三人の娘の企み
私はとある夢でまた誰かと出会ったいた。だけど、この前の人では無い女の人の声・・・さみしそうな声・・・悲しそうな声・・・何か後悔している声・・・・・・。
『おね・・・たす・・・て・・・・・・』
「だ、誰ですか?」
『た・・・けて・・・・・・』
「まず、貴方の名前は? どうして欲しいのですか?」
『名前・・・シュエ・・・リ・・・。 あい・・・を、封じ・・・れな・・・か・・・・・・。 お願・・・あ・・・つを・・・ダークライをッ!!」
「ダ、ダークライ?封じられなかった?え、えっ? 一体どう言うことなのですか・・・?」
『・・・・・・・・・』
「シュ、シュエリさん・・・?」
『・・・げて・・・私から・・・逃・・・てッ!!』
「ひゃっあ!!?・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・い、今のは一体・・・・・・?」
最後、血だらけの顔が見えたような気がして布団から勢い良く飛び出した。そして私はフラフラと立ち上がると、薄明かりな部屋の中をゆっくりと歩きながら洗面台に向かって鏡を見る。そこに映し出された自分の顔を見ると、恐怖で引き付き、小刻みに震え、目尻には軽く涙が溜まっているイーブイの顔がそこにはあった。
「色々と凄い顔・・・それに冷や汗で毛が湿ってて変な感じだし、これは朝風呂入らなきゃだめそう・・・・・・」
前足でしんなりしてしまっている、クリーム色の毛並みを触りながら、改めて自分の姿をはっきりと見渡す。最初に比べて明らかに慣れた四足での歩き、片手を離して三足でもフラつかずに立てる姿、耳や尻尾の動かし方、まさにイーブイになり切った自分の姿があった。それからどう見ようとも、立つ角度を変えても、時間が経っても、イーブイのトレードマークであるフサフサの尻尾とモフモフのクリーム色の毛並み、ツーンとした耳は無くならない。
「・・・やっぱり、わたしはイーブイなんだ。 んっ、あれ?そう思えばわたしはいつの間にかに寝てたの?確か・・・夜空を見て居る時にレミさんが起きてきて・・・それから何か話してから中に入って・・・・・・あれ、そこからの記憶が・・・・・・・・・」
急にモソモソっと音がし、何かと見てみたらレミが起き上がってこちらを見ていた。そこからゆっくりと起き上がり、アーシアの目の前へ、
「・・・深く考えない方がイイですよアーシアさん。思い出そうとしても辛くなるだけだから」
「そ、そうですよ・・・ね。うん、そうする。無いものを願っても無いままで、解決も出来ないですからね・・・」
「そうそうっ。後ろばっかり見ていたら目の前の楽しい事や、知れることが通り過ぎちゃうから・・・だから、前を見て行かないと、ね?」
月明かりに照らされたレミの柔らかい笑顔に、アーシアは少し顔が火照ったような感じがしながら差し伸べられた手を握り返す。その手はほんのりと暖かく、不安で冷えた心も温めてくれそうだった。
「・・・アーシアちゃん、ちょっと外でも散歩しましょうか? でも、ちょっと肌寒いと思うから・・・あったあった、コレ着て下さい」
「・・・?これは?」
「私の防寒着なんです。この大きさならアーシアちゃんなら普通に入ると思う。 私、着ようとしても毎回着てないから、アーシアちゃんが着ちゃって」
「で、でも・・・///」
「いいからいいからっ。ほら、立って」
「ほ、本当にちょっと待って下さい・・・///」
「ど、どうしたのですか?」
「そ、その・・・先に・・・ト、トイレに・・・行ってから・・・・・・///」
トイレに目を向け、頬を真っ赤にして恥ずかしそうにアーシアはレミに訴える。急にソワソワしている感じ、いきなり来たようだった。
「な、なら早く言ってください・・・」
「すいません・・・し、失礼します・・・」
軽く会釈しながら二本足で立ち上がり、ドアノブを捻ってトイレと中へ。が、扉を閉じてすぐに自分の目を疑った。
