母の行方
外に出てからしばらくして。ヨーテルが話す色々な噂話をリトが聞きながら小川の脇道を歩いていた。そしてその小川は底が見えるほど透明度が高いもので、時々吹き上げる涼しい風が2人の毛並みをフワッとなびかせる。
「へぇー、つまりココには様々な謎があるってことね? さっき言った・・・なんとか隊も調べることの出来ない秘密が」
「なんとか隊じゃなくて、探検隊と救助隊です。 ともかくその二つの隊、正確的には三つあるのですが、未開拓な地を探検して、大丈夫かどうか確認したり、色々調べる権利と開拓する権利を持っているんです。特に探検隊は。それなのに、上からの圧力か何か分からないですが、探検と侵入禁止エリアが存在するんです」
「侵入禁止ね・・・あれ、でも侵入したって何で判断するのよ?」
「その事ですね?実は全ての隊には自分たちのランクと証明をすることが出来る絶対携帯のバッチが存在するんです。その中に・・・その人達がどこに居るのかを知らせるGPS的な機能が付いています」
「ちょ、ちょっと待って。つまりその探員全員監視されてるってこと!!?」
「そうですね。そう言うことになりますが、悪いことばかりじゃないです。 例えば身動きが取れなくなったとか、バッチを落とした、逆に人出が足りなくて周りの隊に応援を出せたり・・・それが出来ると、どうですか?」
「・・・マイナスイメージから一気にプラスイメージになったわね。 そっか、みんなそっちを考えてるからそのくらいしょうがないって思ってるのね」
「はい。話しを戻しますが、その機能の進入禁止エリアに入ったことが分かると、警告がその隊に対して送られるようなのですが・・・その内容がココに」
ショルダーバッグを前にし、小さなポケットから凄く小さく畳まれた紙を取り出し、リトに手渡す。その紙の内容は・・・
「きゃあっ!!? な、何これ・・・も、もう脅迫文じゃない・・・・・・」
「だ、だいぶ前のものなので今はどうなってるか分かりませんが、コレが届いてギルドから脱隊した隊もある程です・・・この血文字のカタカナ文章で・・・・・・」
「コ、コレなら流石に私も除隊す、するわね・・・。 あれ、ところでなんでヨーテルがこの紙を持ってるのよ?ま、まさか・・・」
少し垂れ下がった目でリトはヨーテルの事を見ながら質問する。案の定ヨーテルの口から言い放たれたのは救助隊だったの一言。でもまだ一ヶ月に一回ペースで活動はしているらしいかった。何故これが届いてからも活動しているか尋ねてみると・・・
「た、確かに怖いですが・・・コレだけの事で逃げるのは、と思ったのです。それに・・・いつも誰かが助けを求めている人がいる限り、私は逃げないって決めてるんです」
立ち止まり、左手を胸に置きながらヨーテルは雲ひとつない晴天空のを見上げる。その見上げた顔は言葉とは正反対に悲しい顔をしていて、リトは声を掛けることが出来なかった。少しして、ヨーテルはハッとしたように。
「ご、ごめんなさい。母が働いていた場所はもう少しです。でも、本当について来て下さって本当にありがとうございます・・・私一人じゃあんな場所に入る気力が無くて・・・・・・」
「別にイイって言ってるじゃない。ところで、あんなところって? お母さんと、その他の人も働いてるんでしょ?」
「はい。でもいつも閉まってて、行こうとすると変な違和感で近づけなくて・・・」
「違和感・・・って、一体どんな感じよ?」
「・・・殺気」
「殺気っ!!? 一体どういう・・・」
「私自体もなんでそんな違和感になるのか分かりません・・・でも、何故かそんな感じがするんです・・・・・・そして、もうこの辺りから」
また立ち止まり、ヨーテルはゆっくりと目の前の建物を指差した。だがその建物は真新しく、殺気や違和感などは外観だけだと全く感じられない。
「ね、ねえヨーテル。あれの何処が違和感あるのよ? 私の見た目だと全く感じられなくて、寧ろ綺麗じゃない」
「・・・ほ、本当に言っているのですか? 確かに人の捉え方は色々ですが、あのボロボロを・・・」
「えっ?じゃ、じゃあ・・・私の目が悪いってこと?」
「いえ、ですから・・・って、リトさん置いて行かないで下さーい!!」
ヨーテルが話そうとした瞬間にリトが走ってその建物に向かってしまった為、慌てて走って追いかける。そしてリトが建物前で立ち止まると・・・
「やっぱり近くで見ても違和感もなきゃっ!!? ヨ、ヨーテル驚いちゃうからいきなり抱きつかないで!!」
「ご、ごめんなさい。でも、怖くて仕方が無くて・・・」
「・・・ん?ふ、震えてるの? そんなにココ、怖い?」
「はい・・・」
こくっんと頷きながらリトの身体をぎゅーっと小さく震えながら抱く・・・全く考えられなかった行動にリトが顔が逆に赤くなっていき、
「ヨ、ヨーテルちゃん・・・こ、こんなところで恥ずかしいぃ///」
「・・・リトさんでも、恥ずかしがるんですね。ふふ、いきなりごめんなさい。 でも、だいぶ落ち着きましたっ」
「そ、そう・・・ならイイけど/// ほら、そろそろ行くわよっ!!///」
「はいっ///」
〜〜〜〜〜☆〜〜〜〜〜
「はぁ、やっぱりやり過ぎちゃったかしらね・・・トビラ」
「やり過ぎですよ・・・でも、物音あったのに誰も出て来ないなんて・・・お母さん、居るのでしょうか・・・」
