仲間って
Side アーシア
「...にしても本当に久しぶりね、アーシアちゃん」
「そうですね...なんだかとてもお久しぶりな気がします。そう思えば...そのバック、もしかしてお二人もギルドに加入したのです?」
「そうだよ。けどまさか、救助依頼を出したらアーシアが受けとったのはビックリしたよ。多分だけど、僕たちって分からなかったよね?」
「そうですね、この場に来てから誰なのか分かった感じです。それに救助を依頼したダンジョン名しか分からなかったですし」
「あー...緊急依頼で出したから、確かに情報は殆ど無かったわよね。やっぱりこの緊急依頼、もうちょっと使いやすくなってほしいものだけど」
「あはは...」
緊急依頼か...そう思えば私は一度も使った事が無い。緊急依頼と言うのはギアと呼ばれる腕時計型の情報端末のことで、ギルドに属す人たちは必ず装着する義務を持っている。そのギアの中でもギルド限定と呼ばれているのがCギア、そして市販されているPギアとZギアがある。
ただし私が装着しているは通称ZEMと呼ばれるZギアExperienceModelを使っている。コレは...と言うよりギア全部に言える事だけど、ライトさんと言うピカチュウが全部作成したものだったりする。本当はもう少し種類があるみたいだけど...正直言ってなにが凄くて、出来るか出来ないかが全く分からない。ただ言えることは...コレが無いと電話も出来ないし、メールも出来ないし、ギルドに属す人達なら依頼の受理、報告、救助隊または探検隊の情報とか、色々なことができる総合端末って事は間違いないと思う。
「そうだ、話しが変わるけれど。アーシアちゃん、だいたい二年くらい全く連絡が不可能だった理由はどうして?」
「あっ、えっとー...」
「...レイ、別にいいじゃないかそんな事。こうしてまた出逢えたのだから」
「まぁ、それもそうね。けど話したくなったら話してよね」
「.........」
「...ごめん、アーシアちゃん。なんか深く考え込ませちゃったのなら謝るわ」
「...おーい、アーシア?」
「...ふぇっ!? あ、な、なんでしょう!?」
連絡が不可能...これでハッキリしたけれど、やっぱり私は二年間か三年間の記憶がやっぱり抜け落ちている。今まで私は何をしていたのかが、何一つも全く覚えてない。
かと言って、直近の記憶はちゃんと覚えているし、自分が誰なのかとか、身の回りの事で記憶が飛んでいる訳ではない。感覚的にはその時の記憶だけすっぽりと抜き取られたような、記憶に穴があるような感覚...。
そんな時にモルクさん、種族はマイナンの彼は私の顔を覗き込むように見てきた事でハッとし、焦りながら私は考えることをやめた。それとムウマからムウマージに進化していたレイエルさんと会えた事に嬉しさを感じるだけでいいかもしれない。
「...分かった、少し話したくない理由があるんだね。僕たちはもうこれ以上聞かないよ。ね、レイも聞かないよね?」
「え...ええ、聞かないわ。確かにグイグイと聞きすぎたわ。あ、そうだアーシアちゃんこのあと時間ある? 依頼をこなした後で食事にいかない?」
「お食事ですか? 行きたいです!」
「決まりね! ならさっさとダンジョン調査を終わらせるわよ!」
「はいですっ!」
ーーーーー
Side レイエル
「ふぅー、ちょっと危なかったけどこのフロアも無事突破ね。ありがとうアーシアちゃん、だいぶ頼っちゃったわ」
「いえいえ、お礼を言われるほど動けてなかったと思いますので」
「いや、アーシアが居てくれて本当に助かったのは事実だよ。一番に一人増えるだけでも戦闘の安定度は増すし、何より安心して戦えるからね。やっぱり二人だと正直力不足感があるし」
「そうよねー...ほんと、誰か勧誘するかしないと意外と今後きつそうよね。ところでアーシアちゃん、アーシアちゃんのチームは何人だったり?」
「あっ、えっと...そのぉ.........私だけです...」
「...ちょっとアーシアちゃん? 何でそんな事になっているか、しっかり説明してくれるわよね?」
「ひぃっ!?」
ちょ、ちょっと待ってレイエルさん顔が笑ってない!?
