秘密
Side アーシア
あのバンギラスと戦って約一週間後、私はナルトシティのセントラル病院に併設されているリハビリテーションに居る。なんでそんなところに居るのかって言うと、簡単な話しで複雑なお話でもある。なんて言えば良いのかな...一言で言うならば下半身麻痺とでも言うのかな。
でも電気技で言うあの麻痺とは全く違う物で、あっちは多少なりとも動く事は出来たし、時間が経てば元通りだった。でも私が患った麻痺は一向に治らなくて、しかも力が入らなくて歩けない。お医者さまが言うに、頭を強烈に強打した事による後遺症的なものらしい。
因みに治すのに特別な何かをするのかと思ったけれど、そんな事は無くて歩けば良いと言われた。人間世界の時も下半身に後遺症が出た時に同じ事をしていたから、間違ってはいないとは思う。どんな理屈が分からないけれど、脚に動いてという信号的な神経に働き掛けて直してるのかな。そっちの関係じゃないから私は分からな...
「...くっ!」
ふと力を抜いてしまって、私は立膝のようになり、両手は歩行補助のポールを強く握る。そんな時に、後ろで見ていたモルクさんが心配して起こしに来たけれど、
「だ、大丈夫。私の力で、私の力で歩かないと...意味が無いんですからっ!」
と言って、差し出された手を断った。その時ちょっと悲しそうな顔に申し訳無いと思いながら、私は両手に力を入れて立ち上がって歩き始めた。
...ふと考えてみれば、三日前にリハビリを始めた時からずっとモルクさんは見守ってくれてた。季節外れの寒い大雨の時もわざわざ来てくれた。無事に終わったらお礼しなきゃ...その為にも、早く。
私はそうして、朝の九時から正午までみっちりリハビリを続けた。だからと言っても、あんまり変わらないような気がするけど、やっぱりすぐ効果が出るものじゃないよね...。
取り敢えず、私はリハビリルームに置いた自分の飲み物やタオルがある長椅子に座って、飲み物を飲みながらちょっとした汗を拭く。今更に幸いだけど、下半身じゃなくて上半身が麻痺じゃなくて良かったと思う。だって、手が使えなければ今した事も出来ないし、一言で言うならば手でやることが全て出来ないになるから。
「ふぅ。一週間以内に、歩けるようになればいいなぁ...」
そう呟きながら、拭けていない箇所を拭いていく。それにしても、いつもの看護師さんが居ないなんて、どうしたんだろ。いつもならお世話になっている看護師さんが既に居て、一緒に部屋を出るところだけど...って、あれ?
「...あっ、居た。アーシアさん、お疲れさまとお久しぶりね」
「あれ、フィリアさん? どうしてココに?」
「どうしてじゃないわよ全く...また無茶したそうじゃない。軽くお説教がてら外に連れ出そうと思ってね。もちろん既に外出許可書は取ってきたわ」
「お、お説教ですか...」
「無茶してるなら叱ってきてって。ところでモルクはもう行っちゃった?」
「モルクさんはもう行きました。やらなきゃ駄目な依頼がどうしてもあるようで」
「へぇー、あのモルクが。一人で...じゃないか、レイエルと一緒?」
「ですね」
部屋に入ってきたのは、何時もお世話をしてくれる看護師さんじゃなくて、何故かフィリアさん。しかも久しぶりに出会ったと思ったらお説教...一体誰に言われたのかなぁ...。それは良いとして、外出許可を取ったなんてフィリアさんは一体どこに、車椅子じゃないと駄目な状態の私を連れていくつもりなのかな...。
「あの、どこに行くのか聞いても良いですか?」
「場所? ウォッチズカンパニー」
「ウォッチズカンパニー...って、私が付けているギアの会社? って事は、ココミさんのところです?」
「正確にはウォッチズカンパニーに...面倒だからウォズに略すわよ。今から行くのはウォズの傘下に入ってる中規模会社で、そこには私とリーフさん、ウィアちゃんにライトにギラファが居るわ。 そこでドリメ...で分かるわよね? ともかくドリメが無くなった穴を埋めたり、使えなくなったアイテムの補完や新ギルド協会の手助けをしているのよ。 っと言っても今はだいぶ落ち着いてるから、ギルド協会と各種ギルドの情報提供と運営維持や、親方や弟子達の補佐もする団体になってるわね」
「な、中々に凄い事をしてますね...」
なんか途中規模が大きくて想像が付かなくなって、頭の中に浮かんだイメージを白で掻き消した。とにかく凄い事をしている...の認識で良いのかな?
