M_01 風に尋ねられて
ここはとある諸島のとある村の、小高い丘。ここで一人、気持ち良さそうに昼寝をしている人が居た。全身真っ黒で、闇タイプ、多くある進化系の一つ・・・ブラッキー。
天候は綺麗な青空、そよそよと吹く涼しい風、木々のざわめき、そして毛先が長いお陰で柔らかい草のベット・・・条件が揃い、寝るには絶好の状態であった。
「・・・フ・・・・・・」
そんな静かな中一つの声が。声の主は又々進化の分岐がある一人・・・ブースター。
「・・・モフ・・・そろそろ起きろ」
「・・・うぅーん?あっ、おはようぉ・・・。 あっ、オ、俺どれだけ寝てた?」
「ザッと一時間だな。折角良い天気だからピクニック行こうって言ったのモフだろ?そこで手合わせしたいって言ったのもモフだろ? 早くしないと日が傾いちゃうぞ・・・」
呆れ顔で、目をこすっているモフにエンはそう言う。同じく、呆れ顔でモフの事を見ている者が1人・・・ポチエナの進化系であるグラエナのグランと、ヤミカラスの進化系であるドンである。エンはモフのお兄ちゃんで、グランとドンは色んな意味で自分は生きる事の出来たキッカケでもある大切な仲間であり、家族みたいでもあった。
「クロ、なんか最近よく寝るよな。 そんな奴だったか?」
「そう?でもよドン、今日は偶々天気が良すぎたから眠たくなるのも分かるだろ? まっ、ともかくそろそろ始めるかっ!!」
クロ・・・それは、モフのもう一つの名前である。モフはとある事情で村を飛び出し、グランとドン共に一緒に居た時に使っていた名前である。
モフは軽く伸びをすると、3人から少し離れて姿勢を低くする。そしてグランはエンから離れ、モフとエンの丁度真ん中辺りから数歩下がった場所に立ち、ドンはグランの真反対に降り立つ。どうやら最初はモフとエンが戦い、グランとドンが審判・・・両方が準備が完了したのを確認し、咳払いを一回した後
「・・・では、コレから手合わせを始める。勝敗はどちらかが降参と言うか、ダウンしたらとする。 じゃあ・・・始めっ!!」
グランの掛け声で両方がほぼ同時に飛び出すが、若干モフの方が足が速やい。そしてスピードが乗ったまま、
「行くぞエンっ!! "アイアンテール"ッ!!」
「こっちもだっ!! "アイアンテール"ッ!!」
お互いの硬くなった尻尾がぶつかり、軽い反発が起きて2人とも撥ね飛ぶ。が、モフはその反発を利用して直様逆から"アイアンテール"を繰り出す。
「えいっ!!」
「うぅっ!!・・・モフ、やるじゃ無いか。 なら・・・"火炎放射"ッ!!」
「そんなの当たらないッ!!」
エンはモフに向けて"火炎放射"を連発し、左右に振る。更にそこで横に振り、モフはジャンプ・・・それを狙ってたのかのように、
「やっぱりまだ甘いっ!! "アイアンテール"ッ!!」
「やばっ!!? あ、"悪の波動"ッ!!」
火の隙間から"アイアンテール"が打てる状態で、空中で身動き出来ないモフを捉える。が、その後にモフが放ったのがエンにヒットして・・・
「「ぐあっ!!!!」」
少し大きめな爆発と爆風で大きく吹っ飛ぶ。エンは近場の岩に衝突し、モフは木の幹に身体をぶつけた。結構鈍い音がしたので、グランは慌ててモフに駆け寄り、ドンはエンに駆け寄った。
「クロ、大丈夫か!!?」
「いったー・・・思いっきり木の幹に背中をぶつけた・・・・・・」
「た、立てるか?」
「あ、あぁ。ちょっとジンジンするけど、問題無いみたい」
モフは多少フラフラしながらもゆっくりと立ち上がり、軽く伸びを終えた辺りでドンがエンを乗せて飛んで来た。エンも同じように腰が痛いって言ってるのが聞こえる。
「ほら、着いたぜ」
「ドン、ありがとな。あっ、まだ痺れてる・・・」
「エン兄大丈夫?」
「ちょっと痛いな・・・オマケに痺れてるし。これはちょっとだけ休まないと無理だな。 ところでモフこそ大丈夫か?結構クリーンヒットしたと思うんだが・・・」
エンは自分の尻尾を見ながら一言。流石に"悪の波動"と"アイアンテール"の反動だけで10mも吹っ飛べば心配は大きいものだった。