なんと便器と呼べる物が無く、何故かシャワーと小さなタオルが何十枚セットしてあり、その下には使用済みのタオルはこちらと、底の見えないダクト、床一面が金網になっている空間だけだったからである。
「えっとー・・・レ、レミさーん!! ここって本当にトイレなんですか!?」
「・・・えっ!!? も、もしかしてアーシアちゃん・・・ここの世界でのトイレ始めてなの!!?」
「は、初めてです・・・あの、コレってどうやってすればっ・・・///」
「そのまますれば良いのですよ!!」
「そ、そのままってどう言うことですかっ!!?/// はぅ・・・レ、レミさぁん・・・///」
「え、えーと・・・じゃ、じゃあ教えますから扉開けてください!!///」
〜〜〜〜〜☆〜〜〜〜〜
「ふぅ・・・これでイイですよ。つ、次からは自分で・・・して下さいね?」
「はいぃ・・・あ、ありがとうございました・・・」
身振り手振りで教えて、なんとか事なきを得た。そして、二人で出た時は薄っすら明るくなっていて、どうやら夜かと思っていたが明け方の日が登る少し前の時間帯だったらしい。
ベランダへと続く扉を開け放ち、二人は森の中の新鮮な空気を胸にいっぱい取り込みながらゆっくりと伸びを一つ。やっぱり外は時間もあってから少しだけ肌寒く、プルっと身体をアーシアは震わせる。が、外は温度差のせいか霧が発生しており、その霧のお陰か綺麗な虹が掛かっていた。
「き、綺麗・・・」
「でしょ? 私ここから見る景色が好きで、二週間に一回はココで過ごしてこの虹を見るのが何より楽しみなの。私の本当の家はナルトシティーにあるんですけど、そこからは虹なんて絶対に見えませんから」
「・・・うん、分かりますその気持ち。私もこの景色を見るの結構好きです。神秘的と言うかなんと言うか、自然が暮れたプレゼントみたいで」
「そうそう。では、朝ご飯になるまで時間あるからさっきから言ってる散歩に行きましょアーシアさん。本当はまだ外に出歩けないんですけど、ココの女将さんとは顔見知りだからいつも出してもらってるの。多分厨房に今の時間居るから顔出しに行きましょう」
「で、でも迷惑なんじゃ・・・」
「大丈夫。この時間ならまだ完全に動き出してないはず・・・だから早めに行きましょう」
防寒着をアーシアに渡しつつ、レミはカバンからウエストポーチを取り出して腰にセットする。既に中には何かが入っているらしく、少し膨らんでいた。
それを横目でアーシアは見つつ、渡された防寒着を着初める。上は至って普通だが、下は尻尾用の穴が空いてあり、紐を緩めて穴に尻尾を入れ、そのあと履く感じでズボンの中に尻尾が入らないように工夫がしてあった。
「なるほど・・・工夫して作ってあるんですね」
「そう。でも、種族によっては尻尾が短いのも居るし、中に入れたい人も居るみたいだけど。あ、わたしは楽だから出す派ね。 それじゃあ・・・うん、問題なく着替えられたところで行きましょう」
「は、はいっ」
アーシアの周りをクルッと一回りして、テーブルの上に置いてあったルームキーを拾い上げるとドアノブに手を掛け、開ける。部屋を出ると廊下の電気は仄かにダウンライトだけ付いて、天井の蛍光灯は消灯されていた。ただ宿屋の入り口、病院の方の入り口は既に明るく、微かに美味しそうな匂いも漂ってる事にアーシアは気が付いた。
「なんか、すごく良い匂いが漂ってますけど本当に今行って大丈夫なのですか?」
「うーん、確かに今日はちょっと早すぎかも・・・。でも、覗くだけして見ましょう」
「はい。そう言えばレミさんは何回ここに来たことあるんです?」
「えーとー・・・多分、50回は軽々超えてるはず。ところで私も聞きたいことあるんですけど、人間ってどんな姿してるの? おとぎ話で出てくる人間はサーナイトみたいな体型って書いてあったけど、雄もヒラヒラな服着るのですか?」
「それは流石に無いです。ヒラヒラ、スカートを着るのは女の子だけです。でも・・・私はスカート嫌いで、いつもジーパンを履いてたような記憶が・・・あ、ジーパンなんてレミさん分からないですよね・・・」
「え、分かりますよ? だって、服屋さんで売ってますから」
