旧友
「太陽が・・・もうそろそろ沈む・・・・・・。しかも秋だし、沈むの早いはず・・・やっぱり、2人を連れて行かないで正解だった。暗くなっちゃったら、いくらよる大丈夫でも、カバーしきれないし。でも、手分けした方が早いのは確実・・・なんとも微妙なところね・・・・・・」
扉を閉めた後に超特急で先ほどまで居た場所、アファクトの森入り口へと戻る。空はすでに赤く染まり、太陽は地平線に掛かろうとしていた。
「くっ・・・コレが限界速度・・・。でも、アレで行きに20分掛かってるから、5分もあればアファクトの森の入り口に着くはずよね。 アーシアちゃん、大丈夫よね・・・?暗くなる前に森を抜けてくれればイイけ・・・あれ、わたし、とんでもないこと思い出した気がする・・・。 どっかでアファクトの森もダンジョン化なりつつあるって聞いたことあるような・・・ちょっとモルクに聞いてみなきゃ」
そう言いながら、貰ったHギアの電源を入れ、電話帳を出し、トップに入っているモルクを選択して、電話をかける。だが、風の音で雑音が凄かった為に雑音が鳴らない程の速度まで落とす。
「・・・あっ、繋がった」
「うん、大丈夫だよ。所々ノイズが入るけど、ちゃんと聞こえてる。 電話して来たってことは、何かあったの?」
「・・・ねえモルク、アファクトの森のダンジョン化って範囲ど・・・こ・・・?」
「アファクトの森?えーと、確か地下だったはずだよ。地上にはまだ影響はなかったはず・・・それがどうしたの?」
「そう、なら良かった。なんか
嫌な予感がして・・・でも、大丈夫なのね。 それじゃあ私はグレースタウンまで行ってくるから、ライトのこと宜しく。当然マートルとモルクも気を付けるのよ」
「分かってるよ。探しに行かなくても食べ物と飲み物はあるし、電気やガスや水道とかのライフラインは止まってないから、こっちは全く無問題だよ。ところでHギアが一個少ないんだけど、持ってった?」
「持って行ったわよ、アーシアちゃんの為に。っと言うか、いつ何個初めに入ってたって知ってるのよ?」
「バック持ち替えた時にガチャって変な音したから、その時に確かめたんだよ。コレ、ライブキャスターそのまんまだけど、ちょっとだけ形違うんだね。機能とかもデフォルトと一緒だけど、完全に一緒でもないみたい」
「え、モルク起動しちゃったわけ? はぁ・・・まぁ、イイけど。ちゃんと戻しておきなさいよ。そう言えば、二人の様子は?」
「ライトはたまに呼吸が乱れるからドキドキしてたけど、マートルが横で一緒に寝てから乱れなくなったよ。 っで、マートルは今話したとおり、ライトと一緒に寝てる感じだね」
横目で二人を見ながらレイエルに説明する。因みに体勢は二人とも座っているのだが、マートルがライトの手を握りながら寄りかかって寝ていて、まるで兄弟みたいな感じにモルクは見えていた。
「ふーん、分かったわ。じゃあ私はこのままグレースタウンに向かうから、二人のこと宜しくね。多分帰ってくるの遅いから」
「分かったよ。でも、無理して探し回らないでね? それでレイエルが行方不明になっちゃったらな・・・ううん、なんでも無い。絶対帰って来てよ?」
「ええ。じゃあアファクトの森の奥にそろそろ入るから通話切るわね」
「うん」
「あとモルク・・・そこまで心配してくれて・・・・・・あ、ありがとう。やっぱり私とのパートナーはモルクみたいね」
「・・・」
「ふふ、じゃあね」
レイエルはあえて、モルクが言いたかったことを言い、追加で一言。言って凄い照れ臭さを感じたが、その気持ちをなんとか堪え、普段通りの自分、レイエルで通し切った。返答が返ってこないってことは、困惑してるんだなっと思うと、少し笑いがこみ上げて来てしょうがなかったけど、不思議と変な気持ちではなかった。
「・・・良い感じに弄ったとこで、アファクトの森に侵入ね。本当にもう・・・街灯くらい付けて欲しいわね。ゴーストタイプとか、暗闇とか大丈夫な人達じゃ無いと夜抜けるのは無理よコレ。しかも、テレポーターは早めにグレースタウンは終わっちゃうし、森の上から上からだと見つからないし・・・色々面倒過ぎ。 あっ、ダンジョンじゃなくても居るかもしれないから警戒しなきゃ」
入り口から入ると、先ほどのまでのスピードを落とし、歩く速度くらいまでにする。別にそのまま突っ込んで行っても良いような気がしたが、一応、保険、である。
「うわぁ・・・多分他の人には真っ暗で見えそうに無い。月明かりも無いし、道は見えないし、明かりが無いと抜けるのは不可能な感じね。 そう言えば、ライブキャスターにはライトが標準装備だったわね。Hギアには付いてるのかしら? ちょっと探してみようかしら・・・」
