Chapter 01
前触れ
Side ウィア


「...わかった、分かったって。僕が悪かったって...」
『ほんとに分かってるんですか? ともかく、またこんな事があったら流石に私は怒りますからね』
「わ、わかっ...切れてるし。これ、だいぶ怒ってるよね...」
「当然ですよ。私だって同じ状況に置かれましたらアーシアさん同様に怒っちゃいます」
「マスターは重要な事を言わないから恨まれるんですよ。思い返せば何度か同じ事があったと思いますが?」
「はい...」
「とにかく、ちゃんと後先を考えてからやって下さい。なぜ他は後先を考えられるのに、対人関連は駄目な理由にとても疑問を覚えるのですが...わざとじゃ無いですよね?」
「わ、わざとだったら腹黒い人って事じゃん!? 幾ら捻くれた思考を持ってたとしても、それだけは否定させてもら痛っ!? えっ、なんでこんなところに氷が...ひぃっ!?」
「あっ...」

 痛がる声を聞いて、一旦パソコンのディスプレイから目を逸らして見えた者...それはフィリアさんが氷の礫をいつでも発射できると言いたげに扉のところに立ち、今挑んだら確実に殺られるのではと思うオーラを纏って構えていた...。
 いつもしない赤縁の眼鏡を掛けていて、それを掛ける時は精密計算や集中して情報収集している時のサイン...。私とマスターの部屋は四帖半の二人部屋で、廊下を挟んで反対側にフィリアさんの作業部屋で、リーフさんもそこで情報収集や分析を行ってる。私達はウォズの参加に入っているけど、実質には新米の超子会社で知名度はギルドに属してる者、新ギルド協会、そしてウォズしか無い。オフィスルームもウォズが使ってない会議室を使って、所属人数はわたし、フィリアさん、リーフさん、ギラファさん、最後にマスターの五人だけ。っで、たぶんマスターの事だから...ああやっぱり、登録してる。
 前にもアーシアさんやシルクさんを困らせたり、他の人を混乱に巻き込んだり、色々してきてるのにまだ駄目とは...いくら補佐と言うかサポートしきれませんよマスター...。

「...と言うわけで、精密計算してるんだから邪魔しないでくれる?」
「すみませんでした...」
「それじゃあ失礼す...ところでギラファってどこに行ってるの今って」
「ギラファさんならお隣の諸島へ遠出です。何をしているか聞きたいのですが、電波網を持っていないので通信が不可能なのはフィリアさん知ってますよね?」
「あら、リーフまで来ちゃったのね。不可能なのは知ってるけど、じゃあなんでアルトマーレ諸島は使えたわけ? シルク達の通信トラブルは置いておくとして」
「それは私が答えます。本来ならアルトマーレ諸島はお察しの通り、電波網が無いので普通は使うことは出来ません。けれど、皆さんが所持するギアは緊急用で電波の送受信をする事だって可能なのです。後は宿屋に置いていた、丸い形をした核となる装置でリーダーのギアだけ接続して、他のパーティに通信を配ってたんです」
「一言で言うならランキング表みたいなものかな? 学校で分配表とか、そんなのやらなかった?」
「あー...なんとなく分かったわ。とりあえず、また騒いだら今度はタンコブじゃすまない...わ?」
「ん...地震? あ、わわわわ!? ちょっと待っててデカイよこれ!!」
「た、立ち上がるのは危ないのでしゃがんで下さい!!」

 な、何この揺れ!?
 前触れも全く無くて、なんか横揺れがしてきたと思ったら、一気にドンと来た......しかも揺れが長い!
 町の状況やみんなのことを確かめたいけど、今動いたら自分の身だって危ない事になる。それに、偶々フィリアさんが扉の前に居て尚且つ私とマスターの部屋は物が少なくて助かったけど、フィリアさんやリーフさんの部屋は色々な機材や本棚があったから九死に一生...。データに関しては全てバックアップがあるから問題無し、コチラもつい最近にやったから間一髪で...。

「うぐぐ.........お、収まった?」
「そ、そのようですね...マスター、情報収集を開始しましょう!」
「そうね、私は取り敢えず火災や倒壊の情報をギルドから引っ張ったり提供する手配してくるわ! リーフ、行くわよ!」
「は、はい!」
「ウィア、僕達は各種ネットワーク確認とみんなに連絡をするよ! 確認はやっとくからウィアはみんなに連絡お願い!」
「了解ですマスター! ...さて、久しぶりに本気出させてもらいます」

 倒れた椅子やズレたノートPCを元に戻しながら、ヘッドセットを身につける。さて回線は...やっぱり、幾つかメインが断裂してて使えそうに無いから、何処か迂回路は...

