異国の技 - 中編
ー前書きー
今回のお話はズバリ解説回。今まで明かされなかったアーシアが居た人間だけの現実世界、ライトやレイエル等が居る世界で起きている事が明かされます。
...まあ、そんな事も出来ないので少しアクションは起こしますけれどね(汗)。
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Side シルク
...異国の技。以前に調べた書物の中に幾つか載っていたけれど、今のアーシアちゃんのような状態にする物は無かった筈。だけど、ライトさんが先程に言っていた《ダークライの力を半分以上引き裂いただろう魂が入っている器》のことに関しては、似たようなのが書いてあったような気がする...何だったかしら......ダメ、思い出せない。
それ以前に魂を物に宿すなんて出来る事なのかよね。元いた世界で読んだ文献だと、死んだ魂は光に導かれて空へ行き、そこで生きていた時にして来た事を調査して、天国か地獄へと行くと書かれていた。本当かどうか分からないし、実証も無いわけだから。でも一つだけ分かっている事がある...それは人間ならばのお話で、私達ポケモンには一部通用しない事。
どうやら私達は生きたいと純粋な大きな思いや、強い現世への執着心みたい等があるとゴースなどに一定の確率で転生する場合があるらしく、記憶も確率で残るらしい。何が言いたいのかと言うと、死んだ後も生きていた前世の世界に居る事が出来る事。その事を象徴しているモニュメントと言われるのがシンオウと言う地方にあって、死んだポケモンの魂が眠る場所の存在が物語っている。
少しの脱線から本題に戻るとして、物に対して魂を宿す事だけれど...もし、もしも宿す場合は根本的な世界の法則をねじ曲げないといけない。何故ならゴース自体が良く分からない存在で、固体でも無く、液体でも無く、気体でも無いと言う検証不可能存在だから。そもそもに存在が出来る理由すら、何故死んだらゴース等に転生する理由も全く解明されていないからが上げられる。私も研究者の端くれとして色々と調べてみたけれど、結果は何も無し。つまり出来るか出来ないかと聞かれた場合の返答はNoとなる。
...でも、この世界の異常と言える程の科学力があるならば実行可能なのかも知れない。だとしたらアーシアちゃん達が何故、違う世界軸から特に大きな障害も無く私達と同じように動けるのかの説明がどうなるかになる。ライトさんが言うにアーシアちゃんの世界には何人ものこの世界の住民がアーシアちゃんの世界に居て、日々色々な情報を集めたり、中には国のトップを支える秘書に属して入る事もある。しかもポケモンの姿では無くて人間の身体として...。
更に言うならば、ライトさんは行き来する装置を作っただけで、そのこと自体が凄い事は置いておくとして、アーシアちゃんの世界の情報はある程度ドリームメイカーズの上層部が収集済みだったと話していた。しかもアーシアちゃんの世界での私達は、元々アニメから生まれた仮想生物として存在していると聞いた。流石にその時は私自身、平常を保っていられなかったは記憶に新しいわね。
ともかく、その事を踏まえて簡単に纏めるならば、アーシアちゃんの世界とこの世界は何かしらの繋がりがあって、常に並行を続けいた関係では無いかと私は推測する。
因みに私が来た時代には人間は居るけれど、アーシアちゃん達の世界の人間とは全く違う存在になるらしくて、ここまで来ると頭で考えてどうにかなるレベルではなく、紙に書いても整理が出来るレベルを超えている...。
ううん、今はそんな事よりもこの状況を、アーシアちゃんが操られている状況をどうにかしないといけない。じゃなきゃ、今までここまで辿り着いた事が全て無駄になっちゃうわ...。
「...ウォルタ君とマートル君、そしてスガマサさん、準備は良い? チャンスは一回きりよ」
「大丈夫。タイミングはシルクに任せたよ」
「僕も」
「ああ」
「...じゃあ、行くわよ? すぅ...シャドーボール!! サイコキネシス!!」
私は三人に確認を取ってから口にエネルギーを溜めて、溜まった感覚があったと同時に抑え無しの全力シャドーボールを放った。その後にコントロールする為にサイコキネシスを発動して、自身で放ったシャドーボールを捉えて操られたアーシアちゃん目掛けて操った。すると、私の攻撃にリファルさんから距離を取った後に短剣を構え、何をするのかと思いきや私が放って、尚且つコントロールしていたシャドーボールを一刀両断してみせた。それもアーシアちゃんがするとは想定思えない不敵な笑みで...。
しかもあの笑み、前に見た心囚われし者と同じ顔、してた...。まさか、アイツが全ての元凶...可能性してはあり得る。でも、心を囚われし者はかなりの数が居た。アーシアちゃんが変になったのはほんの三分前くらいの話で、一人に対して毎回こんなに掛かるとしたら明らかに時間が掛かるし、非効率で...
