消滅 - 前編
Side リーフ
はぁ...はぁ.........ど、どこにも居ない...。いったい二人は何処に...。何も言わずに居なくなるなんて、絶対にあり得ないはずなのに...特にウィアちゃんなんか特に。
まさかと思ってネットワークスキャン掛けても、ネットワークナビゲータをスタートさせた形跡は記録も、タスクリストも未登録。肝心なZギアは二人共外してデスクの上...コレじゃどこに居るかなんて探し出せない...。
「...リーフ!」
「ひゃっ!? フィ、フィリアさん脅かさないでください!」
「うっさい! リーフ、今すぐ全ドリメ基地のセキュリティログと周辺工場の電力使用グラフ出して!」
「あっ、ちょ、ちょっと待って下さいね。えーと.........」
セキュリティログと電力消費グラフ。確かセキュリティログの吸い出しには昔使ったプログラムが...あった、コレで認証パスと、データベースセンターに問い合わせと吸い出しが出来る筈。後は周辺工業の電気使用グラフ...そんな全部なんか登録されてないから、変換所のログを拾ってきて...っと、出来た。
ん...この場所だけ電気の使用量が跳ね上がってる。この場所にあるのは確か...。
「フィリアさん、コレって...」
「うん、予測通りって感じね。その場所にあるのはライトの大型研究所、ドリメ工場跡地を改造したところよ。滅多に使わないし、常時ロックが掛かってたりシェルターになってるから何をしているか分からないけど、使われたって事はそこに二人が居る事を確かめる為よ」
「じゃあフィリアさんは侵入前に、使われたかどうか確かめる為に...」
「そう言うこと。はっきり言って、戻らずに結果を聞いて飛び込めばよかったかなと言う気持ちはあったけど、変に侵入すると防御プログラムが働いて面倒だったから、この部屋からプロテクトを解除した方が身の為ってね。そう思えば、ネットナビゲータの起動権限ってリーフ持ってたわよね?」
「そ、そうですが...起動にはライトさんのマスターキーが...」
「あるわよ。マスターキー」
「へ?」
マスターキーがある...一体どこに...。私は首を傾げながら、何処にあるのかと問おうとした時、フィリアさんが私の上に何かを放り投げて、私はそれを蔓のムチを使ってキャッチする。そして手元に手繰り寄せて、よく見てみるとそれはさっきまでテーブルにあったライトさんのZギア...けど、若干形状が違う?
形的にギルドマスター専用のギアをベースに再カスタムしたような...いや、そんなことよりも。
「このギア、どこがマスターキーなのですか?」
「あれ、分からない? それね、ライト専用で私達のギアにはない様々な事が出来る。過去にライトがこのギアロックが掛かってるプログラムを解除する電子キーなのも入ってるんだと言ってたじゃない。だからそれと端末を繋いで、認証はそれにやれば良いんじゃない? とりあえずそれを使って、ネットナビゲータの起動が出来るか確かめてみましょ」
「は、はい。えーと、アスセス用のポートは...あった。ココにコネクタを差し込んで、キープロファイルのアクセスされた時に、ライトさんのギアから認証するようにしてと...たぶん、コレで良いかと」
「ありがと。さて、ネットナビゲータのスタートアップモジュールは...コレね。無人応答でスタートするわよ」
「はい、お願いします」
「...起動っと。おっ、おー?」
「どうです?」
私は立ち上がって、フィリアさんが操作する画面を横から除き込んだ。すると認証完了の文字と、その文字の下に進行度を示すプログレスバーが左から右に伸びていた。つまり起動が出来て、起動する為のリソースを読み込んでいる状態だった。
「動いた...のよね?」
「何でそこで不安なことを...ほら、起動中と書いてあるので大丈夫かと思いますよ」
「そう...よね。あ、起動した」
『...パワー、ネットワーク、リソース、オールオンライン。ネットワークナビゲータ、プロジェクトネーム...シャイン』
「シャイン...か。太陽や光るとかの意味合いで使う言葉ね。正しくライトが好きそうな言葉ね」
「そうですね...じゃないですよ! 二人を探さないといけないんですから」
「そ、そうね。えーと...シャインちゃん?くん? お願いがあるんだけど」
『はい、何でしょうか?』
「えーと...ココにある場所を調べて欲しいんだけど、出来る?」
『少々お待ちを.........はい、検索可能です。ですが気になることが一つ』
「うん? なに?」
『対象なのですが、凄くセキュリティがガチガチなのに、僕だけアクセス権限が全許可されているのです。まるで私が来る事を知っていたかの用で...』
「シャインさんのアクセス権限が全許可...フィリアさん」
「たぶんライトかウィアちゃんが私達が動くと踏んで、道を作ってたのね。ほんとに...優しいのか面倒なのかなんて言うか...」
「シャインさん、中に侵入してログを取ってきてもらえますか? ライトさんとウィアちゃんが何をしていたか知りたいので」
『マスターが? 少々お待ちを.........コ、コレは!?』
「な、なに? 何かあった?」
『ありました。その、ド直球に言いますと...二人はもうこの次元には居ません』
「い、居ない?」
「どういう事よそれ...」
シャイン...君?の言った事に、私とフィリアさんは同様を隠せないでいた。場所ならそんなに驚かなかったけれど、次元と言うキーワードには流石に...。