「きっと居る、だから大丈夫よ。 それに最悪お母さんが居なくても、探すことは私はやめないわよ。 ところで、ずっと尻尾の炎強めたままで疲れてない?」
「だ、大丈夫です」
ココはもう建物の中。だが中は明かりが灯っていなく、薄暗く、ヨーテルの尻尾の炎を明かりに歩を進めていた。所々床のコンクリートみたいのが日々が入っており、壁に至っては壁紙が剥がれていたり破けていたりしていた。
因みにドアはノックしたり呼んでも誰も来なかったので、リトがタックルで壊して2人は入っている。
「そう?大丈夫ならイイけど、無理はしないでよね? それにしても・・・奥に行く程ドンドン状況悪化してない?」
「そうですね、ココに来て壊れ方が・・・きゃあっ!!?」
「きゃっ!!? な、なに!?どうしたのよ!!?」
「あれ・・・あれ・・・」
リトはヨーテルが震える手で指差す方向へゆっくりと顔を向ける。そこには、信じたく無いものが壁に飛び散っていた・・・
「う、ウソでしょ・・・コレってまさか・・・」
「み、道を変えましょうリトさん・・・私、嫌な予感しか・・・」
「そ、そう・・・ね。確かに私も嫌な予感しかしないわね・・・ヨーテル、もう一度聞くけど、お母さん本当にココで働いてた?」
「・・・働いてました。言い忘れてましたが2年前、お母さんとココへ来たことがあるんです。その時はこんなに荒れては無かった・・・もっと綺麗で、他の人達も笑いながら仕事してて、全員が凄い明るく楽しく仕事をしてたのを覚えてる・・・あっ、今この話しは関係無いですよね、ごめんなさい」
「いえ、イイわよ。ヨーテルちゃん、一つ質問なんだけど、それからココに来たのはいつ?確かお母さんが居なくなってからって言ってたけど」
「あれ、言いませんでしたっけ?確か一週間前くらいです。ココに来たのは。 そしてその行った帰りで衰弱していたリ・・・きゃぁぁあっ!!!!」
言葉の最中に急にヨーテルが悲鳴を上げ、それに反応するように尻尾の炎が一気に強くなって辺り全てが見えるようになった。リトはヨーテルの声にびっくりしながらも、何にびっくりしたのか周りをよく見渡す・・・先ほど見た飛び散っている壁、壊れた照明、破れたソファーと厚いホコリを被ったテーブルとブラウン管のテレビ、そして・・・目を隠している・・・・・・
「ね、ねえ、あなたそこでなにしてるのよ?」
「・・・え、お前、俺の事が怖く無いのか?」
「怖く無いのかって、ただのゴーストじゃない。別に怖くなんか無いわよ?」
「お、お前、女なのに凄い肝が座ってると言うか落ち着いてるな・・・まぁ、見られてキャーキャー逃げるのを見るのも面白いと言えば面白いが、やっぱりそう逃げられるのはメンタル的に結構来るだよなー・・・。 ところで、お前たち2人はココに何をしに来たんだ?見たところ此処の関係者では無いみたいだが・・・」
リトと震えているヨーテルよ周りをふわっと一周しながらそう尋ねる。
「ええ、そうよ。行方知らずの、この子のお母さんを探しに来ただけよ。どうやら此処で働いていたみたいだったから」
「成る程、母親か・・・。それだったらしょうがない、まあトビラタックルで壊して入って来たり、俺を怖がらない態度に、特別で二つ程教える。 一つ目、お前たちが探している人はたぶん地下の研究室に居る」
「っ!!?ち、地下?でも案内板には地下に行く階段は・・・」
「確かに書いていない。何故なら床下階段だからな。因みにそこな」
「どっ・・・はぁ、ヨーテル、良い加減に手を話してくれない?指先冷たくなって来たんだけど」
「お、お化け怖い・・・」
「お化けじゃ無くてゴースト、ね。 ほらっ、しっかりしなさいよ。お母さんの情報教えてくれてるのよ?」
「そ、そうですけど・・・ひっ!!」
「あぁ・・・しょうがないわねっ。ゴーストさん、ところで二つ目ってなに?」
「二つ目か?それは、俺の声一つでココに人を呼べるってことだ。 俺はココの侵入者監視人だからな」
「侵入者監視人っ!!?」
そのワードに直ぐにヨーテルを引っ張って距離を取る。が、ゆっくりジリジリとゴーストは2人へと近づいて行く・・・不気味な笑いを浮かべながらフワフワ飛んでくるのを見ると、流石に強気だったリトは少し引きつってしまう。それとヨーテルの炎がドンドンと小さくなっていってる為、ゴーストの姿がちらほら見えなくなって来ていた。
「そう、俺は監視人だ。だからお前たちをつまみ出す・・・っと言いたいところだが、特別だ。行きな」
つまみ出す、そう言った後にUターンし、背向けたままで下に行く為の床下階段を"サイコキネシス"で開ける。言ってる事としてる事の違いに首を傾げながらリトはゴーストのことを見ていると・・・
「探してるんだろ?そこの、ヨーテルとやらの母親を。 流石に俺はそこまで鬼では無い。見つけてこい。どうせこうなる事は分かってた」
「・・・良いの?捕まえなくて」
「今、言っただろ?それに早くしないと俺の気が変わって呼んじまうぞ?」
振り返りせず、背向けたそのままの状態で2人に言う。不安と言うか、心配だったが、リトはヨーテルを立たせ、ゆっくり床下階段のところへと、そして軽くお辞儀をしてから下へと下って行く2人であった・・・・・・