「...ク...い...ルクっ!!」
「っ! しまっ!?」
ふと呼ばれた声に我に戻ると、おぞましい形相で突っ込んでくるアーシアちゃんの姿...そのせいで反応が多少遅れてしまい、致命傷は避けたものの軽く足に切り傷を受けた。キリキリと痛む左足を多少庇いながら、再度突っ込んできたアーシアちゃんを申し訳ないと思いながら大丈夫な右足で蹴り飛ばして、いつの間にみんなの所にいたリファルさんの所へ戻って、蹴り飛ばした方向に身体を向き直した。
すると蹴り飛ばした方向がたまたま物が多かった場所らしく、足を取られながらヨロヨロと私達の前に再度現れた。でも変わらず短剣は離さず握られていて、立ち姿も変わらず...でも少しは効いたようで、蹴飛ばした場所を短剣を持っていない右手で覆っていた。
「...くそっ、このボディーは心も弱く身体も弱かったか...」
「っ! やっぱりアーシアちゃんじゃない...アンタが全ての元凶、ダークライね」
「ほう...私の事が分かるのか小娘。いや、ナルトシティのギルドで居た奴か。あの時は随分とボロボロにやられたらしいな...ふふ、その程度じゃ私なんぞ倒せん。それと、数少ないダイアモンドクラスであるリファルの力は中々のものだが...先程のダメージの治癒が完全に終わってないようだ」
「さ、先程って...やはり全部見てやがったか」
「ああ見ていた。お前が負けるのも、リッカだけの時間を戻して捕まえたのも全て、な。 まぁそんな事よりも、やはりなんだかんだでこの身体は良い。身体が凄く馴染むのもあるが、やはり"約二千年前の英雄の身体"を過去から持ってきたのは正解だった」
「に、二千年前の英雄の身体...やはり俺が思った読みは正解か。二千年程前に起きた世界的な時間凍結の異変を解決したチーム、そして初めて免許皆伝を成し得た探検隊だった"月夜"リーダーの身体...」
「月夜だと!?」
月夜...私とウォルタ君がこの諸島を初めて訪れた時に入った図書館で見つけた本に記されていた探検隊の名前ね...。一部のページが破られていて詳細は分からなかったけれど、二千年前の世界的な時間凍結異変...確か私達の時代は五千年前だから、三千年後にはこんな事が起きてしまうのね...。ん、でも何故破られたページの詳細をドリームメイカーズ側の人が知ってるのかしら。やはり制限を掛けたのはドリームメイカーズって事...?
フィリアさん、そして驚いたリファルさんに至っては元ドリームメイカーズに居たみたいだし...やっぱり制限を掛けていたのはこの線が怪しいわね...。
「そうだ、月夜リーダーであるルナの身体。並びに導かれし者達が使う身体も、元々はその時代の探検隊や救助隊の奴らから魂を抜き取った身体だ。あの時代の奴らは身体が強く、技の制限数などを受けないという面白い奴らが多い。 将来お前らがココに来ることは分かっていた。だがその時に弱すぎちゃ面白くない。だからわざわざ用意してやったんだぞ?」
「他の人の...身体......アナタ、人の魂をなんだと思ってるのよっ!!?」
「シ、シルク落ち付いてっ! 僕だってコイツの顔をぶん殴りたいけど! 殴りたいけど...」
「...お前はとことん最悪な奴だな、テメェは」
「ふっ、最悪で何が悪い。そう言うリファル、お前も中々に昔はワルだったらしいが? 過去に一度人殺しをした事があるとかな。いやぁ、スゲーなぁ? そんな奴が元々ココで働いていて、今はギルドに属してんだぞ?」
「ぐっ...」
「人...殺し? リファルさん一体どういうことよ...?」
人殺し...このリファルさんが...?
たしかに怖いところもあるけれど、なんだかんだで優しくて、みんなの事を考えていてくれるリファルさんが...?
そう思えば、リファルさんとフィリアさんは昔ドリームメイカーズの工場で働いていて出会ったとは聞いていたけれど、何故やめたかは濁して話してくれなかったわね。あのフィリアさんすら話してくれなかったとなると、何か特別な事情があったのかしら...。
「...人の過去を引っ張り出すんじゃねぇ。寧ろあれは正当防衛だ」
「はは、笑わせるな。まあそんな事はどうでもいい。そろそろお喋りはお終いだ。 私はこの新しい身体と共に、この世界を破壊して書き換え、元人間共を手駒としてこの世界の王として君臨する。そして、また人間共を送られては面倒な事になる前に人間世界も同時にぶっ壊す。はは、面白いだろうな。 なんせ、空想で考えたモンスターによって世界を壊されちまうんだからなぁ?」
...コイツ、本当にイカれてるわ。それと同時に私の中で怒りが湧いてくる感覚が強くなっているのも。今はウォルタ君に抑えられているから飛び出さずに済んでいるけれど、無かったら確実に突っ込んでたかもしれない。いや、かもしれないじゃ無くて突っ込んでたわね。
でも、早くしないとさっきライトさんが言っていた低気圧の塊でこの世界もアーシアちゃん達の世界も大変な事になる。けど、ダークライは想像以上に強い...しかも二千年前の英雄の身体って言ったって、今はアーシアちゃんの身体で見た目で...やはり躊躇が......。
「ふっ、何もして来ない...か。ならお前達にプレゼントをくれてやる。 ふふふ、私の渾身なプレゼントに喜ぶがいい.........」
私達はその言葉を聞いて少し後ずさりしながらも、すぐに動けるよう姿勢を低くして構えた。プレゼント...絶対に悪いものに決まっている。誰もがそう思っていたけれど、そのプレゼントは悪いを超えていた。
それは...
「...あ、れ? 私は一体...って、なっ...身体が勝手にっ!? 避けて! 避けてっぇ!!」
身体だけ操られ、意識はアーシアちゃんのままという最悪な状況にされて突っ込んで来たからだった...。