忍び寄る者
「成る程。つまりアーシアは、連れて来られたって感じなわけね? ...ふう、なんかこの依頼、簡単に達成する事なんか出来なさそうねコレは」
文字がビッシリ書いてある紙を揃え、もともと調べ上げていたであろう用紙に訂正を入れていく。けども、やっぱり体力が残っていないせいか、時々文字が崩れる時があったが、構わず書き続けていた。
「...あの、聞いていて気がついたのですが」
リンネがふと、気が付いたような顔をしながらシルクに呼びかける。
「うん?どうしたの? 気が付いた事があるなら書き足すわ」
「いえ、ふと思った事なので。 もしかしたらですよ?元々このような情報をギルドに回すのは上務部なんです。つまり、この諸島とを全て管理している『ギルド協会』が怪しい気がして...」
「...リ、リンネさんちょっと待って。全てって何? まさか、完全に全部...?」
「そうです。ただし、ドリームメイカーズだけはその干渉を受けていないようで。 アーシアさん、私すごく嫌な予感がします。何かあった時はこの番号で聞くか、テレビ電話にして、見せて下さい。それとシルクさん、その紙のコピーを貰ってもいいですか?一か八か、ギルド協会に提出してみます」
「待って、そうなるとアーシアを含めた人間の情報を渡すことになる。さっき言ってた通り、ギルド協会が黒幕なら危険に晒すことになるわ」
「...そうですね。っとなると、上を通さずに伝言を回す感じにしましょう。ギルドとの連絡網は一応ありますし」
「お願い出来るかしら?」
「ん? あ、はい」
シルクが拳を向けて来たので、リンネは一瞬戸惑ったが、直ぐに理解して拳を出し、合わせ、軽く押した。そんな事をしている間、アーシアはレイエルの隣で横になって寝ていて、レミは座ってウォルタの話しを色々と聞いていた。
一方、シュエリはお風呂場の方で横たわっており、弟子達に囲まれていた。元々は連れてくるつもりだったが、どうしても垂れ出てしまうのと、腐食も始まっていた為、換気が効くお風呂場に移動していたのである。移動させた後、弟子を呼び、向かわせた。保健室に残ってるのはシルクとリンネ、ウォルタとアーシアとレイエルとレミ、リファルとフィリアである。フィリアはまだ目を覚まさないが、呼吸、心拍共に正常値を機械は示していた。
そして、それからどれだけの時間が経っただろうか。フィリアは目を覚まし、リファルと共に何処かへ調べに行き、シュエリは弟子達によって静かに土葬され、それをこの諸島の親方達が集まり来て祈りを捧げた。その後はリンネが親方を引き継ぎ、ルリが副親方にシフトした。当然ギルド協会を通さずに、集まった親方の話し合いで。
一方アーシア達は、コンサートの予定は外してライトとマートルとモルクと合流し、シルクとウォルタと共に調査を開始ししようとしていた。
「っという事だから、ライトはウォルタ、マートルと一緒にドリームメイカーズのデータベースを、私とアーシアは渡してくれたコレを使って工場がどこにあるかを調べるわ。ウォルタとレイエルはギルド協会の本拠地の場所を探して頂戴。っで、何かあったら連絡って事で良いわね?」
「おっけいだよー」
「み、みんな気をつけてっ」
上からシルク、ウォルタ、マートルと言っていく。シルクは走れるくらいまで回復し、レイエルに至っては完全に回復、ライトは予備のHギアを少しだけ持ってきて、レイエルとシルクにそれぞれ渡した。マートルはすっかりライトを気に入り、一緒に居ると聞かなかったが、安全だと思ったので一緒にさせることにした。
それにしても...ギルド協会が主犯としたら大変というレベルを超えてる気がする。だって、今日ここに来なければ全ギルドに追われることになっていたという真実と、最悪襲われることだって十分ありえてしまうから。実際ウォルタにバラされた時、凄い威嚇と殺意の目のようなのが向けられて凄く怖かった...。私一人じゃ何も出来ない、改めて思い知らされる事になった。
「さぁーて、アーシアちゃん行くわよ」
「...あ、はい。お願いしますシルクさん」
「シルクで良いわよ。アーシアちゃん、私の背中に乗って」
「え...でもまだ傷が......」
「コレくらいで弱音吐く私じゃないわよ。 ほら、早く!」
「は、はい...お、お願いします......」
軽く押され気味だったが、アーシアは申し訳なさそうにシルクの上に乗り、振り落とされないようにお腹を引っ付けた。それをシルクが確認すると、軽く押さえ気味で最初は走り出し、ちょっとずつスピードを上げていく...。数秒後には出せるマックススピードになっていて、風を切る音がアーシアの耳元で聞こえていた。
