あり得たかもしれない時間軸 03B
Chapter 01
Scene 秘密
Side シルク
「分かったわね。じゃあ売店入り口のところで待ち合わせで。じゃあまた後で」
『は、はい』
画面の操作をするために私は立ち止まって通話を切るボタンを押して、ちゃんと切れたことを確認した私は歩き出した。にしても相変わらずこの病院は大きいわね...諸島最大の名はやっぱり伊達じゃない。
いや、もっと言うと元の世界より比べものにならないかもしれないわね...やっぱり巨躯なポケモンも居るし、それに比例して大きくなりやすいのかもしれないわね。
「.........あれ、ちょっと早かったかしら?」
周りを見渡してもアーシアちゃんの姿を見つけられなくて、私は見渡しながらもうちょっと歩いてみた。けど見つけられなくて、私の方が少し早かったのだと察した。
...なら、ちょっとギアで読み物してたらいつの間に来るはずよね。そう思いながら私は近くの椅子に座って、ギアのメニューから最近に読んでいる医療系統の電子書籍を選んで読み始めた。
内容はどちらかと言えば薬剤学に近しい物...なのかしらコレ。今まで研究開発された薬剤に関する作用や効果、成分などが色々と書かれた.........うん、研究結果資料と言った方が正しいかもしれない。
ただ欠点も色々あって、私みたいにある程度作っちゃってる人になるとなんだか物足りないような感じがするのよね。しかもこの中に私が作った回復薬も入ってたりするし、どちらかというと内容は万人向けな気がす...。
「すいません、お待たせしました」
「...ん? あっ、お久しぶりね。改めて退院おめでとう」
「ありがとです。にしても合うのは久しぶりですね...確か一年近くは会ってなかったですよね?」
「そうね...確かギアが変になって訪ねて以来かしら? それはそうと、歩きながら色々話したいから行くわよ」
「はい。私も色々と話したいです」
一年近く...確かにそのくらい前な気がするわね。まあそれはそうと、なんで入院する事になったか効かなきゃいけないわね。けど言いだしをどうしようかしら...。
「そうね。ところで...いや、ギルドランクは何処までになったのよ? もうゴールドより上だったりするのかしら?」
「えーと、プラチナですね。ただ新しく制定されたプラチナの資格は満たしてないので、どちらかと言えばゴールドになるかと」
「新制定?」
「はい。最近になって複数で挑まないと危険とされる凶暴な闇に捕らわれし者が出現してまして、それに対して八人レイドで組んだチームで討伐することが条件に加わったんです」
「成る程ね...まさか、怪我ってそれに関係してたりする?」
「...はい。メンバーはミウさん、シードさん、アルタイルさん、デネブさん、ベガさんでバンギラスに挑んだのですが...」
「ちょっ、ちょっと待って...かなり豪華なメンバーじゃないのよ。それでも敵わなかったって事よね? しかもバンギラスって、あの森の洋館で対峙したあの?」
「はい、かなり強くなってましたがその通りです。因みに戦わないと取れないデータもあったりで、その時はミウさんとベガさんが作戦指揮を臨機応変に対応してくれました」
バンギラス...まさかあの、うーん...やっぱりあの存在はかなりの危険因子には間違いないようね。にしても聞いたメンバーから考えるに、安全マージンを怠るような人達じゃないから、アーシアちゃんだけ無茶をした訳じゃなさそうね。
それに指揮はミウさんと、ユクシーのベガさんとなると、本当に警戒と作戦をしっかり組んで挑んだって事。けどそれまでして敗北したという事は、それ程にバンギラスの驚異度が上がってる事になる。
「...状況はよく分かったわ。それでバンギラスは?」
「それが...私は気絶してその後を知らないんです。ただ面会に来たミウさんからは倒せなかったと.........」
「...そう。けど、ホントに無事で良かったわ.........」
倒せなかった...けどそんな相手に対して無事で良かったと、気持ちが先走った私はアーシアちゃんを前からそっと抱いた。
「シ、シルクさん...?」
「...アーシアちゃんの事が大事と思ってるのは変わらないのだけど、どうやら私の中ではそれ以上と感じてる私も居るみたい」
「そ、それってどういう...//」
「...えっ、ちょ...そ、そんな意味で言ったんじゃない...わよ...// ほ、ほら...行くわよ?」
「は、はい...// ...ん? 電話...フィリアさんからですね」
「フィリアから? って、私も来たわね.........もしもし?」
不意にアーシアちゃんがフィリアから電話が来たと告げて、何かしらと思ったところに私が付けているギアにもフィリアからの電話が鳴った。同時に来た通話に疑問符を浮かべつつ、私はギアを操作して電話に出てみると。
『...えーと、シルクね?』
「ええ、そうよ。どうしたのよ?」
『...どうしたもこうしたも、よ。タスクが今日やる必要が無いと気が付いたから追ってみれば...二人ともそこまで仲が良いなんてね?』
「っ!?// えっ、ま、まさか...見てた?//」
『ええ、ばっちりと。ともかく、いちゃつくならせめてもうちょっと見えないところでやりなさいよ! あと待ち合わせ場所は今送ったから、そこで現地集合。いい!?』
「え、ええ...分かったわ.........ごめん、アーシアちゃん」
「い、いえ...そ、それにしても見られてたんですね...。あと、なんだかフィリアさん口調が怒ってた気がするのは私だけでしょうか?」
...見られてた、けどいったい何処から?