「え、ジーパンをですか? じゃ、じゃあ肌触りが滑らかなシルク生地や、コットンとかは・・・」
「それに加えて化学繊維のポリエステルもある。もう何千年からあるみたい。因みにその防寒着はポリエステルとラナエステルの組み合わせ」
「ラナエステル?」
「あ、ラナエステルって言うのはポリエステルより更に繊維が細くて、温度を耐熱し易くなってるみたい。 さてと、ココがそ・・・あれ、他に誰か居るみたい。あれはー・・・」
レミはいつもと違う人を見かけたらしく、首を傾げながら覗き込み、アーシアも続けて覗き込む。中は厨房らしく、良い匂いの発生源はココだったらしい。そんな事を思いながら中を見渡すと、踏み台に乗って大釜を掻き回すエプロン姿のマリルリ、同じくエプロンを姿のワカシャモがフライパンを振るっていた。だが更にもう一人、それはサイコキネシスで三つのフライパンを振るい、菜箸とフライ返しを一斉に操る・・・
「・・・レ、レイエルさんッ!!?」
「火加減はこんなも・・・あ、この声はアーシアちゃん。やっぱりココに泊まってたのね。 ココの女将さんであり私の幼馴染でもあるルーナが教えてくれたのよ。それで直ぐに行くって言ったんだけど、朝になればココで会えるって言われたから寝て、朝食の手伝いしてたのよ。そうしたら本当にその通りになった感じねー。 ともかく無事で何よりだけどアーシアちゃん、後で説教するつもりだからか・く・ごしとしきッ!!」
「は、はいーっ!!?・・・こ、怖い・・・・・・」
いきなりの大声と怒りに満ちた声でアーシアは芯から震え上がり、耳は垂れ下がり、尻尾は自然と中に入った。そして、横で聞いていたレミも・・・だが、ワカシャモ別になんともなく普通にフライパンを動かし、ルーナに至っては微動させずにレイエルの話を聞いて頷いていた。そして少し間が空き、レミはルーナの前に行き、
「うんっ?どうしたの?」
「ちょ、ちょっと、いつもの散歩行って来ます。 あとムウマさん、アーシアさんを連れてっても・・・」
「よっと、ふう。 連れて行くのは構わないわよ。但し、必ず連れ帰ってね。モルクからも言わせたいことあるから」
「・・・え、モ、モルク? あの、今モルクって言いました?しかも、レイエルって・・・モルクが話してたムウマさん!!?」
「え、ええ!!?あ、あなたもしかして・・・レミさあっつうぅ!!?」
「あわわわわレイちゃん!! み、"水鉄砲"ッ!!」
レミの言葉に手元が滑り、レイエルは持っていたフライ返しを頭に落っことした。落っことしたそれは、まさに目玉焼きをひっくり返し、熱々だったのだ。それを見て、慌ててルーナは弱めで"水鉄砲"を頭に掛けて冷やした。その前にワカシャモが素早い勢いで地面に落ちる前の菜箸とフライ返しをキャッチして洗い場に放り混み、レイエルの事を気にしつつ、先程ルーナが調理していた鍋を、左手に持ったお玉でかき混ぜながら右手のフライパンの方も気に掛ける。それを見ていたアーシアはレイエルより、思わずワカシャモの方を見てしまっていた。
「うぅ、熱かった・・・ありがとルーナ」
「お礼入らないわレイちゃん。 一応、チーゴの実を火傷部位に塗った方がイイから、頭出して」
「ええ。 ちょ、ちょっとコレ、ルーナ・・・いたい・・・」
棚に置いてあった包帯と瓶を取ると、ルーナはレイエルの頭に包帯を巻いた。そして、その上から青っぽい液体をフライ返しが当たったところに少し垂らした。ただ、だいぶ効くのか、垂らした直後、歯を食いしばっていた。
「そりゃそうよ。医療用をコッチに回してもらってるんだから、効果も強くて痛みも少し強いの。この位なら、1時間もすれば治ってると思うわよ」
「で、でも・・・1時間もこ、この痛みに絶えないとダメ、な訳?」
「ううん、最初だけ。私もコレ嫌いなんだけど、すぐに治るから使ってる感じね。 さてと、レイちゃんもレミちゃんとアーシアちゃんと散歩して来れば?コッチはいつも通りになるだけで全然問題無いし、レイちゃんが手伝ってくれたおかげでもう殆ど無いし」
