あり得たかもしれない時間軸 01
From Chapter2 諦め
Side ???
...皆と会えなくなってからどのくらいたった。Zギアは没収され、おまけに光を遮断されてるせいで昼夜が分からない。分かること言えば必ず食事と水は出る事だけど、もちろん捕まる前に食べてたものとは到底叶わない物。そして、そんな環境に居ればどんどん身体は動かなくなっていくし、自然と寝たきりが多くなった。
最近では食事すら拒むように...っというより、食べたとしてもすぐに戻すまでになってしまった。けどそうすると点滴か何かを刺されて、その一日は大丈夫になってしまう。死にたいと思っても致命傷を負える小物は一切無く、無理にでも活かせ続けられ.........。
「...また食ってないのね」
「.........食べテモ...イミが無イ...」
ふと、足音が近くで止まったような気がして、私は耳だけ傾ける。なぜ耳だけなのかと言うと、身体を動かそうとすると激痛と、どうせ寝返りを打って柵の方に身体を向けても目の焦点が合わなくて見えないから。ただ音は聞く力は残っているらしく、誰の声で誰なのかは判別することは出来る。
そしてこの声の主は私に毎回食事を届けてくれる人...あれ、ちょっと来るの早い気がする。それとも時間の感覚までも狂っちゃったかな...あはは、そんな事はどうでもいいか.........。
「...意味は、あるわ。ねえ、あなたって...アーシアさん、よね? 私達の世界を救ってくれた人達の一人の」
「.........そンな肩書ハ、わたシじゃナイ」
ボロ雑巾みたい私を見て、その人は私は導かれし者達のアーシアじゃないかと問を投げかけてきた。確かに私はその通り、だけど少しだけ考えて違うと答えた。
何故だろう、今こうなっている自分をあの時の私と同じにしたくない、そんな気持ちがあるのか、それとも別の考えなのか、それとも別の要因なのか...。どちらにせよ私の口から発せられた枯れた声は否定だった。
「...そう、なら自分なんて助けられないわね。じゃあ貴方はこのまま人生を終わりにしたいの? 帰りたい場所とか、会いたい人とか、いない訳? もし私が貴方の立場なら、それを心の支えにして耐え続ける」
「...何が、言いタイノ? バカにしてる?」
小さくそうと呟きながら、その人は急に思い切ったかのように話しだした。私に対して罵倒をしているような、だけどその言葉の奥には時々息が詰まるような、思い切ったというより感情が口に出たような口調だった。
それが分かりつつも、私は少しだけムッとして少し強めに返答を返すと。
「.........私はね、貴方を助けたいと思ってるの。どんな状況であれ、私の娘を庇ってくれたと聞いたから」
「...庇ウ? マ、まサカ貴方は...うグッがッ! .........サ、サニャさんノ、お母さん...?」
娘を庇ってくれた、その一言に反応した私は弱った体を無理やり寝返りを打った。そして、さっきから話しかけてくる人が見えるように目を細めたり、見開いたりしてピントが合う場所を探した。
すると上手くピントが合う場所を見つけ、ゆっくりと見つめるとマニューラだということが分かった。そしてマニューラ、私の手当をしてくれたサニャとか言った女の子はニューラだった。
「...やっぱり、貴方だったのね。私の娘を庇ってくれた女の子と言うのは」
「...ホンとニ、サニャサンのお母サんダッタのでスネ...。デも、助けルトなるトサニャさんモ...アブなイのでハ?」
「...サニャならさっき逃したわ。だから後は貴方だけよアーシアさん。ごめんなさいね、もう貴方がアーシアさんだと分かってるの。最初の質問は、話すキッカケを作りたかっただけ。その後は...ごめんなさい、ちょっと気持ちがそのまま言葉が出ちゃったわ」
「...そう、デシタか...」
話すキッカケを...確かに見た目が酷いから、どう声を掛けたらいいのか分からないって言うのは一理ある。もし私も同じ立場ならどう声を掛けて良いか分からないだろうから。
ただそれよりも、サニャさんはもう大丈夫なんだ...あの後から心配の種だったけど。あれ、そうなるとサニャさんのお母さんは...