だがモフは全然ピンピンしているのに対し、エンはまともに動けない・・・なんだかこの年なのに老いたのかなと軽くエンは思う。
「全然平気・・・でも無いけど、このくらいなら大丈夫。ちょっと待ってて、バックから木の実を取ってくる」
「あ、ああ。頼む。 ・・・それにしても、強くなったな・・・モフは。ドン、グラン、2人のおかげだ、ありがとう」
「いや、俺たちは何もしてないぞエン。クロが自分で強くなっただけだ。 道標も対してしてないしな」
「グランの言う通りだ。俺たちは何もしてない。だが、これだけは言える。 正義感の強くて頼もしい良い奴だってことはな」
「・・・そう、か。どちらにせよ感謝は仕切れない。 何故かって、グランとドンに合わなければ、モフとは2度と会えなかった・・・死んでたかもしれない。あの時は木の実の種類、危険なキノコとかを完全に教えていなかったし、生きる術を全くと言うほど教えていなかった・・・くどいが、本当ありがとう」
立ち上がり、エンは深くお辞儀をする。起きると目尻が仄かに涙が乗ってるのがグランとドンから見えた。こんなに感謝されたこともあまり無い2人は、何故か恥ずかしくなり軽く視線をエンからずらして話題を変えた。
「・・・と、ところでモフはあそこでなにしてるんだ?」
「なんかずっとバックの中を探ってるいるみたいだな。 ちょっと見てくる」
「あいよ、ドン」
2人の前から静かに飛び立ち、モフのところに行って降り立つ。それでもまだ気がついていないようで、バックの中を探っていた。
「おーい、モフ。何してんだ?」
「あっ、ドン。あのさ、オレンの実って確か六個くらい持って来たよな? 何故が一個も無いんだよね・・・」
「一個も無い?そんなことあり得ないだろ。だってよ、穴も空いてないし、木の実は手渡しで渡したし、バックに近づく変なやつは居なかったし・・・ともかく、無いものはしょうがない。現地調達だな」
「・・・・・・」
「ん、クロ?どうした?」
探すのを急に止め、ある一点を見据える。その視線にあったのは空中にふわふわ浮かんでいる真っ黒くて、輪っかになって歪んでいて、周りの草がそれに向かってなびいていた。
「な、なんだよアレ・・・」
「分からない。でもなんだろう、引き寄せられるような感じがす・・・って、なんか吸い寄せる力強くなって来てないか!!?」
「うおっ!!? クロしっかり捕まっておけよ!!」
今までそよ風程度にしか無かったが、いきなり風が強くなって、周りをまるでブラックホールのように吸いこみ始めた。急いでドンはクロもと言いモフを自分の背中にバックを背負わせた状態で乗せ、吸い込まれないように風を読んで乗り、そこから加速してグランとエンのところへ。
二人は異常に気がついたようで近場の大きな岩石の裏に入ったようで、岩陰からドンとモフを手招きしていたが、吸い込む力がどんどん強くなるため、危険を感じたのか手を引っ込めた。
「うぅ・・・すご・・・・・・」
「や、やべえ・・・ちょっと吸い込まれ始めた・・・・・・クロしっかり捕まってろよ!!」
「うわっ!!?」
「くっ・・・ク、クロ!!バックを捨て俺にピッタリお腹を付けろ!! なびかれてうまく飛べねえ!!」
「え!!?ちょっ、ちょっとまって・・・・・・イイよ!!」
「サンキュークロ!! コレなら行けるっ!!」
吸い込まれてなびいていたバックを捨て、モフが体勢を低くしたことにより空気抵抗がかなり減り、一気にエンとグランの居る岩石の裏に入る。
そして直ぐにエンから、
「ドン、モフ!!無事で良かった・・・」
「エンにぃ・・・怖かったよぉ!!」
「よしよし、怖かったな・・・もう大丈夫だぞ。 それにしてもなんだあれは?あんなの俺は始めて見た」
「こっちだってそうだ。なんだかんだで俺はさまよい歩いていたが、あんなの見たことない。 でもなんだ・・・クロに会うもっと前にゴミ箱に捨てられてた新聞なんか書いてあったような・・・・・・」
「新聞?書いてあったとしても、俺たちには読めなかったけどなグラン。 どちらにせよ、この状況をなんとかしないといけない。今、一人乗せた乗せたままでココに来れたが、流石にこの状況で三人は運べない。収まるのを待つしかないな・・・」
