはともかく、ウィアちゃんなら私たちに何かしらメッセージを残しそうだけど...それすら無かった。
それになんだか...とても嫌な予感がする。何でかは分からないけれど、胸を強く掴まれて押し潰されているような息苦しさ。しかも...この感じはダークライの居たアジトに忍び込む前と同じような感覚...どうして?
「...ルク!」
「ん...あっ、どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ。急に黙り込んじゃうんだから焦っちゃったじゃない」
「なんか、暗い顔したけど...大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。考え事してただけだから」
「ならいいのよ。だけど、もうそろそろ目的地に付くから気を入れて貰わないと困るわ」
「ううん、もう大丈夫だから。ところでアーシアちゃんってもう着いてるのよね?」
「そうだね。免許皆伝あるからテレポートステーションで指定座標に飛べるんだよ。今思えば、僕達もそれで行けば良かったね」
「え、なにそれ?」
指定座標に飛べるはず...そんなこと全く言われなかった。あ、そっか...その他に変わった事は後で話すからって言われた後に地震が来ちゃって、話しを聞けてなかったんだわ。
「あれ、知らなかったんだ。あの時ゴタゴタしてたからしょうがないと言えばしょうがないけど」
「...あ、目的地見えたわよ。なんか寂しいところにポツンと建ってるわねぇ...。とりあえず、あそこにある開けてる場所に下ろすわ」
「頼んだよレイエル。変に着地はしないでね?」
「墜落するみたいに言わないで。過去にアーシアちゃんとアンタを浮かせて移動とかした事あるし、ルカリオとミュウを同時に運んだ事もあるんだから」
「いや、それ滑空だったじゃん」
「あの時はまだムウマで、進化してなかったじゃない。進化した今なら余裕よ.........ほらね?」
「ありがとレイエル。さてと...アーシアちゃんは何処かしら?」
地面に着地して、私はレイエルにお礼を言いながら辺りを見回した。あれっと思ってアーシアちゃんを呼んでみても、いつまで経っても来る気配が無い。今度はギアを使って直接応答を取ってみるけど...だめ、話し中なのか何なのか分からないけど繋がってくれない。
先に着いてるって言ってたけど、何処に居るのかしら...?
「アーシアが居ない? おかしい、もう着いてるって言ってたのに」
「...ちょっと上からぐるっと見てくるわね」
「頼んだよ。にしても何処に行っちゃったんだろ...まさかもう中へ入っちゃったとかないよね?」
「...それは無いと思いたいわ。それに入り口のところで待ってるって言ってたんだし」
「だよ...ね。あ、戻って来た...その、どうだった?」
「見て通り、居なかったわ。だけどこんなのが落ちてたわ...」
レイエルから手渡されたのは、手編みしたような毛糸で作られた水玉柄の青色のリストバンドで、そこそこに年季が入った感じの物。あれ、ちょっと待ってこのリストバンドってもしかして...
「こ、これって...僕とレイエルで選んで買ったリストバンドだ...。それに、まだほんのり温かい」
「やっぱりアーシアちゃんのなのね。っとなると、ホントにさっきまで居た事になるけど...」
「...ねぇ、なんか凄く嫌な予感がするんだけど。コレって何か巻き込まれたんじゃ...?」
「か、かもしれない...早く探さなきゃ!」
「ええ、そうね...。レイエル、一応周りを確認してもらえる? 私とモルク君は入った形跡がある場所を探しながら、同じように周りを確認しましょ」
「了解したわ。じゃあ何かあったら呼んで」
「うん、わかったよ。...さてと、僕達はどうやって見る? 分かれて反対側で交流する?」
「そうね、それで行きましょ。同じく何かあったら呼ぶって事にしましょ」
「うん、分かったよ」
レイエルが浮かび上がって見回し始めた頃、モルク君の提案に乗って私は左回りで、モルク君は右回りで工場の周りを確認する。見た目は特に気になる所はないけれど、あるとしたら場所によってガラスが鉄板のようなもので補強されて、中が見えないどころか入るのが不可能な点。確かに元はドリームメイカーズの工場だったのはシャイン君の話で知ってるけど、元からこんな感じだったのかしら?
「...ん、この扉は裏口ね。まさかとは思うけど、空いたりとかしないわよね?」
ずっと壁伝いに歩いてると、ポツンとある屋根無しでコンクリートの土台が無い簡素な裏口が。それは鉄製で、雨風に吹かれてかなり錆びついて茶色に変色...それに穴も空いてて、攻撃したら簡単にバラバラになりそう。けど、流石に壊して何か起きても困るから、穴から中の様子を覗き込むだけにしておきましょ。
さて、中はどんな感じに...うん、そりゃ真っ暗よね。だけど非常灯は生きてるのね。見える限りで気になる物は...ん?
う...がぁ......
なんか、聞こえた。でも何この胸を強く締め付けられるような...それに、頭の中で危険信号が鳴り響いてる。い、今のは明らかにポケモンの声というより、呻き声みたいな感じで...。
ギィィィィ...
「えっ...ひゃう!?」
よく見る為にうっかり体重をかけた途端、扉がくの字に折れ曲がって私は倒れ込んでしまった。けど、そんな事より変な声の主に聞こえちゃった筈!
急いで私は飛び起きてその場から離れようとした...けど、罪悪にもくの字に折れたドアに前片足を挟まれて身動きが出来なく...このままじゃまずい!!
「はやく...抜かないとっ!!」
私は力を入れて引き抜こうとするけど、不思議なくらいにびくともしない。その間にもさっきの呻き声がもう一度聞こえて、それはどんどんと大きくなって行く...確実に近づいてきてる!
早く...早く...!!
ぐがぁぁぁぁぁぁ...
あ、明らかにさっきより大きく、しっかりと聞こえた...。あれ、ちょっと待って...まさか...。
私は恐る恐る、下を向いている頭を上に上げて正面を見た。信じたくなかった...だけど、そこに居たのは全身を黒く染めて、目は赤く光る物体が私のことを睨み付けていた.........。