〜〜〜〜〜☆〜〜〜〜〜
それから数分後のとある某所。そこは既に廃墟のような見た目をした建物の入り口にアーシアとシルクは居た。窓ガラスは全て割れていたけれど、鉄板のようなもので塞がれ、入れなくなっていたが、どの種族かは分からない足跡をいくつも見つけることが出来た。ココは昔にドリームメイカーズが使っていた研究施設だったようで、何か手掛かりがあればと来たのである。ちなみに情報源はライトで、何故知ってるかは昔に少しだけ行った事があるからだと。そして、大広間の何処かに地下への階段が隠されてるっという事も教えてくれた。
先回りしてライトはそこの電源設備を遠隔で起動しようとしたみたいだが、もう壊れてしまって稼働不可と着く直前にライブキャスターで連絡があった。
「はぁ...明かりなしにどうやってココを探せばいいのかしら。しかも予備電源も壊れてるなんて...」
「そ、それはライトさんのせいじゃないんですから、諦めましょう......。 取り敢えず探し回る必要はなかったんですから...」
「そ、それはそうね。 ところでアーシアちゃん、なにか技を使える?」
「技ですか? えっと、体当たりと電光石火、アイアンテール。あとは守るですね」
「守る? 見た目で言っちゃいけないのは分かってるし、元人間だったからっと言うのは除くとしても...早すぎじゃないかしら。だって、この世界に来たのって...」
「2日前です」
「2日前...凄いわね......。 もしかしたら、イーブイの特性である『適応力』が強く働いてるのかもしれないわ」
「特性...。やっぱり大事なんでしょうか?」
「絶対大事ってわけじゃないけど、あったらラッキー程度で良いと私は思うわよ。 私はスカーフで変わった特性になってるけど...」
適応力、コレは苦手な弱点属性で攻撃すると威力が上がる特性の事で、けれどアーシアは技とかじゃなくて、生活にもプラスの影響を受けているかもしれないと聞いてシルクは思った。ちなみにシルク本人、普通のエーフィの特性はシンクロで、状態異常を負った時に相手も状態異常になる特性...が、コレはシルクには無くて他の特性に、しかも特別な特性を首に付けているスカーフによって与えられている。このこと感じては、後々説明する。
「変わった特性...ですか?」
「そう、だけど今度ゆっくり話してあげるわ。 さーてと、長話になったわね。そろそろ中へ入りましょ」
「でも、扉は南京錠や鎖でグルグル巻きになってますけど...」
「大丈夫よ。ちょっと荒いけど、破壊して中に入るから」
「え、ちょっとそ...」
「"シャドーボール"!!」
「あ...」
それはマズイかと...と、アーシアが言い切る前にシルクは既にシャドーボールを放っていた。シルクによって離れた真っ黒なボールは、見事に南京錠のある場所を捉えて爆発が起きた。ボロいのか、シャドーボール以外の爆発以外に煙が立ち込めて、ドアが見えなくなった。シルクが「狙い通りね」と言っている本人の横で、アーシアは苦笑いしながら煙を見ていた。
「さすがに壊れたでしょ。じゃあ行くわよアーシアちゃん。 あ、懐中電灯出すから待ってて」
「はい...。 あの...」
「どうしたの?」
「シルクさんって案外大胆な所あるんですね...」
「そんなでもないわよ。 回復確認ついでに放っただけだし...あれ、見つからない。ならさっきライトさんが言ってた機能を使うしかないわね」
「そうですね。 ...うん、しっかり付きますよ」
「私の方は...同じく大丈夫ね。 さて、行きましょ」
〜〜〜〜〜☆〜〜〜〜〜
「うわぁ...。予測はしてましコホッ...たけど、埃凄いですね...」
「そうね...ずっと居たら全身真っ白になっちゃいそうな埃の量ねコレは...」
二人は入って直ぐ、エントラスで既に中は凄いことになっていた。何故なら埃で足が埋まってしまう程積もっていたからである。しかも扉が開け放たれたので、中の埃が外へ向かって流れるので、顔を背けるかしないと目やら耳の中に入ってしまう最悪なお出迎えだった。
「わたし、足が半分ほど埋まってしまってるんですが...。コレ、かなり身動きが...」
「ホントね...。 一応歩ける?」
「はい。けど走るのは無理そうです...」
「んー...いざとなったら私がサイコキネシスで浮かせて逃げるしかないわね」
「なんかすみません...んっ? もしかしたら..."守る"ッ!!」
ふとアーシアは閃き、少しシルクから離れて緑色のバリアを張る。張った瞬間にボアッと埃が舞ったが、風で全て吹き飛ばされ、少しずつアーシアが見えてくる...