「あノ...貴方ハ逃げナいノデすカ...? 私的ニは、サニャさんニハお母さんガ必要なハズで...ッタ!? エ、今わたシニ何を...」
「一言で言うならば強心剤。即効性になるように調合しているから、口の回りや身体も時期に動かせるようになるはず」
「...強心ザイ? ベツに悪い物じゃないノですね?」
「当たり前よ。それにさっそく口の回りが良くなってきたわ。因みに強心剤の他に足りない栄養を補う栄養剤、身体の痛みを抑える鎮痛剤も含んでるから、身体も動かせるはずよ。立ってみて」
「.........くっ...ほ、ホントだ。動かせるようになって、身体の痛みも殆ど消えてきてる...」
「だけど、あくまでも限定的な効果よ。ニ時間もあれば効果は無くなって、さっきのように元通り...よし、鍵も開けたわ。急いで、今は夜中だから警戒が薄いの」
「くぅー...はい、分かりました」
先ほどまでの痛みやだるさなどが一気に無くなったのを驚きつつ、私は人間の時のように二本足で立ち上がりながら、上にぐっと身体を伸ばすと身体の中でボキボキと縮まって固まっていたのが直ったような音がした。
「...四足歩行族なのに二足歩行族と同じ伸びをするのね」
「四つん這いの伸びもしますけど、基本的にこの伸びですね。あとは慣れないのと、人前で行うのはちょっと...」
「...確かにそうね。そんな事よりも早く...ほら、こんなところは早く抜け出しましょ?」
「...あっ。そ、その...私の身体は汚いのですけど...」
「そんなの関係ないわ。それに恩人の手を、これから助ける人の手を汚いなんか思うもんですか」
「...あ、ありがとっ/// えっと、しばらくの間だけお世話になります」
差し出された手に一瞬、私は今の身体は汚いからと躊躇して手を引っ込めた。だけどその手はサニャさんのお母さんにしっかり握られ、離すにも離せなくなる。
どうしようと思った私は何を血迷ったのか、私は汚いからと呟いていた。でもサニャさんのお母さんは汚くないと真っ直ぐ私の瞳を見ながら言われ、急に私自身が馬鹿らしく思ったのと羞恥心じみた気分になった。
そんなことを思いつつ、私はサニャのお母さんに連れられて階段まで来ると、下に降りるんじゃなくて上を目指し始めた。なんでかと聞いてみたら屋上で協力者が居るのだと言う。誰なのかと聞いてみると「会えば分かる」と言って教えてくれなかったけど、その時の顔は偽りの無い優しい顔だったから特に追求はしなかった。
それから2分か3分くらい小さな声で話しながらゆっくりと階段を登りきり、サニャのお母さんは屋上に続くドアをゆっくりと開ける。開けてまず飛び込んだのは綺麗な真ん丸の月、そして綺麗な夜空だった。いつぶりだろう、捕まる前が満月の夜だったのはぼんやり覚えている。確か月の周期は一ヶ月程度の筈だから...もう、一ヶ月くらいこの場所に囚われていたことになる。
いや、そんなことよりも重要なのはサニャさんのお母さんが協力者と言っていた人物だった。その人達は私が何よりも知ってる恩人で友人達だった。やっと会えた、私はその嬉しさで涙が堪えきれなくなって、泣きながら走ってその胸に飛び込んだ。
「うっ...ぐすっ.........」
「...ホントに無事で...良かったわ...」
「ごめんなぐすっ...さいぐすっ...」
「ほ、ほらぐすっ...まだ泣くのは早いですよお二人共。まだこの場所から脱出しぐすっ...てるわけじゃないのですから」
「な、泣いてなんぐすっ...ないですから...」
「三人とも会えるのは嬉しいのは分かるけど、泣くのは後に取っておくのよ。それと...なぜこの場に伝説のお方が? フライゴンの方は一体どこに...」
「ぐすっ...わ、私です。紹介が遅れましたが、私はミウで見ての通りミぐすっ...ふぅー、ミュウです。そしてこの方はエーフィのシルク」
「.........エーフィのシルクよ。改めてアーシアちゃんの事、心から感謝するわ」
「感謝される事なんてやってないわ。寧ろ娘を救ってくださったミュウ様や、シルクさんに少しでも恩返しでもと思いながらアーシアさんを連れて来ただけだもの」
「...ぐすっ。ううん、凄い助かりました。そうじゃなきゃこうしてまたシルクさんやミウさん達に出会う事なんか無かった。...ありがとうございましたっ」
私は泣きながらシルクの身体に埋めていた頭を離して、サニャさんのお母さんに振り返える。その後は私は話しつつ涙を拭って、お礼の一言でとびっきりの笑顔を返した。
「だからお礼には及ばないわよ?」
「ふふ、このままだとエンドレスになりそうだから、そろそろ帰りましょ。ミウさん、テレポートお願いできるかしら?」
「はい、そのつもりでした。では皆さん私に触れててください.........行きます、テレポート!」