そうつぶやくと、レイエルは手にはめているHギアにサイコキネシスを使って器用に外そうとする。が、ふとHギアを外すのはやめ、暗闇でも問題無い自分の目で見ようと思い、前を向いた。
「そうよね、見えるのに使っても意味無いし逆に危険よね。 えーと、確か歩いて15分?だっけ。グレースタウンに行くまで。 どうしよ、やっぱり急いだ方がイイわね。長居してても逆に危ないし」
周りをキョロキョロしながら、看板通りに右へと曲がって先ほどのスピードまで徐々に上げて行く。道は所々クネクネしており、グレース氷山に近づいていることもあり、ゆっくり体感気温が下がって行く・・・だが、身体を動かしていれば当然暑くなるので、ちょうどイイと言えばちょうどよかった。
「だんだん気温が低くなって来たってことは、そろそろ町が近いのね。グレース氷山の膝下?みたいな場所だから平年的に気温が低いのよねコノ町って。町と言うか村だけど。 あっ、あかり見えた。やっぱり飛ばすとあっという間に着くわね」
いつの間に道が砂利道から舗装された道になっていたことに驚きながらも町の中へと侵入する。でも、町の中にさえ外灯は無く、唯一の明かりは家から漏れる灯りのみで、誰一人も歩いていなかった。
「さ、さすがねこの町・・・ナルトタウンから見るとまずあり得ない。いや、ナルトタウンと比較しちゃダメね。 さてと、歩いてる人を聞き込みしようと思ったけど、これは無理ね。一件一件訪ねてたら時間も足らなく・・・もなさそうねこれ・・・」
周りをくるりと見回しながら一言。家は見えるだけで八軒程で、それにプラスそこそこ大きな病院兼宿屋だけで、それ以外建物は無かった。しかも家の作りは完全にログハウス、町の大きさも5分歩けば端っこに着いちゃうほど狭く、本当に田舎である。そう心で思いながら、レイエルはまず病院兼宿屋の建物に向かうことにした。だが、やはり距離が距離な為にあっという間に到着する。
「ココがこの町唯一の病院・・・その割りにはそこそこ大きいわね。確かギルドが北側にあったはずだから、その為かしらねって開かない。あれ、もう閉まっちゃってるの? はぁ、あまり使いたく無いけどすり抜けるしかないわね・・・お邪魔しますっと」
すーっとドアに近づき、すり抜けて中に入る。灯りは灯っていたが受付には人の姿は無く、声は宿屋の方からしか聞こえない。とりあえず、レイエルはその声がする方へと向かう事にした。
「うーん、この町に入ってからずっと思ってたけど、噂通りの昔の暮らしって感じね。日が登ると活動して、日が落ちると活動をしなくなる・・・ある意味理想ね。時間もゆっくり流れる感じで、嫌なこととか忘れて羽を伸ばせそう・・・」
「それは良いことですけど。あなた、どこから入って来ました?既に入館時間は過ぎているのですが」
「きゃっ!!?」
いきなり後ろから声を掛けられ、レイエルはびっくりして前に少し進む。振り返るとそこには、マリルリが手を組みながら、少しだけ睨みつけるような感じで立っていた。
「静かに、他のお客さんも居るんだから。あと防犯カメラみたけど、あなたすり抜けて入って来たわね?何か用なの?何が目的なの?」
「えーと、人を探してるんです。右手か左手にマークみたいのを付けてて、小柄なイーブイのアーシアって言う女の子を」
「イーブイ? うーんー・・・見てないわね。私は宿屋の受付担当のシャーナって言うんだけど、そんな人は居なかったわね。ところで、今日はどうするわけ?たまたま一人部屋が空いてるし、食事の時間も終わったし、部屋を綺麗に戻してくれるならタダで使わせてもイイけど」
「・・・どうして?」
「今言ったとおり。見るからにその子を探し回って疲れてるような感じだし、他の宿屋に連絡して確認することもできるし、もし見つけたら教えられるから。困った人を見つけたら助ける、どこでも鉄則だけど、この町は絶対の鉄則。 どうする?話も聞きたいし」
「・・・分かった、そうさせてもらいます。 私の名前はレイエル。ポートタウン出身よ」
「ポートタウンって最南端のところね。まさか、そこからずっと探し回ってた?」
「いえ、ナルトタウンから探してます。ちょっとトラブルがありまして・・・」
「トラブルねー・・・それは部屋で聞くわ。待ってて、ルームキー持ってくるから。 色々して5分くらいかかるから、ちょっとそこに座って待ってて」
そう告げると、少し小走りで壁の奥に消えてしまった。レイエルは言われた通り椅子に座り、モルクに連絡する為にHギアを取り出す。そして先ほどのように通話を開始する。
「・・・あっ、モルク、私。いきなりだけど、今日は帰らないから二人のこと・・・宜しく」
「え、どう言うこと?」