「アーシアちゃん"守る"も使えるのね...凄い......」
「...うん、問題無さそうです。 もうちょっと小さくして......このくらい。シルクさん、取り敢えず"守る"でなんとかなりそうです。中には埃無いですし」
「そ、そう。じゃ改めて出発ね。 良い感じに埃をブルドーザーみたいに掻き分けてくれてるから、迷ったり、調査終わってからが楽そうね」
埃を掻き分けてこっちに向かってくるアーシアにそう言いなら顔を進行方向へと向け、時間を確認する。時間は12時を超えた頃で、あれからなんらかんら凄い時間が経ったことになる。 そんな短時間で色々なことがあった。まずはナルトタウンの親方様であるシュエリの死、副親方のリンネの昇格、全ギルドの情報訂正...どれもコレもかなり事が動いた。そしてアーシアが見た夢、コレが何を意味するのか...。
「あっ、確か目的の場所は大広間って言ってたわよね? 普通に考えたら真っ直ぐかしら」
「多分そうかと。 あ、二本足で立たないと懐中電灯の意味が無いですねコレ...よっと」
「軽々立ち上がるわね。けど、元々人間だったからには当然たら当然よね。 にしても...立ち方綺麗ね......」
「なっ!?いきなり何を言いだすんですかッ!/// 変なこと言わないでくださいよ!!///」
「ごめんなさい、少し口が滑っちゃったわね...。 でもコレで、アーシアちゃんの心にあった恐怖心は無くなったでしょ?」
「そ、そうですね...無くなりました...。 ふぅーっ、そろそろ本当に行きましょう」
ため息な様なのを吐き、自分で自分の頬を叩いてアーシアは気合いを入れた。それを見てシルクは途端に冷静な顔付きになり、周りの状態を注意深く確認しながら先導して歩く。奥に進んで行くほど埃の量が増し、真っ暗になり、空気中に舞う埃と塵のせいで懐中電灯は役立たずになりつつあった。
そしてそれから約30分経った頃、2人はライトが言っていた目的地である大広間に到着した。周りをパッと見てまず気になったのは、この部屋だけ埃の量が明らかに少ないこと。今は足首以下しかなくて、大体2cm前後。構造としては、部屋の中心あたりに豪華そうな机とソファー、方角的に北側に暖炉、西側にローテーブルと壁に組み込みのテレビ、東側にキッチンスペースまである多目的ルームのようになっていた。
「ココが目的地...。 確か暖炉のところに一箇所だけ違う色のレンガがあるって言ってましたよね?」
「そうね。 にしてもあの暖炉、かなり年季入ってるわね...。ここの諸島なら電気とかの暖を取る方法とかがソレっぽいのに、暖炉じゃ浮いてるじゃない」
「多分雰囲気...なのではないですか?」
「言われてみればそうかもしれないわね。見た感じココは休憩室みたいな感じみた...」
急に言葉が止まり、アーシアはアレっと思ってシルクの顔を覗く。その顔は何かに気が付いたような、怯えたような、複雑な顔をしたシルクがあった。そして一呼吸を入れてから、
「...だれ、そこに居るのは。姿を見せなさい!!」
っと、闇に叫んだ。でも当然返事は返ってくること無く、シーンと先程と変わらずに静まり返っていた。と、思ったが、ドスン、ドスンっとゆっくりと足音のようなものが近ずいてくるのをアーシアは聞き取った。
「な、なんですかこの足音...」
「どうやら、嫌な予感が的中しちゃったみたいね...」
「ま、まさか入口近くの大きな足跡本人!?」
「ええ、多分。全く厄介なものが入ってきたわね。ココじゃ行き止まり、逃げるのは無理じゃない。 アーシアちゃん、スイッチを探してきて。開けてくれたら私は駆け込むから」
「わ、分かりました」
そう言って、ダッシュでアーシアは暖炉に駆け寄って色違いのレンガを探す。手当たり次第にライトで照らし、煙をはたき、埃を体内に吸い込みながらも探し続ける。けど、思ったほど簡単には目的の色違いを見つけることが出来ない。何故なら、年数が経ってレンガが変色してしまったからである。その間にもドンドン足跡は大きく、近づき、振動も大きくなってくる。もう直ぐそこまで来ている。
「アーシアちゃんまだ!!?」
「手が加えられずに放置で、レンガが幾つも変色してしまって見つけられないんです!! 手当たり次第に押してはいるのですけど...」
「...あんまり使いたくなかったけど、しょうがないわね。 アーシアちゃん、私が良いって言うまで目を閉じて、絶対に開けないで!!」
「えっ!!?」
「良いからっ!! ..."シャドーボール"!!」
シルクはバックから何かを素早く取り出して真上へ投げた。そして一息置いてからシャドーボールを同じように上へと放った。ちょっと間が空いて、ビシッとヒビが入る音がした後、大きな火球と爆発音と共に爆風と暑さをアーシアは感じた。
そしてアーシアは見た、入口に緑色の大きな巨体、真っ赤に光る殺意に満ちた目、なんでも砕きそうな歯、大きな口、強靭な肉体を持つポケモンのバンギラスを......。