にしてもアーシアちゃんが感じ取ったように、確かにフィリアの口調はちょっと怒ってたわね...現時点で怒る理由が全く分からないから、これから合流する時にどんな顔で会えば良いのか分からない...。
それに...なぜか私の中では胸を強く締め付けられるような気持ちと、表現しがたい複雑な感情が渦巻いている...どうしよう、ほんとに分からないわ............。
「...とりあえず、向かいましょうか?」
「そう、ね...。えーと、コレはセントラルパークの三階? お店の名前は...フィアンドカフェらしいわ」
「...フィアンドカフェ? あの...わたし、そこの場所知ってます。しばらくお世話になってたんです」
「え? アーシアちゃんの知人が開いてる店?」
「はい。このお店は完全予約制で、手作りの特性シチューが人気なお店なんです。因みにオーナーはエレナさんというミミロップですね」
「へぇー、そうなのね...ん? それってもしかしてミミロルちゃん...違う、ミミアンちゃんがお世話になってたお店?」
「そうですね、私もお世話になってたお店です。てっきりシルクさんに話したと思っていたのですが...あれ、気のせいでしたっけ?」
私に話したことがある...聞いてたら少しでも覚えてそうな気がするけれど、アーシアちゃんがミミアンちゃんのようにお世話になってたなんて聞いた記憶が.........。
そもそもに、なんで私はミミアンちゃんのことは知ってて、よく話してたアーシアちゃんの事を知らない?
それに記憶が曖昧と言うか阻害されている感じ...他の事なら覚えているのに、アーシアちゃんの記憶だけ思い出せない。思い出せないと言っても、もちろんドリームメイカーズを倒す為に動いてた時のことは全部覚えてる。ただ...終わってから今日会うまでの二年間ほどの記憶がすっぽ抜けてる.........。
「...さん。 ...ルクさん!」
「えっ? あ...ごめん、ちょっと考え事してたわ。それで、なんだったかしら...」
「...お店の事をシルクさんにも言ってた気がするのですが、それって気のせいでしたっけ?」
「...たぶん、気のせいだと思うわ。それで内容は歩きながら聞いても良いかしら? あんまり遅いとフィリアからまた怒られちゃうわ」
「そ、そうですね...にしても、なんでフィリアさん怒ってたんでしょうか.........」
ーーーーー
Side フィリア
「ええ、ばっちりと。ともかく、いちゃつくならせめてもうちょっと見えないところでやりなさいよ! あと待ち合わせ場所は今送ったから、そこで現地集合。いい!? .........はぁ、なにしてんだかアタシは。コレじゃ私が怒って通話を切った感じじゃない」
シルクを見送って10分くらい経った後。私は対処していたタスクが来週でも良かった事に気が付いて、その後ろを追いかけるようにウォッズから出ていた。
本当はシルクに連絡入れて一緒に行こうと思ったけれど、驚かせてみたいと悪戯心が動いて連絡しないで居たけれど...こうなるならばこんな馬鹿な事を考えないで連絡すれば良かった。
にしても公共の場で抱き付くなんて.........なにかしら、なんだか凄いモヤモヤする。当初はそのモヤモヤが良く分からなくて怒りみたいな形で声を上げちゃったけれど、そもそもになんでそんな事で胸が締め付けられたような思いになるのよ...