「ちょっと宿屋のお姉さん?に捕まったと言うか、話を聞いてもらうと言うか・・・一応、グレースタウンには到着したわ」
「んー・・・何があったか分からないけど、事は了解したよ。そう言えば、ライトが目を覚ましたよ」
「覚ました?じゃあ変わってくれる?」
「ちょっと待ってね・・・」
電話越しにモルクがライトを呼ぶ声が聞こえ、数秒してからライトの返事がし、走る音がする。そして、ゴソゴソっとノイズが混じり、
「よし・・・えーと、お疲れレイエル。モルクから話しは聞いたよ。 ゴメン・・・僕が探すべきなのに・・・」
「おつかれ。別にいいわよ、それにライトがアーシアちゃんといきなり接触したらどうなるか分からないし、怪我だってしてるじゃない。 ・・・オブラートに包む言葉が見つからないからそのまま言うけど、足手まとい、にしかならないと思うのよね」
「あはは・・・本当にどストレートに言うねキミは・・・。 まぁ、そう言う人とか嫌いじゃ無いけど。実は物事はっきり言う人って結構重要な人で、言える人はそう居ないんだよね」
「へ、へぇー・・・じゃなくて!!身体の方は大丈夫なわけ!!?」
「あーうん、大丈夫。それよりも、ゴメンね・・・レイエルに任せる形になっちゃって・・・」
「別にいいわよ。あっ、じゃあ切るわね」
「あ、うん。頼んだよ」
「ええ。コチラからも二人のこと宜しくね。 じゃ」
ピチュンっと音と同時に画面が切り替わり、通話時間が右から左に流れて表示される。通話時間は6分41秒と表示されていた。だが、そんな事よりも・・・
「レイエル。ココって通話禁止エリアなんだけど。 しかも、ココに書いてあるんだけど」
「え!?・・・あ。 ご、ごめんなさい・・・」
「今は病院自体動いてないからよかったけど、これがお昼だったら大変なことになるから気を付けて。部屋ならいくらしてもいいから」
「すみま「そーれーに!!私のこと覚えてないなんて酷いレイちゃん!! 今の名前はシャーナだけど、ルーナ!!」
「レ、レイ?・・・ルーナ・・・ルーナちゃん!!? うそ、ルーナちゃんなのっ!!!??」
「こ、声大きすぎ。えっと、久しぶりねレイちゃん。 四年ぶり・・・かな?やっぱり気が付いてなかったのね。この姿になれば当然かもだけど・・・」
「そりゃそうよっ!! だってあの時はまだルリリだったし、今はマリルリになってるし、声は変わってるし・・・別人になってるんだから・・・」
「それに比べて、レイちゃんはいつも通り私と見つけたオカリナをぶら下げてたからすぐに分かった。初めて一緒にダンジョンに行った時の宝物・・・私もいつもポケットに、ほらっ」
ポケットに手を突っ込み、箱のようなものを取り出して蓋を開ける。すると中には、鮮やかな青色をした雫型の宝石がはめ込まれていた。光の屈折率が高いのか、証明器具の光だけでキラキラと輝いていた。
「いつ見てもキレイよね。それをネックレスにしたら似合うのに」
「そうだと思うけど、コレはこのままがいいっと思って。それにコレ、手に持って握ると力が溢れるような気もするから、いつも身に付けてたら疲れちゃいそうで・・・」
「ルーナちゃんも? アタシもこのオカリナ付けてからメリットの方が大きいけど、デメリットあるのよ。メリットして、サイコキネシスの扱いが凄く繊細に出来ること、技の威力上昇。デメリットはエスパーとゴーストタイプの技しか使えない事。そのくらい」
「私もそんな感じ。さて、ココが泊まる部屋って言ったって、私の部屋でもあるんだけど。 上がって」
「え、あー・・・お邪魔するわね。 へー、中は昔ながらなのね。そういえばルーナの家もこんな感じに、和風建築だったわね」
「一部、ね。でも落ち着くでしょ? コンセプトイメージは気ままなスローライフってことにしてあるの」
「そ、そのまんまね・・・まぁ落ち着くのは正解ね」
部屋をくるっと一回りしながらレイエルは呟く。部屋の大きさは10畳くらいはあった。でもこれが最大サイズで最小サイズらしく、小さな部屋にどれだけ雰囲気を演出するか悩んだんだろうと気もした。
「くぅー・・・ふう、レイちゃんいきなりだけどお風呂付き合って?」
「・・・え?お風呂?」
「そうそう、昔みたいに。 それに、そのオカリナ付けっ放しってことは実体したままって事でしょ?飛び回ってたんだったら少なからず塵とか埃とか付いてるはずだから」
「よく覚えてたわねそんなこと・・・そうね、入ろうかし・・・もう準備は万全ってことね・・・・・・」
一瞬目を逸らして、次見た時には二人分の風呂道具をルーナはいつの間にかに持っており、桶の中にはタオルが入っていた。それから二人は宿の風呂場に移動し、そこの中でいろいろ昔のことやら、思い出話しをするのであった・・・・・・・・・