『えっと...お二人は次元の狭間は当然ご存知ですよね?』
「ええ当然だけど...まさか、吸い込まれたとか言うんじゃないでしょうね!?」
『...近いようで違います。正しくは自ら二人で狭間に飛び込んだ...それも、人工的に作り出した次元の狭間へ』
「じ、人工的に...!? あんなの人工的に作り出せるものなの!?」
『どうやら作り出したようです...目的は調査。期間は丸3日となってますので、帰って来る筈なのですが...正直不安しか』
「丸3日...リーフ、闇に囚われし者に侵食されるスピードって確か...触れた瞬間よね...?」
「はい...。ウォルタさんとシルクさん、及び他所からのデータを照らし合わせると瞬間になってます...」
『...レポートを発見しました。装置概要とリミッター、侵食対抗薬など...全て口外されていない技術や手法ばかりです...こんなにあるなんて.........ん、コレは?』
「シャイン、興奮する気持ちは分かるけど...そのレポートをコッチに、紙媒体で印刷してくれる?」
『あっ...い、今やりますので!』
「...なんか、ライトさんそっくり」
おっちょこちょいと言うか、気になるものがあると突っ走りすぎて周りが見えなくなるところが本当にそっくり。
にしても...ライトさんとウィアちゃんは何故、この研究を隠したがったのでしょ。コレがあれば、闇に囚われし者になった人を助ける事も夢じゃなかった筈。ふと思えばライトさんとウィアちゃんは、あまりにも謎が多い。そもそもにライトさんが持っている技術が完全に人離れしてる。
なんかライトさんの手の上で、私たちは遊ばれているような...上手く言い表せないけど、そんな感じが...ん?
「...リーフ。どうしたの?」
「あっ、ちょっと考え事を。それでコレが口外されていない物なのですね?」
『はい、そうです。それと...一番にコレが大問題かもしれません。オブジェクトネームは...Administrator』
「ア、アドミニストレータ? それってシステム権限とほぼ同等レベルを持つ最高権限の名前ですよね?」
「ほぼと言っても最高権限の一つ下だし、ルート権限やその上のカーネル権限なんかには、言うまでも無く歯が立たないわよ。にしても名前にそんな名前を付けるなんて、随分大層な物ね...何でこんなものが」
「確かにそうですね。使い方次第じゃ、かなり危険なもので...って、今はそれどころじゃないですって! 二人の行方を探さなきゃなんですから!」
見つけたものを気にし過ぎて、本来の目的を失いかける所でした...。ともかく、ライトさんとウィアちゃんがその場所に居たことは確かで、今は人工的に作り出した次元の狭間を潜った先の世界に行ってしまっている。
普通なら、次元の狭間に触れたら即アウトの筈ですけれど、二人の開発レポートから見つかったリミッターや浸食対抗薬、コレらを使って3日も調査をしようとしている。そして危険を犯してまでも、私達に言えない程に秘密にして調べたい事...二人は何がしたくて、何が目的なの?
「そ、そうだったわね。うっかり本来の目的を忘れる所だったわ。 シャイン、貴方って...ウィアちゃんみたいに皆のギアへ一斉通話って出来る?」
『いっ、一斉通話はまだ不可能ですね...僕はアバターも無い初期プロダクト型であって、ウィアさんの様な汎用性のあるネットワークナビゲータには構築されていません...』
「なら、仕方が無いわね。リーフはシャインと共に更にデータの解析と調査を。私はレイエルちゃんとモルク君に連絡をするわ」
「分かりました! でも、シルクさんとアーシアさんには連絡は...」
「今するのは得策じゃないわ。ギルドの方で頑張ってるわけだし、更にこっちのゴタゴタに巻き込む訳にはいかないわ。だから居なくなったって連絡もしてないんだから」
「そう...ですか。分かりました、任せます。シャインさん、更に深くログを検出して、時間があれば口外されていない物についての調査を手伝って下さい」
『分かりました!』
物申したい事もあったけど、取り敢えずは言われた通りに調査を。それで時間がもし余るか、隙きがあるならば...。
「...いきなりゴメン。レイエルさん、モルク君、今は大丈夫?」
隙き...もしかして今かもしれない。何時もは片側がフリーになってて、周りの音が聞こえるタイプを使ってるはずなのに...そっか、部屋の雪崩に巻き込まれていつもの物が無いのですね。それでこの部屋にある両耳タイプのマイクヘッドホンを...だったら。
「シャインさん、言葉の認識以外に文字で応答は可能?」
『か、可能ですが...何故小声で早口に? ...ああ、成る程』
「では、頼みました。私は調べていますので」
『了解です』
さてと...コレで良いはず。なんで連絡しないか分かりませんが、コレは共通をするべき事なので、私の独断で二人へ提示させてもらいます。連絡は返さないでと伝えてもらいますが、一応してきてしまった時を想定して、通話回線を全てシャインさんだけに行くようにパイプを通してと。更に気が付かれないように小細工を入れてと...コレで良いはず。
ふう、ここまでやっておくなら流石にフィリアさんでも気が付かないはず。まさかここに来てライトさんから教わっていた事が役立つとは...本当にこうなる事を分かってたかのよう。ほんとに...ライトって何者...?