...締め付けられたような?
...え、どういうこと.........訳わかんない。あーもう、なんなのよ。このモヤモヤはいったい何?
.........まさか、嫉妬してるの? アタシ...?
アーシアちゃんとシルクの姿を見て、嫉妬なんかしてるの...?
いや、まさか...あぅ.........いや、考えるのはやめたっ!
こんなの考えてたら会うまでずっと引きずるわ。こんな考えは捨てて、他の考え事でもした方が良いわね。
そう思った私は少し足早に予約していたお店が入っているセントラルパークへと歩を進ませ、直近の問題であるダンジョンの増加傾向について考え始めた。
コレはその通り半月前からダンジョンの増殖し始めたこと。そもそもに気が付いた理由は救助依頼が増加傾向な事が月一の統計で取れて、疑問に思った私とウィアちゃんが調べ上げた結果だった。ただ認知した三月目は一時的な事としか考えて無かったけど、コレが毎月で増えてるならば別問題になる。
なので急遽ギルマス会議を計画して対策をしようと協議した結果、ギルドランクの調整やランクアップ条件、八人程で組むレイド形式の新しい依頼をギルドへ二週間前に合意を取ったばかり。
「...さん?」
だけど重要な召集方法や役割に関してはまだ詰められていない。このままじゃ何時ものチームで挑むのと何も変わらない。寧ろそっちの方が連携が取れて危険性が減るって場合だってある...。
一番は集めた人の全員が認識があって、動き方が分かってるチーム.........いや、いない。参加ランクの制限を掛けてるから、そもそもに高ランク帯をいくつも持ってるギルドが無い。ギルドに属さないフリーの救助隊や探検隊も居るけど、ギルドモデルのギアじゃなくて市販品だから呼び出したり通知する事が出来ない。
そうすると...合同演習で中を深めて貰うしか.........。
「...リアさん!」
「...へっ? シ、シルクにアーシアちゃんっ!? え、いつの間に!?」
「...考え事しながら歩いてたフィリアに私達が追いついただけ」
「そ、そうだったのね...。 えっと...そのー.........」
あー、考えることに夢中になって歩くのが遅くなってたのね...それにシルク達が追い付いたと。にしても...やばい、さっきの事があって言葉が続かない。
アーシアちゃんも何か言いたそうに口をモゴモゴさせて、言い出したいけど言えなくてソワソワしてるような仕草...。それにシルクの言い方もいつもと違って素っ気ない...完全に私のせいだ.........。
だとしたらやる事は一つ...
「その...ゴメンナサイ。怒ってる口調になったけど...その、なんというか...怒った訳じゃ...ないの」
「えっ...?」
「そ、それじゃあ...フィリア、怒って...ないの?」
「...ええ、怒ってない。私自身、何でああなったか良く分からない...けど、ね.........は、恥ずかしいけど、アーシアちゃんとシルクの姿を見て...し...し.........」
「し...?」
「...まさか.........はぁ...そう言う事ね。ならはっきり言ったらどうよ...つ、つまり、こう言う事...でしょ?」
謝ることが第一に決まってる。私自身の良く分からない感情に飲まれて、強めな口調で悩ませたのだから。謝った途端に二人がびっくりした顔をしただけで、私が怒ってると伝わってたのが分かる。
そしてその理由、なんでそんな事になったか話そうとするけれど...なぜか恥ずかしい気持ちが勝って、言い出すことが出来なかった...。
どうしようと私が言い出せないで居ると、シルクが何かを悟ったようにゆっくり私の目の前に歩み寄ってきた。何かと思ったけど、いつも見せるシルクの凛々しい顔になぜか動けないで居ると.........。
「シ、シルク...うんっ.........な、なななっ!!?///」
「ふぇっ!?/// ちょっ、ちょっとシルクさぁん...///」
何が起きたのか全く頭が回らなかったけど、何をされたか理解するまではそう長くなかった...。それを理解した私は後ろへ飛び避ける勢いでシルクから距離をとり、また恐る恐る歩み寄った。
その隣ではアーシアちゃんが二本足で立ちながら、耳を使って自分の目を隠していて、その行動で自分が理解した事が本当だという事を理解するには十分だった。