「いや、対したもんだドン。モフを連れ帰って来てありがとな。 さて、実はバックの中に五つの『俊足の種』が入ってるから、なんとかるだろう。モフ、バックを」
「え・・・」
エンに手を出されながらバックを要求される。だが、バックは既に吸い込まれている・・・モフはドンの事をチラッと見る。
「・・・あー、バックは空気抵抗になって吸い込まれそうになって途中で捨てた。すまない・・・」
「そうか・・・なら、ドンの言う通りに収まるのを待つし・・・」
「・・・ん?エン、どうした?」
「モ・・・モミの巨木が、根っこから吸い込まれる・・・・・・」
「「「えっ!!?」」」
巨木・・・それは自分の村の御神木のような存在のモミの木。そして、モフへのクリスマスサプライズとしてグランとドンが合う場所に選んだ特別な場所・・・・・・その、モフにとって大切な木が吸い込まれそうなのを目の前で見て、声にならない声がモフの口から・・・
「・・・ろ・・・・・・め・・・ろ・・・」
「・・・ク、クロ?」
「・・・や・・・めろ、その木は、その木は吸い込むなぁっ!!」
「クロっ!!」
「うぐぁ・・・ド、ドン離せ!!離してくれ!!」
ドンはクロが飛び出して根元に行こうとするのを、上から押さえつけて行かないようにする。だが、体重差が大きいために徐々にクロの身体が持ち上がり、このままでは最終的に押し負けると思い、下への羽ばたきを強める・・・が、この判断が後後大変になるとは誰もこの時は思ってはいなかった。
「うぅ・・・ドン・・・爪が、刺さって痛い・・・」
「あっ、すまない・・・・・・俺だってなクロ、あの木は思い出がある木で、行きたいのは山々だ。 だがよ、四人無事なら別にイイじゃねーか。ココでクロが吸い込まれてみろ。たぶん俺たち自殺するぞ」
「っ!!? そ、そんな大袈裟な・・・」
「いや、大袈裟じゃないぞモフ。俺、お前が出て行ってからずっと病んでたんだ。それこそ家族の支えが無きゃ死を選んでた」
「俺もだクロ。実の兄の前で言うのも変だがクロ、お前は俺の兄だ。 弟に何かあったら困る」
「グランまで・・・あぁ・・・」
そう言っている間に巨大なモミの木は吸い込まれ、当た方もなく無くなる。今までそこにあった記録もなく・・・
「そんな・・・木が・・・・・・」
「・・・モフ、悲しいと思うが今はアレからどうやって逃げ切るかだ」
「分かってるよ・・・でも・・・・・・う、うわぁ!!?」
「モフっ!!」
ひっくり返ったモフをエンが、モフの手をギリギリ捕まえた。モフの身体は重力に逆らい、吸い込まれる方が強いので空中に浮かぶ・・・その間にもゆっくりと岩は転がり始める。どうやら、思っていたほど吸い込みスピードが速く、いつの間に残り5メートル位になっていた。ほんの数秒で10メートルも吸われたと言うことになる。
しかも、モフがひっくり返る前より岩がさらに動いているため、風の風向が乱れ、毛並みがあちらこちらになびく・・・
「ぐぁ・・・重めぇ・・・」
「全力で羽ばたいてるのに全然動かねぇなんて・・・
「ク、クロ!!絶対エンの手を離すんじゃねーぞ!!」
「怖いよ!!怖いよお兄ちゃん!!」
「モフ落ち着け!!手が滑る!!」
エンがモフの手をしっかり握り、そのエンをグランが引っ張り、そのグランをドンが高速で羽を羽ばたかせて引っ張る。その必至を知ってるか知らずか、岩石はゆっくりと転がり続ける・・・そして、ついに・・・・・・
「ふぅぐぁ・・・・・・っ!!?ぐぁぁぁぁぁあ・・・・・・・・・」
「「「ドンっ!!!!」」」
それは一瞬だった。石が一瞬だけ大きく傾き、風の流れが変わった途端・・・岩の上を通って吸い込まれて行ってしまった。
そして、その出来事のショックに手が緩み・・・
「・・・つぁ!! モ、モフっ!!!!」
「お兄ち・・・・・・・・・」
モフも吸い込まれてしまう。そして・・・目の前から消えたのを呆然としながらエンとグランも吸い込まれるのであった・・・・・・・・・