「行けそう?」
「幾つかメインが断裂してますが...一応可能かと。後は通信塔ですが...残念な事に、アーシアさんのところとその他の何本か駄目みたいです。一応シルクさんが居るポートタウンのギルドは繋がるんですが...あれ、外部から通信? 誰でしょうこれ...」
「...調べようとしても不安定で逆探知が不可能だ。その通信はほっといて、今繋がるシルクに繋げて。地震で混乱して押し間違いの可能性もあるし」
「そう...ですね。取り敢えず履歴として残しときます。それじゃシルクさんに繋げますよマスター」
「うん、お願い」

 回線品質六割以下で最大遅延は三秒ほど...かなりノイズと不安定、更に他の人も使ってるせいでパンク気味。かなり難しいですが、気が付かせてくれた使われなくなった古い回線を経由すれば.........

「繋がった! でも品質が凄い悪くて声も小さい...コレじゃ私達の声も」
「ノイズフィルターと増幅器を噛ませてみたら? 確かウォズの何処かに装置があるから、それを経由させればどうにかなる筈!」
「だ、だとしたら...今の通信回路をウォズの通信に切り替えてっと.........あっ、シルクさん聞こえますか!?」
『あっ、聞こえるわよ! ウィアちゃん達の方は無事なのね!』
「はい、全員無事です! あのシルクさん、そちらの方は何か情報はありますか?」
『コッチは倒壊した家が何件かあって、下敷きになった住民を救出したり、情報収集にみんな動いてるわ! それと、親方からもし連絡来たらお願いって言われた事があるんだけど、さっきからアーシアちゃんが居るグレースタウンのギルドとエルドシティのギルドが音信不通みたいなのよ』
「エルドもですか...なるほど、情報提供助かります。他に何かあります?」
『まだ集まりきってないからかもしれないけど、特に無いわ。倒壊しただけで火事は起こってないけど、一部地域で停電や水が出なくなってるわ』
「っとなると、メインパイプラインに破損...中々に厄介ですね。あとで給水車と発電車を派遣するように機関へ連絡しておきますね」
『助かるわ。それじゃあ私は戻るから、何かあったらまた連絡するわ!』
「お気を付けて! ...マスター、今の聞いてました?」
「聞いてたよ。全面スキャニング調べたけど、確かにメインのライフラインに損傷があってヤバイね。この規模になってくると全復旧までかなり時間が掛かるよ...因みにこれがスキャニングマップ」

 プリンターから出されたA3サイズの印刷紙を取って、それを部屋のど真ん中にあるローテーブルに置く。私はそのうちにカラーマジックペンを用意して、ウォズがある場所、アーシアちゃんの場所、シルクさんの場所に印を付けて、重要なライフラインの破損に関しては印を付けて迂回路を書き加えてと...。

「んー、迂回路使っても使えない所が出てきそうだね...それはジャンパー車を派遣すればいいかな」
「そうですね。あ、でもいま何台か使ってたり整備中なのでは?」
「え、それ知らないんだけど。ちょっとまってね.........うん、六台あるうちの四台が既に使われてて、そのうちの二台が整備中になってる。にしても持久力ないねジャンパー車って...もう少し持ってくれれば言う事無しなのになぁ」
「それは確かに...あ、また着信が来ましたね。マスター、しばらく席離れます」
「分かったよ。でもなるべく早く戻ってきてね」
「はいっ、勿論です」

 私はそう答えながら廊下に出て、マスターから聞こえない位置まで移動してから着信に出る。忘れずにマスターへ聞かれないように通話転送も切って。
 私は恐る恐る通話に出てみるけど、やはりノイズだらけで、先ほどと同じ処理をこの通話にも適用する。するとノイズが無くなるけど、肝心な声が全く聞こえない...いや、それとも喋ってない?
 予測が正しければこの通信方法を知っているのは二人だけ。その二人はフィリアさん、そして三年も音信不通なあの人...フィリアさんがこのタイミングでこの面倒な旧式番号なんか使う筈はなく、逆にあの人なら新式番号を知らなくて旧式番号しか知らない筈。だから...