「・・・そうね、そうさせてもらう。じゃあご飯の時に」
「ええ、しっかり話してらっしゃい。でも、1時間後くらいには帰ってくること。冷めたご飯は食べさせたく無いし」
「分かったわ。じゃあアーシア、それとレミさん?行くわよ」
「は、はい・・・」
多少震え声ながらも2人は返事をし、レイエルの後を付いて行く。外に出ると、さっきよりもっと明るくなっており、ポッポ、スバメ、マメパトなどの羽ばたきが所々聞こえていた。
「さてと、まずアーシアちゃん。モルクやライトに連絡しなさい。話はそれからよ」
「はい・・・あっ、お、おはようございます。アーシアです・・・」
『アーシア!!?よ、よかったー・・・見つからなかったらどうしようかと思ってたよ・・・今どこに居るの?』
「私が宿泊した所よ。まさか同じところに居たとは思わなかったわよ。それと、モルク。レミさんよ」
「えっ!? お、おはよモルク」
『レ、レミ!!?な、なんでレミが一緒に居るの!!?』
「えーと・・・アーシアさんと色々あって、二人で一緒に泊まってたの。それでさっきレイエルさんと・・・」
『な、成る程ね。それにしても、凄い偶然だね・・・居なくなったアーシアにレミが付き添い?して、レイエルもそこに泊まってたなんて・・・。 あれ、つまりレミもアーシアから話しを聞いたってことだよね?』
「聞いた。結構大変なことに巻き込まれてるんだなって・・・だから私、協力することに決めたの」
「えっ!!?レ、レミさん!!?」
「さっき決めたの。困ってる人を見捨てるなんて私、絶対出来ないから。っと言うことだからアーシアさん宜しく」
「は、はい!!」
「・・・っと言うことみたいだから。えーとモルク、ライトは起きてる?」
『ラ、ライトはまだマートルと寝てるよ。ライトは遅くまでアーシアの事を探してたみたいだし、マートルはまだ幼ないから寝てるし』
「そうよね、分かったわ。そっちに戻るのはお昼前くらいだと思うけど、ほら、ライブは付き合ってもらうってことにするから」
『あはは・・・ライブとなると、セントラルパークの北館だっけ?それで、12時ジャストからの開始だよね?』
「そうよ。でも、10時くらいに中央棟一回の大樹の前に来て。 やりたいことあるから」
『やりたいことって?』
「言ったら意味ないじゃない、秘密よ。それじゃ、また後で」
『分かった、また後でー』
「・・・ふう。アーシア、何か先に言いたいことは?」
「えっ、えーと・・・し、心配を掛けてごめんなさい!!」
「・・・まぁ、正解ね。今回は偶々優しいレミに助けてもらったから良いものの、居なかったらどうするつもりだったわけ? 不審者なんて普通に居るし、最悪のケースとしては襲われる、なんてこともあるんだから。大きさ的に小さいし、確かにアーシアちゃんは強いと思うけど、体が大きい奴には物理的に敵わないのよ?」
「はぅ・・・ごめんなさい・・・」
「・・・はあ、もうイイわよ。 レミちゃん、ちょっと聞いていい?」
「へっ?な、なんでしょう」
急に名前を呼ばれて、まだ怒鳴ったのが残ってるのか、ビクッとしながらレイエルの事を見る。
「そんなにビックリしなくてイイわよ。モルクの事なんだけど、モルクに可愛い服着せたら、どう思う?」
「えっ!!? えー・・・そ、それは・・・に、似合うんじゃないかなっと・・・」
「あー、やっぱり? だから、始まるまでの二時間の間、ショッピングしながらモルクに着せて見ない?アーシアも変装と言うか、色々な理由があって着せたいしー?」
「うぅ・・・///」
「な、何があったか分かりませんけど、分かりました。 モ、モルクの女装・・・ちょっと楽しみかもしれません///」
「へ、へくしょんっ!! あれ、なんか凄い悪寒が・・・」
「じゃあ決定ね。それじゃあ、本来の目的の散歩をしてから、朝ご飯食べて、出発しましょ」
「そうですね、私ちょっと良いとこ知ってるんでそこに行きませんか? 時間的に怪しいですけど、多分綺麗に見えるはずです」
「それじゃ、そこに行きましょ。 アーシアちゃん、もう怒ってないから行くわよ」