世界の未来
Side ???
「...うん、多分これで動くはず。そうしたら装置の電源入れてくれる?」
「はい。えーと、出力設定はさっきと同じ56.5%で?」
マスターの指示に、私は操作パネルを操る前に先程も試した数値で良いのかと訪ねた。ちなみに今行っている実験は、時空の亀裂がどのような影響を及ぼすのかを調査する為。この実験がもし成功したのならば、公には公開できない機密情報として処理をされる...。
だから私は、実言うとこの実験には反対意見だった。何故に反対なのか、それは純粋に危ない実験だからと言うこと。もし借りに装置が暴走をしてしまったら、確実にこの研究施設ごと抹消しなければならない。これだけで済むならまだ甘いけれど、最悪のケースは"闇に囚われし者"の大量出現を引き起こす可能性がある事だった...。
「あー、どうしよ。.........うん、その...他人事みたいで凄く悪いのだけど、調整はウィアの方が繊細だから設定は頼んで良い?」
「えっ? あ、あの...繊細と言ったって今の身体じゃそこまで俊敏に対応は不可能ってご存知ですよね? 確かにネットワーク上だけに存在を持っていた時は出来ましたけど、実態の身体を持つようになってからはマスターと身体的には差異は無いのですよ?」
「と言いつつ、僕より凄いじゃん。操作関連は僕じゃウィアに敵わないし」
...確かに私の身体はココ、現実世界に存在する。だからこそ知る事の出来なかった気持ちや感覚などを感じ取る事も出来た。何を隠そう、私の生まれはこの現実世界では無く、ネットの世界でマスター...ライト・エナフールと言うピカチュウによって生み出された存在だから。
そして私はウィア・エナフール...約三年前にマスターと同じピカチュウの身体を貰い、現実世界の住人となった。それ以降はずっとマスターの助手として変わらず実験の日々を過ごしている。
「はぁ...分かりました。分かりましたが、どうなっても知らないですから。それではシステムテスト第六回目。エネルギーチャンバーに接続開始し、エネルギー供給を開始.........うん、ベース出力を56.650に変更します」
私は発電機の電源を入れ、目の前のディスプレイに移る数値を見届ける。するとメーターが危険域を超えそうになるのを見て、私はすぐに冷却材のバルブ数値を上げて調整を行った。しばらくすると、ゆっくりとメーターが安全域に収まっていき、一分待たずくらいの時間で期待した数値になってくれた。
私は一応そのことを読み上げながら指差し確認をしてから装置の電源に触れたこの瞬間、私の心臓が緊張で再び強く波打つのを感じた。もう六回も同じ事をしてちょっと息苦しくなるけれど、やっぱり危険な実験だから少し怖い...。
「...安定してる? もしかして」
「あっ、えーと...現在一つだけ警告が出ていますけれど、稼働には問題の無いレベルです。歪み係数も安定値をキープし、こちらのコンタクトを拒絶も無く、しっかり相手は受け取っています」
「...そっか。約三年掛かっちゃったけどやっとここまで来たね。後は物質転送が出来るかどうか。その後に人物で実験したいところだけど...安全保障が無いからシミュレーションかな」
「ですね。悪く聞こえちゃうかもしれないですが、こんな感じの危険な実験に関しては乗り気というか、目立ちたがり屋と言うか、DMの研究員はそんな感じありましたね...それがあってこそ、あそこまで大きくなっちゃった訳ですが」
「だね。けれど、そんな人達が居なければこの世界が今頃どうなっていたか分からない。そもそも、他世界に行けたりする装置を作り始めなければ、もしかしたら何事も無かったのかもね」
確かに、この装置を作り始めなければDM事件なんか起きなかったかもしれない。けど、私はこの装置は悪いばかりではないとは思っている私もいる...なんとも複雑で、うまく言い表せない変な気持ち。
この装置がなければ全く関係のない死傷者が出なかったのはまず明らかだった。なぜならこの装置を当時動かしていた時は、生命エネルギーを吸い取ったものを変換して動かしていたらしい。このことはDM事件が解決後、暫く経ってから実験をしていた施設の設備運用稼働ログと呼ばれる、エネルギーの入出力が書かれた機密文章から分かった事だった。
生命エネルギー...私が生きる為に必要な、全種族に必ず一つは持っているエネルギーのことを指して、コレを使うことによって私たちは”技として物理ではない攻撃”を放つことができる。だから使えば使うほど疲労するし、元々に身体が疲れていればエネルギーを放出してなくても使うことが難しく、年を重ねれば重ねるほどエネルギーの保有量が下がっていく。
「確かに、この装置というより施設のせいで関係ない人たちが苦しんで、悩んで、帰らぬ人になってしまわれた方もいる...でも私、作ってくれて最終的には良かったと思っている私も要るのです。マスター、なぜだか分かりますか?」
「え...どうして?」
「わ、分からないのですかマスター? だってその事が無ければアーシアさん達と出会う事など無かったですし、最終的に世界は崩壊を迎えていたでしょうから.........」