「そ、それで何故そこに私を?」
「ん、簡単な話よ。連れてきてって」
「誰にです?」
「ともかく、そろそろ行くわよ。ホントなら今すぐにでも使いたいけど、電子機器に問題あっても困るから移動するわ。じゃ、乗って?」
「は、はい。お願いします」
フィリアさんが持ってきた車椅子に、私がしっかり座った事を確認してからゆっくりと歩き出した。使いたくは無かったけど、やっぱり楽ですね...。
「そうそう、今から行くところ内密に頼むわね。ライトに知られるとうるさいから」
「え? 一体どこに...って、そのカードは?」
「秘密」
「は、はい...」
秘密って...一体フィリアさんは何を?
それに、エレベーターがある場所は通り過ぎた先は重症患者が生活している病棟...本当に何をするつもりなのですかフィリアさんは...。
「あ、あの...こっちは......」
「知ってるわよ。けど、コッチ使わないといけないのよ。確か行きに使った時はこの辺の真ん中だったわね」
「な、なんにもないですけど...ふぇ?」
フィリアさんに押されて来たのは何も無い、言うならば個室トイレを二つで一つのスペースにして、壁がコンクリートで作られたものが三つ並んだエリア。しかも少し暗くて、埃っぽくて、何よりも雰囲気が少し怖い...。車椅子に座ってそう思いながら私は周りを見渡していると、フィリアさんが急に私の所から離れて、右の個室に入って私の視界から消えた。
私は一人にしないでと口に出そうとした時、急に目の前の壁が両開きになって、小さなスペースが現れた事に驚いて言おうとした事が吹っ飛んだ。それに、思わずびっくりして拍子抜けしたような声まで出る始末で...。
「あっ、あの...この狭い空間はいったい...」
「んー、一言で言うならば秘密のエレベーターね。コレを使えば、普通なら行けないセントラル病院のテレポートステーションに行けるのよ。そこならテレポート可能だし、何よりも人が居ないから助かるのよ」
「な、なら狭すぎると思うのですが...車椅子が入るような余裕なんて...」
「無いわよ。だから...えい」
「いたぁっ!?」
フィリアさんは急に見えない位置から、私の後ろ首元に一瞬何かを刺されて、それを確かめようとした私の両手を掴まれた。そして、私が右後ろを向いていたから視界に入らなかった左手には、何やら押し切られた注射器が...もしかして、今の一瞬で何かしらの薬品を打たれた!?
「フィ、フィリアさん一体な......あ...れ?」
「やっぱり出たわね...それ、薬の副作用だから直に戻るわ。さて、エレベーターで下に向かいましょ」
急に身体がどんどん火照って、特に動かない足が特に熱くなって力がだんだん抜けるし、頭がぼーっとしてくる...。
私はそのままの状況で車椅子から立たされて、現れたエレベーターにフィリアさんに支えられながら中へ。そして下へとエレベーターは静かに、ゆっくりと下降を始めた。
「...遅いわねコレ。旧式とか言ってたかしら...って、意外と効きすぎちゃってる? 鎮静剤は...あった、えい」
「あぅ.........あれ、段々も意識が...」
「うん、問題は無さそうね。そろそろ着くから手を離すわよ」
「あの、私まだ歩けませんけど。それに、いきなり注射した事に関して私は許しませんからね」
「そう? なら自分で確かめたら良いわ、ほら」
「いったぁ!? な、なにするんですかフィリアさ...って、あれ? わたし...歩けてる...?」
え、え...何が起きてるか全く収集が付かないのですけど...。首に変なの打ち込まれて、意識が飛び掛けて、到着したところで押し出されたら二本足で歩いてた。前足も降ろして四足歩行もしてみても問題もない...な、何がどうなってこんな事が......。
「まあ、驚くわよね普通。最初に打ち込んだのは今から出会う人とウィアちゃんやライトが協力して作った特別な薬よ。薬という時点で出会う人は察しが付いたでしょ」
「薬...ま、まさか」
「正解、では行くわよ...テレポート!」
フィリアさんがそう叫ぶと、先程とは違う、そしてミュウさんやセレビィのシードさんとは違う浮遊感が私を包んで、視界がグニャっと歪み始めたと思ったら真っ暗になった。
そして数秒の沈黙後に、私は知らない部屋の中心でフィリアさんと立っていた...