「レ、レイ! 怒りたいのは分かるけど気を沈めてっ!! それにまだダンジョン内だから!!」
「いや、今日という今日は二度と無茶をしないように身体で覚えさせてやるわ。覚悟は良いわよねぇ?」
「レ、レイエルさ...ぐ...ぁ......」
「ちょっ!? 電気ショック!!」
「ひゃっ! ...痛た、助かりましたモルクさん......」
...前に受けた時はそこまで苦しくも、痛くも無かったのに、やっぱり闇タイプになっちゃったせいかな...サイコキネシスが凄く痛い...。けど、そんな事よりもレイエルさんが怒るのも当然かもですね...。
ソロだと複数相手の場合の危険性と、何かあった時に何も対処が出来なくて、しかもギルド側は危険信号を出している。一時期ソロに対して強制的な受注不可能や、組み直しの場合は最初からのランクのところを、組んだ人の中で一番下のランクで合わせる等の事があって急激に減ったらしくて、確かソロは私と数えるくらいしか居ない...みたいなのを何処かで聞いていた気がする。
「はぁ...まあ、いいわ。でも、なんでソロでやってるのよ? ギルド側から何度も通達があった筈よ?」
「理由は...その...えっと、皆さんに救助隊兼探検隊をする事を知らせたくなかったから...ですね。えっと...そ、それとギルドの登録情報では偽名を使って、DM事件の解決者としての存在を隠して活動したかったから...」
「なるほどね...けど、せめて僕たちには教えて欲しかったなぁ...ギアで連絡も出来るし」
連絡...確かに一つでもしていればココまで怒られる事は無かったのかもしれない。っと言っても、今の私にはギルドに属した直後の記憶なんて持ってない。今の理由だってその場で考えたアドリブだから...けど、記憶が無いって事だけは口が避けても話すことは出来ない。
実はほんの一瞬だけ、最初の時は言おうと思ったりもしたけれど、やっぱり余計な心配を掛けたくないから言えなかった。でも私の心では言わなきゃと思っている私が居て、その二つの思いで私の心はきつく押し潰される...。言えば確実に怒られるけど、嘘を付いているという罪悪感からは解放される。それに相談すれば、私の記憶探しを手伝ってくれるかもしれない...。
「そうよ。ところでアーシアちゃんの偽名と番号はなんなの? 登録しておくから教えてほしいわ」
「...へ? あ、すいません...またちょっと考え事していました。なんでしょうか?」
「えっとね、さっき偽名を使っているって言ったでしょ? 名前はなにを使っているのよ?」
「偽名ですか? ...安直な名前なのですが、今はルナと名乗っています。ですがいつも通りにアーシアで大丈夫です」
「ルナ...分かったわ。それで番号は...一緒よね、その感じだと」
「そうですね...一緒です。分けたかったですが、ギアの登録を私用のギアでしているので」
「まあ、アーシアだとそうだよね。僕たちが使用しているCギアはライトさんが改造してくれているけれど、流石に市販されているZギアじゃ戦闘で壊れちゃう場合だってあるし」
確かに耐久度は市販品よりCギアの方が頑丈ですからね...それにバッテリーが長持ちしますし。私のは経年劣化というか、過酷な環境に持って行き過ぎて壊れ掛けているのも辛いところ。そろそろ買い換えなきゃいけないですね...。
「私のはそろそろ買い替え時な気はしますけどね...」
「まあそうだよね...結構ボロボロになってるし」
「そうね...そうだ、さっき依頼が終わったらお昼に行こうと話ししたじゃない? その関係で電話するから、ちょっとだけ周りの確認お願いするわ。えーと...もしもし?」
『あら、レイちゃんじゃない。どうしたの?』
「えーと、いきなりなのだけど一人追加って行ける?」
『ちょ、ちょっと待って...うん、ぎり行けるわ。それで追加の人は誰?』
「アーシアちゃんよ」
『...アーちゃん!? ホントに!?』
「嘘言ってどうするのよ...それに、いまお店の中じゃないの?」
『そうだけど、特に無問題よ。それじゃあ来るのを楽しみにしているわね』
「ええ、コチラこそ...お待たせ。変更出来たわよ」
「あれ、案外あっさりだったね。ところでなんか言ってた?」
「アーシアちゃんを追加って言ったら喜んでたわよ」
「うん? 聞いていた声を聴き限り、もしかしてエレナさんのところです? だとしたら暫く会っていなかったので、お話しができるのは楽しみです!」
まさかエレナさんのカフェだとは思っていなかった。エレナさんのカフェはシチューがとても有名だけれど、基本的に予約制のちょっと高めなお店でコーヒーも当然おいしい。それにしばらくの間だけど、カフェの手伝いをミミロルのミミアンさんや、ルカリオのリッカさんなどとやっていた時期がある。
...そう思えば、転送装置を使う前にミミちゃんに対して、私はアッチの世界で逢おうねと言ったけど帰らなかった。しかもウィアちゃんが言うには、私がこの世界に留まる事を誓ったせいで、人間ではなくてポケモン世界の住人になっちゃったらしい。でも私は悲しむ事も、悔しがる事も、起こる事も全く無くて、それで良かったと思っている。元の世界では一応友達も居たけれど、深い関係は持て無かったし、毎日退屈だったし、趣味のネットサーフィンやポケボードで同じポケモン好きとチャットで話すだけだった。父も母も私に対してあんまり興味が無いようで、会えるのは一ヶ月に一回あるか無いか。身の回りの事は勿論の事、ご飯、洗濯、掃除、全て自分一人でやってきた。当然出来たからって誰も褒めてくれない、それが当たり前だとずっと思っていた。
けどこの世界に来てからは、特にエレナさんの家で暮らしていた時は出来る事に褒めてくれたり、自分が作った料理に対して美味しいとか、ちょっと塩っぱいよとか、リアクションがあって嬉しかったし、話しながら食べるのかこんなに楽しいだなんて改めて実感する事も出来た。でも一番良かったと思ったのは、苦楽を一緒に乗り超えてくれる仲間が居たって事。楽しい時間を共有して、辛い事があったら気が付いて相談に乗ってくれ、戦闘に関してそれも言えた事。だから私は色んな事を教わったコノ世界に、仲間に、恩返しみたいな事をしたかったのかもしれない。
「...ん? どうしたの立ち止まって」
「...レイエルさん、モルクさん。改めましてだけど、私の友達...ううん、親友になってくれてありがとっ」
「え、急に改まってどうしたのアーシアちゃん」
「えへへ、なんでもないですよっ。ただ、その...言いたかったから、かな?」