「...も、もしもし? やはりこの通信はリファルさんで...あってますか?」

 っと、直球に私は聞いてみた。だけど問へすぐに反応が無く、私はこの何も無い間が自分の胸を強く締め付け、期待と恐怖っという複数の感情で胸の鼓動が高まって息苦しく感じる...。
 けれど流石に10秒近く、体感では30秒くらいだけど、そんなに待っても反応が無いからもしかして、声が届いていないのでは無いかと思ってもう一度声を出そうと...その時だった、声が聞けたのは。懐かしく、けれど昔とは違って少し温かみを感じるような声で。

『...久しぶりだな。ウィア、お前と話す事に』
「そう、ですね。なんだか柔らかくと言うか温かみを感じる声ですが、お久しぶりですねリファルさん。 ...いえ、あの事件を止めて下さった張本人様とも言うべきでしょうか?」
『はは、止してくれ。俺は仲間を見捨てた汚い奴だ』
「ふふ、じゃあなんでこの番号に電話してきたのです? この番号はフィリアさんとリファルさんの二人だけしか知らずに、掛け方も特殊で固定電話機で記号も使う番号を」
『...はぁ、とうとう嘘も付けなくなったかぁ。丸なっちまったもんだ。 そうだ、今の地震で心配になったから掛けたんだ。っで、番号で覚えてたのはフィリアとウィア番号だ。けどフィリアに連絡なんか入れたんじゃ色々と言われそうだし、どうせ今...状況調べてるんだろ?』
「ですね。にしてもほんとに丸くなりましたね...噂でギルドの師匠として教えてると聞きましたが、その影響でしょうか? あ、この情報は私とそのギルドに属すものに限定してるのでご安心を」
『それは助かる...お前さんのマスターなんかに知られちゃ、いつフィリアの耳に届くかわからん』
「ふふ、ですね。さてと...長話になりましたが何故連絡を?」
『あぁ、心配になったと言ったが...現状どんな感じだ? 因みにこっちのギルドは全員無事で、情報収集に動いているが』
「どのギルドも同じ感じですね。心配の種としては、アーシアさんが居るギルドと連絡が取れないことでしょうか」
『...ちょっと待て、今なんつった?』
「あっ...」

 しまった...うっかりアーシアさんの名前を......。

「そ、それは、後でしっかりとお話します。結構な長話になりますので...」
『だろうな、察しは付いていた。ともかく連絡取れてないんだな? ギルド名は?』
「グレースですね。ところでそちらのギルドってエルドですよね?」
『ああ、そうだが。何かあったか?』
「繋がらないって連絡があったので、確認を取りたかったのです。けれど、貴方が居るなら安心しました」
『なる程。っでグレースか...確認に行きたいが、迂闊に動き回れない身でな...どうするか』
「...やはり、アレですか?」
『察しの通り見た目だ。今は長めのフード付きの服を纏ってるからどうにかなってるがな』
「なるほどです。そうしたら...ミウさんにちょっと無理言って協力して貰おうかと。そうそう、いつかお会いしたいのですが...時間などありますか?」
『時間か? いつでも構わんが』
「では、明日の夕方頃そちらのギルドで...宜しいです?」
『構わん』
「では、その時に。そろそろ戻らないとマスターが怪しがって聞き取りのガードを解きそうなので」
『それは困る。じゃあ、明日だ』
「はい、明日。 ...さてと、戻りましょ」

 中々に長話になっちゃいましたが...うん、かなり集中して何かやってるから多分、大丈夫な筈...。
 私は気が付かれないようにゆっくりと、ゆっくりと椅子に座ってキーボードに手を掛けて、色々と情報を調べ始めた。やる事リストみたいなのは、私が話している間にマスターが作ってくれたみたいで、残ってるタスクは震源地と発電所の被害状況ですか...。
 早速調べなきゃですね、特に発電所に関してはなるべく早く。発電所には調べきれていない、マスターも知らないブラックボックスが沢山あるのですから...。

ティア ( 2017/04/26(水) 15:28 )